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プロローグ~彼の気まぐれ~
―――退屈だ。
彼は、小さな欠伸を一つ。
時おりどこかで水の滴る微かな音が反響する周囲は、広くて仄かに暗い。
この不思議な空間だけが彼の世界。
他には誰もいない。
彼は、もう何十年、何百年と、この空間で一人の時を過ごしていた。
その理由は、昔に比べて彼を見ることができる人間が激減したからだ。
彼の存在に慄き、必死に抵抗し、そして最後は散っていく。
昔はそんな人間も多かったというのに、今となっては彼の存在自体を知らない人間ばかり。
あえて彼に勝負を挑む変わり者もいない。
彼はすでに、人々から忘れ去られようとしている存在だった。
誰にも干渉されずに忘れられて、波風の一つも立たなくなった世界。
そんな世界が、彼はただただ退屈だったのだ。
「……おや?」
水晶玉に手をかざしていた彼は、ふと呟く。
水晶玉には、交差点を行き交う人々を俯瞰した映像が映っていた。
その中に、興味深いものを見つけたのだ。
彼は、気になったそれを食い入るように見つめる。
「……ふふ。」
自分の目が輝き、胸が高揚しているのを感じる。
こんな気分は久方ぶりだ。
彼は、にんまりと口の端を上げた。
―――これは、なかなか面白いことが起こる予感がする。




