【アーカイブ29】 ダンジョンメイキング!
現在、クオンと魔王配下を連れたマオは、魔王城ダンジョンの第1階層に到着していた。
ゴツゴツとした石の壁、整備されていない床、視界が悪い暗所、不気味な程の冷気、凶悪な魔物達。
上記が世間一般的に『ダンジョン』と聞いて浮かぶイメージ、及び事実である。しかし──。
「ほぇぇ……ここ、ダンジョンなんですか?」
「間違い無くダンジョンだよ。勿論、普通ではないけどね」
装飾まで施された壁、美しい大理石の床、階層を煌々と照らすシャンデリア、快適な室温、魔物無し。
目に見えるその全てが、通常のダンジョンとは異なっていた。
「これで、どうやってその勇者の対策をするんですか?」
「このダンジョンはね、階層の数、環境、罠や魔物の種類なんかも、全部アタシの思うがままに作れるんだよ」
「って事は……これから1から作るって事!!?
すっごい! なんて言うか、ゲームみたい!!」
クオンはかなり楽しそうにこの状況を楽しんでいる。
マオも得意げになり、更に今回の対勇者ダンジョンの詳細について語る。
「ここからが重要で、今回のダンジョンなんだけど、なんと死傷者を出してはなりません!
国際問題なり何なりのゴタゴタが面倒だからです!
よって、勇者パーティは全員生け捕りして、皇国への人質(交渉材料)にしたい訳!」
「あの、1つ聞きたいんですけど……」
「ん? 何かなギーシュ君?」
「魔王配下がシズさん以外全員いるって事は、僕も戦力に含まれてるんですかね?」
「勿論、含まれているぞ!」
それを聞いた本人は「いやいやいや」と否定する。
それも当然で、ギーシュに戦闘経験など皆無なのだ。
「君、竜人族だったよね?
であれば、戦闘経験が無くとも立ってるだけで、たぶん相手は君をどうにかする事は出来ないよ?
魔王配下となった君の実力を見誤らない方がいい。
マイヤ、やってくれたまえ!」
「ギーシュ君、そこを動かないでくださいっすね!
全力で行くっすよ〜!!!」
「えっ!? なになになに!? 危ないですって!!!」
マイヤは何処からか取り出した鉄パイプのような物で、ギーシュ目掛けて殴りかかった。
ギィィィンと、耳に響く鈍い金属音。
全力で鉄パイプを振り抜いたマイヤは、手元にある鉄パイプを見て驚愕した。
どう見ても無傷のギーシュと、彼の脇腹の形に凹んだ鉄パイプが手に握られているからだ。
「…………え??」
「いやぁ、分かってはいたけど凄いっすね!
ぼくが本気の武装しても、ダメージ入るか正直分かんないっすよ!?」
「と、言う訳だギーシュ君!
今の君はそんじょそこらの魔族達よりも、遥かに強くなっているんだよ。
今回の魔王配下の役割は、あくまで時間稼ぎだ。
それなら、何となく出来そうな気がするだろう?」
「ま、まぁ、確かに……?」
ギーシュは不思議そうに自分の身体を擦りながら、何も異常が無い事を再確認し、マオの意見に同意した。
「まぁ、そういう訳で……
まず、生配信についてだが、アカウントを複数作って、勇者パーティそれぞれの戦闘を別々のチャンネルで流そうと思う。
その時に一応正体がバレないように、皆には適当な仮面を付けてもらう事になるけど、いいかな?」
魔王配下達はさも当然というように頷くが、1人が手を挙げて質問をした。
「アタシやカルルが戦うってなったら、仮面じゃ隠せねぇんだが、どうすんだ?」
「あぁそうか、2人とも獣化するからね……
当日に認識阻害の魔法を水晶球にかけて、君達の事を隠すから、安心していてくれ」
「おぅ! これで遠慮無くやれるなぁ!」
クララはウキウキした様子で納得する。
カルルも姉のクララの手を握り、るんるん気分だ。
「さて、早速今回の作戦について話そうか?
本来であれば、勇者パーティで魔王城を攻略して貰うんだけど、今回は勇者と少しお話がしたいから、分断したいんだよね……
そこで、上手いことパーティを分断できる、何か良い案は無いかな?」
「私そういうのは素人なんだけど、いっそ入口に落とし穴とか仕掛けて、落とす過程でその勇者だけ別の場所に移せないのかな?」
「落とし穴か……クオンちゃん、それは有りだよ!
