表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武神さまと一緒 私、最強の力を手に入れてものんびりするのが希望です  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/80

38 湖岸の戦い(ファラーテ視点)





 これはまさに、因果報応というものなのでしょう……。

 わたくし、ファラーテ・ディ・オスタルは、星に包まれた湖岸で、消えゆく意識の中、自らのこれまでを顧みました。

 わたくしは力を得るために、今まで多くの魔石の力を取り込んできました。

 魔石とは、魔物の心臓――。

 わたくしの力は、まさに魔によるものでした。

 故に、最後は魔と果てて消えるのは、当然なのでしょう――。

 今までは、悪夢を見ながらも――。

 最後など考えないようにしてきましたが――。


 ええ、でも……。


 後悔はありません。


 わたくしは、星の塔の賢者シアンの、体の良い実験材料にされただけなのかも知れませんが、それでも聖剣士とはなれたのです。

 その意味では、シアンはわたくしとの約束は守ってくれました。

 おかげでわたくしは、お母様に喜ばれ、お父様に認めてもらうことができたのです。

 失望される前に、死ねてよかった……。


 いえ――。


 わたくしは、死ねなかったのですね……。


 いっそ、あのまま……。


 魔と化して消えてしまった方が、幸せだった気もします……。

 精霊様に認められることなく、精霊様を裏切り、魔に染まったわたくしの魂は、きっと天上には行けないでしょうが……。


 わたくしの手からは、刻印が消えてしまいました。

 次に目覚めた時、わたくしは元の無印者として、生きることになる……。

 生きる術は、ありませんね……。


 絶望の中、わたくしは意識を失い――。


 そして……。


 激しい剣撃の音の中、意識を取り戻しました。


 凝縮された星の光は、さらに眩しさを増しています。


 湖岸では、謎の少女が天を両腕を掲げて――。

 スカーフをなびかせ――。

 その姿はまるで――。

 降りて来ようとする星々を、単身で受け止めて、押し返しているようでした。


 剣撃は、聖剣士の少女タビアと、二人の騎士によるものでした。

 二人の騎士は、わたくしの同行者。

 星の塔の人間です。

 いえ……。

 どうやら人間ではなかったようですね……。

 二人は、悪魔――。

 いえ、シアンの言葉を借りるのならば、魔人だったのですね。

 人外の姿をしていました。


 戦いは、タビアが防戦一方であり、必死に二人の猛攻に耐えている様子でした。

 聖剣士の力は魔に特攻があります。

 対魔防御にも優れています。

 故になんとか、負けずに済んでいるようですが……。

 時間の問題でしょう。


 刻印の力を失って尚、わたくしには高速の戦いを見て取ることができました。


 わたくしは、のろのろと身を起こします。


 するとタビアがこちらに目を向けて、叫びました。


「目覚めたなら来て! 一人じゃ無理!」


 それは、わたくしへの救援要請でした。

 無理ですの……。

 わたくしは惨めに思います。

 だって、わたくしの手には、もう――。

 え。

 絶望の中、わたくしは自らの左手を見つめて、呆然としました。

 だってわたくしの手には――。

 消えたはずの――。

 聖剣の刻印が、しっかりと刻まれているのです。


「もう少し頑張るのである! 扉を閉じるには、まだ時間がかかるのである!」


 謎の少女が叫びます。


「扉……。扉とは……」


 わたくしは、まさに割れようとしているかのような、渦巻く星空に目を向けます。


「異世界への扉である! 開いてしまえば、中から侵略者共が大量に現れて、世界は大変なことになるかも知れないのである!」

「そんな――」


 それもまた、わたくしのせい、なのでしょうか……。

 おそらくは、そうなのでしょう……。


「早く来て!」


 タビアが再び叫びます。


 あ。


 わたくしの見る前で、ついにタビアが剣を弾かれて――。

 バランスを崩してしまいました。


「くっ!」


 タビアの闘志は消えていませんが――。

 次の一撃をかわすことは――。

 無理そうです――。


 わたくしは――。

 動きました。


「聖剣よ――。いでよ――」


 何百何千と繰り返してきた聖剣の呼び出しを、怯えながらも行います。

 聖剣は――。

 わたくしの手の中に現れてくれました。

 力が漲るのがわかります。

 不思議な感覚でした。

 それは、今までの魔の力と比べれば、ずっと小さくて弱い力でしたが、まるで清流のように体に染み渡ります。

 すぐに感覚を掴むことはできました。


 わたくしは――。


 まだ――!


 タビアに振り下ろされた、魔の力に満ちた剣――魔剣を、わたくしは横から飛び込んで受け止めました。


「くっ……!」


 それは、下手をすれば押しつぶされそうに重い一撃でした。

 今までのわたくしでしたら、楽々と返せるはずなのに――。

 でも――。

 わたくしには、まだ聖剣がある。

 それだけでわたくしは、戦うことができました。


「聖剣技、ホーリー・サークル!」


 円状に広がる衝撃波の剣技を使います。

 魔人はそれを避けて、距離を取ります。


「立てる?」


 わたくしはタビアを声をかけました。


「来るのが遅い……! おかげで死にかけたでしょ……!」


 タビアは立ち上がります。

 すでに足腰には相当な疲れがありそうですが、わたくしと戦った時もそうでしたが、根性だけは相当なものですね。

 それでも戦う意欲に衰えは、まるでない様子です。


「御嬢様、逆」「御嬢様、逆」


 魔人達が言います。


「そうね――。でも、逆ではありませんの」


 わたくしは彼に聖剣を構えます。


「扉、開ク。我ラガ悲願。世界ヲ魔ニ染メテ、滅スル」

「扉、開ク。我ラガ悲願。世界ヲ魔ニ染メテ、滅スル」


「わたくしは確かに、魔に身を落とした愚か者ですが――。それでも、それは、この世界を壊したいからではありませんでしたの」


 わたくしは精霊様に認められなかった者です。

 世界を恨むこともありましたが――。

 でも、聖剣士として各地を巡回し、強力な魔物を討伐し、魔石を手に入れ、より魔へと身を染めていく中で――。

 多くの人々の生きる姿を見てきました。

 刻印を持たないのは、わたくしだけではありません。

 平民の大半はそうです。

 わたくしは、たとえ偽りとはいえ選ばれし聖剣士として、そんな彼らの生活を守ることにも誇りを感じていた。

 それは事実です。

 そして、それを捨てるつもりはありません。


 故に、わたくしは――。


「――ねえ、どういうこと? アンタは、誰の味方ってワケ?」

「見ての通りですの」

「それはそうか。頼むわよ!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