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武神さまと一緒 私、最強の力を手に入れてものんびりするのが希望です  作者: かっぱん


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40 朝霧の湖岸





「くちゅん!」

「大丈夫であるか、アニス」

「うー。寒いかもー」


 体がぶるぶると震える。

 冷えた汗が氷みたいだった。

 加えて私は、夜明け前の湖岸にいるのだ。


 星の光が眩しすぎて気づかなかったけど、朝が近づいていた。

 まだ太陽は昇っていないけど……。

 空は、黒から白へと、その色彩を変えている。


 白……。


 そう。


 光が収まって、ようやく普通の空を見ることができるかと思ったら……。

 真っ白な霧が周囲には生まれていた。


「早く帰るのである。温まった方がいいのである」

「だねえ……」


 でも、体の力が完全に抜けてしまって、立つことができない。


「とりあえず我は抜けるのである。さすがにこれ以上の負荷は危険なのである」

「うん。ありがとね」


 カメさまが私の体から抜けて、膝の上に乗った。


「とりあえず、我が熱を出すのである」

「あ、それいいかも」


 膝の上から、ポカポカした空気が広がる。

 温かくて気持ちいい。


「アニスは、歩けぬであるか?」

「うん……。膝が動かないよ……」

「で、あるか。我も限界が近く、湖の精霊を呼びに行くことも難しいのである。誰かが来るのを待つしかないであるか……」

「だねえ……。あ、そうだ……。これ、外しておいた方がいいよね……」


 私は魔法のスカーフを解いた。

 スカーフはポーチに入れる。

 誰か来た時、私が私なら普通に助けを求めるだけで済むしね。

 謎の最強少女だと、きっと説明が大変だ。

 私でも大変だろうけど。

 どうしてここにいるのかという話で。

 まあ、でも、それは、騒ぎに気づいて様子を見に来た、でいいよね。

 私は気楽に考えた。

 なにしろ私は無印者だ。

 私が謎の最強少女だなんて、誰も思わないよね。


「とにかく温めるのである。カメのカイロである」

「あー。いいかもー。気持ちいいよおー」


 カメさまが暖かさの出力を高めてくれた。

 全身が暖気に包まれて――。

 汗も乾いていくのがわかる。


「我の最後の力なのである。ありがく感じるのである」

「最後って……。死んじゃうの!?」

「死なぬのである。眠るだけである」

「……起きるんだよね?」

「もちろんである。ニンゲンの眠りと同じである。回復のためである」

「よかったぁ」


 それならいいけど。

 心と体がいくらか落ち着いたところで、私はたずねた。


「ねえ、カメさま。結局、今夜の騒動は何だったの? どうして星の扉なんてすごいものが現れて開きかけちゃったの?」

「ふむ。最大の原因は、星の女神の信者共が、儀式によって星の力を導いたことであるな。そこに膨大な魔力が注がれて――」

「扉が生まれた?」

「いや。いくら、魔王の魔力だったとは言え、それだけでつながるほど異世界との接続は容易いものではないのである」

「なら、どうして?」

「もちろん、我が関わったからである」


 カメさまがエッヘンと、ものすごく誇らしげに言った。


「カメさまのせいだったの?」

「で、ある。特に昨日、湖に活性化したマナを振りまいたのが、想定外ではあるが、大いなる導引となってしまったようなのである。よって我が関わらなければ、魔王の魔石を用意しようが同じことは起きぬのである。安心すると良いのである」

