【アーカイブ27】 勇者と護衛ちゃん
「魔王様! 勇者っす!
勇者が魔王城に向かって来てるらしいっす!!」
慌てた様子のマイヤが、現在絶賛コラボ配信中の部屋へノックも無しに駆け込んだ。
しばしの沈黙の後、各々が状況を理解し始める。
ギーシュは手で眉間を掴み天を仰ぎ、クオンは視聴者に悟られないようにマオに視線をやり、マオは冷静に頭をフル回転させ、次の指示を考える。
そして、肝心のマイヤは冷や汗を垂れ流し、顔に笑顔を貼り付けて退室しようとした。
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2028
:なんだなんだ? 今の誰?
:↑たぶんスタッフさんの1人で、護衛ちゃんだね
:この声は護衛ちゃんだ!何事なんだろ?
:ってか、勇者とか言ってた?
:普段から魔王様呼びとか、徹底されてんな……
:↑自然に呼んだのかもよ? 実はガチ魔王とか?
:↑冗談だと思えないから困る。
:護衛ちゃんも出ておいでよ!!
:普通に配信事故じゃねぇの?
:マオちゃん、勇者って何ですか?
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コメント欄は疑問の声と、護衛ちゃんの登場に歓喜する声と半々。
その中から、マオは勇者についての質問を拾い上げる事にした。
「まだ混乱していると思うけど、ひとまず勇者について説明しちゃうね!
まず勇者ってのは、言わば人族の希望の象徴なんだ。
大戦時、人軍の最前線で獅子奮迅の活躍を見せた、この世界の人物でない人だ」
「はい! 質問があります!
この世界の人物じゃない人とは?」
クオンが手を挙げ、コメントでも聞かれていた事を代表してマオに質問する。
「うん、いい質問だねクオンちゃん!
彼らは大きく分けて2タイプに分けられて、その内の1つは神の気まぐれ。
要するに、何らかの要因で突然この世界に迷い込んでしまった者達だね。
そして肝心の1つが、人族によって召喚された者だ。
こっちが問題でね……」
「それが、勇者って事だよね?
こっちに向かってるって言ってたけど……ヤバいの?」
「う〜ん。一概には言えないけど、国家間の問題になりそうなのは確かだよ……」
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2046
:大問題じゃん……
:同じ人族としてすまんの……
:↑推しが同じなら味方だよ。お前は悪く無ぇ
:こんな事する国ってさ、皇国だったりする?
:穏やかじゃないな……
:ここに向かってるって言ってたよね?そこどこ?
:↑確かに……!! どこで配信してるんだ!?
:↑危ないなら早目に避難しないと!
:↑マオちゃんなら応戦した方が早そうだけどな。
:マオちゃんの配信場所さ、魔王城だったりしない?
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勘のいい者が数人、マオの配信場所を突き止め始めた。
これは不味いと何とか話題を逸らそうと試みるも、コメント欄での考察はヒートアップして行く。
「(マオちゃん、どうしよう?)」
「(正直か〜なり困ってる。
そして、大概こういう時はだね……)」
フレーム外で密かにコメント欄の沈静化を図ろうとするギーシュに、渾身のサムズアップとてへぺろを披露して見せた。
要するに、『何とかしておくれよギーシュ君』だ。
ギーシュもそれに気付いたようで、全てを丸投げされた絶望感が彼を襲う。
しかしギーシュは頭をフル回転させ、正否はさて置いてしまうが、1つの答えに辿り着く。
彼は急いでスケッチブックを用意し、マオへメッセージを殴り書く。
『魔王である事実以外、ぶっちゃける事を許可します』
それを目にしたマオ、及びクオンは驚いた。
何事にも慎重をきたすギーシュが、ここまで大胆な事をするのかと。
「はーい、皆1回落ち着いてね!
今スタッフさんからお許しが出たし、情報を少し解禁していくから静粛に!!」
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2057
:情報解禁だと!!?
:厳しいスタッフさんのお許しか?
:なになに? 何がどういう事?
:↑謎多きマオちゃんの真実が知れる!!
