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【アーカイブ6】 疑惑のセンス

応援とても嬉しいです。


皆様ありがとうございます!




「そうだギーシュ君。

 君、魔王配下になってみる気は無いかい?」


「……ぱーどぅん?」



 魔王の突然の誘いに、起き抜けのギーシュは何を言われているのか分からないでいた。

 貴族の子息であるというだけで、自分が特に何かを成した訳では無いのに、急に重役になってくれと言われたようなものである。



「困惑するのは分かる。

 セバスニャン以外は皆、君の様な反応だったからね。

 勿論、無理強いはしないけど、ゆっくり考えてみて欲しいんだ」


「冗談、と言う訳では無さそうですね……

 分かりました、自分なりに考えてみます!」


「ありがとう、ゆっくりでいいからね?

 ま、今の所は朝食の事を考えようではないか。

 良い匂いがしてくるだろう?」



 言われると、確かにに良い匂いが鼻をくすぐる。

 ルディウス改め、まおちゃんはウキウキとした足取りで、ダイニングの方へ向かい、ドアの手前でギーシュへ手招きする。

 昨日の今日ではあるが、こんな匂いを嗅いでしまっては堪らず腹は減ってしまうようで、ギーシュもダイニングへ。



「おや魔王様にギーシュ殿、お早いお目覚めで」



 出迎えたのは猫精霊(ケットシー)のセバスニャン。

 宙に浮きながら足を組み、優雅に紅茶を嗜んでいた。



「朝食をご用意してありますので、お好きな物を選んでくださいませ」



 保温の魔法が施された金属トレーに並べられた、熱々のオムレツやベーコン、トースト等が並ぶ。

 ギーシュはその中からいくつかを皿に盛りに盛り、まおちゃんの前に座る。



「いただきます!」


「我もいただこう。朝から結構食べるんだね……」


「まぁ、僕は竜人族(ドラゴニュート)ですからね。

 他の魔族と比べると魔力が低い分、肉体が強いんでカロリーの消費が凄いんですよ……」


「道理でよく食べる訳だ」



 何気ない会話のやり取りを交わし、朝食を食べ進める。

 3倍程の差はある朝食の量であったが、食べ終わったのはほぼ同時だった。



「ありがとうな、セバスニャン」


「ご馳走様です! 美味しかったです!」


「お粗末様でした。

 何人前でも一気に作れば、手間は変わりませんので。

 それより、魔導車の手配は整っておりますので、お申し付けくだされば何時でも大丈夫です」


「流石セバスニャン、早くて助かる」



 セバスニャンが言う魔導車とは、平たく言えば無人の送迎用馬車のようなものである。

 用意した理由は、魔王都市からギーシュの実家があるヤーフ領まで、それなりの距離があるからだ。



「これくらいの時間からで出れば、昼過ぎ頃には君達の領に着くだろう」


「わざわざありがとうございます。

 最悪自分で飛んで帰る事も考えてたので、助かります」


「いいよいいよ。

 早めに帰って家族を安心させてあげなさい」


「そうします。父上も気が気でないでしょうから」



 ギーシュは自分の荷物をまとめてマオ、セバスニャンと共に魔王城の外へ出る。

 玄関を開けた目の前には、例の魔導車が駐まっていた。

 見た目は馬車のそれだが、馬もいなければ御者もいない。



「ほぇぇ、これちょっと高い会社(とこ)のやつじゃないですか?」


「まぁ、一応魔王だからって臣下がね……

 遠距離を移動する時はこれを使う用にしている」


「あぁ、そういう……」



 要するに威厳を示せ的な事だ。

 ただ、当の魔王は全くもってそんな物に興味は無い。



「それでは、これで失礼します。

 出来上がった動画、楽しみにしてます。

 次に来る時には僕が昔用意していた、動画作りに使えそうな物も色々持ってきますね!」


「おお! それは助かる!

 我が作る動画も楽しみにしているといい。

 それと、例の件もゆっくり考えてみてくれ」


「さぁ魔王様、あまり引き留めるてはいけませんよ?

 ギーシュ殿、こちらお弁当です。

 道中で召し上がってください」



 ギーシュはセバスニャンにお弁当と言うよりは、重箱並のサイズがある物を手渡される。



「ありがとうございます!

