【アーカイブ5】 我の名は!
ええ、お気付きの方もいると思いますが、私、引く程の遅筆でございます。
週一投稿で頑張るつもりですが、必ず完結させますので、どうか気長に応援してくださいませ……
「せっかくだ、皆でパジャマパーティーと洒落こもう!」
「えぇ……いや、勿論嫌なわけでは無いですけど、家族も心配しますし、その……」
「そこは我の権力を濫用しようではないか。
ギーシュ君、少し待っていなさい」
そう言うとルディウスは通信魔法を使い、誰かに連絡を取り始めた。
その音声は近くにいるギーシュの耳にも入る。
「夜分にすまないドラガルト殿、ルディウスだ」
『ママママ魔王様!? き、急にどうされましたか?
いや、でも声が……でもこの魔力の波長は……
何ですか? 新手の詐欺? え、ドッキリ?』
通信魔法を繋げた相手はヤーフ領の領主であり、ギーシュの父親。
通信魔法から微かに漏れる声だけでも、なかなかどうして混乱している事が聞いて取れる。
「安心して欲しい。今は訳あってこの声だが、正真正銘魔王ルディウスだよ。
今日は貴方のご子息の事について話したい事がある」
「魔王様でしたか。取り乱して申し訳ありません。
それにご子息と言うと……まさか、ギーシュが何かやらかしてしまいましたか!?」
当然の疑問だ。
魔王からの突然の通信、突如に出て来た息子の事、そして会議以降領内に帰って来ない息子。
普通であれば、『何かやらかしたと』思う事だろう。
ただ、それを悟ったルディウスは訂正する。
「いや、どうか落ち着いて欲しい。
ご子息、ギーシュ君は何もしてないですよ。
むしろ、我の為に尽力してくれたと言っても、過言では無いだろう」
『は、はぁ……?』
「それで、もしこれといった予定が無ければ、ご子息を今晩、魔王城に泊めても良いだろうか?」
「それは構いませんが……近くにギーシュがいるのであれば、通信を繋げてもよろしいでしょうか?」
ルディウスはアイコンタクトでギーシュに合図を送り、彼が承諾すると、通信魔法がギーシュに繋がった。
「あっ、もしもし父上? 通信変わってギーシュです」
『ギーシュ! お前に限って心配は無いと思ってるが、くれぐれも失礼や失態の無いようにはしてくれよ!?
まぁ明日は休日だし、後は魔王様のご好意に甘えて、ゆっくりしてくるといい』
「帰りに胃薬でも買って帰りましょうか?」
『気が利くな、頼むよ。気を付けてな』
それだけ言い残して通信は切れた。
ルディウスが無言で「良い父親じゃないか」とでも言いたげな目をギーシュに向ける。
ちょうどそのくらいのタイミングで、お風呂からクララとカルルが帰って来た。
2人はお揃いのバスローブ姿で、髪をバスタオルで拭きながら部屋へと入って来る。
慣れてないギーシュは当然、目のやり場に困る。
「ふぃ〜! いい湯だったなぁ、カルル!」
「ねーね泡でシャボン玉作るのじょうずだった〜」
「あ、魔王様お風呂開いたぜ!」
クララは笑顔でルディウスに告げた。
彼女は風呂上がりで火照った顔だからか、形容できない色気すら感じられる。
「さて、穏便に許可は取れた。
クララ達もお風呂から出てきたし、我らも入ろうでは無いか?
お湯に浸かってゆっくり語ろう」
ルディウスはソファから降り、ギーシュ手を引いて浴場に連れて行こうとする。
しかし、彼は肝心な事を忘れている。
「ま、魔王様! タイム! 待ってください!
その姿じゃ流石に一緒は無理です!
今の魔王様、女の子なんですから!」
「……あ、そうだったな。いつもの感覚でつい。
それと、そんなに拒むと言う事は、もしかして我の美貌に欲情しているのかい?」
ルディウスは悪戯っぽい笑顔で片手を頭、もう片手を腰に当てて、腰をくねらせてギーシュをからかう。
見た目のせいか、他から見ればただのメスガキムーブだ。
そして何より──。
「動きが古い! 何に影響されてるんですか?」
「ぐぬぬ、しょうがないだろう……!
