あなたが愛しい
本当は、最初から気付いていた。
私に、実を殺すことなんかできないって。
忘れられて悲しかった。
私を忘れて幸せに浸っていることが許せなかった。
憎かった。
恨んだ。
それも、本当の気持ちだったの。
でも、時間と共に人は成長していく。
私はある日、ふと考えた。
―――もし、私が実の立場だったなら?
実が危険な目に遭って、それを助けられなかったとしたら、私はどう思うのだろう?
答えは、簡単に出た。
その答えに行き着いた瞬間、実は私を忘れてよかったのかもしれないって、そう思った。
―――嫌だ!
その答えを否定したのは、他でもない私だった。
忘れてほしくなかった。
たとえ忘れた方が幸せだったとしても、私は忘れてほしくなかった。
納得したくなかった。
聞き分けよく、実を許したくなかった。
だから、気付かないことにした。
出た答えに見ないふりをして、厳重に蓋をした。
実に仕返ししてやるという気持ち以外、実に関しては何も考えないようにした。
だって、私だけが潔く退くなんて不公平でしょう?
実は、逃げたっていうのに。
でも……実に会った瞬間、わがままのような意地はあっけなく崩れてしまった。
だって、純粋に嬉しかったんだもの。
実に会えたことが、実が私に会いにここまで来てくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。
実の胸の中に飛び込んだ時、憎さも恨めしさも吹き飛ばすくらいの幸せが私を満たした。
結局、心には嘘をつけなかった。
―――もういい。
実を殺すなんてできっこない。
許してしまおう。
だから、私を助ける方法を必死に模索している実を諦めさせようと、私なりに頑張った。
今の実は私が知る実ではないんだから、私が〝もういい〟って言えば、あっさり納得するわ。
でも……実ったら、昔と全然変わらないんだもの。
あなたが拓也さんや尚希さんに壁を作ってるって分かった時、私が心のどこかで安心してたなんて、あなたは気付いてなかったでしょうね。
上手く笑えなくて拗ねちゃったあなたを見た時、私がどれだけ心を搔き乱されたか知ってる?
今の実は、私が知っている実じゃないはずなのに……昔の実が、そのまま目の前にいるみたいだった。
実は今も変わらずに、心の底から私のことを大事に思ってくれていた。
それが、私にはつらかった。
何も変わらない実と、変わりすぎた私。
こんなにもひたむきな実に、私はこんなにも醜い感情を抱き続けてきたなんて……
日々募っていたつらさは、実が私を説得しようとしてきたことで爆発してしまった。
なんで、私なんかのためにここまで必死になれるの?
私はもう、昔のように純粋じゃないの。
こんなに醜く変わってしまったのよ!?
つらい。
つらい…っ
―――もう、私になんか構わないで!!
何も言わずにいようと思ったのに、我慢できずに全て吐き出してしまった。
私がどんな思いでここまで過ごしてきたのか。
実にどんな感情を抱いてきたのか。
実の傷ついた表情を見て、私も傷ついた。
違う。
違うの。
私が言いたいのは、こんなことじゃない。
あなたを傷つけたいわけじゃないの。
心ではそう叫んでも、口からは汚れた言葉が吐き出されるばかり。
絶望が込み上げた。
こう言えば、実はきっと私に失望する。
今度こそ私を助ける気など失くして、私の前を去っていくかもしれない。
そうなるのもよかった。
そうなれば、実は私に囚われずに幸せに生きていけるんだから。
実のためにも、私の死が彼の鎖になってはいけない。
そう分かってた。
だけど……せめて、実の記憶の中だけでは綺麗なままでいたかったのに……
欲望にまみれた自分に失望した。
こんな私、死んでしまえばいいって。
本気でそう思った。
それなのに、実はこんな私でも助けるって言ったの。
言うだけならまだしも、本当に行動に移すなんて信じていなかった。
―――どうして、あなたはそんなことができるの?
つらくてつらくて、心が限界だった。
自分が死にそうにもかかわらず、私に笑いかけた実が音のない声で〝大丈夫だから〟って伝えてきた時、私は意地もプライドも嘘もかなぐり捨てて実の元へ走っていた。
実が死にかけて、ようやく分かったの。
今まで全く気付いていなかった、心の奥に眠る本当の気持ちに。
私にこんな気持ちがあったなんて、思ってもいなかった。
私が幼い頃から実に抱いていた感情は、友達に対するそれとは全く違うものだったのだと、ようやく理解した。
実が好き。
実が大事。
誰よりも、何よりも、あなたが愛しいの―――




