【アーカイブ35】 クララ・カルルの過去
大戦から数十年、多くの魔族達は安寧な生活を送り、人と魔の垣根も緩くなって来た頃。
その平穏の中魔王ルディウスは、広大になった魔族領の視察等でてんてこ舞いだった。
これはそんな視察先での出来事。
「…………13徹は流石に健康に害が出てるよ?
そこらの石畳が全部ふかふかのベッドに見える」
「ほらほら、しっかりしないと背中に喝を入れるっすよ?」
「君だと胴体に風穴が空くから止めてくれ……」
護衛の為に連れて来たマイヤとの会話で何とか眠気を誤魔化す道中、ちょうど昼時と言う事もあり、露店で適当に腹ごしらえをしようとした所だった。
「おや? 財布が無い……?」
「ああ、そういやさっき見事にスられてたっすね!」
「いやいや、その時に言いなさいよ……」
「ま、まぁまぁ!
子供でしたし、何時でも追い付けるっすから!」
「子供のスリなら、何か事情がありそうだね……
はぁ……その子の所まで案内を頼むよ」
そのままマイヤの案内で子供の後を辿った先は、いつ倒壊してもおかしくない程に古びた孤児院だった。
魔王から財布を盗んだと思われる子供は悪戯な笑みで孤児院の扉を開け、中へと入って行った。
しばらくすると──。
「こんのアンポンタンがぁ!!!」
と、何やら可愛らしい怒声と共に、響く鈍い打撃音。
少年のうめき声らしきものが聞こえるが、魔王とマイヤは孤児院の扉を軽くノックした。
バタバタと扉まで走ってくる音が聞こえたかと思えば、蹴り開いたかと思う勢いで扉が開かれた。
「新聞、宗教はお断りだっつってんだろ!!
おとといきやが……れ?」
出てきたのは、抱っこ紐で赤ちゃんを抱いた、まだ10歳ほどに見える痩せた半獣人の少女。
着古してボロボロの衣服に鋭い眼光、しかしながら圧倒的な可憐さがそれらも霞ませる。
「えぇっと……どうも?
我ら怪しい者じゃなくて、財布を取り戻しに来てね」
「んぁ?? ……っ!!」
ぽかーんとした後、その少女は状況を理解した。
またバタバタと室内へと戻り、1人の少年をまるで猫のように首根っこを鷲掴んで戻って来た。
「ほら!! ごめんなさいだろ!!?
えっと……この財布であってっか?」
「ひっく、うぅ、ごべんなさい……」
「謝ってくれたからもういいよ。
財布もそれで間違いない。
それにしても、君は驚く程に正しい子なのだね」
彼女の行動、精神性は大いに魔王の琴線に触れる。
その内心では、ここの子供達に手を差し伸べる事は決定事項となっていた。
孤児院の中をチラリと見た限り、まともな生活が出来ていない事も判断できる。
「少し、話ができないかな?
ここにいる子供達について聞かせて欲しい」
「あ、怪しい奴じゃねぇよな?
でも、他の奴らよりよっぽどマシそうだしなぁ……
ちなみに、何の話なんだ?」
「そうだね。でも、兎にも角にもまずは食事だ!
ここにいる子供達を全員集められるかい?」
その勢いに押され、少女は孤児院内の子供達を集め、長方形の大きなテーブルを囲む様に全員を座らせた。
「よし、これで全員かな?」
集まった子供達は、少女に抱っこされている赤ちゃんを含め全員で8人。
そのほとんどが半獣人の子供で、他は何らかの魔族間のハーフと思われる。
どの子も酷く痩せこけており、痛々しい。
「さ、マイヤ。ひとっ走りして食材を調達して来てくれ。
その間にこっちの要件を済ませとくから」
「ヴェッ!? パシリっすか!!?
ぼくの好みで買ってきますからね?」
「栄養がありそうな物を頼むよ。
経費で落とすから、領収書を貰って来るようにね」
渋々といった様子で買い出しに行ったマイヤを見送り、魔王は子供達へと向き直る。
まだ不安気な顔の子供もいたため、雰囲気を良くする為に自己紹介をする流れとなった。
「それじゃ、皆の名前を聞かせて貰えないかな?」
「大丈夫だぞお前ら!
見ての通り胡散臭ぇけど、悪ぃ奴の臭いはしねぇからなぁ!」
「う、胡散臭い……」
落ち込む魔王は無視して、子供達は自己紹介を始めた。
手前からタタン、ドゥカ、ティルル、トント、リリム、二ーナそして──。
「最後に、俺が最年長のクララ!
で、俺におんぶされてるのが弟のカルルだ!」
「君が最年長なのか!?
