【アーカイブ19】 荒らし荒らされ
視聴者3000人も無事に達成し、マオが配信の最後に課金メッセージをくれた人達の名前を読み上げた後に、改めて感謝を伝えて生配信は終了した。
最終的なマオのチャンネルの登録者は、3078人にまで増えており、目標を大きく超えている。
「水晶球の魔力は切れてるヨシ、音声機器の魔力もちゃんと切れてるヨシ……と。
はぁぁぁ、終わったね。
思ったより早かったけど、楽しかったよ!」
「それは何よりですね!
……ん〜、言おうか迷ったんですが、一応これから注意してもらいたい事がありまして……」
「注意とは……何にだい?」
マオはよく分かっていない様子で答える。
「魔王様は配信者としてはまだまだ駆け出しですが、他の方と比べるとかなり順調なんですよ。
企業や事務所に所属する配信者と違って、魔王様は個人で活動している配信者です。
ですので出てくるんですよ、所謂アンチが……
要するに妬みや僻み、やっかみですね」
「そんなのが居るのか……
もしかしてさっきの配信にも?」
「はい、残念ながら居ました……
幸い、僕以外の誰にも気付かれず、楽しい雰囲気で終わったので良かったですが、魔王様には一応知っていてもらおうと思いまして」
マオは腕を組み、難しい表情を浮かべて何かを考え出したかと思うと、とんでもない事を言い出す。
「魔力を逆探知して、とっちめようか?」
「んなもん、ダメに決まってるでしょ……
気持ちは鬼ほど分かるんですけどね」
苦虫を噛み潰したような顔でギーシュが答える。
「今後も配信に現れるかもしれませんが、極力無視の方向性で行きましょう。
度を超えるようでしたら、僕も対抗策を考えます」
「心得た。取り敢えず、しばらくは様子見だね。
荒事にならなければ良いけど……」
僅かな不安を抱えながらも、後片付けを終わらせる。
その日は特に何も起こらなかったが、次の配信から少しずつアンチによる蝕みが始まった。
◇
翌々日の配信日、いつも通りの配信だったのだが、配信の合間に所々それは現れる。
『こんなのの何が良いんだよ?笑』
『誰でも出来るわwww』
その次の配信でも、
『だ〜か〜ら、少しは有用な事話せっての!』
『コレの何が可愛いわけ?』
また次の配信でも、
『マジで配信者向いてないわ』
『誰もお前みたいなの求めて無ぇよ!』
同じようなコメントが、何度も何度も寄せられた。
ここまで来ると、マオの視聴者も気付きだし、時折コメント欄でも喧嘩になってしまう。
そんな事が何度か続くと──。
「ギーシュ君、逆探知の許可を我にくれないかい?
多少荒事にはなっちゃうけど、クレームや文句などを二度と言えない身体にしてくるだけで済ますから」
「これはまた穏やかじゃないですね。
でも、最近は特に悪目立ちしてますからね……
僕としても大変遺憾な訳ですよ。
そ・こ・で……今回は彼女に協力してもらいます!」
そう言った直後、出番だと言わんばかりのタイミングで、室内に件の助っ人が入室する。
魔王配下の諜報員、死告妖精のシズ。
珍しく外套を纏っていないため、白い髪と桃色の瞳が普段と違って明るい印象を与えた。
「ぎ、ギーシュ君から詳細は……聞いてます。
シズに出来る事なら、なんでもしましゅ! ぅぅ……」
「ありがとうございます、シズさん!
忙しそうなのに、協力してもらっちゃって……」
「君達……いつの間に仲良くなったんだい?
シズも珍しくフードを被ってないし……」
マオは意外そうな目で2人を見やる。
同じ魔王配下ではあるのだが、如何せんシズだけは接点が他の配下と比べると少ない。
それなのに、シズが平然と素顔を晒しているのだ。
「いやぁ、実は前に魔王様の周辺機器を買いに行った時に、連絡先を交換してましてね。
たまにメールで配信の事とか、色々と相談に乗って貰ってたんですよ」
「そういう感じ……です!
あ、あと、趣味も似てる……から?」
シズの言う趣味とは、言わずもがな配信関連である。
ギーシュは「まぁそんな事より」と、話を元に戻す。
この頃マオの配信で目立つアンチ共を、いったいどうしてやろうかと。
「シズさん、アンチ達の特定とかって出来ます?」
「出来ない事は……ないと思う。
でもまだ、情報が少ない……もう少し泳がせたい」
「泳がせる、かぁ……
そうだ! 注意喚起的な動画を出してみますか?
で、シズさんにはそこのコメント欄で、アンチを煽って貰えますか?」
「分かった。ま、任せて!
その後に、シズが調べればいいんだよね?」
「概ねその通りです!
という訳で魔王様、動画撮りますよ!」
◇
ヤル気に満ち溢れた配下に手を引かれ、マオは配信部屋へと連行された。
ギーシュは撮りたい動画の内容を軽く説明する。
「ふむ、我はアンチ? への注意喚起と、我のファン向けにアンチとの接し方を話せばいいんだね?」
「はい。なるべく怒りを抑えて冷静な感じで。
煽り散らかすのは僕とシズさんに任せてください!」
ギーシュとシズはササッと配信の用意を整え、後は撮影するのみの状況に。
「はいそれじゃ、水晶に魔力入れます!
3……2……1……どうぞ!」
「えっ、もう!? 待て待て……ヨシ」
慌てて身支度を整え、魔王からマオモードへ移行する。
「みんな〜、まおっす〜!