仕方ない、この姿を馴染ませる為にまだこの姿は戻さないつもりだから、先に入っちゃいなさい。
お風呂の場所だけ教えるから。クララ!」
「おぅ任せろ! こっちだぞギーシュ!」
風呂場に案内されたギーシュは、大きな浴場で汗を流し、1日を振り返っていた。
会議終わりに配信を観ようとしたら魔王に興味を持たれ、執務室に呼ばれたと思えば次は人相屋、そして今に至る。
何と濃厚な1日なのだと、溜め息すら出そうになる。
ギーシュが湯から上がり、身体を洗おうとした時。
「このアタシが背中を流してやろう!」
「っ!!? なんでクララ嬢がここに!?」
突如背後から聞こえたクララの声に、それはもうビビり散らかすギーシュ。
その手にはブラシやタオルなどの用具を手に持ち、やる気満々と言ったところだ。
角度とタイミングが悪ければ、危うく事案発生である。
「自分で出来ますから! お構いなく!」
「気にすんなって! そぅら、先手必勝!」
「イィヤーーーー!!!!」
波乱の入浴が終わり、部屋に帰って来たギーシュ。
その顔は逆上せたのか羞恥なのか、真っ赤であった。
その様子を見たルディウスは、一応フォローを入れる。
「あ〜……何があったかは察せるけど、クララに悪気がある訳じゃないんだ。
むしろ君には良い印象を持っていると解釈してくれ」
「いや、そりゃ嬉しくはあるんですけど……
慣れてないんですよ! 女の子に!」
「ハハハ、直に慣れるさ。
それでは、我もサッパリしてくるとしよう。
皆、ギーシュ君をあまり虐めるんじゃないぞ?」
『はーい』
何とも気の抜けた返事で返される。
ルディウスが抜けた事で部屋にいるメンバーは、実質ギーシュと魔王配下達。
「そういや、魔王様は配信者を目指すんすよね?
名前はそのまま、ルディウスで行くんすか?」
落ち着かない様子でソワソワするギーシュに助け舟を出したのは、依然としてソファでくつろぐマイヤ。
「そうですよね……すっかり忘れてました。
そのままだと流石に、ただ女性の姿になった魔王ですからね。
国民は萎縮しちゃうかもですし」
そもそも考えて見て欲しい。
自分の国のトップが配信者をしだしたら、国民は不安で仕方ないだろう。
「どんなのがいいっすかね? ルディ子ちゃんとか?」
「そんな安直な……」
しかし、良いアイディアも出てこない。
その後もマイヤが適当に考えては却下されるを繰り返している内に、ルディウスが浴場から帰って来た。
「ふ〜、皆待たせたね。
それと、セバスニャンから連絡があってな。
夕飯が出来たそうだから、移動しようか」
言われるがままに全員で部屋を移動する。
途中の廊下や部屋を見渡してギーシュは、意外と普通な間取りや装飾である事に驚いていた。
大きめの屋敷程はあるが、豪華絢爛とは言い難く、深い赤や黒を基調とした落ち着いた雰囲気がある内装だ。
高位の貴族だと、権力や財力を示す為に高価な調度品などを飾る事があるが、それすら無い。
ダイニングらしき部屋の扉が開かれると、そこには執事服を着こなした宙に浮く猫、猫精霊のセバスニャンがせっせと皿を並べていた。
サラダ、唐揚げ、ミートボール、オムライス、その他何品もの美味しそうな料理。
その料理を見て、ギーシュは幼い頃に自分の誕生日に振る舞われた料理を思い出す。
まるでお子様ランチのような献立に、ギーシュはワクワクが止まらない。
「すっごい量ですね! 普段からこんなに?」
「いや、今日は君がいるからね。
歓迎の意味も込めて、セバスニャンに作ってもらった」
「ありがとうございます、セバスニャン様!」
「いえ、この度は魔王様へのご助力感謝致します。
是非とも、ご堪能して行ってくださいませ」
セバスニャンはギーシュを席に案内する。
その席は長方形の机の端、いわゆるお誕生日席だった。
思いもよらぬ歓迎ムードに照れるギーシュ。
「さぁ皆でいただくとしよう! せーの!」
『いただきまーす!!』
「い、いただきます!」
ギーシュは魔王、及び魔王配下達との食事を精一杯に楽しんだ。
豪勢な食事の後はいよいよお待ちかね、パジャマパーティーが幕を開ける。
「と言う事で、寝室に集まった訳だが……」
「そもそも、パジャマパーティーって何するんですか?」
『・・・・』
パジャマパーティーを提案したものの、何をするイベントなのか、誰も分からないのである!
