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【アーカイブ2】 可愛いを求めて!




「我、女の子になる!!」


『…………???』



 膝を突く5人は互いに顔を見合せ、困惑する。

 その困惑の中、口火を切ったのはセバスニャン。



「魔王様、詳しい説明をして頂いても?」


「勿論だ!

 我は美少女配信者になって、この財政難を何とかしようと考えているのだ!」



 ルディウスは自信に満ちた表情で宣言する。



「いったい何処の誰っすか!?

 魔王様をここまで追い詰めたのは!

 ぼくが直々に成敗してやるっす!」



 声を上げたのは、魔王の護衛騎士マイヤ。

 青白い顔とは裏腹に、ただでさえ炎の如く赤い瞳は燃え滾っている。

 小柄ながらも、半獣人(ハーフビースト)をも遥かに凌ぐ怪力を持つ生鮮な屍人(フレッシュゾンビ)の少女だ。

 騎士とは言うものの、切られても再生する身体を活かす戦闘スタイルの為、その格好は割とフランクな私服に近い。



「落ち着いてくれ、マイヤ。

 我は別に気が触れた訳では無い。

 疲れている事は確かだが、ほとんどが財政難の書類の量による疲れだ。

 そこでだ! 我が女の子となり、スマボを使った配信で人気を博し、経済を回させるのだ!」


「えぇ!? じゃあ魔王様はセルフでお狂いに!?

 いよいよそんなお歳っすか!?」


「毎度の事だが、サラッと失礼だよね……

 我だって何回かに1回は傷付くんだよ?」



 ルディウスの返答にマイヤはケラケラと笑い出す。

 マイヤ本人はその発言を冗談だと思っているのだ。

 礼儀はそこそこ正しいのだが、如何せん人の逆鱗の周りをうろちょろするのが上手い。



「あのぅ……魔王様?

 そ、その……美少女配信者? になって、どうやって財政難を解決するのでしょうか?」



 さり気なく手を挙げ、消え入りそうな声で質問をする。

 フード付きの黒い外套を纏った彼女は死告妖精(バンシー)の諜報員、シズ。


 巷では『死を呼び込む妖精』などと物騒な通り名まであるが、これには大きな間違いがある。

 彼女達はとんでもなく臆病なうえ、不幸体質なのだ。

 散歩をしていて、道端に死体が落ちていたら誰しも悲鳴を上げてしまうだろう。

 ただ、彼女達はよく死体に遭遇してしまううえ、悲鳴が遥か遠くまで響く。それ故に『死告妖精』だ。



「シズよ、よくぞ聞いてくれた!

 勿論、いきなり成功するとは思っていない。

 だが、少しずつ知名度を上げていけば、我が配信で向かった地がいずれ『聖地』などと呼ばれ、観光名所になる事請け合いであろう!」



 観光客が増えれば、その土地での買い物や飲食をする人が増える。

 すると、その土地での経済が少しずつ回りだし、国からの支援が無くとも運営出来るようになる店が増える。

 『かもしれない』の領域ではあるが、過労の魔王に希望を抱かせるには充分だ。



「う、上手く事が進むといいですね。

 シズはか、陰ながら応援していましゅ!」



 シズは噛んでしまった事に赤面して俯いてしまう。

 その薄紫色の瞳は今にも零れ落ちそうな程にうるうると滲む。



「でも魔王様よぉ、美少女んなるっつっても法律とかどうすんだ?

 アタシもうろ覚えだが、他の奴に無闇に化けたりしちゃダメなんじゃなかったか?

 あとさぁ、その美少女ってアタシじゃダメなのかよ〜」



 そう捲し立てるのはメイドのクララ。

 ワインレッドを基調としたメイド服を着た、暴力的なまでの美貌を持つ半獣人の少女。

 頭頂部にはカルルと似た形の犬耳がぴこぴこと動く。

 そう、クララはメイド見習いカルルの姉である。



「確かにクララは可愛いし、人を寄せ集めるだろう。

 だが、君が有名になってしまえば、街中で買い物も出来なくなってしまうかもしれない。

 そうなれば、カルルに行かせないといけなくなる」


「カルル1人で街に行かせられる訳ねぇだろ!