落とし穴に落として、その道中に接触起動する転移魔法陣を敷き詰めれば……」
マオは顎に手を当て、ごにょごにょと呟きながら思考を巡らせ、作戦を確定させる。
「よし決めた! 魔法陣を人数分展開させて、勇者パーティのそれぞれを別の階層に移動させよう。
それで、皆にはそれぞれパーティの一員を任せて、アタシは勇者が転移した階層に行こうと思う!」
大まかな作戦は決定した。
そんな時、見計らったようにある人物から通信魔法で連絡が入る。
『あ、あのぉ、魔王様……今、報告良かったですか?』
「シズじゃないか、どうしたんだい?」
『えっとですね、勇者パーティの編成と魔王都市への到着予想ができたので報告しようと……』
「それは助かる!
ちょうど今から、魔王城を勇者パーティ仕様に作り替える所だったんだよ」
『それは良かったです。で、では、報告します──』
シズからの報告によると、勇者パーティの構成は、勇者を初め、剣聖、賢者、聖女、テイマーの5人。
それぞれの実力は相当あるらしいが、勇者の力だけは未知数。
そして勇者パーティが魔王都市、更には魔王城へ到着するのは、最短で1ヶ月後とのことだ。
「1ヶ月か、猶予はあまり無いね……
報告をありがとう、シズ」
『い、いえ! お仕事でしゅので! あぅ……』
「あ、そうそう。聞いておきたいんだけど、今回の勇者は魔王配下で迎えるのだが、シズはどうする?
疲れてるだろうし、休んでおくかい?」
『えぇ……うぅん、誰かと一緒なら出たいです!』
「そうか、分かった。道中は気を付けるんだよ。
何かあったら、また報告を頼む」
シズとの通信を終え、いよいよダンジョンメイキングのお時間である。
「さて、最短で1ヶ月しかないんだ。
無茶に動かすとダンジョンが拗ねちゃうから、階層だけは先に作ろうか。
勇者パーティは計5人だから、取り敢えず6階層までは必要かな? よし、少し揺れるから気を付けてね!」
マオが床に手を触れて魔力を流し込むと、ゴゴゴゴという音を立てながら城がしばらく揺れた。
揺れが収まると、マオは床から手を離し、手を払いながら「こんなもんかな」と満足顔。
「さっきので階層が増えたの?」
「そうだよ! さっそく見て回ろうか?
今だけは楽に階層間の移動が出来るように、螺旋階段を作ったし!
皆も一緒に来てね? それぞれの階層の細部は君達に任せるつもりだから」
マオは魔王配下達に手招きをして、下の階層へと螺旋階段を降りて行く。
階段を降りた先、そこは岩のような壁に囲まれた洞窟のような空間だった。
広さはそれなりにあるが、殺風景極まりない。
「よし! では、この階層はセバスニャンに任せよう。
後でギーシュ君にもやってもらうから、どんな風にやるのか見ててね」
「分かりました。
僕、魔法とか苦手だけど出来るかな?」
「その点に関しては大丈夫だよ。
ダンジョンに君の事は教えてあるから、魔力を流すだけで思い通りになるよ。
それじゃ、やってくれセバスニャン!」
「畏まりました」
普段から宙に浮いている猫精霊のセバスニャンは、1度地面に降りて魔力を流す。
すると、セバスニャンを中心に水面の波紋のように地面が整地され、タイルが敷き詰められていく。
彼はそれを確認し、「まだ埃っぽいですな」と、壁や天井を大理石に作り替える。
数分もすると、階層は驚きの変貌を遂げた。
タイル張りの床、大理石の壁、光源は部屋の角に沿って並べられているだけなため全体的に暗く、BARに似た大人な空間を醸し出している。
「うわぁ、随分オシャレ空間にしたね……」
「拘りたいお年頃でして」
「水晶球は後で設置するよ。
皆も自分の階層に行こうか!
どうせセバスニャンは、もう少し弄るんだろう?」
「ご配慮、感謝致します。
では皆様、分からない事があれば私の所に」
そのまま一行は次の階層、そのまた次の階層へと降りていき、4階層目でようやくギーシュが担当する階層へと辿り着く。
「いやぁ、どうしようかな……
一応戦うとなると、物は置かない方が無難かな?」
「そんなに深く考えなくていいよ?
何なら部屋の中って感じが嫌なら、景色も自由に変えられるから。
それと、シズは君と同じ階層を任せようと思うから、よろしくね?」
「え、そうなんですか!?
