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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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暖かな空気は、一瞬で―――


「おかえり。」



 (まぶた)を開くと、目の前に尚希とエーリリテの顔があった。

 どうやら、自分はソファーに寝かされているようだ。



「ただいまです。ひどいですよ、キースさん。あんなものを見せるなんて……」

「ごめんね。」



 尚希は異議を唱えることもなく、素直にそう謝ってきた。



「でも……」



 シェイラは淡く笑う。



「ありがとうございます。やっと、実さんとキースさんが言ってくれたことの意味が分かりました。」



 フェンならいつか、きっと自分の気持ちを分かってくれる。

 そう思って動こうとしなかったのは自分だった。



 グランには強く言えなかったけど、フェンの前では頑として彼の言葉を受け入れなかった。



 グランのことが少し怖かったのもあるけど、そうすることでフェンが自分の心を察してくれるんじゃないかと、そんな夢を見ていたから。



 自分が求めているのは、グランじゃなくてフェンなんだと。

 彼がそう気付いて、この地獄から自分を連れ出してくれると信じたかったのだ。



「シェイラ。欲しいものは、自分から取りに行かなきゃだめよ。私みたいに。」



 エーリリテは泣きそうな顔で笑って、尚希の腕に自分の両腕を絡めた。



「そうだな。」



 尚希も笑って、エーリリテの頭をなでる。



 一生懸命笑っているけれど、自分が戻ってこられるかどうか、内心ではとても心配したのだろう。



 今にも泣き出してしまいそうなエーリリテの目が、そう物語っていた。



(うらや)ましいです。」



 今なら素直に言える。



「私も、そんな風になりたいな。」



 (うそ)(いつわ)りのない、自分の本当の望みを。



「そう。じゃあ、そのためにどうすればいいのか、もう分かる?」



 尚希が優しく問うてくる。



「はい。」



 答えは、もちろん決まっていた。



 シェイラの答えを聞いた尚希が頷く横で、エーリリテはほっとしたように肩を落とす。



 そして、彼女は満面の笑みを浮かべた。



「弱気になりかけたら、その気持ちを思い出しなさい。大丈夫、ちゃんと伝わるわ。なんだかんだで、フェンはシェイラ第一だもの。シェイラがいなくなったら、フェンの方が耐えられないと思うわよ。」



「そんなこと…っ」



 少しからかうような響きの言葉に、シェイラは慌てた様子で頬を紅潮させる。



「あら、本当のことよ。」



 エーリリテは、茶目っ気たっぷりで片目をつぶる。



 ようやくそれぞれの緊張から解放され、部屋の空気が一気に温かくなった。

 その時―――



 ドーンッ



 と、何かが爆発するような低く大きな音が響いた。



 次に、地震のような揺れが襲ってくる。

 その衝撃で軽い物が床に落ち、天井から吊り下がる照明が大きく揺れる。



 しかし、それ以上の被害を出さずに、揺れはものの数秒で収まった。



「びっ、びっくりしたぁ…。何、地震?」



 尚希にしがみついて揺れに耐えていたエーリリテが、きょろきょろと周囲を見渡す。

 それに対して、尚希は蒼白な顔で立ち上がり、窓の外をじっと見つめていた。



「……実?」



 その呟きを聞き(とが)めて、エーリリテは尚希を見上げる。

 その視線の先で、尚希の表情がみるみるうちに青くなっていった。



「キース、実がどうかし―――」

「あの馬鹿!!」



 エーリリテの言葉を(さえぎ)り、尚希が怒鳴って奥歯を噛んだ。



 さっきまでとは打って変わった険しい怒号に、エーリリテとシェイラは肩をすくめる。



 尚希は慌てた動作で窓を開け放ち、何かを探すように街の風景に目を()らす。



 焦りすら(うかが)わせる尚希の雰囲気は口出しできるようなものではなかったが、ここまで尚希が感情を乱すのもおかしい状況だ。



 エーリリテは尚希に近寄り、先ほど訊きそびれたことを訊ねた。



「キース。実がどうかしたの?」



 しかし、尚希はその問いには答えない。

 彼の視線は相変わらず、何かを探して(せわ)しなく動いているだけだ。



「おい。」



 その口腔から漏れた声はいつもよりも低くて、本当に彼のものなのか、一瞬判断がつかなかった。



「なっ……何?」



 尚希の変わりようについていけず、エーリリテの声が上ずる。



「実、どこに行くって言ってた?」

「た、確か、フェンに呼ばれたって言ってたから……フェンの家じゃないかしら?」



「場所、分かるか?」

「ええ。」



「そこまで、どのくらい時間がかかる?」

「そんなにかからないわ。大通り沿いにあるレストランだから目立つし。」



「今すぐ、そこに連れてってくれ。」

「え…? どうして―――」



「いいから!!」



 鋭く空気を裂く尚希の声に、エーリリテがまた肩をすくめる。

 それを見てようやく我に返ったのか、尚希は息を吐いて髪を掻き回した。



「……悪い、怖がらせたな。やっぱり、エーリリテはここで待機しててくれ。シェイラちゃん。当然、君もフェン君の家は知ってるはずだよね? 案内役は君に頼む。今すぐ行くぞ!」



「は、はい!」



 尚希の焦りに引きずられ、シェイラの動きも自然と早くなる。

 駆け出しかけた尚希の腕を、寸でのところでエーリリテが引き留めた。



「ま、待ってよ! 一体、何が起きたっていうの!?」



 エーリリテが必死な様子で訊ねると尚希は一瞬言葉につまり、次に深刻そうな表情で息を吐き出した。



「あいつ、とんでもないことをしやがった。死ぬようなへまはしないと思うけど、実際問題、死ぬ可能性がないとは限らない。」



 その言葉を受けたエーリリテが絶句する。



「詳しい話は後だ。」



 同じく絶句するシェイラを()かし、尚希は慌ただしく部屋を出ていった。



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