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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第1部】日常の崩壊と覚醒
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彼は嗤う―――




「やっと来たんだ。」





 上も下も分からない暗闇の中、子供は抱えていた膝から顔を上げた。

 その子供の前に、実はふわりと降り立つ。



「まったく、いつまで経っても迎えに来ないんだもん。このまま死ぬしかないかなって思ったじゃん。」



 冗談っぽく言う子供の表情が、一瞬で引き締まった。

 その真剣な表情は、明らかに年相応のものではない。



「さて。ここに君が来たってことは、君があの世界と向き合うって決めたことになるんだけど……本当にいいの?」



 彼は、空っぽの声で実に訊ねた。



「僕を連れていくってことは、それだけリスクが高いんだ。それでもいいの? 君はもう、何も知らないでは逃げられなくなる。どれだけつらくても、死ぬことすら許されないんだ。この世界にもう一度組み込まれるってことは、それだけの責務が君に生じる。君は、それを全うしなければならない。―――君に、その覚悟はある?」



 壮絶な未来を予期させる問いかけ。

 それに動じることなく、実は無言で子供に手を差し伸べた。



 それでもいいと、そう告げるように。



「そう……分かった。」



 子供は、実の手に自分の小さな手を重ねた。

 そうして次に顔を上げた時、彼の顔にはまた不気味な暗い笑顔がたたえられていた。



「残念だなぁ…。君が苦しむ様を高みの見物といきたいところだけど、封印されたものが人格を持った存在である僕は、君の中に戻ると同時に消滅してしまうからね。」



 言っているそばから、子供の体が淡く発光し始める。

 半分透けた笑顔で、彼は実を見上げる。



 そこにあるのは、嘲笑と侮蔑(ぶべつ)



「賭けてもいいね。君は、僕に飲まれるよ。この世界の〝鍵〟として生まれてしまった以上、あの封印が秘める想いに勝てやしないさ。」



 一言一句言い聞かせるように、子供はゆっくりと語りかけた。

 ねっとりと絡みつくような声は、まるで呪いのよう。



 そして、それが子供の最後の言葉だった。



 子供の姿が、(きり)が晴れるようにして消えていく。



 最後に残ったのは、実の手のひらに乗る小さな光の球だけ。

 実はそれを、大事なものでも抱え込むかのように胸にやる。



 光の球は、吸い込まれるようにして実の胸の中へと消えていった。



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