:↑マオちゃんの正体が明らかになるかもな……
:苦渋の決断だったんだろうな……
:護衛ちゃんは後で大目玉喰らうのかな?
¥:護衛ちゃん元気だしなよ……
:どんな情報が解禁されるのかな?
:大丈夫な情報だろうな?
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「まず初めは、皆の予想通りだね。
ここは、魔王城の一部を借りて配信しているよ!
実際に魔王様からも許可貰ってるし、大丈夫!
それと直接許可が貰えるって事は、お察しの通りアタシは魔王城の関係者って事になります。ドヤ!」
わざとらしくドヤ顔まで披露する。
真実の中に所々嘘を織り交ぜて、信憑性も少しは増した事だろう。
そこで、クオンも慎重に言葉を選びながら、マオの援護をしようとする。
「そうそう私ね、実は今も結構緊張してるんだよ……
マオちゃんやスタッフさん達と打ち合わせした時にも、1回来たんだけど、未だに強ばっちゃうんだよね」
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2087
:マジで魔王城なのかよwww
:クオンちゃんヤバい友達できちゃったね……
:魔王城!!!???
:情報の量が多いな、俺じゃなきゃ受け止められねぇ
:ファっ!!?
¥:クオンちゃん! スタッフさんはどんな感じたった?
:↑確かに気になる!
:このチャンネル国営って事?
:国営マギチューナーとか語感が強過ぎるww
:魔王都市の未来明る過ぎてうらやま
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「あっ、国営って訳じゃないよ!?
この活動はほぼアタシの独断だからね!
アタシの動画で魔王都市の事を知ってもらって、観光客がもっと増えればいいなって!」
「そんな目的があったんだ!
私はそれはもう自分の欲望のままにだったよ……」
そう言いながら目を逸らす。
マオは如何にも崇高な目的の為という顔をしているが、真の目的は財政をどうにかしたいとかいう、ほとんどクオンと似たり寄ったりな動機である。
「まぁ、欲望に関してはアタシもあるからね……
そもそもマギチューナーを始める人なんて、誰でも少なからず欲望や野望があるもんだよ!」
「だね! 私は取り敢えず、収益化されることかな。
皆もちゃんと協力してよね!?」
「アタシのファン達も、ちゃんとチャンネル登録してあげてよね!
そしたらもっとコラボ増えちゃうかもよ〜?」
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2102
:お願いします……クオンちゃんをどうか……
:↑任せろ、俺たちは可愛い子の味方だ
:↑上に同じく
:↑マオちゃんとのコラボを心が欲してるんだ!
:マオちゃんファンいい人多いな……
:ありがてぇ……
:推しの友は推しって言うだろ
:↑初めて聞いたけどいいな。明日から使うわ
:クオンちゃんチャンネル登録してきたぞぉ!
:↑ナイスゥ!!
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視聴者を煽ると、みるみる内にクオンのチャンネル登録者数が増えて行った。
2桁所か、3桁の数字が跳ね上がる。
ただ本人はそんな事になっているとは知らず、コラボ配信を続ける。
多少は話をずらせたと思われたが、話題が話題のため再び勇者の話へ戻っていく。
「うーん……話を逸らそうとはしたけど、やっぱり戻っちゃうかぁ……
しょうがないなぁ、護衛ちゃ〜ん! こっちおいで〜」
「は、はーい。
お久しぶりの人はお久しぶりっす〜……
先程盛大にやらかした護衛ちゃんでーす。あはは」
マイヤは複雑な面持ちで生配信に映り込む。
クオンとマオは楽しそうに振る舞うが、やらかした張本人の笑顔の何とぎこちない事か。
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2158
:護衛ちゃんキター!!
:テンション低っっっくいなオイ!!?
:この子がみんなの言うスタッフさん?
:↑そうそう。その中の護衛ちゃん
:護衛ちゃんお久さ〜!!!
:この子は不憫可愛いんだよ、僕っ娘だし!
