【アーカイブ3】 美少女♂ 爆誕!!
「自分の可愛いが分からない者が、可愛くなれる訳がないでしょうがァァァ!!」
理想の可愛さを即答出来ないルディウスにギーシュが喝を入れた。
「そ、その……ギーシュ君?」
「いいですか、魔王様?
『可愛い』にはそれはもう、沢山の種類があるんです!
顔だけが可愛くても性格が腹黒ければ台無しです、逆に腹黒さを武器にそういう層を狙い打ちする人もいます。
よし、ここまで来たら僕の可愛い論を語り尽くしますよ!
まずはですね──」
ギーシュ、怒涛のお説教。
何かのスイッチが入ったのか、それはそれは熱く『可愛い』について自分の考えを並べ立てる。
その口調はとても早く、常人ではとても聞き取れるような速度ではない。
そんなお説教が──。
「──ハァ、ハァ……と、言う訳です。
理解して頂けましたか?」
およそ20分間続いた。
その勢いに魔王であるはずのルディウスも、ちんまりと萎縮してしまう。
「我が思う……いや、目指す可愛いか……」
「まずは魔王様がどういう配信をしたいのかですね。
どういう層に向けて配信したいかを考えてみませんか?」
「そうだな、見ていて楽しくなるような。
それこそ君のような熱狂的なファンが支えてくれるような、支援者との距離が近い配信をしたい。
民の声を間近で聞くチャンスでもあるしな」
「民の声が聞きたいという事なので、まずは地域密着型の配信者を目指しましょうか。
僕達の言い方では『ご当地配信者』とかですね。
自分の住んでいる街の魅力や観光スポット、グルメなどを紹介してくれる人達です」
「う、うむ。
しかし、我の管轄となると魔界全域にならないか?」
「そこは……あぁ確かに……
では、最初はこの魔王都市から始めましょう」
「うむ、そうしよう。
誰よりも詳しい自信があるからな。
幻暦になってから起きた全ての事柄に、伊達に判を押していた訳では無いぞ!」
魔界の暦は魔王が変わる毎に変化するの習わしがある。
現在は幻王と呼ばれるルディウスが魔王であるため、『幻暦』と呼ばれている。
ちなみに前魔王の暦は『覇暦』と呼ばれていた。
その語感の強さから、どのような魔王かは想像に容易い。
「配信の方向が決まれば、次は容姿ですね。
魔王様はどの様な可愛さを求めますか?」
「先程の話しで君は、可愛さには大きく3つの種類があると言っていたね?
その中だと、我はパワフルな可愛さを目指したい」
ギーシュが大まかに部類した3つの可愛さとは、『キュートな可愛さ』『クールな可愛さ』そして『 パワフルな可愛さ』の3つである。
その中でもルディウスがパワフルな可愛さを選んだのは、キュートやクールよりも容姿に依存し過ぎない分、ファンが長続きすると思ったからだ。
「ご当地配信ならパワフルは相性が良いと思います。
領主側も明るく元気に自領を紹介されれば嬉しいでしょうし、可愛い子が紹介した領よりも、元気に紹介された領の方が経済効果も多少上がるって父上が言ってました」
「うむ! 経済が少しでも潤うのであれば、願ったり叶ったりではないか」
元より、配信者になる目的は経済面を何とかする事。
少しでもその助けになるなら、即決である。
「では次に、どのような容姿がよりパワフルに見えるかを考えましょう。
例えばですけど、ショートヘアとロングヘアなら、どちらの方が元気がありそうにみえますか?」
「うむ……一概には言えんが、短い方が活発な子に見えないこともないな」
「ですよね? でも、ロングヘアでもポニーテールにするだけで活発的に見えます。
そういう組み合わせも考えながら容姿を決めましょう」
ルディウスは分からないながらも、僅かな理解で自分の可愛いを紙に書き出してみる。
時折ぶつぶつと独り言を零しながら、筆を滑らせる。
◇
あれから数十分、ルディウスの考えはようやくまとまりを見せ始めた。
「ギーシュ君、ここは──」
「それでしたら──」
どちらの表情も極めて真面目だった。
やろうとしている事は馬鹿馬鹿しいと言われるかもしれないが、ルディウスは本気なのだ。
「2人ともいい目しちゃってもう……
クララちゃん、待ってる間に紅茶でも飲む?」
人相屋店長であるマーヴィスはまだ時間がかかると踏んで、クララに紅茶を勧めた。
「おう! あんがとな!
あっ、ぬるめで頼むぜ!」
「ふふ……はいはい、ぬるめね」
マーヴィスは店の奥に入り、紅茶を入れるためのお湯を沸かし始める。
お湯が湧いたら、それを茶葉が入ったポットに移し、カップへと注ぐ。
クララの分のカップには氷を1つ浮かべる。
お盆の上に2つのカップと茶菓子を乗せて、店内へと戻って来る。
「はいクララちゃん、お待ちどうさま。
お茶菓子もあるわよ?」
「ふわぁ! た、食べていいのか!?
いただきま〜す!」
手を合わせて元気な「いただきます」を唱える。
クララは添えてあるクッキーやチョコレートを、それはもう幸せそうに頬張る。
傍から見れば、イケメンと美少女の優雅なティータイムに見える事だろう。
「出来たぞぉ!!」
突如、店内にこだまするルディウスの大きな声。
とうとう紙に書き終えたのだ。
ルディウス自身が目指す『可愛い』を。
「どうやら、出来たみたいね?
