【アーカイブ9】 配信者デビュー!
更新遅れてごめんなさい……
魔王配下になって最初の仕事が動画撮影、その後には動画編集をする事になるなど、誰が想像できただろうか?
血眼になって現在も編集作業を行うギーシュは、並々ならぬ気迫を放っている。
「動画全体の流れはスムーズ……セリフや場面に応じたテロップよし……使用していいBGMや効果音は無料の物、使用制限の確認もよし……映り込みもよし……
これでいいかな? ……いや、もう一度確認を──」
編集作業も大詰めを迎えている。
何重にも渡るチェックを繰り返し、満足が行くまで編集は続く。
そして──。
「ぃよっしゃ終わったらったった〜!!!!
ん"に"ゃ"っ"は〜〜〜〜ん"!!」
「っ!!? 本当かい!?」
作業終了の開放感で、訳の分からぬ奇声が飛び出す。
犬と同様に竜人族も、感情が高揚すると尻尾の先が制御不能な程にビタンビタンとのたうち回る。
「み、見てもいいかな?」
「いや、待ってください!
どうせなら夕食を食べてから、皆で視聴しませんか?」
「それもそうだな……
それに、今日は君の歓迎会だぞ?
もういい時間だし、君も風呂に入ってから来るといい」
もうそんな時間だったのかと、ギーシュは時計を確認して改めて自分がどれほど没頭していたのか気付く。
よく見るとマオの服は、いつかのパジャマパーティで見た寝巻きでは無いか。
という事はギーシュ待ちの可能性が高い。
「今すぐにお風呂入ってきます!」
「ゆっくりしておいで〜」
と、言われたが、心情的にダッシュで風呂へ。
急いで体を洗い、湯船に浸かり、あまりの集中に充血していた瞳も回復した所で風呂からあがった。
ギーシュもパジャマを着込み、これまた急いでダイニングまで走り、扉を開けた。
すると──。
パパン! パン! パン!
極小の火薬が爆ぜる子気味いい音と共に、紙吹雪が宙を舞う。
数秒後、ようやくそれがクラッカーだと認識できた。
生まれて此の方、そういった庶民的な歓迎をされた事が無かったギーシュは感激する。
──こんな歓迎、漫画以外に実在したのかと。
『魔王配下任命、おめでと〜!!』
「ありがとうございます!
魔王様、セバスニャン様、マイヤさん、クララ嬢、カルルちゃん…… あれ、もう1人いる?」
祝ってくれている一人一人と、目を合わせて名前を呼んでいると見知らぬ顔が居るではないか。
「あぁ、そう言えば初めてだったか!
魔王配下での1人で、普段は諜報活動を任せている死告妖精のシズだ」
「ああ、あ、あの……シズ、ですぅ……
こ、魔王城にはあまり居ないけど……
こここ、これから……よろしく、ね?」
今に消えそうな声でそう言うと、身に纏う黒い外套のフードを目深に被って顔を隠した。
「シズさんも、これからよろしくお願いします」
ギーシュはあまり大きな声にならないように、シズに挨拶を返した。
シズはフードを深く被ったままだが、何度も首を上下に振って肯定した。
「さぁさ! 主役は席に着いて!
みんな、それはもう腹ぺこらしいからね」
ギーシュは以前の時と同様に、長方形の机のお誕生日席に座らせられる。
「それでは! いただきます!!」
『いただきま〜す!!!』
前回よりも遥かに豪華な食事のラインナップに、全員が舌鼓を打つ。
取り皿がいっぱいになるまで料理を盛り付けて食べるマイヤとクララ。
メイン料理は控え目に、デザートばかりを頬張るカルルとシズ。
会話に花を咲かせ、優雅に食事をとるマオ、セバスニャンにギーシュ。
この光景だけを見て、魔王と配下達の晩餐だとは誰も思わないだろう。
食事が終わると、セバスニャンとクララ、カルルの3人が手際良く後片付けを行い、他は邪魔にならないようにリビングへ。
「あそうだ、魔王様。
動画を投稿する前に、SNSのアカウントを作っておきませんか?」
「SNS……と言うと、宣伝用かい?」
「勿論それもありますけど、将来的にファンができた時、そういったアカウントがあれば距離も近くなるかと」
「そうだな、作ろう!
どこのアプリを使うんだい?」
「色々ありますけど、今回は大手アプリの『Zawameki』を使いましょう」
ギーシュが提案したアプリは、魔界内でも特に人気の高いSNSで、どちらかと言うと意識低い系な、キラキラしている人はあまり使わないアプリである。
では何故そのアプリを選んだか。
「僕の偏見ですが、可愛い配信者を応援している人は基本的に非モテです!
僕みたいな……僕みたいな!!
ですから、人格の掃き溜めとまで称される『Zawameki』を選びました!」
「掃き溜めって……」
事実、件のアプリはそういった人物が多い。
意識の高さよりも、面白いネタを尊ぶ人種の集まりだ。
焼肉の写真1つにしてもそうだ。
『#上司と焼肉 #憧れの上司 #お世話になってます
#これからも #俺達 #一所懸命 #頑張ります』
のような高意識な投稿よりも、
『クソ上司との焼肉だる過ぎワロタww
奢ってくれなきゃ許さんぞww』
くらいの投稿の方がウケがいいのだ。
「アプリは先程取得しましたので、ササッと登録済ましちゃいましょう。
分からない事があれば手伝います」
「それくらいなら我だけで事足りそうだ」
そう答えた矢先、早速壁に突き当たった。
「ギーシュ君、このグニャグニャの文字はなんだい?」
「あぁ、良くありますね。
見えた字をそのまま入力してください。
対象年齢外の子供なんかが間違ってアカウントを作れないように、そういう風にしてるとか何とか聞いた事がありますね。まぁ、慣れてください」
しばらくすると、また壁に。
「ギーシュ君、マオって名前使われてるよ!?」
「短い名前だと有りますね……
それでは、『マオ@マギチューナー準備中』とかにしときましょう。
それなら被らないと思いますので!」
「どれどれ……ホントだ、行けたよ」
その後は割とスムーズに進む。
「できた! これでいいのかな?
