表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第1部】日常の崩壊と覚醒
34/1258

氷のような瞳


「お前は……まさか―――」



 放たれかけた、拓也の言葉。

 それは、他ならぬ子供自身によって(さえぎ)られる。



 拓也の唇に、ふっくらとした子供の指が押しつけられたのだ。



「しーっ」



 可愛らく言う子供の仕草は年相応のものに見えて、先ほどまでとの違いに拓也は言葉を失ってしまう。



 子供はそれに構わず、拓也から離れた。



「僕は、君みたいな忠誠心の塊っていう人間が大嫌いなんだ。(あるじ)の命令がなければ、一人でまともに動けないお人形さん? 素直に逃げるべきだったのに、君はその忠誠心のせいで、自分の命を投げ捨てたんだよ。僕がどんなに危険か、分からないんだもんねぇ?」



 子供がひらりと手をひらめかせる。

 そこに生まれたのは、子供の手に乗るくらいの小さなシャボン玉だ。



 子供がふっと息を吐くと、シャボン玉は子供の手を離れて結界の外へと飛び出していく。



 ふわふわと頼りなく浮き沈みを繰り返しながら(とお)退()いていったそれは、そのうち青い闇の向こうに姿を消した。



 ―――いつの間にか、(むち)の音が消えている。



「さて、と。いつまでここでのんびりしてるつもり?」

「……え?」



 あまりに唐突だったので、拓也は最初、それが自分に向かって放たれた言葉だと認識できなかった。



 どこかきょとんとして(まぶた)を叩く拓也の様子に、子供が呆れたような溜め息をつく。



「もう一人のお兄さん、助けに行くんじゃないの?」

「―――っ!!」



 まずい。

 すっかり忘れていた。



 反射的な早さで拓也が立ち上がると、子供はもう一度溜め息をつきながら指を鳴らす。



 すると、青い世界に光が差した。

 光の方を追って視線を上げると、自分たちの遥か頭上の一部がゆらゆらと揺れている。



 まるで、海底から水面を見ているような。

 そんな幻想的な風景だ。



「出口を繋いでおいたよ。」



 上を指して、子供が笑う。

 しかし、拓也はすぐにその場を動くことができなかった。



 それを見た子供が、一瞬で笑みを引っ込める。



「何?」

「あ…。いや、その……」



 拓也のしどろもどろな様子に、子供は気分を害したように眉をひそめた。



「何か言いたいことでも?」

「えっと、その……ありがとう。礼は言っておかないとと思って……」

「なんだ、そんなことか。」



 刺々(とげとげ)しくなる子供の口調。



「別に、お礼ならいらないよ。僕は、気まぐれでお兄さんを助けただけだし。」



「でも……」



「今、言ったよね? 僕は気まぐれだって。」



 子供の声が、さらに温度を下げる。



「お兄さんを助けたのだって、父さんがお兄さんに目をかけていたらしいから、なんとなく助けてやろうかって思っただけ。気が変われば、僕は今すぐにお兄さんを殺すことだってできるんだ。それが分からないほど、お兄さんは馬鹿じゃないでしょ?」



 子供の体から尋常じゃないほどの魔力があふれ出して、拓也は一歩退いた。



 確かに、この子供がその気になれば自分など簡単に殺されてしまうだろう。

 外見や常識など関係なく、本能的にそれは理解できた。



「律儀に礼を言ってる暇があるなら、一刻も早くもう一人のお兄さんの所に行ってあげるんだね。……なかなか、危ないことになってるよ?」



「なっ…!?」



 瞬く間に血の気が引いた。



 公園から見た時だって、尚希はサリアムに押されていた。

 あの状態では時間が経てば、それだけ尚希は不利になるはずだ。



「早く行きなよ。僕の気が変わらないうちに。」



 子供が目元を険しくする。

 こちらを見上げる氷のような瞳が、これが最終宣告だと告げていた。



 拓也は息を飲み、素直に子供に背を向けた。

 次に大きく息を吸って、結界の外へ。



 全身を冷たい水が包み込む。

 その中を、ゆらゆらと揺れる光を目指して泳いだ。



 そして……



「ぶ、はーっ」



 水面に顔を出して、手に触れた何かを無意識に掴む。



 呼吸を整えている()(なか)、手に掴んだそれが噴水の縁であることに気付いた。

 自分の足元を見ると、そこには噴水の底があるだけ。



 あの空間との繋がりは、すでに絶たれてしまったようだ。



 周りには人のいない静かな公園の風景が広がっていて、噴水の水面には月明かりが反射している。



(帰って……きたのか。)



 ほっと安堵した。



 しかしそれも(つか)の間、遠くで激しく力がぶつかり合うのを感じて、拓也は慌てて顔を上げる。



 マンションの一室で繰り広げられている戦闘。

 噴水に引き込まれる前まで互角だった力は今、明らかな差を見せていた。



 尚希の力が、かなり負けている。



「キース…っ」



 拓也は目を厳しく細める。



 都合のいいことに、周囲に人はいない。

 魔法を使っても問題なさそうだ。



 一気に噴水から飛び降り、拓也は濡れた服も気にしないまま口を忙しく動かす。

 すると、微かな光と共に拓也の姿がそこから消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