71 なんだろうね、これ
「よし……。ここは私に任せて。アニス、いきまぁす!」
私は勇敢に腕を振り回した!
喧嘩だぁ!
私は全力で走ったぁぁぁぁぁぁぁ!
どかーん!
次の瞬間には、目の前にたくさんの火花が散って……。
負けましたぁ。
「あっぶねぇ……。なんだ、こいつ」
「暴走馬車かと思ったぜ」
「いや今の、それ以上だろ……」
はい。
全力で走ったら勢いがつきすぎて、そのまま壁に激突して崩れ落ちました。
誰がと言えば、私がです。
で、うつ伏せに倒れたところに上から腕を取られて……。
動けなくなりました……。
「あああ! ご主人様が負けちゃいましたぁぁぁ! もうおしまいですううう!」
ラズもへたったぁぁぁぁ!
「……壁、崩れる寸前だな」
「どんな勢いだよ」
「こいつ、まさか刻印持ちじゃねえだろうな?」
「え。それって貴族ってこと……?」
「おい、リタ。こいつ、世間知らずの旅の商人の子供じゃなかったのかよ?」
「どういうことだよ!」
「ちょっと、ボクのせいにしないでよね! やったのはみんなでしょ!」
――カメさま助けてえ!
――アニスは、何がしたかったのであるか?
――喧嘩だよお!
――ふむ。
――ふむ、はいいからぁ!
――良いであるか。ニンゲンはゴブリンとは違うのである。ニンゲンには技があるからして力だけでは勝てぬことが多いのである。猪突猛進はダメなのである。
――わかったからぁ! 腕が痛いのぉ!
なんか容赦なく腕を決められて、キリキリしている。
今にもポキっと折れそうだ。
――わかったのである。
カメさまが憑依してくれた!
力が漲る!
「ふん! である!」
「うわあ!」
のしかかっていた男の子を押しのけて、私は立ち上がった!
「おっと。逃さんのである」
逃げようとしたリタの首根っこを捕まえる。
「え。うわ! いつの間にうしろに!? てか、離してー!」
「ダメである。離さんのである」
じたばたするリタを片手で軽々と釣り上げて……。
私ことカメさまは、次の瞬間には、全員を叩きのめしていた。
最後にリタを仲間のところに放り投げて、
「さて、である」
私ことカメさまは、それはもう偉そうな態度で、レンガの山に足を組んで座った。
眼下では、ううう……、と悪党達がうめいている。
「まずは名乗っておくのである。我は、アニス・オル・ハロ。この町の隣、リムネーを領有する男爵家の三女である。これが証拠の貴族紋章である」
そういうとカメさまは、それはもう堂々とペンダントを悪党達に見せた。
――カメさまぁ……。名乗っちゃっていいの……?
――任せるのである。
――う、うん……。
「貴様ら、貴族を――あろうことか隣町の領主一族を恐喝した罪が、どれほどのものになるのかは理解しているのであろうな?」
カメさまこと私が悪党達を睨みつける。
「ボクは関係ないよね!? ボクはキノコを探すお手伝いをしようとしていたんだよ!?」
「貴様の顔はよく覚えたのである。その言い訳が通じると思うのなら、勝手に逃げると良いのである」
「う……。だ、だってさ、普通、町に一人でぼんやりしている貴族の子なんていないよね!? 女の子なら特に! どう考えても! そんなの罠だよね!?」
「だから、その言い訳が通じると思うのなら、さっさと消えるのである」
「う、うう……。どうかお許しをおおお! お金は返しますからぁぁ!」
「ダメである」
「うううう。うわああん! お許しをおおお!」
あー、泣いちゃった。
のろのろと身を起こした他の男の子や女の子達も、一斉に平服した。
貴族の力って恐いね……。
カメさまこと私が、レンガの山の上に立ち上がる。
腕組みして、実に偉そうな姿だ。
ちなみにラズは、いつの間にか元気になって、まさにメイドですと言わんばかりの澄まし顔で私の斜め後ろに立っている。
「貴様等が生き残る術は、ただ一つである! ゴールデンボンバーである! あるいは、それに比類するキノコである! キノコさえ持ってくれば任務達成となるのである! 予算はくれてやるのである! 探せ! 貴重なキノコを持ってくるのである!」
そういうとカメさまは……。
えええええ……。
なんと、革袋の口を開けて、金貨を五枚も放り投げたぁ!
旅の予算の半額だぁぁぁ!
「あと、ラズよ」
「はいっ! ご主人様!」
「こやつらに適度に癒やしの魔術をかけるのである」
「はーい」
ラズは軽々と癒やしの魔術を範囲で使った。
ホント、すごいね、竜族って……。
「傷が……治った……?」
「すげぇ……。癒やしの魔術だ。メイドが刻印持ちかよ……」
「ガチ貴族じゃねぇか……。やべえよやべえよ……」
「さっさと金貨を拾って、任務に走るのである! キノコはここですぐに食す故、調理器具とその他の材料も持ってくるのである! 良いか! 期限は夕刻! それまでにキノコと料理の支度を整えて戻らねば――」
どうなるんだろう?
カメさまこと私はレンガ山から身軽に飛び降りると――。
リタの首根っこを再び捕まえた。
「え。なに? あの」
「こやつが一人で、すべての責を負うことになるのである」
「ええええ!? なんでえええ!?」
リタが悲鳴を上げる。
「当然である。貴様が最初に騙したのである」
「うううううう……。そんなー!」
悪党の男の子や女の子が金貨を手にして、いくつかのグループに分かれて散っていく。
カメさまはレンガの山に戻った。
どっしり座って、となりにリタを置いた。
――あとは待つのみである。アニスに任せるのである。
――あ、うん。
カメさまは私から抜けると、頭の上に戻った。
私は、どうしようかなぁと思って、となりに座るリタに目を向けた。
微笑みかけてみる。
するとリタは頭を抱えた。
「ひいいい! お許しをおおお!」
どうしようね、これ……。
――しかし、これでついにゴールデンボンバーである。果たして、どんな味がするのかワクワクなのである。
カメさまは、とてもとても上機嫌だった。
とてとてだ。




