【アーカイブ25】 その後の配信にて
あれからマオは何回か配信を行ったが、アンチが現れる事は一切無かった。
むしろ、あれだけの事があったにも関わらずアンチ行為を繰り返すようなら、マオは関心すらしただろう。
すっかり日も落ち、夕食時もとうに過ぎている頃、マオの配信もそろそろ終わりを迎えようとしていた。
「うーわ! 気付いたらもうこんな時間じゃん!?
想定より長く配信しちゃってたね!」
────────コメント────────
【定期】いつもの雑談枠
同時視聴者数:807
:最近時間溶けるの早いわ……
:マジじゃん、2時間あっという間かよ。
:そういやさ、最近居ないよなアンチ的な奴ら
:↑いないに越した事は無いんだがな。
:確かに見ないな、死んだか?
:あの魔法の数々見てきて、よく喧嘩売れたよな
:マオちゃんは激推しだけど、怖さもあるんだよ。
:↑分かる。ただ、このスリルも含めて推せる
:↑このチャンネルの支持者ドM多いよな、俺含め。
:配信に夢中で夕飯食べ忘れた……
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コメント欄の何人かがアンチが現れない事に気付く。
マオもそのコメントを見つけ、反応した。
「あっ! 皆も気付いちゃった?
以前まで配信を邪魔してたアンチなんだけどね、アタシ直々にお灸を据えて、改心させました!
ほら皆、拍手!!」
────────コメント────────
【定期】いつもの雑談枠
同時視聴者数:805
:8888888
:88888
:直々に改心……だと!?
:マオちゃんのお仕置きとかご褒美では……?
¥:アンチ共に何をしたらそうなるの?
:\88888/
:実際会ったの? だとすれば度胸ヤバい。
¥:アンチ対策を他の配信者と共有して欲しい!
:まぁ、マオちゃんだからな!
:何がヤバいってさ……居るんだよな、コメ欄に。
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素直に賞賛したり、マオのアンチ策を聞きたがったり、マオの突飛な行動を心配する様なコメントが流れる。
「みんな心配してくれてありがとう!
やり方についてはね……正直アタシだけの力じゃないし、スタッフさん達も総出で頑張ったから、アドバイスとかは難しいかな……?
強いて言えば、二度と同じ過ちを犯さないように骨の髄まで思い知らせたから、少なくとも彼らが他の人に嫌がらせをする事はないと思うよ!」
肝心な所は軒並み全てを濁して伝えた。
1箇所に集めたアンチ達を魔王城に転移させ、魔王配下達が盛大にビビらせた上に、推し変を強制させる次いでに、口外すれば即死の契約魔法を掛けちゃいましたなど、到底言える筈もない。
勿論、即死の契約魔法についてはマオのお茶目なブラフであるのだが、その事を知らないアンチ達は是が非でも秘密を守るだろう。
そして何より推し変をさせられた事で、以前にアンチ行為をしていたアカウントのまま、マオに応援のコメントを送っているのだ。
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【定期】いつもの雑談枠
同時視聴者数:805
:マジで? うわホントだいるわ!
¥:その節はご迷惑をお掛けしました。
:洗脳魔法とかってあるのか?
:まぁ、マオちゃんだしなぁ……
:↑その言い回し万能過ぎるな
¥:本当に申し訳ないです、はい。
¥:これからはマオ様の為に全力を尽くす所存です!
:嘘だろマジか……気付かなかったわ
:何か詫び課金しててワロタ
:何だろう、これからよろしく……なのか?
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アンチ達のあまりの変貌に、普段の視聴者ですら困ってしまう有様である。
しかし、アンチをしていた過去があろうと現在マオをここまで応援しているならと、マオのファン達はその過ちを許し、受け入れる姿勢を取った。
「ちゃんと仲良くできてて、偉いよみんな!!
流石アタシを推してるだけあるね!
過去は過去、この先ももっと訳有りファンとか増えるかもだし? 慣れていってよね?」
マオは暗にこの先も、厄介な属性が付与されたファンが増える事を示唆する台詞を綴る。
元アンチ以上に癖のある輩とは何ぞや? と、コメント欄は疑問の嵐だ。
そんな事をしていると、配信中にピロン♪ と、誰からかメールがスマボに届く音がした。
配信中ではあるが、コメント欄では着信音の相手が気にようで、マオは言われるがままに確認してみる。
「待っててね……どれどれ……わぁっ!
内容はまだちゃんと読んでないけど、送り主はクオンちゃんだったよ。
またコラボしたいよね〜、皆も盛り上がってたし!」
────────コメント────────
【定期】いつもの雑談枠
同時視聴者数:808
:クオンちゃんだと!!?
:これは楽しみだなぁ……
:オフでも連絡取り合ってるの最高かよ!
:オフの推しの絡みからしか得られない栄養がある!
:内容が気になるぅ〜!
:この前のコラボの子だよね?
¥:あのコラボ楽しかったし、またやって欲しい
:スタッフさんも良かったよね……名前なんだっけ?
:↑僕っ娘の護衛ちゃんだな!
:↑護衛ちゃんですね。あの子も不憫可愛かったな
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前回のコラボが相当好評だったようで、コメント欄では再コラボを熱望される。
マオ本人もコラボはかなり楽しんでおり、実はまたコラボの誘いをしようかと悩んでいたのだった。
「コラボまたしたいよね〜! 分かる!
クオンちゃん含め、色んな配信者さん達ともっと積極的にコラボしたい!
