苛立ちを煽る優しさ
「時間なんていりません。今、話します。」
実が放った言葉に尚希が動きを止め、もう一度部屋に入ってくる。
拓也も尚希と同じようにひどく驚いたような表情をして、何も言えずに固まっていた。
二人の視線を浴びる実に、表情はない。
狼狽えながらも口を開いたのは、拓也の方が先だった。
「無理してないか? 今すぐなんて……」
「簡単に言えることじゃないだろ? 気持ちの整理をつけなくていいのか?」
尚希も当惑した様子で近くに寄ってくる。
二人して同じような物言いをして。
話を聞きたいと言ったのは、二人の方なのに。
実は不愉快そうに眉を寄せる。
事情を知りたいと言ったくせに、今すぐに話すと言えば聞くことを渋る。
自分を気遣ってくれての行為とは理解しているが、それが腹立たしくて仕方ない。
「別に。後になると面倒だし、厄介ごとは早く済ませるに限ります。」
「でも……」
「―――っ」
もう限界だ。
自分の中で、何かが盛大にはち切れた。
「ああもう! うるさいな!!」
たまらず怒鳴った。
それだけでは気持ちが収まらなくて、拓也たちをキッと睨み上げる。
「話せって言ったり、無理するなって言ったり、一体どっちなんだよ!? 事情は話してもらうけど、無理はするなって? ふざけんな! 俺が、どれだけ怖いかも知らないくせに!!」
「………っ」
実の叫びを聞いて、拓也と尚希は大いに怯んだ様子。
それを気にかける余裕もない実は、壊れた機械のように自身の胸中を吐き出すだけ。
「今話したって、明日話したって、話す時に無理するのは変わらないんだよ。だったら、先延ばしにするよりも今話す方が何倍もマシだ。明日までなんて時間を与えられたら……俺、それこそ怖くてどうにかなっちゃうよ。話なんて、まともにできるわけがない…っ。それでもいいって言うなら、好きにすれば? 俺にはもう……どうすればいいか分からないんだよ!!」
一気に本音をさらけ出して、無駄に気力を消耗してしまった。
しんと静まり返った室内に、自分の荒い呼吸の音だけが響く。
どこに行ったって、恐怖の壁にぶつかるだけ。
そんな八方塞がりのような状況で、まともな判断なんてできない。
自分は、そこまで強くないんだから……
興奮と恐怖から小さく震える実の肩に、拓也がそっと手を置いた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫なわけないでしょ。」
顔を覗き込んできた拓也に、実は冷たく言い放つ。
「本当に、いいんだな?」
最終確認をしてくる拓也に、もう狼狽える素振りはない。
話を聞く姿勢になりつつあるようだ。
「………」
実は少し考える。
話を聞く姿勢になってきているとはいえ、二人ともまだ躊躇いがある。
自分が少しでもおかしな様子を見せれば、話を中断させようとしてくるかもしれない。
それではこちらが困る。
そこまで考えて、実は大仰に息を吐いてみせた。
「だから、好きにすればいいじゃん。止められたら止められたで、次話す時までに言い訳を考えとくから。」
分かってはいたが、そう言った途端に拓也と尚希から躊躇というものが一切なくなった。
自分の嘘を見抜くことが難しいと経験で知っている二人なら、自分に言い訳されることがどれだけ面倒か、想像に難くないはずだ。
二人の意識を完全にコントロールできたことに満足し、実はどこを見るでもなく話を切り出すのだった。




