理想の仕組みと引き換えになるもの
「教えてあげるよ。強制的な仕組みで自分の意識さえも操られた存在が、どんな末路を辿ったのか。」
実はまた、長い物語を語った。
―――こんな世界など、滅んでしまえ。
そう願って抑止力に逆らい続け、何もかもを壊してしまったレティル。
―――大切な人を傷つける前に、今の自分のまま消えたい。
与えられた役割に忠実な思考で動いたはずなのに、それ故に苦しんで己を責めていた詩織。
二人とも絶望の底で打ちのめされ、最後には笑って消えていった。
消えることでしか、救われることができなかった。
「どんなに強い力も、絶対ではないんだよ。意識を縛って、その力を認識させないようにしたって、力の存在に気付く誰かは出てくる。そして、縛られているって気付いたら、そこから逃れたいって願うものなんだ。その結果がこれだよ。歪まないように矯正し続けたのに、何よりも歪んだ結末になったと思わない?」
深い悲しみをたたえた表情で、実はディライトに問う。
それに、ディライトは何も答えなかった。
答えられないだろうな、と。
ぼんやりと思う。
自分だって、ディライトの立場でこう問われたら何も言えない。
なんたって目の前には、その歪みの象徴とも言える存在になってしまった人間がいるのだから。
「これを阻止するためには、多分……人間から、心っていうものも奪わないといけないんだと思う。ただそうしちゃうと、憎しみや悲しみが生まれない代わりに、愛情や慈しみとかも生まれない。それは、ディライトが望む人間の姿かな?」
「………」
「違うよね。ディライトが創ろうとしたのは、そんな無機質で悲しい世界じゃないはずだもん。じゃあ、どうしようか?」
ディライトからの答えは急かさず、実は次の可能性を展開する。
「レティルたちの最期を見て思ったけど、世界のシステムに穴があったとすれば、ウォルノンドにも終焉の権限を与えていなかったことだ。レティル以外にも終焉の権限を持つ誰かがいれば、こんなことになる前にレティルを消せた。それをあえてしなかったのか、できなかったのか……それは俺には分からないし、分かりたくもない。」
分かりたくもない。
そう告げた瞬間、胸の奥が冷えて、喉に不快感がせり上がってきた。
どうやら、自分は世界という生命体が大嫌いなようだ。
レティルや詩織を歪めて、大好きな父をあそこまで苦しめた。
その事実を噛み締めると、憎たらしくて仕方なくなる。
そんな自分の感情はさておき、実は話を再開する。
「人間に心を残したまま、ディライトが言った仕組みを円滑に回し続けるなら、レティルや詩織さんのようなイレギュラーは根こそぎ排除しなきゃいけない。それこそ、慈悲の一片もなくね。だけどそんなこと、機械的に動く世界にならともかく……同じく心を持った俺たちにできるかな…?」
実はそこで地面に目を落とし、そっと瞼を伏せる。
「俺には……できない。何にも縛られずに自由に生きたいって言われたら、俺はそれを許しちゃうと思う。それが悲劇に繋がって後悔したとしても、また同じ状況になったら……俺は何度でも、例外を作ってしまう。」
「しかし、それをやらなければ、いずれリンドルや君のような、後悔するだけでは済まない悲劇が起こる。」
「……そうだね。」
ディライトの言葉を肯定し、実はゆっくりと顔を上げる。
「ディライトは……自分が苦しんででも、それをやるつもりなんだね。」
彼の表情を見て、すぐにそれを悟った。
「ああ。」
こちらが感じたとおり、ディライトは迷いなく頷く。
「大の安寧のために、時には小を犠牲にしなければならない。そういう状況は、リンドルを率いていた時に何度も経験したさ。その悲しみを抱えて立ってこその王だからね。」
「そっか……」
ディライトの表情をじっと見つめて真剣に彼の意見を聞いていた実は、そこで諦めたような吐息をついた。
「覚悟の強さが違うね。ディライトがこれ以上苦しむのは嫌だなと思って色々と話してみたけど……そこまで強くディライトが望んでるなら、俺にはもう、伝えられる言葉がないや。でも……ごめんね。俺は、ディライトが選ぶ道についていけない。俺には耐えられない。だから―――」
手を掲げる実。
するとそこに光が宿り、一振りの剣へと姿を変えた。
先ほど捨てた終焉の剣をディライトに差し出して、実は告げる。
「俺はここまで。ディライトに全てを託して―――今ここで消えるよ。」




