【アーカイブ17】 果報は寝て待て?
動画配信アプリMgTuneでの収益化条件、その1つであるチャンネル登録者数が1000人を大きく超え、約2800人近くにもなり、充分に収益化の申請が出来る状態となった。
「さて、早速申請してみますか……」
「やり方は分かっているのかい?」
「いえ全然、全く!
僕も実際に申請するなんて初めてですから、ぶっつけ本番でやってみるしかないですね。
調べながら、やるだけやってみますよ」
ギーシュは自分のスマボで『MgTune 収益化 申請』などで検索をかけて調べてみる。
彼が検索に使用しているのは、世界最大の規模を誇る検索エンジンである『グーゲル』。
開発者である、魔賢老グーゲルダが名前の由来とされている。
収益を得る方法をざっくりまとめると、『MgTuneバディプログラム』のメンバーに加入し、動画内広告、チャンネルのメンバーシップ、そして生配信中の課金メッセージ等の設定を有効にする事とある。
動画内広告や課金メッセージは想像し易いだろうが、いまいち想像し難いチャンネルのメンバーシップとは、言わば月額制の有料会員的なシステムである。
利点をあげれば、メンバーシップ加入者限定の動画や、メンバーだけが参加できるチャット等だ。
「いやぁ、そこら辺の事は分かるけど……
肝心の申請方法はと……おっ、あった。
………………うっわぁ……」
一般的にあまり知られてはいないが、この収益化の申請、とてつもなく面倒なのである。
ギーシュは手元のスマボと見比べながら、作業を始めた。
まず初めに、MgTuneの設定から、収益の受け取りという項目を選択し、収益化の条件を確認する。
MgTuneの場合、チャンネル登録者数1000人以上と、合計視聴時間が4000時間を超えている事だ。
この2項目を確認し、申し込みという項目を押す。
「これはどちらもヨシ!
視聴時間は……へぇ、9000時間近くも見てもらえてるいんだ。
それじゃ、申し込みっと」
申し込みの項目を押すと画面が切り替わり、収益化に必要な3つのステップという表示が現れる。
それぞれ、
ステップ1.バディプログラムの利用規約の確認
ステップ2.グーゲルアドセンスに申し込み
ステップ3.審査を受ける
というものだ。
最初のステップは簡単である。
『開始』を選択すると出てくる利用規約をサラッと流し読んだ後に、規約に同意さえすれば作業は終わり。
ステップ1は完了の表記が現れる。
問題は2つ目だ。
この項目にある『開始』を選択すると『この手順を完了する為にアドセンスへリダイレクトする』という表記と共に、既存のアカウントの有無を問われる。
今回は『いいえ』を選択し、次の画面へ移る。
「リダイレクトの意味が分からなかった……
いいえで良いんだよな? え、いいの?
本当にあってるのこれ?」
ギーシュは疑心暗鬼に陥りながらも作業を続ける。
画面には『本人確認のため魔力を流してください』とあるので、ギーシュは一応自分では無くマオの魔力で本人確認を行い次へ進む。
無事に魔力を流すと出てくる、アカウントの選択画面。
ここでは広告の収益化に使用したいアカウントを選ぶ。
要するに、今回はMgTuneで使用しているマオのアカウントだ。
アカウントを選択すると自分のアカウント情報の確認と、自分のアカウントに合わせた提案や通知を受け取りの有無、出身の国の確認画面が出てくる。
「アカウントはヨシ。
通知は受け取りにしといた方が無難で、出身国は魔王都市、と……」
入力すると、またしても利用規約が出てくる為、これまた流し読んで同意した後、画面最下にある『アカウントを作成』の項目を押す。
次の画面に移ると、少し困った事になる。
「あ〜、そっか。
魔王様、これどうしますか?」
「どれどれ、あぁ……そういう事か。
詳細な住所と本名ね……」
出てきた画面は『支払い先住所の詳細』だ。
魔王城やルディウスを入力していい物なのか。
勿論、一般公開はされないであろうが、何か有事があった際に困るかもしれない。
「むむむ……よし、行こう!
