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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第1部】日常の崩壊と覚醒
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組み上がる仮説

 壁の先に作られた部屋は、こちらの建物をモデルにしたのか、美術室に似た内装をしていた。



 部屋の様子を観察する拓也の隣を、サリアムが通過する。

 サリアムは部屋の奥まで行くと、くるりと拓也を振り返った。



 その目は、いつの間にか黒から赤に変わっている。

 拓也も部屋の中央まで移動して、手近なテーブルの上に(かばん)を置いた。



「―――で? 話って?」



 さっきまでの笑顔を一転させ、拓也はサリアムを睨む。



 ここまで来れば、もはや建前も遠慮はいらないだろう。



 ここには、自分とサリアム以外の誰もが入ってくることはおろか、部屋の存在に気付くことすらできないのだから。



「もちろん、まずは実君のことだ。」

「邪魔するなって話なら、却下だけど?」



 にべもなく言うと、サリアムは特に期待もしていない様子で首を振った。



「そんな分かりきっていることを話すのは、それこそ時間の無駄だ。私が聞きたいのは、実君個人のことだ。」



「実個人のこと?」



 思わず聞き返すと、サリアムは大真面目な表情で頷いた。



「そうだ。あの子は、本当に何も知らないのか?」



 拓也は眉をひそめる。

 何故、彼が急にそんなことを訊くのか分からなかった。



「自分が事の中心だというのに、あの子は私たちのことを全く理解していない。驚くほど素直で純粋だ。あのエリオスの子供だぞ? 何かを伝え聞いていてもいいはずだろう。」



「ああ……」



 拓也は納得する。



 実が、本当に何も知らないのか。



 その疑問は実と会った当初に自分も感じていた疑問で、実に直接訊ねたこともあった疑問だ。



「エリオス様には、実を向こうに関わらせる気は一切なかったんじゃねぇか? だから実に何も教えなかったし、力も封じてしまった。お前だって、実に会うまではエリオス様の子供がどこにいるのか、全然分からなかっただろ? おれもそうだった。多分、そうやって一生隠し続ける自信があったんじゃないか? 実自身も、何も知らないって言って―――」



 溜め息混じりの言葉の途中で、拓也ははたと思い出した。



 そうだ。

 実が帰り道でセリシアに襲われたあの日、実はなんと言っていた?

 そして、実の中で会った実の姿をしたモノは、なんと言っていた?



 頭の中で、バラバラだった出来事がパズルのように急速に組み上がっていく。

 その末に構築された仮説に、拓也はハッとした。



 現実がどうであれ、実の父親はあのエリオスなのだ。

 もしもの時の対策は、きちんと講じてあるはずだ。



 だが、それには―――



(他でもない、実の意志が必要……)



「どうしたのかな?」



 急に黙した拓也に、サリアムが問いかける。



「いや、なんでもない。」



 拓也はとっさに、自分が行き着いた仮説を伏せた。



 あくまで仮説にすぎないとしても、この仮説はサリアムたちにとって都合が悪いだろう。

 そう思った。



「そう。」



 サリアムは、別段気にした様子を見せなかった。



「確かに君の言うとおり、エリオスに実君を向こうに関わらせる気は全くないだろうな。実君のことが発覚したのが、もう一年前の話。実君捜索に関して、エリオスは一切協力しなかったからね。……まあ、実君は何も知らない方が幸せだろうね。色んな意味で。」



「だろうな。」



「分かった。では、次の話だ。」



 その言葉を境に、サリアムの雰囲気がガラリと変わった。



 唐突に彼を包んだのは、ぞっとするような敵意。

 それを感じて、背筋が自然に伸びた。



「昨日、君は確かに襲われたはずだ。それは間違いないね?」

「は…?」



 それを確認したところで、なんの意味があるというのか。

 拓也はサリアムの意図を()み取ることができず、思わず顔をしかめた。



「どうなんだ?」

「どうって……確かに襲われたけど……」



 やたら緊迫した雰囲気に押され、拓也は正直に答える。



「なるほど。―――()()()()()()()()()()。」



 ぐっと低くなるサリアムの声音。



「は? ……なんのことだ?」



 拓也は不可解そうに眉を寄せる。



 サリアムの声に、寒気がするほど苛烈な何かが含まれている。

 そして、嗅覚を突き刺すこの悪臭。



 言うまでもない。

 これは殺気だ。



「君を襲ったのは私の部下だ。私が命令した。君がキースの元に駆け込んでくるもんだから、おかしいと思って部下の様子を見に行ったんだ。」



 地を()うような低い声が、拓也の緊張と警戒を高める。

 何事かと身構える拓也に、サリアムは衝撃的な事実を述べた。





「部下は死んでいたよ。眠るようにね。」





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