24 激戦の末に
戦いは続いた。
気合の声を上げながら、お姉様は果敢に攻めた。
聖剣と聖剣がぶつかる度に、一瞬に咲いた花みたいに光が広がった。
それは本当に幻想的で派手な光景だった。
会場は盛り上がった。
ファラーテ様は防戦一方だった。
とはいえ、その表情は冷たいままだし、疲れた様子もなかった。
お姉様の攻撃を楽々といなしているように見える。
ただ、それでも、攻めているのはお姉様だ。
押し切れー!
あと少しだー!
というような声援が、観客からはたくさん飛んでいる。
「そろそろわかったでしょう? いい加減におわりにしてはいかがですの?」
攻撃を受けつつ、ファラーテ様が言う。
「ハッ! 何を! まだ決着はついていないでしょう!」
「つけなければわからないのかしら」
「そうね――。使者殿が噂通りにお強いのはよくわかったわ。でも、勝負は最後までわからないものよ!」
距離を取ったお姉様が上段に剣を構えた。
「聖剣技、シャイニング・ブレード!」
お姉様が跳躍と共に剣を振った。
弧を描いた洪水みたいな光が、ファラーテ様に激突する。
それまでずっと冷たいままだったファラーテ様の表情が、ほんの少しだけ動いて、それは驚いたようにも見えた。
聖剣と聖剣がぶつかる。
渾身の力でお姉様が押し込む。
ファラーテ様のうしろ足が、一歩、下がった。
だけど、そこまでだった。
お姉様の剣を、ファラーテ様が弾いた。
お姉様はうしろに飛び退いて、再び片膝をつくことになった。
「ようやく少し顔色が変わったわね」
全身で息をしながらも、お姉様が不敵に笑みを浮かべた。
それに対して――。
ファラーテ様がついにお姉様に切っ先を向けた。
「いくら礼儀知らずの田舎娘とは言え、聖剣技を人に向けるのは蛮勇が過ぎます。どうやら教育が必要なようですの」
「してみなさいよ。受けて立ってやるわ」
お姉様が立ち上がって、剣を構える。
戦いが再開される。
合わせて会場も、再び大いに盛り上がったけど……。
その熱は、どんどん凍りついていった。
再開した戦いは、ファラーテ様が一方的にお姉様をいたぶる展開となった。
お姉様は何度も打たれて――。
傷を増やしながらも、その度に立ち上がった。
ついに見かねた領兵が、倒されたお姉様に近寄るけど――。
お姉様はその手を振り払った。
「ああ、そうでしたの。そちらの方々のお相手もするのでしたわね。ついでなので一緒にかかってきなさい」
ファラーテ様にそう言われて、領兵の人たちは顔を見合わせて戸惑う。
代表して副隊長が前に出てくるけど、その副隊長から始めて、ファラーテ様はあっという間に全員を倒してしまった。
「たわいもない。やはり、一般人ですわね」
ファラーテ様が冷たい言った。
私達はそれを黙って見ていた。
とっくに会場は、あまりの一方的な展開に静まり返っていた。
息をついて、剣を下ろし――。
ファラーテ様がその場から立ち去ろうとする。
ファラーテ様が背中を向けた時だった。
お姉様が攻撃をしかける。
お姉様はボロボロで、跳躍する前の足はふらついていたのに――。
その攻撃は、体のバネを生かした見事な突きだった。
完全に不意を突いた攻撃だった。
咄嗟に振り返ったファラーテ様が剣で受け流そうとするけど――。
それよりわずかに早く――。
お姉様の切っ先が、ファラーテ様の肩に届いた。
ただ、浅い。
ファラーテ様は、わずかにバランスを崩すだけだった。
「チッ! 惜しかったわね」
お姉様が再び距離を取る。
「不意打ちとは……。貴女には聖剣士としての誇りもないのかしら」
「背を向けたそちらが悪いのでしょう?」
「よくわかりました。貴女の実力などオーク程度のものであることを、貴女の体にもよく教えて差し上げましょう」
私達が見守る中――。
お姉様は再び、一方的に打ちのめされた。
「わかりますか? 貴女の力など、所詮はこの程度のものです。いただいた力にうつつを抜かして調子に乗っていただけの者に――。このわたくしの剣が、敗れるはずもありませんの。貴女とは生きてきた覚悟が違うのです」
倒されて、立ち上がろうとするお姉様にファラーテ様が言う。
「まだ勝負はついていないと――。言っているでしょう?」
お姉様は、まだやる気だ。
さらに打ち据えられても、お姉様は耐えた。
その強い眼差しは本当に反撃の機会を窺っているのだとわかる。
だけどお姉様の体は、とっくにボロボロのフラフラだった。
ファラーテ様が攻撃の手を休めて自分から距離を取っても、もうお姉様に攻撃に移るだけの余力は残っていないようだった。
「さて、では。最後に見せてあげましょう。本当の聖剣技をというものを。これで本当にお眠りなさい」
ファラーテ様の聖剣が輝きを増す。
――む。いかんのである! アニス、止めるのである! どうやらアヤツも、かなり冷静さを欠いているようである! オドの凝縮が強すぎるのである! あれでは其方の姉の体が本当に破壊されてしまうのである!
カメさまが逼迫した声を上げた。
その声で私はハッと我に返った。
あまりの戦いに、心がどこかに飛んでいってしまっていた。
私は会場を見渡す。
動こうとしている人はいない。
皆、決着がつこうとするのを、ただ見ていた。
――カメさま、お願い! 私に憑依して、お姉様を助けて!
――わかったのである!
私はカメさまに体を委ねた。
「聖剣技、ホーリー・スマッシュ!」
ファラーテ様が剣を振るう。
光のハンマーのような一撃がお姉様に襲いかかる。
その攻撃を、私が素手で受け止めた!
時間が止まったように――。
動きが止まった。
「其方は、冷静さを欠いているのである。落ち着くのである。今の攻撃は、いささか人間には害を及ぼすものだったのである」
「――誰、ですの?」
間近に見るファラーテ様が、大きく見開かれた。
魔法のスカーフは、ちゃんと巻いた。
ファラーテ様は、私が私だとわかっていない様子だ。
私は、ゆっくりと歩いて、脇の棚にかけてあった木刀を手に取った。
「落ち着くまで、我が相手をしてやるのである。全力でかかってくると良いのである」
私は木刀を構えた。




