39 決着
私、アニスは今、必死に星の渦に向かってマナの力を注いでいた。
私は、うん……。
とにかく気絶しないように気張っているだけで、実際に力を行使しているのは憑依しているカメさまなんだけど……。
使われているのは私の体なので……。
際限なく昂ぶる動悸の中、背中や肩が酷く痛くて……。
我慢しているだけでも大変なのだ。
そんな中、私は見た。
「ねえ、カメさま……。気のせいか、なんかポロポロと出てきていない?」
「隙間から抜けてくるものなど、ただの小物なのである。気にする必要はないのである」
「そっかー。ならいいけど……」
私達の周囲では、タビアお姉様とファラーテ様が二人の魔人と死闘を繰り広げている。
視界の隅に、幾筋もの光がきらめいて見えた。
どちらが優勢なのかはよくわからないけど、お姉様とファラーテ様は力を合わせて強大な敵に立ち向かっているようだ。
あと、町の方からは……。
カンカンカンカン!
という激しい鐘の音と共に、
魔物だー!
魔物の襲撃だー!
そう怒鳴る男の人声が、いくつも聞こえる。
「ねえ、カメさま……。町も大変なことになってそうなんだけど……」
「星の光にあてられて、魔物も活性化したのであるな。ニンゲンの町など、暴食の会場にうってつけなのである」
「大丈夫なの、それ……!?」
「町のことは、町のニンゲンの責任である。知らんのである」
「私も町のニンゲンなんですけどー!」
まあ、うん。
とはいえ、私達にどうにもできないのはわかる。
今この状況で精一杯だし。
領兵の人達に頑張ってもらうしかない。
「ねえ、カメさまー!」
「今度はなんであるかー!」
「なんか、さ……。私の気のせいならいいんだけど、大きいの出てきてない?」
「ふむ」
「気のせい?」
「いや、気のせいではないのである。あれは竜であるな」
「竜ー!? それって大丈夫なの!?」
「大丈夫である。ちょうど良いのである。あのデカブツが通り抜けた後の空白を狙って、一気に扉を閉じるのである」
「竜は?」
「とにかく今は扉を閉めるのである。運が良ければ竜も一緒に始末もできるのである」
「うん。わかった……!」
星の渦の中から、翼を広げた巨大な竜が姿を現す。
竜の咆哮が、世界に響き渡った。
「いくのである!」
「うん!」
そんな中、私はカメさまと共に渾身の力を振り絞った。
「全力全霊である!」
カメさまが掲げた両手の先に光を集める。
「カメ・インパクト――!」
全力の技名もカメだった。
まあ、うん、私的には、カメカメドーンとか思ったけど……。
とか、私が思う中――。
カメさまの放った特大のマナの光が、一気に空へと飛んでいって、爆発する。
その爆発は、星の光さえかき消して――。
世界をまるで昼間のように明るく染めた。
「やったであるか!?」
カメさまが言う。
残念ながら竜は逃したようだ。
光の中、飛んで逃げていくシルエットが見えた。
ただ、うん。
やがて光が収まる中――。
渦巻いていた星の光は、綺麗さっぱりと消えているのはわかった。
「ふう。やったのである」
カメさまが私の額の汗を手で拭った。
私は全身が汗でびっしょりだ。
冷たい夜風の中、一気に体が冷えていくのがわかる。
「おっと、である」
カメさまが神刀ヨミを抜いた。
シュン――。
と、一瞬の動きで、湖岸にいた二人の魔人を斬って捨てる。
魔人は魔石になった。
「お主らも、よく粘ったのである。褒めてやるのである」
カメさまが、お姉様とファラーテ様に、上から目線で微笑みを向けた。
カメさまといっても、それは私だ。
――ちょー! お姉様とファラーテ様に、そんな偉そうなー!
私は大いに慌てたけど……。
「「ありがとうございます」」
二人は揃って、私に頭を下げてきた。
やめてー!
私はひたすらに恐縮した。
「しかし、まだおわってはおらぬのである。早く町に行くのである」
カメさまが言う。
「わかりました」
「ええ――。そうですの」
二人はうなずくと、顔を見合わせて――。
魔物の襲撃で大騒ぎとなっている町に、全力で駆けていった。
私は一人になる。
「ふいー」
そして、その場にへたりこんだ。