クララちゃんはゆっくり飲んでて。
あたしは魔王様の所に行ってくるわ」
マーヴィスはゆったりと席を後にし、ルディウスの元へ向かう。
「はい、じゃあその紙を見せてもらえるかしら?」
「うむ! 何とかなりそうか?」
マーヴィスはルディウスに手渡された紙に、さっと目を通して一言。
「これなら何とかなりそうね!
少し時間が掛かるから、あちらでクララちゃんとお茶でも飲んでいてくださいな?」
「ああ、頼んだぞマーヴィス。
もし迷惑でなければ、作業を見学しても良いか?」
「面白いかは分からないけど、構わないわよ? こちらの部屋へどうぞ」
ルディウスはマーヴィスに続いて、奥の部屋へと入っていく。
ギーシュはかなり疲れた様子で、クララの向かいの椅子に腰掛けた。
「おう! お疲れ様だったなぁ!
魔王様に色々教えてくれて、ありがとな!」
「いえ、お役に立てたなら何よりですよ。
クッキーをお1つ貰っても?」
クララは素直にお礼を言うと、クッキーをいくつか小皿に分けてギーシュに手渡す。
ギーシュはクッキーを受け取ると、軽くお礼を言って紅茶と共にひと口。
「ふぅ……今日はなんだか疲れちゃいました。
魔王様はいつもこんな感じなんですか?」
「いや、普段はちゃんと魔王様してるぜ?
ただ、あんなにキラキラした魔王様は久々に見た!」
「いつもこんな感じではないんですね」
「いつもあんななら、ただのやべぇ奴だろ?」
「ですよね……ハハハ……」
ギーシュから乾いた笑いが漏れる。
仮にも魔王に対してこの物言いに、流石のギーシュも驚いているのだ。
ただ、ギーシュは魔王配下の関係性を、この時はまだ勘違いしていただけなのである。
◇
場所は変わり、マーヴィスの作業部屋。
ルディウスは真剣な眼差しで、彼の作業を見学させてもらっている。
「ふむ……ほう……そうなるのか……」
「普通は製作途中の魔法陣を見ても、何をやっているかは分からない物なんですけどね……
そこは、流石魔王様と言った所かしら?」
魔法を発動させるための複雑な陣が書かれた紙や布の総称を『魔法陣』と呼ばれている。
その用途は様々で、獣避けから生活に使うような物まで多種多様である。
マーヴィスは机いっぱいに広げられた大きな紙に、ルディウスの要望通りの姿になる為の魔法陣を手作業で書いている。
魔法陣を書くために置いてある器具は、どれも素人目では使用方すら分からないような物ばかりだ。
「今書いてるここは、何を表しているか分かるかしら?」
「そうだな、髪の色と……長さ、と言うよりは形か?」
「凄いわね……そんな事まで分かられたら、あたし達の仕事あがったりよ?」
「いや、大まかには分かるが専門外なのでな。
この手の陣作成で、マーヴィスの右手に出る者は居ないだろう」
駄弁りながらではあるが、マーヴィスの手は止まらない。
それどころか、効率良くテキパキと魔法陣は完成に近付いて行く。
しばらくすると──。
「はい、完成よ。
魔王様、ここで使ってみるでしょう?」
「勿論だ! 早速使わせてもらおう!」
ルディウスは魔法陣が書かれた紙を手に持って、いそいそとギーシュやクララの元へ向かった。
「見てくれ2人共! 完成したぞ!」
「おっ、ようやく出来たんだな!
なぁ! 早く見せてくれよ魔王様!」
「まぁ待ちたまえ。安全のため、2人とも少し離れてくれないか? まだまだ未熟故、すまんな」
魔法の才だけを見れば魔界随一のルディウスがそれを言ってしまえば、もはやただ嫌味だろう。
しかしルディウスには、そんな気は欠片も無い。
純粋に自分にまだ伸び代があると思っている。
そうでないとやってられないのである。
「魔法陣を発動する。『起動』!」
ルディウスが手に持つ魔法陣が、紫色の炎を上げて燃え上がる。
完全に燃えてなくなると、ルディウスの手の甲に薄く同様の魔法陣が浮かび上がる。
これで魔法のインプットが完了した。
「それでは早速……『仮想姿』」
唱えると、ルディウスの姿はぐにゃぐにゃと歪み、少しずつ設計通りの少女の姿を形作っていく。
数秒もすると変化の魔法は無事に完了した。
気を利かせたマーヴィスが用意した姿見を前に彼、いや彼女は目をぱちくりとさせて驚いた。
「はぇ〜、魔王様が可愛いなぁ!」
「どんな姿になるかは大体分かってましたが、それでもこうして見ると可愛いものですね!」
クララもギーシュも驚きの声を上げる。
鏡に映るは理想的な少女。
肩の辺りで短く切り揃えられた、活発そうな印象を与える艶めいた黒髪。
好奇心に満ち溢れた、煌めく星を思わせる紅蓮の瞳。
薄いながらも、ぷるんと瑞々しい唇。
「そうだろう、そうだとも! 我、可愛い!!」
こうして無事、幻想姿で美少女を受肉した魔王が、ここに爆誕したのである。
「我ながら可愛く出来て、大満足よ〜♡
さて、今回は魔法陣の作成、人相登録、その他オプション代は請求書に記載しといたわ」
マーヴィスが今回の内訳を打ち出した請求書を、美少女となった魔王ルディウスに渡す。
内容を確認したルディウスは、青い顔で苦笑いをするしか無かった。
「お会計は締めて、170万ルンになるわ。
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次回、魔王城に帰還!