54 ゴールデンボンバーと新しい友人
「ジョゼフィンさんの方は、どうして一人でこんなところにいたんですか?」
ジョセフィンさんは身なりが整っている。
どこかのお嬢様に見える。
「さんはいいよ。年、同じくらいだよね? 私は十一歳だけど、アニスは?」
「私も十一歳ですけど……」
「なら同じね。気楽にジョーって呼んでよ」
「えっと、なら、ジョー……さん」
「さんはいらないってばー。そもそも命の恩人なんだし。普通に話して」
「なら、ジョー……。どうして一人でいたの? もしかしてキノコ採集とか?」
「よくわかったわね。まさかアニスもなの?」
「えっと。何がだろ……」
「キノコ採集。私、実はキノコを探していたのよね。アニスは、ゴールデンボンバーっていうキノコは知ってる?」
「ううん。ごめん、初めて聞いた」
「このあたりの名物なんだって。大きな黄色のキノコでね、まるで爆発したみたいに傘が開くからそういう名前なんだって」
「へー。そうなんだー」
「美味いのであるか!?」
「香りが本当に芳醇で、最高に美味しいらしいわよ。って、え? 今の声、アニスよね?」
「あ、うん。ちょっと興奮して声が裏返っちゃったよー。あははー」
――カメさま!
――すまんのである。つい興奮したのである。
「あはは。アニスはキノコが好きなのね」
ジョーは笑って流してくれた。
「うん。まあねー。あははー。名物のキノコなら私も食べてみたいなー。町のお料理屋とかで食べられるのかな?」
「今は無理ね。魔物が暴れていて森に入れないみたいだし。街道側にもあるかと思って探してみたけど全然なかった」
「そっかー。残念」
――森に探しに行くのである! 美味ならば食べねばならんのである!
「まあ、もうすぐ食べられるようにはなると思うけど」
ジョーが言った。
「そうなんだ?」
「ええ。私のお父様が竜退治に出ているからね」
「竜退治って……。大丈夫なの……?」
カメさまじゃないと危険な相手なのに。
「ふふーん! 私の家名はウェイガーなのよ!」
ジョーが自信満々に言った。
「へー。そうなんだー」
私がいつものように感心すると……。
ジョーに驚いた顔をされた。
「知らないの?」
「え。あ。うん。ごめんね?」
「お父様の名前はガルバルド・ゼル・ウェイガー! 王国十剣の一人! 轟撃のウェイガーと言えばお父様のことなのよ!」
「あ、それなら知ってる。轟撃って最強の破壊力を持った十剣の一人だよね?」
「そーそー。その通り!」
「へー。ジョーのお父様はすごいんだねー」
「ふふーん。そうよー。この町は運がいいわよねー。ちょうどお父様が北の国境の任務をおえて帰る途中で通りかかって」
ジョーは鼻高々だ。
本当にお父様のことを誇りに思っているのだろう。
「任務って、ジョーも一緒だったの?」
「ええ。そうよ。私、本当は春から王都の学院に行く予定だったんだけどね、北の国境地帯ってお母様の故郷だったの。今行かないと死ぬまで行けないかもって思って、無理を言って連れて行ってもらったの」
ジョーのお母様は、去年、病気で他界してしまったそうだ。
ジョーが聞いた最後のお母様の言葉が、「元気になったらもう一度故郷の星空を見たい」というものだったという。
だからお父様もお願いを聞いてくれたそうだ。
「星空は見えたの?」
「ええ」
「そっか。きっと、お母様も喜んでくれたね」
「そうね。私もそう思う。本当に行って良かったと思うわ。それでゴールデンボンバーのことなんだけど、祝いの席に出すのがお約束らしいの。だから、お父様達の戦勝会に出したいと思って探したんだけどねー。死にかけたわねー、本気で」
お気楽な様子でジョーが笑う。
「死んじゃったら、お父様が泣いちゃうよ?」
さすがに私は顔をしかめた。
笑い事じゃないよね。
「ごめん、そうよね。アニスのおかげで助かったわ。ありがとう」
「もう無茶しちゃダメだよ?」
「無茶のつもりはなかったんだけどねー。不覚だった。アニスはでも、リムネーから一人でここまで来たのよね?」
「うん。そうだけど」
「アニスの方が無謀よね? 女の子の一人旅なんて」
「言われてみれば……。たしカニ」
私はカニでもカメでもクマでもないけど。
ないけど、なんとなく、両手でチョキチョキしてみた。
「なにそれ?」
「カニかな?」
「あはは。変なのー。アニスって変な子よねー!」
――どうせならカメにするのである。カメぇへん、である。あと、早くゴールデンボンバーの生息地を聞き出すのである。
カメさまに急かされて私はたずねた。
ジョーの返事は、あっさりしていた。
「知らない」
「知らないのに探してたんだ?」
「もしかしたら、あるかなーと思って。そもそも高く売れるキノコの在り処なんて、いくら私が十剣の子だって教えてはもらえないわよ」
「そっかー」
――だって、カメさま。
――残念である。だが、それはたしカニである。
――カメさま、そこはカメぇへんじゃないの? カニになっちゃってるよ。
――む。むむむ。我は今、カニであったか。不覚なのである。
「あはは」
私はつい声に出して笑った。
「どうしたの?」
ジョーが不思議そうに覗き込んできた。
「あ、ううんっ! それよりジョーのお父様って、一人で行ったんじゃないよね?」
「ええ。うちの家臣達と、この町の領主と領軍の精鋭も一緒よ。なので万全ね」
「そっかー。なら安心だねー」
領主のケレス叔父様は熊みたいな大男で、戦士の刻印を持っていて、領主なのに自ら斧を振り回して戦う強い人だ。
そこに十剣とその配下が加われば、いくら竜でも勝てそうだ。