今回の動画は、皆に少し気を付けて欲しい注意事項があるので、そのお話です。
最近アタシの動画で、批判的な人だったり、皆を煽ったりする人がいるよね?
そんな人達に対しての警告、そして応援してくれている皆への注意喚起だよ!」
ほとんどアドリブではあるが、マオは見事に動画の趣旨を冒頭で伝える。
そして本題へ──。
「まず、アタシのコメント欄で誹謗中傷に近い事を平然としている人達。
何が目的かは分からないけど、度が過ぎるようであれば、アタシも然るべき行動を取ります。
次にキッシー達や、アタシの新規のファンの皆、そういう人達と喧嘩をしているのを見るのはとても悲しいので、控えてください。
良い子の皆なら、勿論出来るよね?
向こうから何を言われても、皆は大人な対応をしてあげるように! それもお上品に!
アタシとの約束だからね!」
その後も細かい話しや、アンチへの具体的な対策などをひと通り言い終えると、ギーシュは水晶球の魔力を切り、早速編集作業へと取り掛かる。
今回は差程凝った編集をしない為、動画自体はすぐに出来上がった。
可もなく不可もない動画だが、今回はこれでいい。
これを投稿すると、例えるならば生簀の完成。
最後に残すは──。
「動画はさっき公開しました。
後は様子を見ながら、僕達は釣り針を垂らすとしましょう」
動画を投稿してから数分、1つ、また1つとコメントが増える。
『確かに最近多かったよね……』
『気を付けます!』
『この前コメント欄で喧嘩しちゃった……』
ある程度コメントの数が増えた所で、シズは釣り針を投下する。
『アンチってさ、何がしたいの?』
『好きな女子に意地悪しちゃうタイプの男の子じゃん』
『相手を下げても自分が上がる訳でもないのにね』
アンチを少しだけ刺激するようなコメント。
後は奴らが来るのを待つのみ。
コメント数が伸びなくなってきたら、今度はSNSの方でも宣伝し、動画へと扇動する。
そこまですると、とうとう奴らが姿を現す。
『やれるもんならやってみろしww』
『弱小配信者は淘汰されて当たり前』
活きのいい魚が見事、釣り針に食い付いた。
コメントが来た瞬間、シズの口角が僅かに上がる。
「か、掛かった……!」
「シズさん、追えそうですか?」
「任せて欲しい。こんな時のために……」
シズはゴソゴソと懐から、数台のスマボを取り出し、アンチのアカウントを丁寧に調べ上げる。
いいねした動画の傾向、登録しているチャンネル、SNSのアカウント、サブアカウントの有無、その他諸々。
アンチから寄せられた約20通ほどのコメントを捌き終えると、少しずつ見えてくる物 事実が3つあった。
まず1つ目に、コメント自体は幾つもあるがその実、送り主は多くても5名だということ。
2つ目に、その5名は顔見知りの可能性があること。
3つ目に、その5名全員が共通してチャンネル登録している配信者が、2名存在していること。
「シズさん、これって……」
「う、うん。この配信者の内どちらかが黒幕」
「お〜、もう見つけたのかい!?
どうする? 処すかい? むしろ処したい」
そんなに処したいのか? とツッコミたい気持ちを辛うじて飲み込み、ギーシュはシズの手元に表示された、黒幕候補の2人を覗いてみる。
1人は知名度もそれなりにある、大型の事務所に所属する配信者、熾天使チャンネルの『ガブ・リエーラ』。
そしてもう1人はマオと同じく、個人の配信者、クオンのチャンネルの『クオン』。
「これだけ見ると、黒幕は個人勢のほうでしょうか?」
「うーん……正直まだ分からない、かな?」
「少しいいかい?
我もそろそろと思っていたんだが、いっその事そのどちらかとコラボしてみるというのはどうかな?」
マオから提案された、突拍子も無い提案。
要するに敵かもしれない者の懐に、自ら飛び込んで探るという案なのだ。
しかし、悪い案という訳では無い。
常人であれば悪手であるだろうが、マオは魔王だ。
どんな状況でも何とかはなる。
「大手事務所とのコラボはまだ無理そうですが、個人の方なら何とかなるかもしれませんね……
僕のアカウントで、1度連絡を取ってみます」
「ぎ、ギーシュ君、慎重に……ね?」
「ありがとうございます、シズさん。
ここからは、僕の腕の見せ所ですから!」
「うむ、流石は我のマネージャーだな!
期待しているぞ! シズもありがとう助かるよ」
「ど、どういたしまして……えへへ……」
マオに褒められ、満更でもない様子のシズ。
そんな彼女はさて置き、ギーシュは早速相手の詳細を調べ、コラボの提案を黒幕候補に送ってみる。
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件名:コラボの依頼
本文:クオンのチャンネル
クオン様
はじめまして
マオのご当地魔王チャンネルのマネージャー
ギーシュと申します。
クオン様の動画を拝見し、ご連絡しました。
オリジナル魔道具の紹介という、
興味深い配信内容に、うちのマオとの相性が
良いのではないかと感じております。
つきましては、クオン様とのコラボの可否を
検討いただけると幸いです。
ご許可いただけるのであれば、
下記の連絡先に送っていただければ幸いです。
どうぞ、よろしくお願い致します。
署名:マオのご当地魔王チャンネル
マネージャー ギーシュ(○○○-△△△△)
住所:〒***-****
Tel:○○-□□□□-✕✕✕✕
Mail:☆☆☆@〇〇〇.co.mo
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