回り出す歯車
「―――聞こえるかい?」
急に頭に響いた声に、実はハッと目を開く。
一瞬で緊張状態に陥って、暴れそうになる心臓。
極力落ち着くように意識して、辺りの様子を窺いながらゆっくりと起き上がってみる。
外にはまだ、夜の闇がたたえられている。
物音も一切しない。
実はそれに違和感を抱き、眉をひそめる。
そう。
不自然なほどに、辺りは無音だったのだ。
風の音や車の通る音、虫の声すらも聞こえてこない。
まるで時が止まってしまったかのような、音という音が奪われた空間。
その異常さが、自分に干渉してきた者の異常さも露呈させる。
「………」
実は静かに頭に手をやった。
無音の中、微かなノイズが頭の中を木霊している。
おそらく、誰かからの干渉はまだ終わっていまい。
じっと、身動きを止める。
細く深く呼吸して、息と同じく自分の気配すらも空気に溶け込ませる。
こちらとて、伊達に経験は積んでいない。
この声に応えることが悪手であることくらい分かる。
静かな攻防戦。
それが、どのくらい続いた頃だろうか。
「応えないか…。待っていてくれ。必ず迎えに行くから。」
ブツンという音が響いたかと思うと、ノイズが消えた。
もう、異常な何かは感じない。
気付けば、周りの雑音も戻ってきている。
それで何者かの干渉から解放されたことを悟り、実は息をついた。
今回の呼びかけは、今までと全く違っていた。
聞こえてきたのは、穏やかな男性の声。
その口振りには、女性の時とは違って明らかな意志が宿っていた。
しかも、今までは壁が遮っているようにくぐもって聞こえていた声が、今回はなんだか―――
「近い。」
呟く。
その瞬間、まるで蛇がうねるように、背中を寒気に似たものが這い上がっていった。
自分が狙われているんだ、と。
ようやくそう実感した気分だった。
あの声に込められていた自信が告げる。
彼は必ず自分の元へやってくるだろう。
そして、狙った獲物を捕らえようとするに違いない。
そうなれば、なんの対抗手段も持たない自分は、ろくな抵抗もできずに好きなようにされる。
それは、事実を繋ぎ合わせれば簡単に出る結論だ。
「そろそろ、覚悟が必要か……いった…っ」
突然頭痛が襲ってきて、実は頭を抱える。
最近、いつもこうだ。
向こうの世界のことを考えると、全身を貫くような頭痛がする。
そして、胸の奥がざわめくのだ。
―――封印を解け、と。