 まぁ確かに、アタシが完全無の欠美少女配信者にならねぇ方がいいのは分かったけどよぉ、法律の方はどうすんだ?」


「それも考えはある。

 確かに魔導省の定める法律で、『特殊事例を除き、既存の他人に成り代わる事を禁ずる』という物がある。

 そこで、『人相屋』に依頼を出すんだ」



 『人相屋』とは、離魂体のルディウスを始めとする、生きて行く上で人型になる事を強いられる種族の為に存在する店だ。

 オーダーメイドで世界に存在しない架空の容姿を魔法で作りあげ、魔法陣として巻物にしてくれる。



「人相屋ですか……初めて行った時以来ですね?」


「あぁ、我のこの姿を作った時以来だ。

 その時に共に来てくれたのはセバスニャンだったか?」


「はい、私です、懐かしいですね。

 店長もかなり個性的な方で……

 あの時は勝手も分からず、ドギマギ致しました」



 セバスニャンは当時の自分の至らなさに微笑む。

 ルディウスも覚えがあった為、苦笑いで返す。


 当時は先代魔王の姿を模していたが、新しく出来た法律を止むを得ず認可した後、急遽2人で人相屋に頼み込んだのだ。



「流石に今は、もう少しマシになっているだろう。

 今日〆の執務は終えている事だ、今から行くぞ!」


「えっ!? 今からっすか!?

 ぼくの護衛、いります?」



 平和の世といえ、魔王の外出だ。

 臣下にとっては割と大掛かりなイベントになる。

 そうなると大戦時代の感覚が残っているマイヤとしては、魔王に護衛を付けたいのだ。



「いや、今回はマイヤは連れて行けない。

 目立ってしまうからな。

 その代わりにクララが付き添ってくれるか?」


「アタシか? いいぜ魔王様! こりゃデートだな!」



 クララは眩しい笑顔とサムズアップで応えると、浮き足立った様子で準備を始める。


 魔王がクララを選択したのは理由があった。

 普段から城下に買い出しに行っているため、街に馴染みやすいのだ。

 逆にマイヤだと物々しい雰囲気を醸し出す為、国民に恐怖感を与えてしまう。



「と、言う訳でマイヤはお留守番だ。

 帰りにお土産買ってきてあげるから、許してくれ」


「ホントっすか!? りんご味の飴ちゃんがいいっす!」



 マイヤはキラキラとした目で飴ちゃんを希望した。

 ルディウスは快く頷き、外出の準備に取り掛かる。



「セバスニャン、少しの間だけ姿()()()()()()?」


「はい、()()()()()()()

 素敵な姿になった魔王様をお待ちしております」



 セバスニャンは軽く一礼をして承諾する。

 そして、これが法律の特殊な事例の1つである。


『信頼関係を証明出来る間柄であれば、相手の許可がある場合に限り、その姿を借りてもよい事とする』


 今回の場合、ルディウスとセバスニャンの間で簡易的ではあるが契約が成された。

『借りるぞ』に対する『構いませんとも』何でもない言葉だが、これは簡略化された契約なのだ。


 契約が成されたルディウスは詠唱を始める。



「彼の姿を写したまえ『仮想姿(バーチャライズ)』」



 詠唱が終わるとルディウスの身体はぐにゃりと歪み、セバスニャンの姿が出来上がる。



「これで良し。クララはもう行けるかい?」


「おう! バッチリだぜ! 可愛いだろ?」



 クララはメイド服の上から、可愛らしい柄があしらわれたアーモンド色のポンチョを被っていた。



「魔王さまにねーね、行ってらっしゃ〜い!」


「お土産忘れちゃダメっすよ!」


「いい行ってらっしゃいましぇ! あぅ……」


「帰りは暗くなりますので、道中お気を付けて」


「うむ、それでは行ってくる!」



 カルル、マイヤ、シズ、セバスニャンに見送られ、さぁ出発しようとしたところで──。


 コンコンコン……


 執務室の扉をノックする音。



「ヤーフ領、領主の息子、竜人族(ドラゴニュート)のギーシュ・ドラガルドと申します!

 魔王様はいらっしゃいますでしょうか?」



 声の主は先程の会議の後、魔王を女の子にするきっかけを作った竜人族の青年だ。



「おお! 来てくれたか!

 君も我らと一緒に来たまえ!