我の本名、住所の記載を許可しよう!」
「では、その方向で行きますね」
ギーシュは遠慮無く魔王城の住所、延いては魔王の本名を遠慮無く入力していく。
全てを書き終えた後、『送信』という項目を押すと、ステップ2が処理中という表記に変わった。
「ステップ2、面倒くさかったぁ。
この処理中って、いつ終わるんだろ……」
◇
約1日、『処理中』の表記が出てから約1日で、ようやくその表記が『完了』へと変わった。
「こんなに長いのか……何か間違えたのかと思った……
気が気じゃなかったよ、クッソォ……」
いつ完了しても良いように、ウトウトしながらも寝ずにスマボに張り付いていたのだ。
魔族故に身体に不調などはほとんど無いが、一日千秋をその身で経験した疲労は半端なものでは無かった。
「ただ、これでやっと次に進める!
ポジティブに行こう! じゃないとやってられん!」
残るはステップ3の審査を受けるのみだ。
しかしこれは、ステップ2が完了した事で、自動的に『処理中』という表記に変わった。
そう、ようやく収益化の審査が開始されたのである。
「自動で処理中になるのか。
いや待てよ、これはいつ終わるんだ?
それなりの長さになるなら、そろそろ休みたい。
それに何より、お腹が減った……」
ギーシュは可愛い音が鳴るお腹を抑え、軽い食事を作りに食堂へ向かった。
食堂の扉を開くと、後片付け中であろうセバスニャンやクララ、カルルと鉢合わせになる。
「おうギーシュ! やっと部屋から出てきたんだな!
お前……大丈夫か? 疲れた顔してるぞ?」
「クララ嬢、お気遣い感謝します。
僕は大丈夫ですよ。ただ、お腹が減ったので、カップ麺でもあれば作って食べようかな……と」
「そんなんじゃダメだ!
待ってろ! アタシが作ってやる!」
クララは袖を捲り、腕をぶんぶんと振り回しながら意気揚々とキッチンへと向かった。
数分もすると、料理が盛られた皿を持って現れた。
空腹のギーシュの前に皿を置く。
「春野菜のペペロンチーノ〜秋の風を添えて〜、だ!」
「おお! ありがとうございます!!
春野菜なのに秋の風添えちゃったのはアレですが、美味しそうです!」
「アタシの本気手料理なんて滅多に食えねぇぞ!
味わって食べてくれよな!」
「いただきます!!」
早速一口食べると、優しい野菜の風味とペペロンチーノの辛味が口の中でふわりと広がる。
──美味い。
気付けば皿に盛られた料理は、あっという間に無くなってしまった。
「ご馳走様です!」
「良い食いっぷりだったなぁ!
アタシも嬉しいぞ!」
「機会があれば、またお願いしたいくらいですよ!」
「うんうん、やっぱりお前良い奴だなぁ!
言ってくれたらいつでも作ってやる!」
昼食を終えたギーシュは、一応魔王に報告をしにと執務室へ赴いた。
軽くノックをして、入室する。
「ギーシュ君! 体調は大丈夫かい?
なかなか部屋から出てこないから、我含め皆が心配していたんだよ?
進捗も勿論気になるけど、君に無理をさせるつもりはないんだから……」
「それは……ごめんなさい、気を付けます。
で、進捗ですけど、恐らく現在は審査を受けている最中という感じだと思います」
「もうそんな段階まで行ったのかい!?
それで、後どれくらいで審査が通るかは……」
問に対して、ギーシュは首を横に振って応えた。
事実、いつ終わるかは分からない。
それもグーゲルで検索してみたが、約1ヶ月と書かれていたり、それ以上かかると書かれている物もあった事を伝えた。
「そっかぁ、気長に待たなきゃね。
異界人のことわざで、果報は寝て待て……だっけ?」
「魔王様に寝て待ってる暇、無いですよ?
