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武神さまと一緒 私、最強の力を手に入れてものんびりするのが希望です  作者: かっぱん


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59 閑話・兵士は竜の攻撃から生き残って……。





 俺は兵士。

 ケレス男爵の町に生まれて、ガタイだけは大きく育って、成人した十五歳の時に誘われるままに領兵となって今年で三十になる男だ。

 俺は無印者で、刻印持ちほどの戦闘力は有していないが、戦斧の扱いを男爵に認められて今では男爵の直属となっている。

 男爵は、大熊の二つ名を持つ刻印持ちの戦士。

 どんな戦いにおいても戦斧を振り回して先陣を務める勇敢な男だ。

 それに従う俺も常に最前線で戦ってきた。

 死を恐れたことはない。

 なぜなら俺達が負けることなど、考えたことすらなかったからだ。

 男爵は勇敢だが、蛮勇ではない。

 常に状況を見極め、必勝の手を得てから戦うお方だった。

 それ故に信頼して、余裕で命を預けることができた。

 実際、俺達は、どんな魔物が現れようと、どんな凶暴な盗賊団が現れようと、すべてぶちのめして勝利してきた。


 今回もまた、同じだった。


 敵は竜。


 魔物の中では最上位に君臨する、恐るべき魔物だ。

 その鱗は並の武器や魔術など軽々と弾き、自由に空を飛び、口からはブレスを吐き、鱗の色に応じて様々な魔術を操る。

 爪や尻尾、牙は、当然のように凶悪。


 実際、今から一ヶ月前、竜が山に陣取ってからというもの――。

 魔物達も怯えて、竜が咆哮を上げる度に狂乱して――。

 町に突っ込んでくるようになっていた。

 お陰で町は大きな被害を受けた。

 領兵にも市民にも死傷者が出た。

 防壁もかなり破壊された。

 よその冒険者だけでなく、評判の悪い傭兵団すら受け入れて、なんとか町が蹂躙されることだけは防いでいたが――。

 このままでは、先行きは暗かった。


 だが、男爵は、なかなか竜討伐の軍を出そうとはしなかった。

 それはわかる。

 竜はおそるべき難敵。

 無闇に突っ込めば、全滅も有り得るのだ。


 竜の鱗は黒。

 黒竜。

 闇の魔術を操ることが予測された。

 闇の魔術は人の心を狂わせる。

 下手をすれば俺達は、何もできないまま、錯乱しておわるだろう。


 聖剣士がいればよかったが――。


 聖剣士であれば、闇の魔術を防ぐことはできる。

 竜に対しても有効な打撃を与えることができた。

 聖剣士には、魔物や悪魔、闇の力に対する特効があるのだ。


 故に、ケレス男爵の親戚であるハロ男爵家への救援要請が検討されていた。

 ハロ男爵家には聖剣士がいる。

 タビア・オル・ハロ。

 勇敢で指揮能力も高く、良い評判の届くことの多い相手だが――。

 彼女は、成人したばかりの少女だった。

 まだ十五歳なのだ。

 さすがに、救援要請を出すには憚られる相手だった。


 男爵は、中央には救援要請を出していたが――。

 中央の動きは常に遅い。

 官僚への賄賂なしでは、援軍が出るまでに半年はかかるだろう。

 男爵は裏工作の出来ないお方だ。

 小賢しいやり取りを嫌っている。

 俺達は男爵のそうした気質を尊敬しているが――。

 故に、中央からの援軍は当てにできなかった。


 竜が現れてからというもの、森での採集・伐採、山での採掘等、この町を支える多くの経済活動が停滞していた。

 山の麓にある神殿にも近づけなくなっていた。

 経済が混乱して、祈りも捧げられず――。

 住民の不安は高まるばかりだった。


 そもそも竜の襲撃を受ければ、おそらく、それで町はおしまいだ。

 今のところ竜は、たまに咆哮を上げたり浮かび上がるだけで――。

 ほとんど何もしていないが――。

 いつまでも、静かにしてくれているとは限らない。

 その不安もあった。


 転機が訪れたのは――。


 たとえ勝算が低くても、一か八かで討伐に出るしかないのではないのか――。

 ねぐらに奇襲をかければ、少なくとも刃は届く――。

 刃さえ届けば勝機はある――。


 そんな話が俺達の間で出始めた頃だった。


 なんと偶然にも、北の地での任務をおえた王国十剣の一人、『轟撃』の二つ名を持つ聖剣士ガルバルド・ゼル・ウェイガーが、町に通りかかったのだ。

 轟撃は話を聞くと、迷うことなく竜討伐への参加を申し出てくれた。

 ありがたい話だった。

 男爵は深く感謝し、竜討伐を決めた。


 作戦は決まっている。

 密かに山を登って、ねぐらに襲撃をかけるのだ。


 轟撃は、王都への帰還の最中であり、長く滞在することはできない。


 すぐに作戦開始となった。


 男爵直属の俺は、当然、決行隊の一人に選ばれた。

 ただし俺の役割は、周辺警備。

 男爵と轟撃を中心とした刻印持ちが竜のねぐらに潜入して竜を討伐するまでの間、他の魔物を追い払うのが役割だ。

 なので、竜の姿を直接見ることはない――。

 ――そう思っていた。


 魔物の襲撃を受けながらも作戦は順調で、俺達は無事に山の頂に到着した。

 山の頂には、古い火口がある。

 火口の底に大きな横穴があることは昔から知られていた。

 探索が行われたこともある。

 残念ながら鉱床はなかったので、今では完全に放置されているが。


 竜が住んでいるのは、間違いなくその横穴。


 俺達はそう見当を付けていた。


 俺達は、昔の探索の時に作られた手掘りのスロープを歩いて、火口の底にまで降りた。