 それでは、また会いましょう!」



 ギーシュは尻尾が扉に挟まらない様に気を付けながら、座席へ乗り込んで扉を閉める。

 魔導車の中は対面になるように設置された長椅子と、その真ん中にテーブルがある簡素なものだ。

 そこへ受け取った重箱を置いて、長椅子に腰を落ち着かせた。


 外にいるセバスニャンが魔導車に魔力を込めると、車輪はゆっくりと動き出し、魔導車はギーシュのヤーフ領へと出発した。



「さて、セバスニャン。午前中に仕事を片付けて早速動画を撮ってみようじゃないか」


「私も共に、書類と戯れましょう」


「助かるよ」



 そうして、マオとセバスニャンは書類の大海原(執務室)へ。



 ◇



 何とかして午前中に仕事を捌ききった2人は現在、コーヒーブレイクを取っていた。



「あぁ、もう何もしたくない……」


「動画を撮るのでしょう?」


「………………撮る」



 かなりの葛藤の末に答えを出した。

 その様子にセバスニャンは、グイッと残りのコーヒーを飲み干して提案する。



「では、モチベーションを上げる為に幾つか動画を観て、制作意欲を刺激してはいかがでしょう?」


「うむ、そうしようか。

 スマボは皆の共用の物を使おう。

 あの子達は、どうせまだ寝てるだろうしね」


「ではご用意しますので、お待ちください」



 そう言ってセバスニャンは執務室を出ていく。

 部屋に戻って来た彼の手には、ギーシュが持つ携帯型よりも少し大きめのスマボが握られていた。



「すまないなセバスニャン、ありがとう。

 さて、このスマボに動画を見るアプリは……あるな!」



 マオは早速動画視聴アプリ『MgTune(マギチューン)』を開く。

 そして、動画を何本か視聴した。すると──。



「よし! 我も作るぞ!!」



 なんという事でしょう、無事にモチベーションも回復。



「何個か動画を観て思った。

 最初の動画は、自己紹介的な動画が良いと!」


「見た所、そういう方は多い様子ですね。

 自己紹介と今後投稿する動画の方針など。

 ……いまいち操作に慣れませんね」



 セバスニャンはスマボに目を通し、そう分析する。

 しかし、肉球では画面が反応し辛いのか手間取っていた。



「よし、動画を作るにおいてまずは録画媒体だな」


「それに関しましては、以前に遠隔会議の時に使用していた水晶球を持って参りました」


「それはいい! 後は我のセンスが輝く時だな!」



 出処不明の自信がマオを輝かせる。

 セバスニャンは邪魔になるといけないと、気を利かせて早々に部屋を後にした。

 という訳で動画撮影開始。

 水晶球に魔力を流し、起動させる。

 マオは執務室に置いてある椅子に腰掛け、自己紹介を始める。



「ごきげんよう諸君。

 我はこの度配信者として活動する、ご当地魔王ことマオちゃんである!」



 ここで一旦録画を止めた。何故か?

 マオの中で爆発的な『これじゃない感』があったからだ。



「我は確かに可愛い……が、さっきのでは硬すぎる!

 元気な明るい配信者になるのだろう?

 であればもっとなりきらねば……」



 そこでマオは、他の配信者はどんな挨拶をするのかを見てみる事にした。



『おはコーン! 九尾族のタマモンだよ!』


『おっは神碑ルーン! 神碑文字解読チャンネルへようこそ〜!』


『こんにちワンワン! 今日も皆に幸せ届けちゃうよ!』



 色んな先輩方の挨拶を観て、法則性を見つけ出した。

 それは、基本の挨拶+自分に関係ある単語だ。



「そうだな、我ならまずは──」



 そこから何度も取り直しながら挨拶を取り直した。

 自分が納得行く物ができるまで。

 試行錯誤し、時には気分転換を挟み、渾身の挨拶が出来たと思えば録画出来ていなかったりを繰り返した。

 その音が外まで響いていたとは知らずに……


 所変わり執務室の外。

 マオの様子を執務室の扉から盗み聞きする者が2人。

 セバスニャンと、ようやく起きてきたマイヤだ。



「ねぇセバスニャン、魔王様大丈夫なんすか?

 気が触れてたりしないっすか?」


「えぇ、一応大丈夫かと思われます」


「なんか太鼓の音とか聞こえたし、永遠に挨拶してるし」


「四苦八苦しているのでしょうな」



 楽し気なセバスニャンに対して、少々心配の方が勝るマイヤ。

 心配するのも当然だ。

 何をしているか分かっているとしても、身内が部屋にこもって一生挨拶していたらそう思うだろう。



「まぁ、本人が楽しそうなら良いんすけどね!」


「私達は少しでもお力になれるよう、支えて見せようではありませんか」



 そして2人してまた、執務室の扉に聞き耳を立てる。


 しばらくすると執務室の中から声が響いた。



「出来たぁぁああ!!!」


『っ!!?』



 セバスニャンとマイヤは2人同時に耳を抑える。

 突然の大声に反応が遅れた為、鼓膜にダイレクトダメージを与えられた訳だ。

 未だに耳の奥で鳴るキーンという音を無視して、セバスニャンは執務室の扉をノックする。



「構わん、入ってくれ! セバスニャンだろう?」


「では、失礼します」


「ぼくも失礼しま〜す!」


「なんだ、マイヤも居たのか」



 礼儀良く入室するセバスニャンとは対照的に、遠慮もクソも無い入室をかますマイヤ。

 マイヤはマオに駆け寄ると、早速聞いてみる。



「動画、出来たんすか!? 見せて欲しいっす!」


「うむ! 我の渾身の自信だ!

