73 宴会
みんなもキノコ祭りを始めたところで、カメさまはレンガ山の上に戻った。
まるでボスみたいに、会場を見下ろす。
と、カメさまが憑依をやめた。
するりと私から抜けて、レンガの上に乗った。
「はい。ご主人様、どうぞ」
「ありがとう、ラズ」
気を利かせてくれたラズが、キノコスープとゴールデンボンバーの串焼きのおかわりを持ってきてくれた。
「我はゴールデンボンバーの串焼きを希望するのである」
「はーい」
私は半分をちぎって、下に置いた。
小さなカメのカメさまが、むしゃむしゃと食べる。
「うむ。やはり、憑依していては真の味がわからぬのである。我は、やはりカメ。カメでいてこそ本気で味わえるのである」
「そんなものなんだー」
「アニスも食べてみるといいのである」
私も串焼きをいただいた。
カメさまの言葉は本当だった。
やっぱり、自分でちゃんと噛んでいるからか、さっきよりも味わいが深い。
「んー。おいしー」
思わず、あらためて感動してしまった。
「うむ。さすがはゴールデンボンバーなのである」
「だねー」
「おかわりがいるなら、また持ってきましょうか?」
ラズが言った。
「ううん。ラズも食べてきなよ」
「アニスも食べてくるのである」
「私も?」
「あの悪党共は、悪党ながら悪意はなさそうなのである。対人訓練として、気軽に交流してみると良いのである」
「えー。でもぉ……」
「我がここで見ているのである。何かあればすぐに助けるのである」
「んー……」
私は正直、乗り気じゃなかった。
だってさ……。
何人もの同世代となんて、おしゃべりしたことがない。
「アニスよ、学院に行けば、さらに大勢と交流することになるのである。この連中であれば失敗しても上から目線で押し通せるのである。訓練なのである」
「私、訓練とか嫌いだってばー」
「嫌い嫌いと言いつつ、湖での訓練も結局は楽しんでいたのである。こういうのは、やってみれば楽しいものなのである。ラズよ、アニスを連れていくのである。連中と一緒にキノコを堪能してくるのである」
「えっと。あのお」
「さっさと行くのである」
「はいー!」
カメさまに睨まれて、ラズは飛び跳ねるようにうなずいた。
「では、ご主人様。行きましょう」
「え。あの」
私の手を取ると、強引に連れて行ってしまう。
「あと我には、串焼きのおかわりである!」
「はいー!」
というわけで……。
私は悪党のみなさんと一緒に、鍋と網を囲んでキノコを食べることになった。
最初に言われたのはお釣りのことだった。
「これ、余った金です」
彼らは律儀にも返そうとしてきた。
差し出されたのは、金貨四枚と何枚かの銀貨だった。
カメさまが渡したのは金貨五枚。
ゴールデンボンバーに他の何種類かのキノコ、さらに他の食材や魔導コンロの燃料になる魔石を合わせても、金貨一枚でお釣りが出たそうだ。
とはいえ、うん。
カメさまが気前よく渡したお金なんだから、返してもらうのも変かな。
「余ったお金は報酬でいいよ。みんなで分配して」
私がそう言うと……。
彼らは、わーっと盛り上がった。
「アニス様、気前がいいね。さすがはお貴族様。ねえ、ボクの一枚も、このままもらっちゃってもいいんだよねー?」
「それはどうしようか?」
リタの金貨は、カメさまがあげたものではない。
私を騙したものなのだ。
でも、まあ、いっか。
さっき、いろいろと勉強させてもらったし。
そのことを私が言うと、リタは素直に大喜びした。
「やったー! これで半年は仕事しなくていいや!」
「そんなになんだ?」
「アニス様、さっきも言ったけどさ、金貨って大金だからね? ボク達が稼ごうと思ったら、逆に半年は働かないと無理だからね?」
「そんなになんだ!?」
「ボク達みたいな下町のガキには、まともな仕事はもらえないからね」
「でも、悪いことはしない方がいいと思うよ?」
「普段はしていないよ。今日はアニス様があんまりにもバカっぽかったから、引っかかるかなと思って試してみただけ」
「そっかー。私ってバカっぽいのかー。あははー」
笑って、私はガクンとした。
「……私も気をつけないとダメだよね」
うん、本当に。
「ま、アニス様なら、何でもいいんだろうけどね」
「どうして?」
「だって、お金と権力と暴力ですべてを解決できちゃうでしょ? 今回みたいに」
「……なんか私が悪い人みたいだね」
それだけ聞いていると。
私が再びぼやくと、豪快にスープを堪能していた年上の男の子が言った。
「何言ってんだよ! 金くれたんなら神様さ!」
「普通、貴族になんかすれば、俺等なんてぶち殺されるのによ!」
「神様だよな!」
なぜか広場に、神様コールが起きた。
しかも対象は私だ。
「えへへ。もー。そんなことしても、なんにも出てこないからね」
私はなんか気持ちよくなった!
だって、うん。
こんなに正面から称賛されることって、なかったしね……。
やむなし、なのです……。
「アニス様、そういう、すぐにノッちゃうところも直した方がいいよー」
リタには呆れた声で言われたけど。
ですよね。
ごめんなさい。
広場には笑い声が響いた。