今まで苦労しただろうに……
もう少し待ってなさい、うちのが買い出しから帰ってき次第、お腹いっぱいにしてみせるから」
自己紹介が終わって間も無く、マイヤが大量の食材を抱えて戻って来た。
両手いっぱいに抱え込んだそれらを雑に机に置くと、その重みに僅かに机が軋む。
まだ調理もされていないと言うのに、子供達の目はキラキラとその食材達に釘付けとなった。
「みんなお待ちどうっす!
流石にこれだけあれば足りるっすよね!?」
「お疲れ様だねマイヤ。勿論足りるとも。
後は我に任せるといい!!
あ、ちなみに食材を運んで来た子はマイヤと言う。今は我の護衛を任せている」
「マイヤ……姉ちゃん?」
「……っっ!!!
そうっす! ぼくがマイヤお姉ちゃんっす!」
「ほら、馬鹿言ってないで野菜の皮剥きを頼むよ。
子供達も興味があるなら、そっちのお姉ちゃんの手伝いをお願いしちゃおうかな?」
子供達は僕も私もと、マイヤの手伝いを申し出た。
わいわいと騒ぎながら食材の下ごしらえを進め、魔王も次から次へと炒め、煮込み、揚げ物を魔法により空中で調理して魅せる。
目の前で次々に同時展開される魔法の絶技に、子供達の目も輝きを増す。
「そぅら完成だ!! マイヤ、皿を!」
「はいっす!」
マイヤが用意した皿に丁寧に盛り付け、これでもかと言う程のご馳走が並べられた。
「はーい! みんな席に着いてね!
あっ、そこフライングしない!
腹ぺこだし仕方ないか……では、いただきます!」
『いただきま〜す!!』
料理に我先にとがっつく子供達。
中には初めての美味しい料理に涙を流す子もいた。
この期を逃すまいと、全員が必死の食べっぷり。
勿論、赤ちゃんには細かく具材を刻んだ離乳食を。
魔族の子供の食欲は凄い物で、あんなにあった筈の料理が見る見る内に無くなってしまう。
「お腹いっぱいになったのなんて初めて!!」
「美味しかった、ホントに美味しかったよぅ……」
「あんがとな! マイヤ姉ちゃんと、えぇっと……名前が……」
「そう言えば我だけ名乗っていなかったな!
我の名はルディウス。
この国で唯一、魔王をしている者だ」
『………………??』
子供達はどの子も口を開け、ポカーンとしている。
想像力豊かな子供であろうと、目の前に国のトップがいるなど、誰が信じるだろうか?
しかし、孤児院の子供達は純粋だった。
「魔王って、あの魔王様!!?」
「すごーい! たかいたかいして〜!!」
「あっ、ずるい! 僕も!!」
魔王、思わぬ人気に満更でも無い表情。
その望みに応え、一斉に魔法で浮かせて遊んであげると、子供達のボルテージも最高潮に。
しかし、そんな時間が無限に続かない事も孤児院の子供達は理解していた。
「こんなに楽しいのも、今日だけなのかな……」
子供の1人がそう呟く。
声に出してまうと、不安や悲しみが伝播し、他の子供達もシュンとしてしまう。
「安心して欲しい。
そこで、最初に言っていた我の本題だ!
君達、魔王城で働くつもりは無いかな?」
『魔王城!!?』
「働くっつっても、俺達まだ子供なんだぜ?
役に立たなかったら、また……」
最年長のクララは他の子供達の今後を危惧する。
「そこで、君達が立派になるまで魔王城で色んな勉強や訓練をするんだよ。
その中で皆が何が得意か、何がやりたいかを見て、職を割り振りたいと思っている」
子供達は互いに顔を見合わせ、希望とわずかな不安を含んだ表情でその提案に賛同した。
「君達の事は我に任せて欲しい。
今までよく子供達だけで生き延びてきたね。
大変だったろうとも……
魔王城に君達が寝泊まり出来る環境を作りたいから、そうだな……長くて2日だ!
あと2日までに全ての準備を整える。
その時にまた迎えに来るから、それまではまだここにいられるかい?」
「分ぁった!
それまでは俺がこいつらの面倒見とくから、魔王……さん? はそっちの事を頼むぜ!」
クララの頼もしい返事に頷き、魔王は懐から小さな笛を取り出し、彼女に手渡す。
「それと、これを君に渡しておこう。
万が一、我が不在の時に何かが起こった場合、この笛を思いっ切り吹いてくれ。
この笛はどれだけ離れていても音は直接我に届き、笛の持ち主の場所も分かるようになっている」
「おぅ! でも、そん時ゃ俺が守るから心配無ぇな!」
「うん、逞しい限りだ!
