【アーカイブ7】 お説教!!
魔王城でのお泊まりから2週間後、ギーシュは再び魔王城へと赴いていた。
それも前回とは違い、いくつものトランクに荷物を詰めてやって来た。
もちろん、直属の上司になる魔王のルディウスには事前に説明はしてある。
魔王配下になる決意と、魔王城に荷物を持っていく承認を貰おうとしたところ、
「本当か!? 部屋は既に用意してある!
いつでも来るといい!」
と、清々しい程の快諾を得た。
何なら既に部屋まで用意されているらしい。
割と歓迎ムードな魔王城に、実家の魔導車でようやく到着したギーシュは玄関前で荷物を降ろす。
「やっぱり魔王様のとこの魔導車とは大違いだな。
おしりが爆発四散しそう……」
「長旅お疲れ様でしたギーシュ殿。
お荷物は私が全て部屋に運びますので、その間に魔王様に挨拶にでもどうぞ」
「ありがとうございますセバスニャン様。
ではお言葉に甘えて、先に挨拶しに行ってきます!」
荷物はセバスニャンに預け、ギーシュは魔王が居るであろう執務室に向かった。
執務室に通されたギーシュは開口一番、魔王配下の件を改めて伝える。
「これからは魔王配下として誠心誠意勤めますので、不束者ですが、これからよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく頼む!
この契約書に君のサインと、君の体の一部を契約書の上に置いて貰えるかい?
それで魔王配下としての契約が完了するから」
渡された重厚な羊皮紙。
ギーシュは書いてある事に目も通さずに署名した。
そして、自ら尻尾の先端を切り落とす。
「君、思ったより大胆だよね……
血を一滴とか、髪の毛や爪でも良かったんだよ?」
「お褒めに預かり光栄です?
本当は先端少しにしようと思ったんですけど、勢い余ってつい……」
切り離されても尚、ビチビチと暴れ回る尻尾を羊皮紙の上に置くと、羊皮紙と共に紫の炎に包まれる。
それは一瞬にして羊皮紙と尻尾を燃やし尽くし消えた。
同時にギーシュの手の甲に、見慣れない模様の刻印が浮かび上がる。
「びっくりした……なんですか、これ?」
「おめでとう、これで配下契約が無事完了だ。
これで今日から君も、晴れて魔王配下となった!」
「ホントに、なっちゃったんだ……魔王配下……」
手の甲に浮かぶ刻印を見ながら、感慨深そうに呟く。
しかし、それで終わりでは無い。
「これで、君もほぼ不老不死となった訳で──」
「ちょ〜っとストップ!!!
え、さっきの不老不死ってどういう事ですか!?」
待て待て待てと。
聞き流していい類の話では無かった故、言葉を遮るようにしてギーシュは問うた。
「ん? そのままの意味だよ?
ギーシュ君は手の甲に出たんだね。
それは言わば我との繋がり、もっと言えば魔王城との繋がりなんだよ」
「は、はぁ……?」
「魔族の細胞が、空気中に含まれる魔力を吸収しているのは知っているよね?
細胞は魔力を取り込む事で活性化する。よって、人族より長命な種が多い。
ここまでは学校なんかでも習うはずだね。
それで本題だ。魔王城はその魔力の源泉とも言える場所だ。よって、細胞の活性化が他の比じゃない」
「そうか……でもそれだと不老はともかく、不死では無くないですか?」
「おぉ、賢いね。
不死では無い。でも、限り無く死に辛いんだよ。
ギーシュ君の尻尾、見てご覧?」
ギーシュは自分で切った尻尾の先端に目をやる。
すると、何事も無かったかのような、完全な尻尾がそこにはあった。
これにはギーシュも驚いた。
放置していても治るが、通常は2〜3ヶ月は掛かる。
「ご覧の通り。魔力が尽きぬ限りは身体を真っ二つに切断しようにも、切った端からくっついてしまう。
ただし、恩恵を受けられるのは城内だけだ。
城の外へ出れば人並みだし、怪我もする。
まぁ、我みたいな魔王を除いてね」
「要するに即死しなければいいんですね……
はぁ……分かりました。
でもこれで、長い時を魔王様に仕える事ができると思っておきます」
ギーシュは半分諦めた。
そもそも契約が完了した以上、受け入れる他ない。
「はい、これでこの話はここまでだ!