いや、僕としては助かりますけど……」
「じゃ、アタシとクオンちゃんは下にいるから、何かあったら声をかけおくれ」
そう言い残して下の層へ。
全員が各階層に振り分けられてから数十分後、全員が自分の階層を完成させた頃合、ギーシュは途方に暮れていた。
気分転換に他の魔王配下の階層を見てみようと、一人階段を登っていた。
ギーシュの1つ上の第3階層はマイヤが割り当てられており、彼女の階層は一言で言えば──。
「……闘技場?」
「おっ、ギーシュ君じゃないっすか!
どうしたんすか? ぼくの階層を見に来たっすか?」
「実はその通りなんですよ……色々参考にしたくて」
「それでぼくの階層に来たと!
良いセンスっす! これがぼくの階層!
名付けて『ぶっ殺シアム』っす!!」
「また安直な……」
広い円形の砂場に、段々になった観客席。
紛うことなき闘技場である。
マイヤ曰く、彼女が1番輝くのは一騎討ちの為、それに相応しいシチュエーションが闘技場らしい。
適当に雑談を交わした後、ギーシュは更に上の階へ。
螺旋階段を登った先、待ち受けていたのは辺り一面の白銀世界だった。
ゴツゴツとした岩肌に、雪が降り積もっただけの空間。
「寒っっっむ!!!!?」
「おぅ、ギーシュじゃねぇか! 遊びに来たのか!?」
「お兄ちゃんも遊ぼ! ね? ね?」
「うーん……少しだけですよ?」
カルルの推しに負け、一緒に雪合戦をする羽目に。
ギーシュは雪合戦をしながらも、クララにこの階層の事を聞いてみる。
「クララ嬢やカルルちゃんはその、寒くないんですか?」
「ん? アタシら半獣人は戦う時に獣の姿になるだろ? だから、これくらいしねぇと暑いんだよ!」
「わふー! カルルも寒いの好きー!
いっぱい遊んでも、暑くなーい!」
「そうかそうか、じゃあいっぱい遊べるね!
成程なぁ、自分の欠点や長所を活かすのも有りか……」
ボソッと呟き、自分の階層の事を考える。
そしてギーシュは自分の事もそうだが、シズの事も考えなければならない。
「(シズさんは死告妖精だから、声が響くような構造は危ないか?
で、恥ずかしがり屋だから……)」
悩みに悩み抜いて、出した結論は──。
「よし、夜の森っぽくするか……?」
「んお、森みたいにすんのか?
ギーシュっぽくは無ぇけど、良いんじゃねぇか!」
「2人ともありがとうございますね!
戻って階層を作ってみます!」
「おぅ! また遊びに来いよな!」
「お兄ちゃん、まったね〜!」
ギーシュは意気揚々と自分の階層へ戻り、早速魔力を流してみる。
ギーシュは魔王城から魔力を際限なく供給されている影響か、魔力を流していると言うよりは、魔力の循環に近い感覚を覚えた。
その状態を維持しつつ、頭の中で森を想像すると、地面からワシャワシャと木々が芽吹き、瞬く間に鬱蒼とした森が出来上がる。
「すっげぇ。けど、違うんだよな……
もっとこう、森に唯一月明かりが差す神秘的な……」
こうして着々と階層作りにのめり込んだ。
◇
勇者襲来まで残り1週間を切った。
ギーシュの階層は、とうとう完成にまで至った。
仕上がった階層はまさに秘境。
森の中で1箇所だけ木々が生い茂っておらず、月明かりが射し込む幻想的な空間。
準備の為に帰還したシズに階層を見せると、概ね好印象な反応が返ってくる。
「わ、わぁ! 凄いねギーシュ君!」
「ありがとうございます、シズさん!
その……今回は僕と一緒にこの階層を任されるらしいですけど、こんな感じで良かったですかね?」
「すっごく良いよ!
シズはこういう暗くて落ち着く雰囲気、とても好き」
その言葉にギーシュは胸を撫で下ろし、シズとお互いの役割について話を進める。
◇
シズが合流してから更に2週間が経った頃、ようやく勇者が魔王都市に入り込もうとしていた。
魔王城では、各階層への配信用の水晶球の設置も完了し、複数のアカウントでの動作確認も確認済み。
『みんなは各階層に待機!
いよいよ勇者を魔王城に迎えるよ!!』




