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武神さまと一緒 私、最強の力を手に入れてものんびりするのが希望です  作者: かっぱん


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47 王立学院へ。オスタル公爵家からの推薦状





 竜のことで、悩んで結論を出せなかった、その翌朝。

 私はいつものように起きて、いつものように着替えてから食堂に入った。


「おはよー」


 でも眠かったので目をこすりながらだけど。

 なので食堂の様子を見るのが、ほんの少しだけ遅れた。


「おっはよー、アニスちゃん」


 妙に明るい声が聞こえた。

 でも知らない声だった。

 でも、なんとなく知っている気もした。

 私はちゃんと目を開けて――。


「えええええええ!?」


 思わず大きな声を上げて、その場に尻持ちをついてしまった。


 ――あわわ! 危ないのである!


 頭の上にいたカメさまが念話で悲鳴を上げた。


 だって、うん。


 私が驚くのは無理もない。

 むしろ当然だ。

 引きつった顔のお父様とお母様と、なんでもない顔のお姉様と、一緒にいたのは――。

 私と同年代に見える、明るすぎる笑顔が逆に怪しくてたまらない――。

 ツインテールの女の子だった。

 服装は、私の見知っているメイド服ではなくて――。

 スカートにジャケット、文官の制服みたいなものだったけど、間違いはない。


 なぜか食堂にいて、私の家族と一緒にテーブルを囲んでいるのは――。


 ファラーテ様の従者、シアンさんだった。

 一見すると普通の女の子だけど……。

 実はきっと人間ではなくて、魔人と呼ばれる体の中に魔石を持つ星の女神の眷属だ。


 ファラーテ様に怪しい儀式をさせて、ファラーテ様を変貌させて――。

 カメさまの憑依した私にぶん殴られて――。

 どこかに飛んでいって、消えていたはずなのに……。


 なぜ、うちの食堂にいるのか。

 しかも朝から。


「きゃははは! そこまで驚かなくてもいいのにー。一応は顔見知りだよねー? 私、シアちゃんだよー?」

「あの……。なんでここに?」

「実はね、今日はオスタル公爵家からの正式な使者として来たの。善は急げって言うし、朝一番に来ちゃったけど許してね」


 シアンさんは、なんの悪びれた様子もなく笑顔で言った。

 私はますます混乱した!

 だってシアンさんはファラーテ様を切り捨てた。

 なのに、その家からの使者とか。

 だいたい、どうして殺そうとした私と、笑顔で普通にしゃべれるのか……!

 意味がわからないよね!


 ――アニス、落ち着くのである。正式な使者と言うからには、話があるはずなのである。まずは聞くのである。

 ――うん……。わかった……。


 私はカメさまに言われて、よろよろと身を起こした。

 席に着く。

 シアンさんも一緒に朝食は取るようだ。


 私はお父様に目を向けた。

 するとお父様は、私から目をそらした!


「じゃあ、早速だけど言うねー! この度、ハロ男爵家のアニスちゃんは、精霊と交流を持った事実が認められて、その適正と可能性を高く評価されて、この度、オスタル公爵家の推薦によって王都の王立学院への特待編入が決定しましたー! わー! ぱちぱちぱちー! これはとてもとても名誉なことだよー! とてとてだよー! おめでとー!」


 ありがとー!

 なんて、すぐに返せるわけもなく、朝の食堂は静まり返った。


「あのお……。何かの間違いでは……」


 私は頑張って抵抗しようとしてみたけど――。

 シアンさんに、ニッコリと微笑まれた。


「幸いにもアニスちゃんは今年で十二歳。ちょうど一年生の年齢だから入りやすいよねー。王都での新生活を楽しんでねー!」


 ――カメさま、どうしよおぉぉぉ! なんか私、すごいこと言われてるんだけどー!

 ――ふむ。

 ――ふむ、じゃなくてえええ!

 ――こやつは実際、湖の精霊とアニスとが接触した場面を見ているのである。否定したところでどうしようもないのである。

 ――じゃあ、どうすればいいの?