歓迎会は後にするとして、君には我が作った動画を見て欲しいんだよ!」
「早いですね! あれから1月も経ってないのに」
「そうだろう、そうだろう。
ただな、評判がよろしく無かったんだよ……」
気持ち、しゅんとしながらマオは語る。
一生懸命作った物の評価が悪ければそりゃ悲しいよな、ならば僕は精一杯褒めよう!!
と、ギーシュは意気込んでみる。
不意に、部屋の扉がノックされる。
許可されて入室したのはセバスニャン
「ギーシュ殿、お部屋の準備が整いました。
おや、この魔力……おめでとうございます」
「ご苦労だったねセバスニャン。
折角だ、ギーシュ君の新しい部屋で我の動画を見ようじゃないか!」
「あぁ……かしこまりました。マイヤも呼んで参ります」
苦虫でもすり潰したような顔。
いやしかし、そんなにも酷くなる物か?
ギーシュは一抹の不安を感じる。
「と、言う訳で! さっそく頼むぞギーシュ君!」
◇
所変わり、ギーシュの部屋。
まだ荷解きもされてない殺風景な部屋にマオ、ギーシュ、セバスニャン、マイヤの4人が集まった。
「では、見てみますね。あ、凄い!
動画のサムネイルまで作ったんですね。ただ……」
作ってあるのは良い。
そのサムネイルが黒背景に白文字で『緊急告知』でさえなければ、もっと良かった。
ただギーシュは、何がやりたいのかは手に取るように分かってしまう!
動画配信者の再生回数の稼ぎ方の1つだからだ。
『緊急』や『重大』などの言葉で視聴者を釣る方法。
やってもいいが、初手の動画にではない。
「問題は中身ですからね! それでは再生します」
『ドーン! ドーン! ドーン! はぁドッコイ!
ドーン! ドーン! ドーン! はぁドッコイ!
ドーン! ドーン! ドーン! はぁド──』
「待って、一旦ストップ!」
ギーシュは天を仰ぎ、すぅーっと息を吐いて落ち着く。
──何が起こっているんだ?
下は褌、胸にサラシを巻いたマオが太鼓を打ち鳴らしては『はぁドッコイ!』と叫ぶ映像が流れ出した。
そして何より、画面右下で波打つ『準備中』の文字。
「何の準備だよッ!? 動画だぞ!!
あらかじめ準備出来てんでしょ!!
いや待て、まずは最後まで見るんだ……」
「ギーシュ殿、落ち着いてください……どうか……」
セバスニャンにも宥められ、冷静になる。
準備中のシーンが終わるまで動画を飛ばし、場面が変わった所で再生を始めた。
画面には暗い執務室の椅子に腰掛け、スポットライトを浴びている風のマオが映し出されている。
『皆の者、おはエンペラー』
「はいスト〜ップ!!」
「あ〜、やっぱりギーシュ少年も気になっちゃう?
ぼくやセバスニャンもどうかとは思ったんだよね……」
これも数々の動画配信者を見てきたギーシュであるから、何がやりたかったかは分かってしまう。
故に惜しい! と、心で叫ぶ。
『我こそはマオちゃん! これから魔王都市のありとあらゆる名所を紹介する『ご当地魔王』として活動していく!
民の皆は楽しみにしておいてくれ!
この魔王城からいつでも見守って──』
カメラがスーっと動き、執務室の窓から街を見下ろしたような画角になった所で、またしても待った入れる。
「待て待て待て、このばかちんがァ!!」
「な、なんだ!?」
突然のディスられに動揺するマオ。
しかし、ギーシュはヒートアップしている。
「尺的にもうこれで最後だと判断しますので、ここから批評をしていきます!
まずは良い所ですが、よくぞ動画を完成させました。
配信者になりたくても、動画を作らずに諦めてしまう人も、残念ながら多数いるんです……
自力で完成させたのは間違い無く、凄い事です」
「そうなのか、それなら我は──」
「しかし、それを持ってしても酷くはある!
悪い所は全部で5つあります!
まず最初はサムネです。
初手であれは、好ましくはありません。
もっと自己紹介を全面に出しましょう!」
ギーシュは指を立てながら解説を始めた。
マオも聞き逃すまいと、メモ取り出して構える。
「2つ目! 動画冒頭の準備中のやつ!
