【アーカイブ20】 黒幕は……
配信の度にコメント欄を荒らすアンチ達の、黒幕の可能性がある2人の内、個人で運営しているクオンという配信者に連絡を取った翌日。
「おっ、早速返事が来てますよ!!」
「急に大声出したらビックリしちゃうでしょ?」
「それはすみません……」
「け、結構早かった……ね?」
「何の返事が来たんすか〜?」
のどかな休日の朝、朝食を食べ終えてリビングて寛いでいたのはギーシュにマオ、シズにマイヤの4名。
マイヤは生鮮な屍人故のものなのか、常人ではありえない姿勢でソファでだらけている。
他の配下達は朝食の後片付けをしている頃だ。
「我にも少し読ませておくれ?」
「どうぞ」
と、自分のスマボをマオに差し出す。
返信されたメールの内容はこうだ──
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件名:コラボのお誘いについて
本文:マオのご当地魔王チャンネル
マネージャー ギーシュ様
はじめまして
クオンと申します。
当方へのコラボのお誘い、
大変嬉しく思います。
こちらとしましては、是非とも
コラボを成功させたいです。
そこで、急なお願いで恐縮ですが、
差支えが無ければ本日の13時に
魔王都市国立記念公園の南出入り口前にある
『ドトーラ』という喫茶店での打ち合わせは
可能でしょうか?
初めてのメールでしたので、
失礼があったらごめんなさい。
どうぞ、よろしくお願い致します。
署名:クオンのチャンネル
クオン(○○○-△△△△)
住所:〒***-****
Tel:○○-□□□□-✕✕✕✕
Mail:☆☆☆@〇〇〇.co.mo
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配信者クオンからの返信をさらっと流し読み終え、スマボを返却した。
「ありがとう。
さて、今日の午後1時か……
こんなの、行くしかないよね?」
「僕もそう思います。
魔王様と僕はともかく、シズさんはどうしますか?
一緒に来ますか?」
「し、シズは……他のお客さんに紛れて、こっそり……」
「分かりました。では、僕と魔王様で対応しますね」
何事もなく予定が組めそうになったその時、第三者により待ったがかかる。
「ちょ〜っと待ったァ!!
そんな面白そうなイベントに、このぼくを置いて行こうなんざ許せないっす!
絶対にぼくも行くっす! 大人しくするから!」
「えぇ……」
ギーシュの肩を掴み、激しく左右に揺らしてせがむ。
突然の駄々っ子爆誕に、ギーシュも引き気味。
しかし考えてみると、今回は敵かもしれない人物との邂逅な訳で、正直なところ何があるか分からない。
「分かりましたから、肩揺らすの止めてください!!
付いてきても良いですけど、大人しくでお願いします。
で、今からメールで返信しますが、名目としてはこちら側のスタッフ達との顔合わせという事にしておきます。
だからくれぐれも、話を拗らせる事をしないように!」
「かしこまりっす! いょっしゃ〜!」
元気なお返事と共に、渾身のガッツポーズ。
底知れない不安は残るが、護衛としてはかなりの腕を持っている為、ギーシュは何とか状況を飲み込んでメールの返信をした。
「そう言えばぼくは詳細を知らないんすけど、そもそも敵って何の事っすか?」
「それは道中に僕が軽く説明します。
ひとまず全員、打ち合わせの準備をお願いします。
僕はいつも通りな服ですけど、マイヤさんはカジュアルな格好で行きましょう」
各々が自室で準備を整えるため、1度解散した。
ギーシュは鞄にスマボやスケジュール帳、筆記用具などを詰め込む。
マイヤは一応護衛が目的故に、ある程度オシャレかつ、防御力が高めの服を探す。
マオは……自室に来たは良いが特に準備する物も無く、早々に部屋を後にする。
皆があれやこれやと準備をしている内に、気が付けば既にお昼前。