:トラブルメーカーの素質ある
:なんか学生時代の後輩の女の子思い出すんだよな
:↑めっっっちゃ分かる!!
:↑生意気な軽い敬語とかが正にそれ
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突然のマイヤのフレームインに大いに盛り上がる。
それ自体は彼女も嬉しいようで、手を振って応えた。
「いやぁ、ぼくのせいでお騒がせしちゃったっすね……
出来れば……炎上はさせないで欲しいなぁ……ね?」
マイヤは視聴者に語りかけてみるが、燃え上がった話題はそう簡単に消えはしない。
コメント欄はマイヤが口を滑らせた、勇者に言及するコメントが多く見られる。
「いやぁ、だってしょうがないじゃないっすか!
あんなのが攻めて来たら、ぼくだってタダじゃすまないっすからね!?」
「護衛さん……ちゃん? は、勇者の事を知ってるの?」
クオンが会話の助け舟を出したのだが……
「あぁ、いい思い出無いんすよね……
剣術ではただの1回も勝てた試し無いし!」
マイヤはいとも簡単に沈没させてしまう。
マオは『あちゃー』と言った表情、画面外のギーシュは頭を抱えて悶えていた。
コメント欄が盛り上がるより早く、クオンは彼女に質問を始める。
「勝てた試しが無いって、戦った事があるの?」
「そうっすよ!
ぼくの種族って生鮮な屍人なんすけど、生前は人族でぇ……ってアレ?
もしかしてぼく、またなんかやっちゃったっすか??」
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2202
:やっちゃったね……
:無意識系主人公じゃねぇか!
:護衛ちゃんも何者だよ……
:マオちゃん陣営、ヤバい奴しかいないの?
:↑まぁ、多分そう。
:↑厳しいスタッフさんも多分ヤバいよなw
:勇者ってどれくらい強いの!?
:勇者と手合わせができる時点でさ……
:護衛ちゃん何歳なんだろ?
:↑確かに気にはなるよね、失礼だから聞けないけど
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「ん? ぼくの年齢が気になるんすか?
うーん、人族の時は20になる前には、あっさりぽっくりざっくり死んじゃったっすね!
で、なんやかんやあって生鮮な屍人になった訳っす」
「うわぁ、大雑把な解説……
マオちゃんは詳しく知ってるの?」
「アタシが知ってる事? そうだなぁ……
聞いたところによると、護衛ちゃんの生涯を哀れに思った魔王様が、人族の墓地からあれやこれや持ち出して、魔族として第2の生を与えた……って話だね」
「へ、へぇ〜……
結構重い感じのお話だったりするのかな?
安易に踏み込んじゃダメだった?」
「特に重くは無いっすよ!
クソザコナメクジだったぼくを、魔王様が今のぼくにしてくれてハピハピハッピー! ってお話っす」
マイヤは明るく振る舞うが、普通の人族からしたら割と重い話である事は確か。
────────コメント────────
【コラボ!】 待ちに待った再コラボ
同時視聴者数:2233
:ええ話や……!!
:↑ええ話なのか???
:ってか、魔王様って蘇生の魔術も使えるの?
:蘇生って人族側だと禁忌の魔法なんだけど……
:↑いや、魔族側も似たような扱いだぞ?
:↑これに関しては種族関係無いと思う
:護衛ちゃんって、大戦時代を生きた人なのかな……
:↑だとしたら凄いよな……
:↑歴史的偉人の可能性あるよね!
:今の護衛ちゃんが元気ならそれでいいよ。
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「思いの外みんな優しいっすね!」
「そうだよ、流石はアタシを推してるだけあるよ」
「でもマオちゃん、このコラボの終着点どうする?
今の所トラブルしか起きてないけど……」
「うっ……確かに!
そうだなぁ、クオンちゃんとのコラボ配信は今後も続けるとして、次の配信はそうだなぁ……
せっかくだし、ここに来るであろう勇者を撃退する配信にでもしてみようか!?」
このとんでもない発言により、マオのチャンネル登録者数が爆発的に伸びる事になる事を、彼女はまだ知らないのであった……