では、我は早速作業に取り掛かるから、迎えに来るまで子供達を頼むよ」
「どどーんと任せとけ!」
二カッと笑い、自信満々に胸を叩いて見せる。
魔王は彼女に任せ、孤児院を後にした。
しかしその当日の夜、事は起こった。
◇
夜も深まり、冷えた風が肌を刺す。
そんな中、魔王城の敷地内に立派な寮が完成した。
何を隠そう、魔王が1から作った建造物だ。
その出来栄えに満足し、マイヤとハイタッチを交わす。
「いやぁ、流石のぼくもこれだけの資材やら何やらを集めるのは骨が折れたっすよ!
ってか、魔法でドーンと建てられないんすか?」
「魔法なら1発だが、我が油断すれば一瞬で崩れるぞ?」
『ピュィィィィィ!!!』
「マイヤ、笛の音が聞こえた。
子供達に何かあったのかもしれん。
10秒で支度しろ、魔剣の帯剣も許可する!」
「了解っす!」
迅速に支度を終えたマイヤを連れ、魔王は子供達の元へと魔法で転移した。
◇
孤児院で魔王と別れた後、クララはいつものように子供達を寝かしつけ、希望を胸に自分も就寝しようとした矢先の出来事だった。
半獣人の耳が常人より遥かに優れている為か、微睡む意識の中でクララは異変を察知した。
まだ眠い目を擦り、音がした場所まで向かうと、見知らぬ輩と鉢合わせる。
「おい、いたぞ。ガキの1人だ、逃がすなよ!」
「ははっ、手間が省けたな!」
その台詞、下卑た笑い方、そして何より息が詰まる程の悪人の臭い。
クララは急いで来た道の扉を家具で塞いで足止めをし、子供達を叩き起こして逃がそうと試みた。
まだ小さいカルルをボロ布で結び付け、他の子供達を窓から逃がし、いざ自分も逃げようとしたが、遅かった。
「痛っってぇ!!」
クララはその長い髪を強引に掴まれ、逃走を阻止されてしまう。
「てめぇ……ふざけた真似しやがって!!
おい! ガキ全員捕まえて来い!
今ならそう遠くには行ってねぇ!」
「クソっ! 離せ!
あいつらに手ぇ出してみろ!?
お前らの首を噛み切ってやる!」
「おお怖い怖い。ただ、ガキが大人に適うと思うなよ?
おい、外のガキは捕まえたか!!?
間違っても商品に傷付けんじゃねぇぞ!」
クララは逃れようと必死にもがくが、首に回された太い腕を振りほどけない。
起きたカルルも泣き始め、そこへ更に不幸が重なる。
「カシラぁ! 逃げたガキこれで全部ですぜ!」
「こんな事もあろうかと、裏にも張ってたんだよ!」
「ぅぅ……姉ちゃん、ごべんなざい……」
「うぁぁん! 怖いよぉぉ!」
「うるせぇ! 喚くなガキ共が!」
逃がした子供達も輩に捕まってしまった。
まだ状況を理解してない子も、泣いている子に吊られて連鎖するように泣いてしまう。
その様子をまざまざと見せ付けられる。
「お前ら!! クッソ! 離しやがれ!
許さねぇ! 絶対ぇ許さねぇ!!」
クララの身体が、感情の昂りにより狼のような姿に変貌を遂げた。
その際に腕から逃れられた為、子供達をの元へ走り、その牙で輩達に噛み付いた。
「これだから半獣人は厄介なんだよ!
だが、所詮はガキだな!!」
「ギャンッ!?」
クララの横っ腹に強い蹴りが入る。
衝撃で呼吸もままならず、人の姿へと戻ってしまう。
自分が弱いばかりに、子供達を守れない。
全て出し尽くし、それでも守れず、悔しさで握り締めた拳に最後の希望が握られていた。
あの魔王様から預かった笛。
最後の力を振り絞り、その笛を吹いた。
『ピュィィィィィ!!!』
「おい、何だ今の笛の音は? まぁいい。
さっさとガキ共連れてずらかるぞ!」
孤児院を襲撃した無法者達が立ち去ろうとした時、子供達の最後の希望がどこからともなく現れた。
「…………ふむ、状況は理解した。
マイヤ、他の子を助けて来なさい。
よくも舐めた真似をしてくれたな愚物どもが……」
「了解っす! ではお先に!」
「急に出てきて何だお前ら!?
あれか? 安っすい正義感のヒーロー気取りか?」
「どう思って貰っても構わないよ。
君達はここで終わるからね。『筋力増強』」
魔王は魔法によって筋力を強化する。
しかし、襲撃者はそれを嘲笑う。
「ハッ! ひ弱な魔術師かよ!