まぁ、スタッフさんに要相談なんだけど……」
それを聞いたコメント欄は、『確かに……』、『厳しいもんね』など、ギーシュに対する考えが綴られる。
ただ、基本的にマオのスタッフさんは、一部を除き常識的であるとされているため、批判などは一切出て来ない。
どちらかと言えば、マオの自重を促す者が多い。
「そうやってスタッフさんばかり庇うんだ〜!
ふーん、君達はそういう事言うんだ……
撃っちゃ駄目な魔法を撃って、君達に唆されたって言っちゃうかもよ?」
マオは悪戯な笑顔でそんな事を言い出す。
────────コメント────────
【定期】いつもの配信枠
同時視聴者数:810
:スタッフさん、涙目になっちゃうぞ
:俺たち微塵も悪くないじゃん……
¥:そもそも撃っちゃ駄目な魔法を撃つなよ……
:セバスさんに何とかしてもらわないと
:↑あの人の結界凄かったよな
:スタッフさんって合計何人いるんだろ?
:↑今の所分かってるのは3人か?
:厳しい人、セバスさん、護衛ちゃんの3人か
:この3人ならセバスさんが1番有能かな?
:マオちゃんの手綱を握れてる、厳しい人はヤバい
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「ん? みんなスタッフさんの人数が気になるの?
それくらいなら大丈夫かな、全員で6人だよ!
その内配信中に他のスタッフさんにも会えるかもね。
はいはい! 今日は少し遅くなっちゃったから、課金メッセージだけ読み上げてくよ!」
その後も少し雑談を挟みながら、課金メッセージを読み上げて配信を締めた。
もう何度も行っている配信だが、以前と違う点がある。
ギーシュがそばに居ない事だ。
最近は配信のみの時はマオに完全に任せ、ギーシュは別の作業をしている事が多い。
「ふぅぅ……今日も無事終わった……
我もなかなか様になって来ているのでは?」
キラキラと紅い瞳を輝かせ、盛大に自惚れる。
そんなマオに音も無く忍び寄り、こっそり様子を見に来たギーシュが声をかけた。
「様にはなってますけど、危うさは残ってますからね……」
「うわっ! びっくりしたなもぅ……
あ、そう言えば配信中にクオンちゃんから連絡が来てね、今から読もうと思って」
「クオンさんからですか?
魔王様が読んで、僕も読んでいいと判断してからなら見てみます」
「分かった、少し待っててよ……と、どれどれ」
クオンから送られてきたメールにざっと目を通す。
するとマオは思わずニヤけ顔になり、メールをギーシュに見せる。
「また近々コラボしませんか? だって!!
する! したいぞ! ……いいよね?」
「それは全然構いませんが、打ち合わせには僕も参加させてもらいますからね?
それと、今回は向こうからのコラボのお誘いなので、こちらの配信にお招きする訳です。
どうするつもりかだけお聞きしたいのですが……」
要するに、クオンを魔王城に招くという事だ。
そうなれば、自ずとマオの正体も気付かれる可能性があるという訳で、何とかして隠し通すのか、打ち明けるのかを問うている。
「そうだね、1度しかコラボしていない仲だが、彼女は信用に値すると考えているよ。
長年魔王をしているからね、そういう類の目は確かなつもりだ。
我の配下達を見れば、それは分かるだろう?」
「信頼して貰えているようで光栄ですよ。
では、クオンさんには正体を明かしても問題が無い、という事でいいすね?」
「あぁ問題は無いと思うよ。
彼女の精神性は限り無く、善に寄っているからね」
マオの表情は確信に満ちている。
勘と言えば聞こえは悪いが、今までの魔王としての経験則ありきの勘である。
他の魔族のそれとは貫禄が違う。
「そうと決まれば、早速返信しておくよ。
ギーシュ君は予定とかあるかい?」
「僕はいつでも大丈夫ですよ。
時間と場所さえ教えて貰えれば、いつでも動けます」
「そうか、ならば日時と時間は追って連絡しよう。
いつでも行けるように準備だけ頼むよ?」
「はい。では日時が決まったら、また教えてください。
僕はこれで失礼しますね」
そう言い残して、ギーシュは部屋を後にした。
部屋に残ったマオは、早速クオンに連絡をとってみる事にした。
今回は前回のように硬い文章ではなく、友人間での軽いやり取りである。
マオはコラボを全面的に肯定しつつ、自分のチャンネルに出てくれる事を書き、打ち合わせの日付けと打ち合わせ場所を指定した。
場所は以前に打ち合わせをした所と同じカフェで、日時は翌日の昼辺りを提案した。
「さて、クオンちゃんには酷かもしれないけど、魔王城へ招く用意をしておくかな……」
◇
翌日の休日、長閑な昼下がりのカフェにて、マオ、クオン、ギーシュの3人は次のコラボ配信に向けて打ち合わせをしていた。
「ところで、マオちゃんの配信部屋ってどんな所なの?
私は工房で、普通の人とはちょっと違うから……」
「えっと、それなんだけどね……
何て言うのかな、その……」
マオは目線だけでギーシュに訴えかける。
「マオが言い難いみたいなので、僕から言わせてもらいましょうかね?
簡単に言うと、コラボをするに当たり、クオンさんには1つ秘密を守って貰う事になります。
失礼かもしれませんが、口外しない自信はありますか?」
「え、まぁ自信はありますけど……
それって、私が知っても良い秘密なんですかね?」
「それについては話し合った結果、信頼に値するとマオ本人が決めましたので大丈夫だと思います」
クオンは不安な気持ちもあったが、信頼されているという言葉に嬉しい気持ちの方がが表情に現れる。
「そ、それは嬉しいんだけど……秘密って?」
「これはアタシから言うよギーシュ君。
クオンちゃん、アタシ達と魔王城に来てくれないかな?」
「…………ふぇ??」




