80 旅のおわり!
「ねえ、カメさま、ラズ! あれが王都だよね!」
「で、ある。白亜の城がそびえているので、間違いはないのである」
五月の始めに家を出て、旅を始めて、約一ヶ月が過ぎて――。
六月が目前に迫る中――。
私ことアニスは、メイドさんこと黒竜ラズの背中に乗って、カメさまを頭の上に乗せて、ついに空の上から遠くに王都を眺めるに至った。
初めて見る王都は、高い壁に囲まれた巨大で堅牢な都市だった。
以前にカメさまが言った通り、まるで森のように建物が密集している。
しかも町は、壁の外にも広がっていた。
たくさんの人が住んでいそうだ。
空は明るい。
都市の中心では、日差しを浴びたお城が一際にキラキラと輝いている。
私のワクワクも高まるというものだった。
「では、いつものように、目立たない丘の裏側にこっそりと下りますね」
「うん。お願いー」
さすがは王都だけあって、街道に人の流れは多かった。
かなり離れた場所に着地することになったけど、今の私達には問題ない。
なにしろ鍛えられた。
あっという間に丘を超えて、人波の途切れたタイミングを見計らって、木々の隙間から自然な感じで街道に入った。
「さあ、まずは王都見学をしようかー!」
六月までには、まだ何日かの余裕がある。
少しは遊んでもいいよね。
「キノコである。王都であれば、きっと珍しいキノコがたくさんあるのである」
「うん。探してみよー」
「私も楽しみです! ニンゲンの都市、どんなところなのか!」
ちなみにお金には、今は余裕がある。
旅の途中では……。
カメさまがゴールデンボンバーの鍋祭りで盛大に使ってしまったものだから……。
なくなりかけてしまって大変になったこともあるけど……。
魔物を狩って、魔石を手に入れて……。
それを売りさばくことで、金貨を手に入れることができた。
売る時には緊張したものだけど、そこでもハロ男爵家のメダルが威力を発揮して、私でも取引することができた。
私は今まで、まったくわかっていなかったけど……。
貴族の権威は本当にすごかった。
ともかく、私はこの旅で、大いに成長したのだ。
もはや世間知らずの私ではないのだ。
魔物が狩れて、旅ができて、取引ができて、宿にだって泊まれてしまう子なのだ。
王都でも、学院でもやっていける自信はついていた!
なので気持ちは軽かった!
ラズもすっかりメイドさんに慣れて、今ではテンパることもないしね!
「そういえばラズって最初は従魔として連れて行く予定だったよね? 王都ではどうする? 普通にメイドさんでいいのかな?」
旅の最中で町に入る時も、すべてメイドさんとしてだった。
ラズはニンゲンになりきれている。
「良いのではないかな。ラズの擬態は完璧なのである。魔物特有の気配は、ほとんど感じないのである。よほどの魔術師に検査されない限り、見破られることはないのである」
「よほどの魔術師にはバレちゃうんだ……?」
「そればかりはしょうがないのである。ただ、そんな魔術師が、わざわざ検問をしていることなどありえないのである」
「それはそうだよね。ならいっかー」
検問は基本的に、普通の兵士さんの仕事だ。
偉い人がやることではない。
「ラズもメイドさんでいい?」
私はラズの意思も確認した。
「はい! 私もニンゲンの社会では、ニンゲンの姿でいたいです。その方が美味しいものを食べられますよね!」
「あはは。ラズもすっかりグルメだねー」
「それに、普通のニンゲンさんともおしゃべりできますし」
「だねー」
楽しい会話を交わしつつ、私達は街道を歩いた。
歩いていくと次第に周囲の景色が、丘から田園、町並みへと変わっていく。
まだ城門の外なのに……。
リムネーよりも明らかに賑わっていた。
さすがは王都だ。
料理屋さんもたくさんあって、いい匂いを街道に広げていた。
見る限り、治安いいようだ。
もちろん油断はしない。
笑顔で近づいてくる悪い人もいるしね。
王都には問題なく入ることができた。
一般の列に並んで、順番が来たらハロ男爵家のメダルを見せる。
他の町ではだいたい驚かれたけど、さすがは王都。
驚かれることも疑われることもなく、淡々とメダルが本物であることの確認だけされて、あとは普通に通された。
公爵家からいただいた各種書類は、結局、旅の中では一度も使わなかった。
王都に入る時にも出さなかった。
下手に使うと、楽になるどころか逆に面倒なことになりそうだし。
私は賢いのだ。
疑うことを知った子なのだ。
かくして。
ついに、私は新しい生活の場に、到着したのだった。
果たして王都では、どんなことがあるのだろう。
正直、恐い気はするけど……。
とても楽しみでもある。
私は、なんだかんだで強くなった。
世間にも慣れた。
我ながら準備は万全なのだ。
心強い仲間、カメさまとラズもいるしね。
頑張ろう!
おー!