プロフィールに何も書いてないから、すこぶるサッパリしてるけど……」
「それは後で僕が書いておきます。
それと、これから何かを投稿したい時は1度僕を通してください。
下手な事を書いてしまうと、すぐに炎上しかねない世の中なので……」
「わ、分かった……気を付けよう」
「あ、『MgTune』のアカウントも今作ったので、そちらのアプリと連携しときますね」
「……? わ、分かった」
分かっては無さそうな顔で答える。
アカウントが完成した所で、後片付けをしていた3人もリビングへ戻って来た。
「皆揃ったな! ギーシュ君、早速見てみないか?」
「ですね! 皆さんの意見も聞いてみましょう」
こうして全員がスマボの周りに集まった事を確認して、動画を再生した。
『まおっす〜!! 皆さん初めまして!
今日から『ご当地魔王』として、皆が見てるこの動画配信アプリ『MgTune』から、この世に元気と笑顔を届ける美少女魔王マギチューナー、マオちゃんだよ!
身長はリンゴ16個くらい、体重は……140個くらい?
好きな食べ物は……今はまだ内緒☆
趣味は魔法開発で──』
切れ間の無い編集、短いながらも飽きさせない工夫がしっかりとされている。
気が付くと動画も後半。
『まだ知られてない魔王都市のあんな場所やこんな場所、美味しいお店なんかも、た〜っくさん紹介しちゃうから、みんな覚悟しててよね☆』
ギーシュとマオはうずうずと全員の反応を待つ。
「いいんじゃねぇか?
アタシは良いなって思ったぞ!」
「カルルも面白いって思った!」
「最初のやつを知ってるからそれと比べたら……ね?」
「そうですね、私もマイヤと同意見です。
随分と見違えましたとも」
概ね好印象。
しかし、シズだけは少し意見が違った。
「な、流れはとても良いと……思う。
でも、テロップが多過ぎると、シズは思います……」
「テロップですか?」
「あ、えぇっと……もちろん悪くは無い! よ?
けど、喋ってる事全部に必要は、無いかも。
強調したい箇所だけが目立つようにすると、良い……かも?」
「ふむ、なるほど……言われて見ると、確かに文字に目が行くな……
ありがとうございます、シズさん!」
「あっ、や、役に立てたなら……良かったでしゅ!」
盛大に噛んでしまい「はぅ〜」とフードで顔を隠す。
シズのアドバイスを聞いたギーシュは、その場で作業に取り掛かる。
「重要な所だけ、要点をまとめたようなテロップを意識して……
いや、もっと削れるな──」
数十分もせぬ内に、編集は完了した。
シズにもう1度見せた所、今度はOKだった。
「早速投稿しようではないか!!」
「逸る気持ちは分かりますが、多くの人に見て貰えるように、まずはSNSの方で宣伝しましょう!
そしてある程度人が集まった所で、日付を決めて最初の動画を投稿するんです」
「そ、そうか……」
「プロフィール欄は僕と考えましょう!」
「うむ、どうせやるなら徹底的にだ!」
◇
あれから1週間、地道な努力の甲斐もあり、SNS『Zawameki』のフォロワー数は700人弱にまで増えた。
具体的な活動で言えば、毎朝の『#おはようマギチューナー』の様なハッシュタグを使用した挨拶運動や、同業の人達との積極的な会話などである。
特にフォローする行為は同業の人だけに限定し、応援してくれる人達に優劣が付かないように努めた。
「ギーシュ君、いよいよだね」
「ええ、今日がその日です」
フォロワーが500人を超えた段階で発表した、初動画の公開日が今日なのだ。
この日初めて、人々は動いて喋るマオを拝む事ができる。
時は夕食時、人々が最も趣味を楽しむ時間帯。
「では行くぞ、ギーシュ君……」
「行っちゃいましょう、魔王様」
投稿する動画を選び、サムネイルの設定、動画のタイトル設定、全年齢対象年齢か否かなどの視聴者層の設定に、動画の公開設定。
そして最後は、これをアップロードするのみ。
「ほ、本当に大丈夫だったよな?」
「はい、自信もって投稿しましょう!」
「よし、投稿するぞ……するからな……」
「早ようせんかい!!」
「アーッ!! 投稿しちゃった!!」
慌てるマオと、やっとか言いたげなギーシュ。
だがこれで動画は無事に投稿された。
無事に配信者デビューである。
「これで魔王様も、配信者の仲間入りですね」
「そうだな。ようやくスタートラインに立てたんだ。
皆にも感謝しているよ」
ジワジワと視聴数が伸びていく様子を見ながら、ギーシュとマオはハイタッチをかます。
ただ、大変なのはここからだ。
果たしてマオは無事に収益化できるのか。
幾つもの難所、難敵がマオに襲い掛かる事をまだ誰も知らない。
これにて1章完結、という形になります!
読んでいただきありがとございました!
第2章以降も読んでくれると嬉しいな……
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