55 メイドさんと合流
町へと続いた検問所に私達は近づいた。
検問所には若いメイドさんがいて、門兵さんと何やら話していた。
まわりには門兵さんとは別に、武装した人達もいる。
門兵さんとは装備が違うので、きっと冒険者だろう。
冒険者というのは、冒険者ギルドに登録して商隊護衛や魔物討伐等の仕事を請け負う、戦闘能力を持った人達のことだ。
リムネーには冒険者ギルドの支部がないのであまりいないけど、それでもたまには見かけるので私も冒険者という存在のことは知っている。
若いメイドさんは、ジョーの知り合いらしかった。
「デイジー、どうしたの? そんな必死に」
ジョーがのほほんとした様子でうしろから話しかけると――。
留め金の外れたバネみたいに若いメイドさん、デイジーさんは振り向いて、
「お嬢様!? ああああああ……。ご無事でよかったですぅ……。もう、どうして無断で屋敷から出てしまうのですかぁ……」
よろよろとその場にへたり込んだ。
「だって、お願いしたって許可なんて出ないでしょ」
「当然です! このあたりは今、魔物が暴れていて、とっても危険なんですよ! 何かあったらどうするんですか!」
「何にもないってー。ほらー」
ジョーが腕を広げて、無傷なことを示す。
まあ、うん。
はい。
あやうくゴブリンに殺されるところだったけどね……。
それをおくびにも出さないジョーは、本当に胆力があるというかなんというかだね。
大物にはなりそうだ。
デイジーさんは立ち上がると、腰に手を当てて門兵さん達を睨んだ。
「貴方達も! お嬢様がご無事だったから良かったものの! まだ十五歳にもなっていない女の子を一人で町から出すなんて! 責任問題ですからね!」
「そ、そうは言われましても……」
「デイジー、門兵に罪はないって。私に言われたらしょうがないでしょ」
ジョーは十剣の娘であり、貴族なのだ。
その権威を出されたら門兵さんでは止められないよね、さすがに。
「ハァ。そうですね。今のは言い過ぎでした。取り消します。ただし、せめて連絡くらいはしてくれても良かったですよね」
「はい! 以降、気をつけます!」
門兵さん達が、ビシッと敬礼して答えた。
門兵さんも大変だね……。
「ともかく、じゃあ、俺等の仕事は始まる前に終了ってことか?」
近くにいた冒険者の男性が言った。
年齢は二十代の前半くらいかな。
まだ若く見えるのに、強そうな雰囲気のある人だった。
「はい。お手数をおかけしました。Aランク冒険者パーティー『夜明けの渚』にお願いした緊急捜索依頼はこれにて完了です。突然の依頼を受けて頂いた礼も含めて、出発前ですが規定の料金はお支払いしますのでお受け取り下さい」
「ははは! それは俺等も幸運だな! そっちも無事に見つかって良かったな!」
「ありがとうございます」
デイジーさんが、冒険者達にペコリと頭を下げる。
その後でジョーの手を掴むと、
「さ。お嬢様、ケレス男爵のお屋敷に帰りますよ。今後は完全に外出禁止です」
と、ニッコリ笑った。
「待って待って! 私、約束しちゃったのよー!」
「何をですか?」
「そっちのアニスにお礼をするって!」
「お礼ですか? それは何の?」
「それは、えっと……。ちょっと道に迷っちゃってねー。あははー」
ジョーは笑って誤魔化した!
「道に、ですか」
デイジーさんが疑わしげに、私に目を向けた。
「――では。アニスさん、でよろしいですよね。お嬢様が外で何をしでかしたのか、ぜひとも教えいただけますか?」
デイジーさんが、またもニッコリと笑った。
対象は私だ。
うん。
ニッコリ笑顔が気のせいではなく恐いです!
さすがは一流貴族家のメイドさん!
ジョーがアイコンタクトで、誤魔化して、と言ってくる!
私は困り果てた!
困り果てつつも……。
私は同い年の子との友情を取った……。
「それは、えっと……。ジョーはキノコを探していて、森で迷って……」
「キノコですか?」
「はい。ゴールデンボンバーっていうめでたいキノコを見つけて、竜退治から戻ってきたお父様のお祝いをしたいと言って……」
「そうですか。お手数をおかけしました」
デイジーさんが私に頭を下げる。
「いえ、そんな」
「しかし、貴方も一人で外に出ていたのですか?」
その後、ジトッと見られた!
「あ、えっとぉ。あははー」
「困ったものです。貴女も身なりからして、良い家の子なのでしょう? 家の者を心配させるものではありませんよ」
「はい……。すみませんでした……」
「それでアニスに、食事を奢るって約束したのよ。ね、あと少しいいでしょ」
ジョーが訴える。
「ダメです」
だけどデイジーさんはにべもなかった。
やむなし、だよね……。
「それなら、俺等が食事くらい連れて行ってやろうか?」
「ああ、それは良いですね。ついでに彼女を家まで送り返して――」
冒険者の男性が提案して、デイジーさんはうなずいた。
私はあわてて否定した!
「あ、いいですいいです!」
私は旅人で、この町に家はない。
そもそも私の存在は、できるだけ秘密にしたいのだ。
いくら認識阻害のスカーフを巻いているとしても、身バレする可能性はある。
タビアお姉様ならともかく、十一歳の私が一人で北の町にいるなんて……。
うん。
我ながら怪しすぎるよね!
これ以上は、人と関わらない方がいい!
「私は、じゃあ、これで! ジョー、また今度ね!」
私は笑顔で手を振って、逃げてしまうことにした。
「アニス! またっていつー!? どこでー!」
「どこかでー!」
「もー! それってわかんないよねー!?」
ジョーの声を背中に聞きつつ……。
幸いにも誰も止められず、私は検問所を抜けて町の中に入った。