「なるほどー。それなら安心だねー」


 神様の力がなければ、世界を繋げるなんて不可能ってことだね。

 すなわち、平和ってことだね。

 よかったよかった。

 あっはっはー。

 私達は楽しく笑った。

 カメさまのお陰で体も温まって、気も楽になった。


「あとは、あの竜をなんとかするだけであるな」

「竜かぁ。いたねえ……」


 逃げていったのは見た。


 竜はこの世界にもいる。

 ものすごく強大で、危険な存在であることは知っている。

 ただ、竜は知能が高い。

 人の側から近づいて刺激しなければ、わざわざリスクを負って人の集落に攻撃を仕掛けてくることはないと以前にお姉様は言っていた。


 私がそのあたりの話をすると、カメさまは真面目な様子でこう言った。


「ふむ。それはたしカメである。我の必殺の一撃で十分に肝は冷えたであろうし、放って置いてもカメーへんのかも知れぬな」

「ぷっ。あはははは」


 思わず私は笑った。


「何がおかしいのであるか」

「ごめんごめんっ! だって、たしカメとカメーへんのコンボで! あはは!」

「むむ。言われてみれば、知らぬ内、二つもギャグを重ねていたであるか。それは笑われても致し方なしなのである」


 私はしばらく笑ってしまった。

 その後でたずねた。


「でも、なんであの子たちは、こっちの世界に来るの?」

「それは良質な餌を求めてである。向こうの世界はマナが希薄であり、故にすべてが停滞して荒廃しているのである。向こうからしてみれば、こちらの世界はまさにご馳走広場。扉が開いてマナが漂えば、惹かれて来るのが道理なのである」

「なるほどー。こっちの世界って、いい世界なのかー」

「で、ある。それこそ、異界の神が、この世界の息吹を欲するほどには」

「……それって、星の女神様のこと?」

「で、ある」

「そっかー」


 私は空を見上げた。


 朝が近くて、霧で真っ白に染まった空に、もう星は見えないけど。


「ねえ、カメさま。私も寝ちゃっていいかなぁ?」

「ここでであるか?」

「体がポカポカしてきたら、なんか無性に眠くなっちゃったよー」

「せめて家に帰るのである」

「運んで?」

「残念であるが、このポカポカが今の我の精一杯である。さすがの我も、すでに力は使い果たしているのである」

「あー、ごめん。そう言ってたよねー。クマったなー」

「今こそクマに運んでもらうのである」

「クマさーん。私はここだよー」


 大きなあくびが出た。

 あー、いけない。

 私も、完全に限界のようだ……。


「ところでアニス」

「うん。なぁに?」

「我は先に意識を切らせてもらうのである。でないと消滅してしまいそうなのである」

「そっかぁー。うん。わかったー。カメさま、ありがとねー」


 いろいろと。


「アニスも、よく頑張ったのである」

「うん。ありがとー」


 カメさまのポカポカが、ゆっくりと静まっていく。

 寝てしまったのだろう。

 私はカメさまを胸のポケットに入れて、落とさないようにボダンを止めた。


「うー。帰るかぁー」


 眠いし体は重いけど、私は気合で身を起こした。

 カメさまのポカポカのおかげで、いくらか体力は回復していた。


 そこに……。


 ざくざく、ざくざく……。


 と足音が聞こえた。

 話し声も聞こえる。


「ふふ。ここまで来れば、もう大丈夫ですね」

「ははは! 間抜けな連中だぜ! 監禁だけして拘束なしとはよ! こんな時のために、義指に鍵開けの魔術を仕込んでおいてよかったぜ」

「そうですね。しかも魔物が来たからといって、監視の目までなしにしてしまって。お陰で楽々と抜け出せましたね」

「で、これからどうするよ?」

「もちろん予定通り、帝国に向かいましょう。あちらで新しい商売です」

「商品がほしいところだがな」

「そうですね……。馬車と一緒に盗んでいきますか……。と」


 逃げないとぉぉぉぉぉ!

 私は焦った。

 だって、この二人の声には聞き覚えがある。

 間違いなく、コリーに偽物の壺で詐欺行為を働いてお姉様に逮捕された――。

 凶暴な戦士ワレール……。

 小太りな魔術師オトース……。

 悪党二人組だ!


 でも、逃げようとしたところで――。

 霧の中――。

 バッタリと遭遇してしまった。


「おい、こいつは」

「ええ。間違いありませんね。男爵家の三女です」


 ああああああ!

 認識されてるううううう!


「ははは! 最高の土産が見つかったな!」

「ええ。これを樽に詰めて帝国に持っていけば、良い奴隷として売れますね」

「あ、あのお……」


 私はなんとか起死回生の一手を打とうと考えたけど――。


「さあ、貴女はこれを見なさい」

「え。あ……」


 オトースが、立てた指を緩やかに左右に揺らした。

 あ……。

 たってそれだけで私の大きく意識は揺らいだ。


「ふふ。初歩の催眠魔術ですが、無印の子供程度ならこれで余裕ですね」


 あああ……。

 オトースの笑う声が聞こえる……。


 そうして……。


 朝霧の中、私は意識を失くした。







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