昼食のリクエストを聞きに、執事のセバスニャンがマオの元へ。
「魔王様、昼食は如何なさいますか?」
「いい所に来たなセバスニャン、我とギーシュ君、マイヤ、シズの4人は軽食で頼むよ。
午後1時からは同様の面子で外出するから、留守を頼めるかい?」
「かしこまりました。
では、サンドイッチをご用意しておきますので、数分後に食堂へどうぞ」
「あぁ、ありがとう。助かるよ」
◇
軽めの昼食を食べ終え、4人は待ち合わせ場所のカフェへと足を運ぶ。
ギーシュとマオ、シズはいつも通りの服装だが、マイヤは短パンにオーバーオール、ハンチング帽という、ボーイッシュ全開なコーデだった。
本人曰く、これが1番硬いのだそうだ。
道中、今までの経緯をマイヤに説明したところ、さも当たり前のように「え、ブッコロで良くないっすか?」などと言い出した為、ギーシュはより一層不安に駆られた。
そんなこんなで、予定の時間よりも幾分早く到着してしまった一同。
時間はまだかなりある為、打ち合わせ相手のクオンはまだ到着していない。
「さて、先に席に座っておこうか?」
「お散歩でお腹すいたっす!」
「さっきお昼食べたでしょうに……
では、先に席を取っておいてください。
僕はお店の入口でクオンさんを待ちますので、後で店内で合流しましょう」
「分かった。では我らは先に待っているとしよう」
そう言うとギーシュは外に残り、マオとマイヤ、シズの3人は店内へ。
マオとマイヤの2人は4人以上で座れる席に、シズはその席が見えるカウンター席へ座った。
予定の時間の10分前にもなると、動画で見た事がある影が向かって来るのが見えた。
今回の打ち合わせの相手、クオンである。
身長は引くめだが、深紅のツリ目が厳しそうな印象を抱かせる可憐な女性。
そして何より印象的なのは、頭上のプリティな狐耳。
纏う服装は比較的地味めな紺色のワンピースに、斜め掛けの大きな鞄を引っ提げていた。
ギーシュは早速コンタクトを試みる。
「あの……すみません。
クオンチャンネルの、クオンさんでいらっしゃりますでしょうか?」
「え? あっ、はい! クオンです! えっと……」
「申し遅れました、僕はギーシュと申します。
マオのマネージャーです。どうぞお見知りおきを」
「そ、その声……もしかして、スタッフさん!?」
動画内では吐いた声しか入ってない筈なのに、少し話しただけで看破されてしまうギーシュ。
「よく分かりましたね……
特段隠すつもりもないので言いますと、お恥ずかしながら僕がそのスタッフさんです」
「わぁ、感激です!
その……マオさんはどちらに?」
「あぁ、先に店内に待機して貰っています。
一緒に行きましょうか」
「お願いします!」
店内に入り、店員さんに案内されてマオ達の元へ。
背もたれ付きの長椅子がテーブルを挟んで、対面する形の4人掛けの席。
マイヤは背もたれで見えないが、対面に座るマオはギーシュに気が付くと、軽く手招いて席へ誘導する。
マオとの初めての対面にシオンは──。
「ほほほほ本物のマオちゃんだ!! ああのあのあの……くくく、クオンと申します!! よろしくおおお願いしまし!!」
「そんなに緊張しないで……落ち着いて、ね?
こちらの席へどうぞ」
クオンは噛み噛みの自己紹介を披露した。
想定していた雰囲気ではなく多少は困惑したが、マオは対面、要するにマイヤの横の席への着席を促した。
「で、では失礼して──ひぇッ!!?」
席に座ろうとした瞬間、何かを見て悲鳴をあげた。
何事かと不審に思ったギーシュが、死角にいる不安の種の様子を恐る恐る見てみる。
すると、如何にもガラの悪いサングラスを掛け、ガムを噛み鳴らしながら、クオンにガンを飛ばしているではないか。
「こんのバカチンが!!」
「痛っったぁ!!? 初手暴力は違うと思うっす!!」
「コラボ相手を初手で威嚇するお馬鹿さんが、何処に存在するんですか!?
