52 到着!
「ねえ、カメさま。着いちゃったね……。すごいね、私……」
「で、ある。訓練の成果である」
こんにちは、私、アニスです。
私は今、ケレス叔父様の町を見下ろす丘の上にいます。
リムネーから旅に出た、その日の午後――。
途中の宿場町で小休止を取りつつ、私はマナの力で走り続けて、なんと普通なら二日かかるケレス叔父様の町に――。
たったの半日で到着してしまいました。
丘は草原だった。
見晴らしはすごくよかった。
まだ高い太陽の下、流れる風がとても心地よい。
恐ろしいことに、半日も頑張って走ったのに、私に疲れはほとんどなかった。
この一ヶ月の練習の成果が十分に出ていた。
マナの力はすごい。
カメさまが言うには、マナ使いとしては、私なんて、まだオタマジャクシらしいけど……。
たとえオタマジャクシにしたって、とんでもなくすごい力だ。
私は、あらためて実感したのでした。
でも、うん。
将来、カエルになるつもりはありませんが。
私はクマ志望なのです。
いや、うん。
クマも違うか……クマはただの口癖だね……。
といっても、カメも違うし……カメはカメさまがいれば完璧だしね……。
うーん。
将来、私はなんになりたいのか。
悩みどころなのです。
それはともかく。
景色の正面には、でん、と、ザレース山がそびえていた。
美しい三角形の大きな山だ。
今はその山に竜が住み着いてしまっているという。
山の麓には森が広がる。
きっと、たくさんのキノコがあることだろう。
今は魔物が暴れているらしいけど……。
町は、森から田園と川を越えた先で、地形に合わせて自然な感じに広がっていた。
町には一応、森側に防壁があった。
でも、すでにあちこち崩れているのが、遠目にも見て取れる。
魔物に破壊されたのだろう。
町の様子は落ち着いているように見えるから、押し返したのだとは思うけど……。
ケレス叔父様の町には、聖剣士がいない。
きっと苦労していることだろう。
聖剣士は、魔物や悪魔に特攻の力を持つ。
いるといないでは大違いの存在だ。
先月、リムネーの町に魔物が押し寄せた時には、タビアお姉様とファラーテ様が大いに活躍して撃退してくれたし。
「ねえ、カメさま。それで、どこから山に行こうか?」
私は頭の上にいるカメさまにたずねた。
私達の使命は、竜退治。
魔物が暴れている原因を取り除いて、山と森を元の状態に戻すことだ。
「ふむ。そうであるな……」
「いいルートはありそう?」
「ふむ。そうであるな……」
「カメさまにお任せしちゃってもいいんだよね?」
私、よくわからないし。
「では、まずは町で情報収集をするのである。あと、宿を取って、まずはゆっくりして明日の朝に動くのである」
「これから行かないの? カメさまなら、すぐにおわるんだよね?」
まだ日も高いし。
私もまだまだ元気だし。
「アニスは気が利かないのである」
「急にどうしたの?」
「我は、早くキノコが食べたいのである! 竜退治など、後で良いのである!」
「えー」
まさか私の方が真面目だったー!
でも、うん。
キノコの話が出たところで、私のお腹も鳴った。
私も腹ペコみたいだ。
「じゃあ、先に町に行こっか」
「で、ある」
私は草原の丘を駆け下りて、最後は思いっきり跳んだ。
青空に全身を踊らせて、街道に着地する。
「おっとっと……」
さすがに勢いがついていて、あやうく転びかけたけど……。
「よっと!」
なんとか耐えて、私は大成功のポーズを決めた。
ねーねーカメさま!
私、やっぱりすごいよね!
私は大いにカメさまに自慢しようとしたけど、それはできなかった。
なぜなら……。
見れば、私と同じくらいの年に見える女の子が地面に尻餅をついて倒れていた。
もう一方を見れば……。
魔物がいた。
四体。
私よりも小柄で、ニンゲンと同じように手足を持ちながらも……。
緑色の肌をして、腰布だけを身につけて……。
とんでもなく凶暴な顔立ちで、口からは牙の伸びている……。
そう。
見るのは初めてだけど、わかる。
ゴブリンだ。
錆びた短剣を手にしたゴブリンが、女の子に襲いかかろうとしているのだ。
私は偶然にも、その現場に着地してしまったのだ。




