彼は嗤う―――
「やっと来たんだ。」
上も下も分からない暗闇の中、子供は抱えていた膝から顔を上げた。
その子供の前に、実はふわりと降り立つ。
「まったく、いつまで経っても迎えに来ないんだもん。このまま死ぬしかないかなって思ったじゃん。」
冗談っぽく言う子供の表情が、一瞬で引き締まった。
その真剣な表情は、明らかに年相応のものではない。
「さて。ここに君が来たってことは、君があの世界と向き合うって決めたことになるんだけど……本当にいいの?」
彼は、空っぽの声で実に訊ねた。
「僕を連れていくってことは、それだけリスクが高いんだ。それでもいいの? 君はもう、何も知らないでは逃げられなくなる。どれだけつらくても、死ぬことすら許されないんだ。この世界にもう一度組み込まれるってことは、それだけの責務が君に生じる。君は、それを全うしなければならない。―――君に、その覚悟はある?」
壮絶な未来を予期させる問いかけ。
それに動じることなく、実は無言で子供に手を差し伸べた。
それでもいいと、そう告げるように。
「そう……分かった。」
子供は、実の手に自分の小さな手を重ねた。
そうして次に顔を上げた時、彼の顔にはまた不気味な暗い笑顔がたたえられていた。
「残念だなぁ…。君が苦しむ様を高みの見物といきたいところだけど、封印されたものが人格を持った存在である僕は、君の中に戻ると同時に消滅してしまうからね。」
言っているそばから、子供の体が淡く発光し始める。
半分透けた笑顔で、彼は実を見上げる。
そこにあるのは、嘲笑と侮蔑。
「賭けてもいいね。君は、僕に飲まれるよ。この世界の〝鍵〟として生まれてしまった以上、あの封印が秘める想いに勝てやしないさ。」
一言一句言い聞かせるように、子供はゆっくりと語りかけた。
ねっとりと絡みつくような声は、まるで呪いのよう。
そして、それが子供の最後の言葉だった。
子供の姿が、霧が晴れるようにして消えていく。
最後に残ったのは、実の手のひらに乗る小さな光の球だけ。
実はそれを、大事なものでも抱え込むかのように胸にやる。
光の球は、吸い込まれるようにして実の胸の中へと消えていった。