そんなん魔法を齧ってりゃ誰でも出来るんだよ!
そら、『筋力増強』!」
「そうかい? では、張り合ってみるといい。
『戦闘強化』、『継続回復』、『金剛鱗』、『鋼拳』、『完全防御』、『武器破壊』、『全耐性』、──」
「おい……待て! 何なんだよお前ぇ!!?」
魔王による怒涛の身体強化の数に恐れを成す。
本来、身体強化を過度に使用すれば、並の者であれば立っている事さえままならない。
しかし目の前の人物は今も尚、身体強化をかけ続けているのに普通に立っている。
「うん、もう思い付く身体強化は掛け尽くした。
待たせたね? さぁ、我を止めてみるといい。
生憎、穏便に済ませるつもりは毛頭無いと心せよ」
「ま、魔王!!!?
な、なんだってこんな所に……クッソがぁ!」
無謀にも真正面から魔王に突っ込む。
しかし腕を適当に上から下へと振る動作だけで、襲撃者はクレーターの底へと押し潰した。
そこへ、マイヤも子供達を連れて戻る。
片手には子供達を、もう片方にはズタボロで虫の息の襲撃犯を携えて。
「お疲れだマイヤ。よく殺さずに捕らえてくれたね」
「いやぁ、正直ぼくもかなり危なかったっすよ?
魔王様が見るからにバチ切れてたから、逆に冷静になったっす!」
子供達の人数と怪我を確認し、最も怪我が酷いクララの元へ魔王が向かう。
魔法で完全に回復させた後、クララに寄り添う。
「よく頑張ったね……
君の判断がみんなを守ったんだ。
こんなになるまで、よく耐えた。
流石はみんなのお姉さんだ」
「みんな……無事?
そうか……良かった、よがっだ〜!!
うぁぁああんん!!」
初めて見せた子供らしい弱さ。
魔王は優しく抱き寄せ、泣き止むまで宥めた。
その後は予定を早め、8人の子供達は新築の寮へと転移させ、子供達の新たな生活が幕を開けた。
◇
あれから数年、子供達もだいぶ大きくなった。
それぞれ夢に向けて勉学に励んでいる。
そんな中、一際異彩を放つ美少女に育った者がいる。
「よぉ魔王様! アタシ、今日も最高に可愛いだろ!?」
「やぁクララ、勿論だとも。
言葉遣いも、少し良くなってるね?」
「よく気付いたなぁ! そうなんだよ! えへへ」
魔王城内の大人達に甘やかされ続けた結果、子供達の自己肯定感はかなり高くなっていた。
その中でもクララは郡を抜いている。
「そういや、アタシは何の為に呼ばれたんだ?」
「君を勧誘しに来たんだよ、クララ。
我の配下……魔王配下になるつもりは無いかい?」
「魔王配下って、マイヤ姉ちゃんみたいな?
い、いいのか!? なりたい!!
メイドとかやってみたい!」
クララが快諾すると、後ろから小さい影がひょこっと現れ、物申す。
「ねぇねが行くなら、カルルも……」
「そうか、君達は本当の姉弟だったね!
うーん……まぁ良いだろう!
ただ、カルルはまだ小さいから、見習いだね」
「うん、メイドの見習いする」
「め、メイドなのかい?
他にも役職はあるけど……」
「ねぇねと一緒がいい……」
「じゃ、2人まとめてメイド志願だね?
ははは、セバスニャンも仕事が減って喜ぶよ」
これが、クララとカルルが魔王ルディウスの魔王配下となったきっかけであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「まぁ、こんな感じだなぁ!
アタシは元々貧民街の出だからこんな口調な訳だ!
その分、カルルは丁寧だぞ!」
「ねぇね、他の子達の事は話さなくていいの?」
「そうだなぁ!
アタシ達以外の他の子供達はな、なんだっけ?
確か、『最初の子供達』とか呼ばれてて、各地で活躍してるはずだぞ!」
────────コメント────────
【祝勝会】 みんなで盛り上げよう!!
同時視聴者数:30006
:クラカルてぇてぇ〜!!!
:魔王様ええやつやないか!!!
:悪いヤツはどんな時代でもいるんだな……
:姉弟って良いよね……
:カルルちゃんお姉ちゃん好き過ぎでは??
:メイドちゃん達良過ぎる!!!
:平民でも魔王配下になれるのか。
:待て待て待て、『最初の子供達』!!?
:↑えっっげつないエリート集団なんですが??
:↑あの人らがたまに言う『姉さん』って……
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新年迎える前に更新できました!!
遅くなってごめんなさい……!




