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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第1部】日常の崩壊と覚醒
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夕暮れ時の再会

 誰もいなくなった部屋で、尚希は一人沈黙していた。



 拓也は、実を家に送るために出ていった。



 いつサリアムが接触を図ってくるかも分からない状態で、実を一人で外に出すのは危ないからだ。



 それに、蒼白な顔で茫然としていた実を放っておけないという理由もある。



 毎日気味の悪い夢にうなされ、今度は自分の身が危険にさらされている。



 しかも、それに自分自身はなんの抵抗もできないとなれば、その精神的負担はかなり大きいだろう。



 実の(しょう)(すい)ぶりといったら、見ていられないほどだった。



 とんだ災難だな、と。

 尚希は実に同情する。



 何も知らないなら、その方がいい。

 あんな世界には、関わらない方が幸せだ。



 しかし、生まれた環境と立場がそれを許さないのだから、ひどい話である。



「うーん……」



 尚希は一人(うな)る。



 拓也の話では、実の魔力は封じられているようだし、捕らわれたが最後、実にはなす(すべ)なしといったところだろう。



 それを分かっていて実を見捨てるほど、自分も非情にはなりきれない。



 エリオスには随分と世話になってきたし、ここまで関わってしまったら、なんとか助けてやらなければなるまい。



 ―――しかし、だ。



 このまま実に関わるということは、自分が育ってきたあの世界に再び関わることになるわけで、色々と面倒がつきまとってくることは必至。



 すっぱり切れたと思っていた縁が、六年も経ってまた繋がるとは。



「やっぱ、オレも逃げられないのかね……」



 ふう、と。

 尚希は息をつく。



 仕方ない。

 自分の因縁(いんねん)に関しては、追々考えるとしよう。

 今は、実の問題の方が急を要する。



 それにしても、実は随分とエリオスに守られて育ったようだ。



 国に見つからないように魔力を封じた上に、実の中にはエリオスの影までいるというではないか。



 エリオスは、よほど実をあの世界に関わらせたくなかったらしい。



 ……だが妙だ。



 尚希は難しげに眉を寄せる。



 エリオスは、自身が持つ能力故にある程度の未来を予見できる。

 それを駆使した対策を打つ能力も申し分ない。



 あの彼が魔力を封じて影を忍ばせるだけなんて……そんな単純な策で終わらせるか?



「……考えても、(らち)が明かないな。」



 呟いて、溜め息を吐く。



 ごく自然に落とした視線の先に、どっさりと持ち帰ってきた書類の束が目に入った。

 それを見て、余計に肩が重くなる。



「とりあえず、これを片付けないとなぁ……」



 気だるげに大量の書類で重たい紙袋を取り上げ、ついでに(かばん)やら上着やらも拾い上げて拓也の部屋を出る。



 確認しなければならない書類が多いので、テーブルが大きいリビングで仕事をした方がよさそうだ。



 ぼんやりとそんなことを考えながら、電気が消えた薄暗い廊下の先、リビングに通じる曇りガラスのドアを開ける。



「―――っ!?」



 バサリと、尚希の手から荷物が落ちた。

 床に落ちる衝撃で紙袋の中身がぶちまけられ、床に書類が広がる。



 窓から西日が入り、リビングは(だいだい)色に染められていた。

 床に散らばった書類も、例外なく橙色に染まる。



 しかしその中で―――本来ならありえない黒が揺れた。





「久しぶりだね、キース。」





 ダイニングテーブルに寄りかかる人物が、驚愕で言葉を失う尚希に語りかけた。





 赤に星を散らしたような不思議な光彩の瞳が、(あや)しく光る―――





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