全員が頭に『?』を浮かべながら首を捻る。
いつまで経っても答えが出ないので、飽きてきたマイヤが話題を変える。
「ギーシュ君とも話してたんすけど、魔王様はどんな名前で配信者やるつもりなんすか?」
「ん? ルディウスじゃダメなのかい?」
「いや、ダメダメダメでしょ?」
「ダメ増し増しで辛い」
しかし大事な事ではあるので、考えなければならない。
「そうだなぁ、いっそルディ子ちゃんでは駄目なのか?」
「あちゃ〜、その件はもうやっちゃったんすよ」
「この魔王様にして配下ありって感じですね……」
「それは言外にディスられてる気がするっす!」
ギーシュの独り言に抗議するマイヤだが、実際思考が似たり寄ったりなのは事実。
「そうだなぁ、配信する方向性は決まってますし、属性を足しましょうか」
「属性?」
「属性以外に表し方が思い付かなかっただけですけど、ご当地の紹介だと他の配信者さんと被っちゃうかもしれないじゃないですか?
そこで、付加価値を付け加えてオリジナリティを出すんですよ」
「我のオリジナリティ……魔王だな」
「これまた安直な……いや、でも悪くはないのか?」
そう、ギーシュはアリだと思った。
何故なら、恐れ多くも國のトップを名乗る斬新な配信者などいないからである。
そしてそんな称号でも、自称であれば与太話として受け入れて貰いやすいと。
「ご当地魔王……この線で行きませんか!?」
「それだと、他にも魔王出てきそうじゃないかい?」
「いや、むしろそれでいいんです!
そうなれば、本物感も少し薄れますし、最初に始めたっていうのは何よりアドバンテージなんです!」
「そうか、それはいい!」
盛り上がる数人を除き、夜遅くという事もあって睡魔に襲われている者が1人──。
「むにゃむにゃ……わふふ……まお、しゃま〜……」
「おっと、カルルがおねむみたいだなぁ。
部屋に運んで来るから、話を続けててくれ」
「うむ。カルルをよろしくな、クララ」
むにゃむにゃと寝言を漏らす夢心地のカルルを、クララは優しく抱き上げて部屋を出ていく。
部屋を出るクララを微笑ましげな顔で見送っていた中、ルディウスは閃く。
「まお、しゃま……そうか。
なぁギーシュ君、我の名は『マオ』と言うのはどうだろうか?」
「マオ、ですか?
もしかしてカルルちゃんの寝言から?」
「うむ、我は良いと思うのだが……」
「はい。僕も良いと思いますよ!
これからは『ご当地魔王のマオちゃん』ですね!」
配信者としての名前が思わぬ形で決まった。
もう後は、研究と経験を積むのみ。
「ギーシュ君のスマボをまた貸してはくれないか?
我も色々な人を見てみたいんだ!」
「良いですよ! オススメは沢山ありますから!」
「おっ、間に合ったみてぇだな! アタシも見る!」
クララも動画を見に、魔王とギーシュの間に飛び込んで来る。
そこからは夜遅くまで、幾つもの動画を視聴した。
動画、ライブ配信、実況、数多のジャンルを見尽くす勢いで楽しみ、気付けば動画を流したままに、仲良く寝落ちをしてしまった。
◇
寝相が悪いマイヤとクララに押し潰されながら、彼等は朝を迎えた。
「……うっ……重っ……これは、足?」
ギーシュは自分の腹の上に重なったクララの足を横に退かし、起き上がる。
閉まった窓の隙間から朝日が線のように差し込み、爽やかな風も微かに吹き込む。
「おはよう、ギーシュ君。早いね?」
「魔王様もおはようございます。
いやぁ、お腹がやたら重かったもんで……」
物音に気付いたのか、横で寝ていた魔王も起床する。
「クララとマイヤだね……ちゃんと寝られたかい?」
「それは問題ないです。
いやぁ、昨日はありがとうございました。
今日は予定とかあったりするんですか?」
「うむ、せっかくの休日だからな。
政務は午前中に片付けて、我は早速動画を撮ってみようと思う。
自分なりに、まずは動画を1本作ってみたいんだ」
「それはいいですね!
出来あがった動画、楽しみにしています!」
「そうだギーシュ君。
君、魔王配下になってみる気は無いかい?」
「……ぱーどぅん?」
読んでいただき、ありがとうございます!
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次回、魔王が動画を撮りにあちこちへ行くかも?