〝自滅すりゃあいいさ〟
……下のレストランが騒がしい。
ぼんやりとそう思いながら、実はフェンの頭からゆっくりと手を離した。
フェンは呆けたまま動かない。
そんなフェンを見下ろしていた実の体が、ふと後ろへ傾いだ。
「実!!」
倒れた体が床に打ちつけられる寸前に、そこに滑り込んだ拓也がその体を支えて座る。
実の表情からは、血の気が完全に引いていた。
額には脂汗が浮かび、浅い呼吸音が微かに拓也の耳に届いてくる。
「実……お前、なんてことをしたんだ…っ」
大きく震える拓也の唇と全身。
それを感じ取った実は、開きたがらない目をなんとかこじ開けた。
「……大丈夫だよ。」
「どこが大丈夫なんだ!?」
拓也は切羽詰まった表情で怒鳴る。
「自分の魔力を他人に、しかもあんな大量に注ぎ込むなんて…っ。死にたいのか!? 限界以上に魔力を使ったり、短時間に著しく魔力が減少すると、命に危険が及ぶ! そのくらい、常識として知ってるだろ!!」
拓也が言うことももっとも。
しかし、実はそれに対して微笑むだけ。
「だから、大丈夫だって。俺からすれば、大した量の力は注いでない。……ただ、今の俺が使える力の半分くらいは使った。これの力に反発した分、それ以上に持っていかれてる。」
そう告げた実は、顔をしかめながら右手を動かして左腕の袖をまくった。
シャツの袖から覗く白い手首。
それを見た拓也は目を剥いた。
実の手首には、魔封じの腕輪がはめられている。
その周辺の皮膚が、火傷をしたかのように赤くなっていたのだ。
「魔封じに逆らって魔力全開にしたんだから、このくらいは当然だよね。」
実の右手が腕輪に何度か触れると、手首から外れた腕輪が床に転がる。
「預かってて。これをつけてちゃ、魔力の回復に時間がかかる。とはいっても、何日かは眠ることになりそうだけど……」
自嘲するように実は笑った。
「なんで、こんなことを……」
「腹が立ったからだよ。」
実の声のトーンが一気に下がる。
それと同時に実がまとった冷たく刺すような雰囲気に、拓也は無意識に身震いしてしまう。
「ふふふ……」
小さな笑い声をあげた実は、依然として呆けているフェンへ嘲りの意を込めた冷笑を向けた。
「力はくれてやった。せいぜい楽しんで―――自滅すりゃあいいさ。」
その一言が限界だったのか、拓也にかかる実の体重が一気に増す。
実が目を閉じて気を失うのと、血相を変えた尚希が息を切らせてシェイラと共に飛び込んでくるのは、ほとんど同時のことだった。
<第3章 こじれ>END 次章へ続く…




