21 会場に到着!
中央広場は大いに賑わっていた。
お祭りには、他の町や村からも人が訪れる。
中央広場にずらりと並んだ屋台には、他の町の商人が持ち込んだ普段は目にすることのない珍しい品も多く並んでいた。
もちろんリムネーの特産、キノコとエビも大いに売られていた。
私としては……。
普段は目にすることのない珍しいもの……。
特に食べ物……。
王都で流行中と看板の出ていたクレープという甘味には大いに興味を引かれたけど……。
白いクリームと赤いイチゴが実に美味しそうだったけど……。
――キノコである! キノコを攻めるのである!
うん、はい。
頭の中で、キノコ大好きなカメさまの声が響き続けて……。
結局、キノコの串焼きを十本も買って……。
景気の良いおじさんがセットでくれたパンも食べることになって……。
私のお腹は膨れてしまったのでした。
といっても、頑張れば食べられたと思うけど、キノコを堪能している内に公開訓練の時間が来てしまったので私達は移動した。
公開訓練は、領兵の施設で行われる。
領兵の施設は、中央広場から少し離れた場所にある。
湖とは逆側の、内陸へと続いた道の途中だ。
敷地は広い。
道沿いのフェンスごしに練習場があって、練習場の奥には三階建ての領兵詰所や馬の厩舎などの各種施設が見えていた。
領兵は、我が家に雇われて専業で兵士をしている人たちだ。
普段は、町や街道の治安維持活動に当たっている。
その数は六十名。
地方の町にしては多いそうだ。
我が家の家計が苦しい最大の原因らしい。
だけど、お父様は平和が第一だと言って、領兵の削減は考えていないそうだ。
領兵の人たちは、みんな真面目で、日々、訓練も欠かしていない。
戦士の刻印を持つ人が四名もいて、彼らは小隊長をしている。
リムネーの四剣。
なんて呼ばれて、町の人から尊敬されている。
魔術師も所属している。
領兵は、リムネーのエリート集団なのだ。
その指揮官は、タビアお姉様。
聖剣の力で多くの魔物を退治して、すでに信頼も勝ち得ている。
堂々たる次期当主だ。
お姉様の剣技は、素晴らしくて最高だ。
聖剣の輝きと一緒に、いつでも見とれてしまう。
ぜひ見ねば! なのです。
というわけで、到着した。
領兵の練習場には、すでに多くの見学者が集まっていた。
門は開いていて、今日の出入りは自由だ。
門のところには領兵の人がいたけど、他に入っていく人たちの流れに合わせて、私は顔バレせずに中に入ることができた。
外周に広がる一般の観衆に混じって、見学させてもらうことにする。
混み合っていたけど、隅っこの方ながら前に出ることができた。
お姉様の剣技、堪能できそうだ。
――アニスは令嬢なのだから、貴賓席に行けば良いのである。
――目立つからヤだー。私、目立ちたくないのー。
衛兵詰所の前に設置された特設テントの貴賓席には、お父様とお母様の姿があった。
加えて、ファラーテ様が堂々とした姿で、お父様の隣の席に座っていた。
うしろには私と同年代に見えるツインテールの女の子――メイドのシアンさんが立っている。
ファラーテ様の姿は、ハッキリ言って衆目を集めていた。
私のまわりからも、こんな声が聞こえる。
……なあ、ご領主様と一緒にいるご令嬢って、どこの誰なんだ?
……王都から来た公爵家のお嬢様だってよ。
……って、まさか、噂に聞こえる光の聖剣士様か?
……そうらしいぜ。
……すっげー。ここにいるってことは、もしかしてタビア様と友達なのか?
……だろ。でなけりゃいるがわけない。
みんな、ファラーテ様のことをタビアお姉様の友人だと思っているようだ。
それはわかる。
なにしろ同じ聖剣士で、年齢も同じ今年で十五だし。
実は友達ではないんだけどね!
超険悪だったし!
主にファラーテ様の方が一方的に!
幸いにも、タビアお姉様は貴賓席にはいない。
公開訓練の準備中だろう。
なにしろ領兵隊の隊長なんだし。
お父様とお母様は、ひたすらにニコニコとしていて……。
うん、私にはわかる!
二人は、限界との戦いをしている!
頑張って!
貴賓席は任せたからね!
ホントは、うん……。
私が行った方がいいんだろうけど……。
ごめんなさい。
私はそれでも、最大限に人前には出たくないのだ。