そりゃ怒りのゲンコツも出るよ!」
頭をかち割られる勢いのゲンコツを受けたマイヤは、ギーシュに抗議をしつつ、たんこぶを撫でる。
そんな様子を見せつけられたクオンは、緊張していた事などすっかり忘れ、笑いが込み上げた。
「ぷっふ……あっははは!
その、皆さん仲が良いんですね?
緊張を解いてくれてありがとうございます」
「その通りっす! 緊張しているのを見越した、一種のパフォーマンスだったんすよ!」
「はぁ……2人共、帰ったらお説教ですからね?」
「我……アタシも!?」
突然降りかかった火の粉に、マオモードな事を完全に忘れて素が出かける。
当たり前だろう。マイヤの狂った行いを、責任者が止めなかったのだから。
「それではクオンさん、席にどうぞ。
改めて自己紹介しましょうか?
僕はマオのマネージャーをしている、ギーシュです」
「僕はマイヤっす! お、主に雑用とかを任されてるっす!」
「そして、アタシがチャンネルの主のマオです!
これからよろしくね?」
3人の軽い自己紹介が終わる。
そして、クオンの自己紹介に。
「改めまして、クオンのチャンネルのクオンです。
実はマオさんの生配信、初回から欠かさず視聴してるんです!
だからコラボのお誘いが来た時、すっごく嬉しくて。
このコラボ、絶対に成功させたいです……
どうか、よろしくお願いします!」
クオンは自己紹介と、コラボに対する意気込みを語って見せた。
クオンと出会ってからまだ数分程度ではあるが、ギーシュ達は確信する。
この少女はアンチ共の黒幕では無いと。
「それでは、コラボの打ち合わせを始めましょう!
まず最初に、どういった内容の動画にしたいですか?
個人的には、クオンさんの魔道具とマオの魔法を上手いこと絡めたいのですが……」
「はい、それなら私の魔道具のひとつに、魔力を込めれば込める程に威力が上がるネタ武器が「却下します!」」
ギーシュは食い気味で却下した。
魔力を込めれば込める程なんて、マオと相性が良過ぎる故にタチが悪いのだ。
せっかくの初コラボなのに、炎上案件にだけは意地でもしたくはない。
「そうなりますと、魔力の強さによって色が変わる水晶球とか、後は魔力変形型合成防具エルゼリオンしか……」
「エルゼリオンについて詳しく知りたいっす!」
少年のようなキラキラした瞳でマイヤが食い付く。
それはそうだ、魔力変形型合成防具エルゼリオン、気にならない方がおかしい。
「僕も同感です。前述の水晶球も気になる所ですが、魔力変形型合成防具とは?」
「これは私が作った魔道具で……
その、言わば黒歴史のひとつなんですよね……
魔力の質や量によって形を変える防具なんですけど、性能はともかくなんて言いますか……とにかくダサいんですよ」
「……ダサい?」
「私も試しましたし、魔力が多い知人にも試してもらいましたが、それはそれはダサかったんですよ……」
この話を聞いて、「面白い」ギーシュはそう思った。
ダサい? それがどうした。
視聴者に大いに笑ってもらえるだろう。
これを使わない手は無い。
「魔力変形型合成防具エルゼリオン、是非とも動画にしましょう!」
「えぇっ!? あのド級の失敗作を!?」
「はい! 是非ともマオに着させてやってください!」
今まで魔法において、失敗という失敗をしていないため、たまには苦い思いもして欲しいというギーシュの思惑もある。
その反面、マオの無限にも迫る魔力なら、とんでもなく面白い事が起こるのでは? という期待もある。
「では今からは、細かい所を詰めて行きましょうか?
まずは配信する日にちから決めましょう!」
その後も恙無く、打ち合わせは進んだ。
マオもクオンも、意気投合して皆が笑顔になれるような配信を目指して語り合った。
そして、クオンが黒幕候補から外れた事で、現時点で最も黒幕の可能性がある人物は絞られた。
大手事務所に所属する、熾天使チャンネルの『ガブ・リエーラ』である。
動画配信も盛り上げつつ、一同は黒幕へのお礼参りの計画も同時に進行するのであった。