 荒削りではあるが、会心の出来だぞ!」


「それは楽しみっす! ほら、セバスニャンも!」



 2人でスマボを覗き込み、動画を再生させる。



『………………?…………っ!!?……──』



 開始数秒にて困惑、挨拶が始まり数十秒で絶句。

 更に念の為、動画を最後まで見進めて一言。



「恐れながら魔王様……」


「これは……」


「む? どうしたどうした?

 言葉に言い表せない程に良かったか?

 どぅれ、歯に衣着せぬ感想を問おうではないか!」



 自信マンマンドヤ顔魔王の言葉に、マイヤとセバスニャンは互いに目を合わせ、口火を切る。



「控えめに言ってダメダメダメダメっす!!

 昨日、動画あんだけ見たのに!」


「んなっ!? そんな馬鹿な!!?

 セ、セバスニャンはどう思う!?」


「…………」


「セバスニャン……?」


「魔王様、ギーシュ殿の意見も聞きましょう。

 私はいまいち疎いもので、その時に判断して貰ってもいい筈ございます。

 おや、夕飯の買い出しに行かねばなりませんね、私はこれで……」


「あーっ! セバスニャン逃げた!!

 ぼくだけディスっちゃった感じになっちゃうっす!

 こらぁ! 戻って来〜い!!」



 早々と部屋から姿を消したセバスニャンに、逃げられた事に憤慨するマイヤ、そして──。



「渾身の……出来だと思ったのに……」



 ドシャッと膝から崩れ落ち、意気消沈ナウな魔王。

 その瞳は今にも涙が出そうなほど滲んでいる。

 しかし、めげない! まだ本命に見せていない!



「ギーシュ君に見せるまでは、希望はある!」


「うわぁ、ギーシュ少年お気の毒に……

 普通に卒倒もんっすよあんなの」



 ◇



 一方その頃、件のギーシュはと言うと、ようやく自領に到達していたのだった。

 それなりの量のお弁当を食べ終えて、満腹のまま領内へ帰還した彼は、薬局で胃薬を購入した。

 魔導車はその時点で魔王城へ帰し、徒歩で自宅へと向かっていた。



「ん、ん〜! ふぅ、長い事座ってると体が硬くなるな。

 魔王様、今頃動画撮ってるのかな?

 あの行動力、羨ましいよなぁ……」



 そんな事を考えながら、自宅に到着した。

 自宅とは言ってもヤーフ領の領主邸なだけあり、かなり立派な邸宅だ。



「ギーシュ、ただいま帰りました〜!」


「お帰りなさいませ坊っちゃま。

 お荷物預かります、お父上様なら書斎にいますよ」


「ありがとう! 挨拶して来るよ!」



 緩やかなカーブを描く階段を登った先、2階の書斎にいる父の部屋にギーシュは入室した。



「父上、ただいま帰りました」


「ん、おお! よく帰ったギーシュ!

 無事だったか? 何もやらかして無いよな?」


「やらかしてはないと思いますけど……

 とんでもない話は持ち掛けられましたね」


「ハッハッハ! して、とんでもない話とは?」



 ギーシュが言っているのは、魔王から提案されたあの話の事である。

 ギーシュ父は紅茶を飲みながら、魔王城で一夜を過ごす事以上に驚く事も無いだろうと余裕を見せていた。



「いやぁ、ははは、実は……

 魔王配下にならないかって言われちゃって……あはは」


「ぶふぅぅぅ!! 魔王配下ぁ!?

 え、魔王配下って、あの魔王配下か!?」


「うわっ、汚いなぁ……

 お察しの通り、その魔王配下ですよ」


「そんな、お前……」



 紅茶を吹き出してしまう程驚いたギーシュ父は、酷く狼狽えていた。

 それはそうだろう、自分の息子が突然どえらい出世をしようとしているのだ。



「僕、正直迷っているんですけど、父上の意見も聞こうと思いまして……」


「なれ! 今すぐなるんだ! チャンスと言うのは2度掴める程生ぬるい物では無い!

 それに、ならずに後悔するよりなってから後悔する方がいいだろう? そんな面白い役職」


「面白いって……しかも、後悔する事前提だし……」


「何年お前の父親やってると思ってんだ?

 顔に書いてあるんだよ。『やりたい』って」


「じゃあ、なってもいいんですね? 魔王配下に!」


「お前が望む道を行くといい。

 俺は息子の選ぶ道を祝福しよう!」


「父上……僕、なります! 魔王配下に!!」



 こうして、ギーシュは魔王配下になる決意を決めたのであった。

 これから数々の試練が待ち構えているとも知らずに……




読んでいただきありがとうございます!


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次回、魔王の初動画の詳細が明らかに……?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここはじらしのテクニック。どんな「やらかし」があるのか、期待は否応なしに高まります。
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