対峙する両者
翌日の早朝。
まだ登校する生徒も少ない時間。
人のいない校舎はしんと静まり返って、がらんとしていた。
自分の下駄箱から上履きを取って、床に放る。
上履きが床を打ち鳴らす音が、虚ろな校舎内に大きく響いた。
「おや、村田君。おはよう。」
狙いすましたようなタイミングで、声をかけられた。
拓也は、上履きを履き終えてから顔を上げる。
「おはようございます。高嶺先生。」
笑顔でこちらを見ているサリアムに、拓也も晴れやかな笑顔で答える。
それが互いに、学校という環境に合わせたものであることは明らかだった。
「早いね。」
「そんなことはないですよ。」
くすりと笑い声を漏らす拓也。
「ちょうどよかった。村田君に話があったんだ。少し、時間をもらえるかな?」
「もちろん。」
快諾するする拓也。
「おれも、そうだろうと思って早く来ましたから。」
聞くだけなら、どこにでもありそうな会話。
しかし笑顔の二人の間には、見た目の雰囲気とはかけ離れた殺伐とした空気が微かに漂っていた。
ただ見つめているように思わせながらも、その裏では相手の動向や仕草を観察し、互いに相手が出過ぎた行動に出ないように抑え合っている。
笑顔の中に光る眼光は、切れそうなほどに鋭い。
拓也たちの傍を何人かの生徒が通り過ぎていったが、その違和感に気付く者はいなかった。
誰の目にも留まらない、二人の静かな睨み合い。
それは、サリアムが体の向きを変えたことで終わりを告げた。
「それじゃあ、こっちへ。」
サリアムは、昇降口に面した階段を上っていった。
拓也もそれに続く。
二階に着くと、横に長く伸びる廊下に出る。
そこから右手に行けば三学年の学年職員室と三学年の教室があり、左手に行けば社会科準備室などの教科準備室があるのだ。
サリアムは迷わずに、廊下を左方向に進んだ。
それについていくと、心なしか耳に入っていた微かな喧騒がぐっと遠退いた気がした。
聴覚が静寂に塗り潰され、サリアムと自分の足音がやけに大きく響いて聞こえる。
サリアムは、廊下の一番奥で止まった。
すぐそこには数学準備室があるが、サリアムはそこには目もくれない。
もちろん、拓也もそこは見ていなかった。
二人の視線は、本来なら行き止まりであるはずの壁に向けられている。
そこには―――一つの引き戸が。
サリアムがその引き戸に手をかけて力を込める。
すると、引き戸は一切の音を立てずに開いた。
「どうぞ。」
サリアムが促したので、拓也は素直に扉をくぐる。
その光景を目撃している人物がいたとは、二人して全く気付かなかった―――……




