夕暮れ時の再会
誰もいなくなった部屋で、尚希は一人沈黙していた。
拓也は、実を家に送るために出ていった。
いつサリアムが接触を図ってくるかも分からない状態で、実を一人で外に出すのは危ないからだ。
それに、蒼白な顔で茫然としていた実を放っておけないという理由もある。
毎日気味の悪い夢にうなされ、今度は自分の身が危険にさらされている。
しかも、それに自分自身はなんの抵抗もできないとなれば、その精神的負担はかなり大きいだろう。
実の憔悴ぶりといったら、見ていられないほどだった。
とんだ災難だな、と。
尚希は実に同情する。
何も知らないなら、その方がいい。
あんな世界には、関わらない方が幸せだ。
しかし、生まれた環境と立場がそれを許さないのだから、ひどい話である。
「うーん……」
尚希は一人唸る。
拓也の話では、実の魔力は封じられているようだし、捕らわれたが最後、実にはなす術なしといったところだろう。
それを分かっていて実を見捨てるほど、自分も非情にはなりきれない。
エリオスには随分と世話になってきたし、ここまで関わってしまったら、なんとか助けてやらなければなるまい。
―――しかし、だ。
このまま実に関わるということは、自分が育ってきたあの世界に再び関わることになるわけで、色々と面倒がつきまとってくることは必至。
すっぱり切れたと思っていた縁が、六年も経ってまた繋がるとは。
「やっぱ、オレも逃げられないのかね……」
ふう、と。
尚希は息をつく。
仕方ない。
自分の因縁に関しては、追々考えるとしよう。
今は、実の問題の方が急を要する。
それにしても、実は随分とエリオスに守られて育ったようだ。
国に見つからないように魔力を封じた上に、実の中にはエリオスの影までいるというではないか。
エリオスは、よほど実をあの世界に関わらせたくなかったらしい。
……だが妙だ。
尚希は難しげに眉を寄せる。
エリオスは、自身が持つ能力故にある程度の未来を予見できる。
それを駆使した対策を打つ能力も申し分ない。
あの彼が魔力を封じて影を忍ばせるだけなんて……そんな単純な策で終わらせるか?
「……考えても、埒が明かないな。」
呟いて、溜め息を吐く。
ごく自然に落とした視線の先に、どっさりと持ち帰ってきた書類の束が目に入った。
それを見て、余計に肩が重くなる。
「とりあえず、これを片付けないとなぁ……」
気だるげに大量の書類で重たい紙袋を取り上げ、ついでに鞄やら上着やらも拾い上げて拓也の部屋を出る。
確認しなければならない書類が多いので、テーブルが大きいリビングで仕事をした方がよさそうだ。
ぼんやりとそんなことを考えながら、電気が消えた薄暗い廊下の先、リビングに通じる曇りガラスのドアを開ける。
「―――っ!?」
バサリと、尚希の手から荷物が落ちた。
床に落ちる衝撃で紙袋の中身がぶちまけられ、床に書類が広がる。
窓から西日が入り、リビングは橙色に染められていた。
床に散らばった書類も、例外なく橙色に染まる。
しかしその中で―――本来ならありえない黒が揺れた。
「久しぶりだね、キース。」
ダイニングテーブルに寄りかかる人物が、驚愕で言葉を失う尚希に語りかけた。
赤に星を散らしたような不思議な光彩の瞳が、妖しく光る―――