 ――こやつだけなら、今度こそ空の果てまで飛ばせば済む話であるが、話を聞く限りこやつだけの話ではないのである。すなわち。

 ――すなわち?

 ――いつものクマの出番である。

 ――クマったかぁ。


 私がカメさまと念話している内、お姉様が口を開いた。


「失礼ですが、うちの妹が精霊と交流をしたなんていう話はないかと思いますが」

「そ、そうだよねっ! いくらなんでもさすがに!」


 お父様がすぐに同意する。


 お母様は、静かに微笑みをたたえていた。

 本当に静かに!


「嘘か本当かはアニスちゃんに聞いて? とにかくオスタル公爵家は認めました。入学は六月初日からなので、それまでに王都に来てね。七月中旬から夏季休暇になっちゃうので最初は一ヶ月と少しの学院生活だけど、絶対に来てね?」

「しかし、すでに我が家では娘が学院に行っておりまして、その……費用が……」

「特待生なので無料だよー。住むところも寮が用意されているよー。制服等もこちらで用意するので来てくれるだけでいいよー」

「それなら、はい、まあ……」


 お父様、なぜかいきなり納得しているー!


「お父様!」


 さすがに私は声を上げましたよ!

 抵抗してよー!


「よかったじゃないか、アニス。特待生として、タダで学べるなんて。この世の中には、タダより安いものなんてないんだし」

「高いものでしょー!」


 反対!


 叫んで、私はちらりとシアンさんに目を向けた。

 するとまた、ニッコリとされた。


「あ、学院にはシアちゃんも行くから、アニスちゃん、一緒に頑張ろうね♪」


 ――カメさま、これって絶対にダメなヤツだよね?

 ――で、ある。間違いなく、アニスは面倒なところに目を付けられたのである。

 ――本当にどうすればいいと思う?

 ――断れば良いのである。


 あ、うん。

 そうだね。


「すみませんが、お断りを……」


 私が言いかけると……。


「はい、これ。公爵家からの正式な推薦状ね。あと学院からの特待生入学許可証と、王都に入る時の貴族用の通行証。チュアムから王都まで使える馬車の特級乗車券も渡しておくね。よかったら王都に来る時に使ってねー」


 シアンさんから書類とチケットを渡された。

 それは、うん。

 どれも本物っぽかった。


 チュアムというのは都市の名前だ。

 リムネーから歩いて二日のところにある、このあたりでは一番に大きな都市だ。

 王都とは、大きな街道でつながっている。

 という話だ。

 私は一度も行ったことはないけど。


「あと男爵様、約束の金貨千枚も持ってきたよ。渡すから受け取ってねー」

「おお! それはありがとうございます!」


 シアンさんがトランクケースを開ける。

 ケースの中には、金貨がびっしりと詰まっていた。

 お父様は大いに喜んだ。

 お母様もお礼を言った。

 ケースは、中身を確認した後、いったん、テーブルの下に置いた。


「シアちゃんのオハナシはこれだけでーす。ご清聴、ありがとねー」

「では、朝食にしようか! お父さん、実はもうお腹ペコペコだよ。もちろんシアンさんもご一緒にどうぞ」

「はーい。ありがとー」


 朝食になった。

 朝食は、実につつがなくおわった。


 食事がおわると――。


「じゃあ、シアちゃんはこれでー! アニスちゃん、次は王都でね!」


 陽気に手を振って、シアンさんは帰っていった。

 私は家族と共に家の外でそれを見送った。

 シアンさんの姿が道の向こうに消えてから、お父様が言った。


「……いきなりアニスが連れて行かれなくてよかったねえ」

「……そうですねえ。金貨千枚なんてもらったら、断れなかったわよねえ」


 お母様がしみじみと同意する。


「で、アニス。詳しい話は聞かせてくれるのよね? 貴女、公爵家に認められるって、どういうことになっているの? 精霊って何?」


 それまで静かにしていたお姉様が、ついに口を開いた。


 ――カメさま、どうしよう!?


 私は途方に暮れた。






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