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武神さまと一緒 私、最強の力を手に入れてものんびりするのが希望です  作者: かっぱん


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45 水の中で訓練





 こんにちは、私、アニスです。

 私は今、水の中にいます。

 リムネー湖の中です。

 しかも裸になることなく、普通に服を着たままで。

 溺れているわけではありません。

 湖の精霊様の力を借りての訓練中なのです。

 マナの力に通じる水の息吹を感じるのが、今日の目的です。

 精霊様の力は本当にすごい。

 今、私の体のまわりには薄い膜が形成されていて、その中で私は普通に息をすることも動くこともできてしまっている。

 春のリムネー湖は、たとえ昼間でもまだまだ水は冷たいはずなのに、冷たさを感じることもなく温度も快適だ。

 見上げれば、キラキラと輝く水面があった。

 よく晴れた昼の時間だ。

 水の中にもいくらかの明るさはあって、私は実に快適に――。

 そう――。

 言うならば今の私は魚なのだ。

 この広い湖を、自由に泳ぐことのできる子なのだ。


「遅いのである! どうしてアニスはカメより遅いのであるか!」

「そんなこと言われてもお……」


 はい。えっと、まあ……。

 現実は、頑張って手足を動かしながらも……。

 なんか、うん……。

 たいして前に進まず、よたよたしているだけなのだけど……。

 自由はあっても、できるとは限らない。

 なのです。


「手足を尾ひれのように動かすのである! ひらひらーである! ひれひれーである!」


 私のとなりで泳ぐカメさまは、すっかりイライラとしていた。

 カメさま的には、もっとすいすいと泳ぎたいのだ。

 もちろん私は、「それなら勝手に行けばいいでしょー!」なんてことは言わない。

 だって、水の中だしね。

 さすがにカメさまがいてくれないと困る。

 というか怖い。


「あはは~。カメさまぁ、アニスちゃんはニンゲンさんなんだからぁ、尾ひれとか言われてもわかるわけがないよお」


 そばには、長い水色の髪と薄手の衣装を揺らめかせる美少女姿の精霊様もいてくれる。

 私が水の中でも動けるように加護をくれているのだ。


「そうだよー! もっとわかりやすく教えてよー!」


 私はカメさまに抗議した。

 抗議して、ふと思った。


「でもカメさまってさ、もともとはカメじゃなかったんだよね?」

「当然である」

「よくカメとして、そんなすいすい泳げるよね」


 水の中でカメさまは自由自在だ。

 まさにカメだ。


「そんなものは、今の我がカメだからに決まっているのである。生物には本能というものがあるのである。カメならば、生まれた時から泳ぐ本能があるのである」

「なるほどー。私はニンゲンだから、泳ぐ本能はないわけかー」

「ふむ。で、あるな」

「ニンゲンって、どういう風に泳ぐんだろうね?」

「アニスは今までに泳いだことがないのであるか?」

「うん。ないよー」


 夏になると毎年、リムネー湖で泳ぐ人はいる。

 たとえばお姉様とか。

 だけど、私は泳いだことがない。

 水が怖いってことはなかったけど――。

 野外で裸同然の格好になるなんて、さすがに恥ずかしいよね。


「其方の姉は、どうやって泳いでいたのであるか? それを真似してみるのである」

「んー。どうだったかなぁ。なんかこう、腕をぐるぐる回していたような……」


「あのお、水の息吹を感じるだけなら、無理に泳ぐよりも、体の力を抜いて、目を閉じて、心を澄ませて漂う方がいいような……」


 精霊様が言う。


「それでは面白くないのである。我は遊びたいのである」


 その提案に、カメさまはぷいとそっぽを向いた。


「ねえ、カメさま。私、訓練がしたいんだけど? 遊びたいわけじゃないよ?」

「む。むむ」

「泳ぎ方はお姉様に聞くからさ。今日は訓練させて?」


 どうせ泳げないし。


「むむむ。わかったのである。仕方ないのである」


 というわけでこの日は、カメさまに見守られつつ、私は精霊様の導きのままに、水の中をたゆたうことになった。

 体の力を抜いて、目を閉じて、静かに感じる水の中の世界は――。

 不思議なたくさんの感覚に満ちていた。

 それはまさに水の息吹とも感じられた。

 ああ、そうか……。

 世界って、こんな音をしていたんだ……。

 なーんて、悟ってしまえたくらいだ。


 訓練をおえて、精霊様にお礼を言ってとお別れして、家に帰る途中、私がそのことをカメさまに話すと――。


「まあ、訓練は上手くいったのであるな。聞こえたその音こそが、マナなのである。訓練を繰り返して鮮明に聞き取れるようになれば、第二段階は完了なのである。アニスが遊びもせず訓練するなんて予想外なのである」