収益化までに生配信や、最近は投稿してなかった動画も幾つか撮り溜めておきたいです」
彼の言う通り、動画配信者にそんな暇は無い。
いずれ来ると分かっている果報なら、果報を受け取る準備をしろ。
まだ来ぬ未知の果報は、掴み取る努力をしろ。
成功し続ける者は多かれ少なかれ、いつだって既に動いている。
「それは勿論。最近開業したお店なんかもチェックしたから、動画は大丈夫だろう。
収益化の申請をしてる事は、生配信では伏せた方が良いのだろうか?」
「あぁ、そうですね……
バレても大丈夫ですけど、できる限り伏せる方向でお願いします!」
「理解した。配信では気を付けるよ」
審査が終わるその時まで、マオとギーシュは奔走した。
◇
収益化申請、何日が経過したでしょうか?
「やっと審査通った〜!!!
いや、長っっっがいわ!!」
──正解は……20日である。
審査が通るまでに、それほどの日数がかかった。
しかしこれで、MgTuneバディプログラムへの参加が承認されたのだ。
ここまででようやく、既存の動画に広告を付けると収益可能な状態となる。
そうと決まれば、ギーシュは片っ端から動画に広告を設定した。
作業終了とほぼ同時、部屋の扉がノックされる。
「動画の編集中に失礼するよ?
おや? どうしたんだい、そんなにぐったり椅子にもたれかかって……
もしかして、どこか具合でも悪かったり?」
審査が終わった安堵感からか、はたまた広告を付け終わった疲労感からか、椅子にぐで〜っと座るギーシュを心配する。
「魔王様、さっきまで生配信でしたよね?
お疲れ様です。
僕は見ての通り大丈夫です。 そ・れ・よ・り……
とうとう通ったんですよ! 審査が!」
「と言うと、ようやく収益化ができるんだね!
それにしても、こんなに時間がかかるとは……」
「僕も予想外でしたよ……
手始めに、過去に投稿した動画の冒頭と、尺が短くて2箇所紹介した動画には中間に広告を入れました!」
「あの広告だね!
後その、生配信での課金メッセージは……」
「勿論できますよ!!
3000人耐久兼、祝収益化配信で解禁しましょう!」
──ピロリン♪
そんな話をしていると、スマボに通知が来た。
2人で内容を確認した。
掻い摘むと、『グーゲルアドセンスから支払いを受け取る為の住所確認』である。
どうやら、推定収益なる物が1000ルンを超えるとこの通知が送られるらしい。
更に読むと、支払い先住所に確認用PINコードが記された梟便の手紙が届くという。
「これはまた、時間かかるかもですね……
その間にグーゲルへの税務情報を送信しておきます。
確か、グーゲルアドセンス内の管理画面から行けたはずですので!」
「税務情報か、考えれば当然だね」
「ま、梟便が来るまでには終わらせますよ。
これはそんなに難しい事は無いと思いますし」
◇
税務情報の送信も終え、あの通知から1週間、待ちに待った梟便が届いた。
「さて、この手紙にある6桁の数字を、前回の住所確認の通知にある、『住所を確認する』って項目……これか!」
後はハガキに書いてある通りに進め、PINコードの入力を行う。
すると『正しいPINです。請求先住所を確認しました』という画面に切り替わった。
「これで、本当に全部終わりだ。
終わった……圧倒的達成感!
魔王様にはマッハで報告して、生配信の告知は今すぐにでもしとくかぁ……」
魔王へ報告すると、まるでお友達の様なハイタッチを交わし、早速生配信の打ち合わせと洒落こんだ。
1晩中じっくりと、綿密に打ち合わせをした。
そして、迎える配信当日──。
「みんな〜! まおっす〜!!
今日は皆が待ちに待ってくれたであろう、課金メッセージが今日から解禁だよ!!
そして、今日はチャンネル登録者が3000人を突破するまでノンストップで行くから、ちゃんと着いて来てよね!?」