 皆への紹介は後でも良かろう!」


「え? ええぇぇぇええ!!?」



 ルディウスは扉を開けると、ギーシュの手を掴みそのままツカツカと廊下を歩いて行く。



 ◇



 城下の街は夕食時という事もあり、人々の活気でとても賑やかな雰囲気を醸し出していた。

 テラスでまったり食事をする人、屋台で売られている串焼肉を頬張り歩く人、仕事終わりに酒を飲み交わす人達。



「そういや魔王様、そっちの奴は誰なんだ?」


「こらクララ、お外では綺麗な言葉遣いをしなさいと、いつも言っているだろう?」


(わり)ぃ! そうだったな、じゃあ……

 そちらの殿方の紹介をして頂いてもよろしくて?」



 ルディウスに注意されたクララは丁寧な言い方をしようとするが、何故か毎回お嬢様言葉になってしまう。

 本人は至って真剣なので、ルディウスも大目に見ている。



「そうだな、紹介しておこう。

 彼は竜人族の……えっと……」


「ギーシュ・ドラガルドです、セバスニャン様。

 今日はよろしくお願いします。えっと、クララ様?」



 今のルディウスはセバスニャンの姿だ。

 事情を知らないギーシュは勘違いしている。

 それに加え、クララを魔王の秘書的な何かだと、ダブルで勘違いしていた。



「ん? ああ、えぇとギーシュさん……だったか?

 セバスニャンじゃなくて、姿を変えた魔王様だぞ?

 んで、アタシに様付けは要らないぜ?

 ただの美少女メイドだからなぁ!」


「っ!? そうでしたか!

 これは失礼致しました魔王様……

 それと改めてよろしくお願いします、麗しきメイドのクララ嬢」


「お前、話が分かるな!

 そっかそっか〜、麗しきメイドかぁ……

 魔王様、こいつ良い奴だぞ!」


「分かったから、落ち着きなさいクララ。

 あと、口調が戻ってるぞ?」


「あ! えっと、ごめん…あそばせませ?」



 そんなこんなと駄弁りながら、到着したのは活気のある大通りからは少し外れた静かなお店。

 今回のお目当てである『人相屋』だ。


 店の扉をクララが開くと、カランカランと子気味の良い音が鳴る。

 音に気付いた店員が奥から顔を覗かせる。

 入店した面子を見ると、バタバタと駆け寄る。



「あらぁ、クララちゃんにセバスニャン様じゃないの!

 後ろのナイスガイは……初めましてね?

 人相屋『Mavie(マヴィー)』の店長、マーヴィスと申します。

 どうぞ、ご贔屓に♡」



 ギーシュはゾクッと背中を震わせた。

 男のウインクと投げキッスのコンボ。

 マーヴィスの抜群のスタイルと甘いマスクがなければ、トラウマになってしまうだろう。



「息災かマーヴィス? 随分久しぶりだね」


「あら? その口調に雰囲気……

 セバスニャン様じゃないわね。

 って事は、魔王様……って所かしら?

 本日はどのようなご要件で?」


「流石だなマーヴィス。この姿も、もういいだろう。

 『解除(ブレイク)』っと……うん、やっぱりこの姿が落ち着くな」



 魔王は自分に掛けていた変化の魔術を解き、いつもの姿に戻る。



「まぁ、色々あってね。かくかくしかじかなんだが……」



 ルディウスはこれまでの経緯を軽く話した。

 要するに、美少女になりたいという事を。



「こぉれぇよぉ! こういうのを待ってたのよ!

 任せなさいな。飛びっきりキュートにしてあげる♡」



 クララとギーシュは若干引き気味だが、ルディウスは人相屋の腕の良さと()()()()を知っているので動じない。


 そんな3人をスルーして、マーヴィスは「ちょっと待っててね」と言いながら、紙や筆記用具をテキパキ用意する。



「はぁいはい、お待ちどう。

 それじゃ、ご希望を聞かせて貰えるかしら?」


「うむ。我は分からん!

 と、言う訳で頼むぞギーシュ君!」


「え、僕ですか!?」



 急に話を振られて焦ったギーシュは、頭をフル回転させた後、魔王に問う。



「まずは魔王様が思う『可愛い』を教えてください。

 それが分からねば、お話しになりません!」


「え? 可愛い? そうだな……う〜む……」



 ルディウスは顎に手を置き、長考の構えだ。

 そんな様子を見たギーシュが一喝。



「自分の可愛いが分からない者が、可愛くなれる訳がないでしょうがァァァ!!」




読んでいただきありがとうございます!


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次回、魔王は女の子になれるのか……

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