たぶんですけど、参考にしたのはライブ配信をしている人達ですね?
あの人達は生配信をするのに準備が必要なんですよ。
見逃しを減らす為に人が集まるまで待つ時間とか、機材の確認とかの時間なんです。
魔王様の場合は動画なので、完成した物でいいんです」
ふむふむと頷き理解を示すマオ。
セバスニャンやマイヤも『へぇ〜』と、興味深そうに聞き入る。
「3つ目! 挨拶!
これも分かる! 分かり過ぎる!
だがしかし、言葉選びのセンス無さ!!」
「たは〜! ギーシュ少年、火の玉ストレートっすね!」
マオに有無を言う隙を与えず、どんどん行く。
「4つ目! 撮影方法!
水晶を録画媒体にすると、360度録画されるので、部屋が漏れなく全部丸見えなんですよ……
これは正直しょうがないので、後で説明します!」
「5つ目! これがベストofダメダメ!!
個人が特定できるような演出をしない!
執務室からの景色なんて、魔王様くらいしか映せないんですから!
くれぐれも本物だってバレないように!」
ギーシュは分かる限りの問題点を指摘し終え、肩で息をするほどの疲れが襲う。
対するマオはと言うと、しゅんと肩を落としていた。
「我、才能無いの? どうにかなるの?」
「韻を踏む元気があるなら大丈夫っすよ!
ここからギーシュ君のアドバイスで変わるっす!」
落ち込むマオの背中をバンバン叩いて励ますマイヤ。
勿論ギーシュも、ここで終わるつもりは毛頭無い。
「僕が魔王様、いやマオちゃんを全力でプロデュースして、立派な配信者にしてみせます!
そこで、まずはさっきの動画の問題点を1つずつ解決していきましょう。
取り敢えず、最初のサムネですね」
「あれでは問題だったか?」
「問題、と言うより心象が良くないですね。
特に最初の動画ですし、リスナーさんにはポジティブなイメージを持たれて欲しいんですよ。
理想はマオちゃんの写真に、最低限の文字で気を引きそうな単語を並べるんです。
例えば『堂々デビュー!』とか『まさかの魔王!?』みたいに短く簡潔に」
マオは真剣な表情で頷いてはメモを取る。
メモを取り終えるのを確認して、次の問題へ。
「2つ目の『準備中』のやつですが、さっきも言った通りライブ配信をする人が使うものです。
魔王様がライブ配信をするようになったら、アレをそのまま使いましょう。
インパクトはあるので、使わないのは勿体ないです!
そのまま3つ目、挨拶ですね……」
「我、結構自信あったのだが……」
「おは○○系は良いんですけど、エンペラーは長いかなって、そもそも魔王様はエンペラーではないですし。
これはもっと短い方が良いし、オリジナリティがあった方が他の人と被らないです」
「そうなのか、、おはエンペラー……ダメか……」
「ぼくも、あれだけダメダメ言った手前、自分も考えてみたんすけど『まおっす〜』とかどうっすか?
魔王とおっすを足してみた感じなんすけど……」
「マイヤさん、結構センスありますね?」
「ホントっすか!? いやぁ、流石ぼく!
どうっすか、魔王様!?」
当のマオもパァっと明るい表情になった所を見ると、かなり気に入ったようである。
「どんどん行きましょう!
4つ目に関しては、少し飛ばします。
実際の撮影時に教えたいので、先に5つ目ですね。
安易に個人を特定出来てしまうな物を置かない、映さない、喋らない! これは鉄則です!」
「少し良いだろうか?
映さないのと喋らないのは分かるが、置かないとは?」
「そうですね、代表的な物で言えば重要な書類や鏡ですね。
書類は普通にダメですが、まぁ魔王様の技術なら大丈夫かもしれませんが、普通の人の仮想姿だと、鏡越しの姿までは変えられません。
それで正体が露見して特定された人のまぁ多い事……」
「鏡か、それは我も油断出来ないな。
見える鏡であれば何とかなるが、匙や食器の反射となれば、我でも気が回らぬ……」
改めて配信者の難しさに触れ、感慨深そうに頷く。
しかし、これ等を改善すれば自分にもチャンスがあると思うと、不思議と希望も見えてくる。
「さぁ魔王様、まずは僕と動画を作りましょう!」
読んでいただきありがとうございます!
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次回、いよいよ動画作成!!