 竜の襲撃はなかった。

 穴の奥で寝ているのだろう。

 竜はその巨体故、睡眠時間がとても長いという。

 動いてない時以外は、常に寝ているくらいだと話には聞いている。


 竜が起きているか寝ているかは運次第だったが――。

 この一ヶ月、竜の咆哮は不規則で――。

 朝に吠えることもあれば、昼や夕や夜に吠えることもあったのだ――。


 どうやら俺達は運に勝ったようだ。


「では、行ってくる。皆、外のことは任せたぞ」


 戦斧を肩に担いで男爵が笑った。

 さすがに声は小さかったが、その表情に緊張した様子はない。


 大熊のケレス、轟撃のウェイガー。

 領兵の刻印持ちから、戦士六名、魔術師六名。

 ウェイガー様の部下十名。


 計二十四名の錚々たるアライアンスパーティーが、ねぐらの洞窟に入っていった。


 残った俺達は勝利を確信していた。

 なにしろ男爵に加えて、かの十剣とその部下までいるのだ。

 なんとウェイガー様の部下には三人もの聖剣士がいる。

 聖剣士四人体勢での突入なのだ。

 しかも奇襲には成功した。

 竜が自由に動けないねぐらの中で、男爵達が負けるとは思えなかった。


 だが竜は、やはり恐るべき魔物だった。


 奇襲を受けるや否や――。


 怒り狂うことなく、即座に洞窟から逃げ出す選択をしたのだ。

 それは完全に予想外だった。

 竜というのは、非常にプライドが高い魔物だ。

 他の存在など完全に見下していて、攻撃されれば、その無礼を決して許さない。

 容赦なく反撃してくるのが常だと――。

 俺達は思っていた。


 翼を折りたたんだ竜が洞窟から出てきて、飛び上がる。

 俺達はそれをポカンと見上げた。

 竜は傷だらけだった。

 鱗が多く剥がれた、痛々しい姿だった。

 なるほど――。

 どこかで戦闘に敗れて、ここで密かに傷を癒やしていた個体だったのか。


「クソ! 逃げるとは!」


 続けて洞窟から、男爵達が出てきた。

 みんな無傷だ。


「まさか幻体を出しているとは……。初手を外されたのは不覚だった……。済まぬ」


 十剣のウェイガー様がつぶやく。


「いや――。俺も、竜がそんな小細工をしているとは思っても見なかったぜ。逃げるなら、このまま遠くに行ってくれればいいが――」


 男爵の言葉は、その通りだ。

 とにかく竜が消えてくれれば俺達はそれでいいのだ。

 他の町に行ったとしても、申し訳ないが、それはその町が解決することだ。

 だが竜は、逃げていかなかった。

 空中で旋回すると――。

 俺達に向けて、怒りの咆哮を放ったのだ。

 それはまさに宣戦布告だった。


「来るぞ! 集結しろ! 聖剣士はホーリー・シールドを展開!」


 ウェイガー様が叫んだ。

 俺達は咄嗟に指示に従った。


 竜の口が大きく開かれる。

 その口内に強大な力が集まっていく。

 そして――。

 まるで濁流のように、黒色のブレスが山頂に向けて叩きつけられた。


 俺達は死ななかった。


 聖剣士の力が俺達を守ってくれた。


 だが――。


 俺を始めとして、多くの人間は吹き飛ばされて体を打ち付けた。

 全身が痛い。

 俺はすぐに立ち上がれたが、そうでない者も多かった。


 あたりの様子を見て、俺は戦慄した。


 火口の岩壁が、今の一撃で、完全にえぐり取られていた。

 とんでもない破壊力だった。


 これが、竜の力なのか……。


 俺は今さらながらに、最強の魔物と恐れられる、その存在を知った気持ちだった。


「ヤベェな、こりゃ。完全に失敗だわ」


 男爵が言った。

 俺は思った。

 俺達は、ここで死ぬのか、と。


「だが、あきらめるなよ! 見てみろ! 竜のヤツはとっくに傷だらけだ! あれなら弓や魔術でも十分に落とせる! さらに今のブレスは連続して吐けるもんじゃねえ! 野郎ども、立って体勢を整えろ! 円形陣を組むぞ!」


 男爵が叫んだ。


「「「おう!」」」


 俺達はそれに、精一杯の勇気で答えた。

 弱気は振り払う。

 ここに臆病者はいない。

 ここにいるのは、全員が選ばれし勇士なのだ。


「大熊殿は、少しでもあいつを苛立たせて近接攻撃に誘ってくれ。射程距離にさえ入れば俺の必殺技を食らわせてやる。一撃で地面に叩き落としてみせる」


 ウェイガー様の両手には、自らの魔力で生み出した輝く大剣があった。


「おう! 任せろ!」


 男爵が威勢よく答える。


 だが竜は、空高く舞い上がっていた。

 戦いは厳しいものになるだろう……。

 竜に理性的に動かれては、俺達の勝機は薄い。


 だが――。


 その時だった……。


 突然、何の前触れもなく、一筋の閃光が竜に直撃した。

 竜が悲鳴のような咆哮を上げる。

 竜は逃げようと……。

 さらに空高くに上がって……。

 しかし、力が尽きたのか、墜落していった……。


「おい……。なあ……。今のは何だったんだ……?」

「方角からして町から伸びてきたようだが……。大熊殿の、秘蔵の魔導兵器――アーティファクトではないのかね?」

「失礼だが、バカを言ってくれるな、という話だぜ……。竜を一撃で仕留めることのできる道具があるのなら、とっくに使っているぜ……」

「ああ、それはそうだな……」


 ぼんやりと会話する男爵とウェイガー様の言葉を聞きつつ――。

 俺はともかく……。

 竜退治が完了したことを理解したのだった……。







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