 私の頭の上にいるカメさまの声は、明らかに拗ねていた。


「もー。拗ねないでよー。明日は泳ご、ね」

「で、ある。夕食の時に、ちゃんと姉から話を聞くのである」

「わかったからー」


 泳ぎ方については、夕食の時、お姉様から話を聞くことができた。

 夏でもないのに泳ぎ方なんて、季節外れだし……。

 一体どうしたのかとお姉様には訝しがられてしまったけど……。

 なんとなくだよー、あははー。

 と、誤魔化して、教えてもらうことができた。


 それで次の日には泳いだ。


 腕と足をまっすぐに前後に伸ばして……。

 腕は交互に回して、足は折り曲げないようにばたつかせる。

 クロールという泳法だ。


 最初は上手くいかなかったけど、それでも昨日と比べれば泳法の力は歴然で、私でもそれなりに前に進むことはできた。


 ただ、うん……。


「さあ、アニス! 競争するのであるー! 我はアニスと遊ぶのであるー!」

「ごめん、カメさま……。もう腕がくたくた……。足も痛い……」

「ええ!? まだ始めたばかりであるのにであるか!?」


 はい。


 慣れない動きすぎて、あっという間にくたばりました。

 次の日は筋肉痛でした。

 お姉様には、こっそり筋トレをしていると思われて、感心されました。

 私もそういうことにしておきました。

 なにしろ私、拉致されているのです。

 だから、少しは抵抗できるようにね、なりたいということで。

 それは本当のことだ。

 するとお姉様が、剣の使い方を教えてくれると言った。

 私は喜んで教えてもらうことにした。

 だって、うん。

 マナの力で肉体強化できれば、私でも剣は使えるかも知れないしねっ!


 こうして――。


 しばらくの間、私の日々は平和に過ぎていった。

 私は訓練を重ねて――。

 なかなかマナの力を自分で操ることはできなかったけど――。

 それでも随分と水の息吹を聞き取れるようにはなって、カメさまには第二段階の完了はもうすぐだと言われた。

 カメさまと水の中で競争できるようにもなった。


 自分が成長している。


 そのことを実感できて、私は充実していた。

 なんか、最初は、私に頑張るなんて無理だよねー、あははー。

 なんて思っていたけど……。

 成長が実感できれば、案外、やる気って出るものだねー。

 カメさまと精霊様がいてくれるおかげだけど!

 あと、お姉様も!


 精霊様とも、すっかりお友達だ。

 あ、ううん。

 精霊様ではなくて、ウイルーン様だね。

 なんと名前を教えてもらえた。

 精霊様から名前を教えてもらえるということは、緩やかながらも契約の証。

 私がもしも魔術師だったら、ウイルーン様の名前と共に魔術を使うことでその効果を何倍にも高めることができるのだ。

 それは、水属性かつウイルーン様の領域である湖の周辺という限定的なものらしいけど、それでも何倍にもはすごい。

 リムネーの地でなら、いきなり超一流になれてしまうということだ。

 まあ、うん。

 私に水の刻印はないのですが。

 私は試しにウイルーン様にも聞いてみたんだけど……。


「残念だけどぉ、アニスちゃんに刻印は無理ねぇ。魔力は少しならあるんだけど、さらさらすぎて固まらないわねぇ。仮に刻印を得たとしても今の魔力量では弱すぎるし、器の大きさも普通だから成長限界も普通だし、なくて良かったと思うよぉ、逆に」

「そっかー。わかりました」

「アニスはマナ使い、魔法使いになるのである。頑張るのである」

「うん! 頑張るねっ! ……でも私、そんな強くなったら、すっごい注目とかされて、大変なことになっちゃうのかなー?」


 それは楽しみでもあるけど……。

 やっぱり私的には、注目されすぎるのは怖いし、嫌だ。


「安心するのである。マナの力は、この世界の根源たる力。外側から借りている力であるからして、霧散させてしまえば、この世界のニンゲンに認識されることは多分ないのである」

「多分ではあるんだ?」

「で、ある。魔法使いであれば、我の憑依によって高密度のマナに染まった経験のある今のアニスは、同じ魔法使いとして確実に認識されるのである」

「……魔法使いって、いないんだよね?」

「断言はできぬのである」

「わからないんだ?」

「我の知識としては、この世界からすでにマナの力は忘れられていて、公の魔法使いはいないとはなっているのである。だが、アニスのように何らかのキッカケを得て、その力を手にしている者はいるかも知れないのである」

「なるほど。それはそうだねー。大昔の魔導書とかもありそうだし」

「で、ある。かつての古代文明の遺跡には、今でも貴重な品が眠っているのである。密かに発見された可能性はあるのである」

「……この前の魔人の人たちは、違うんだよね?」

「うむ。違うのである。あれはあくまでオドの力だったのである。連中の力は、体内の魔石から導き出されていたのである」

「そっかー。よかったー」


 なら私、認識されていないよねっ!

 安心安心っ!


 と、これが盛大なフラグであることに……。

 この時の私は気づいていなかった、のです。




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