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【アーカイブ16】 良い事と悪い事




 魔導省へ赴いた竜人族(ドラゴニュート)の青年、ギーシュは困惑していた。

 魔導省は魔王が撃った魔法について知る為、本人に会わせろと言うではないか。


 Q.できるか?


 A.できる訳ないだろ。


 実際に魔法を撃ったのが魔王でしたテヘペロ、が通る訳が無いからだ。

 かと言って、国の機関に虚偽の申告をする度胸など、ギーシュは持ち合わせていない。

 そんな時、社会人がどうするかは決まっている。



「(魔王様〜! ヘルプミ〜!)」


『うん? どうしたんだい通信魔法なんて繋いで?』


「(大きい声では控えたいのですが、実はかくかくしかじかでして……)」


『あ〜、やっぱり目を付けられたか……

 そうだ! 少し待ってて、すぐ行くから』



 それだけ言い残し、通信は途切れた。

 ギーシュは何となく嫌な予感を胸に抱きつつも、魔王の到着を待った。


 魔導省の職員を待たせる事数十分、気まずい空気もいよいよ限界を迎えた時、マオが到着した。



「待たせたねギーシュ君!

 いやぁ、色々準備するのに時間かかっちゃった」


「助かります……

 配信で撃ったあの魔法の事とか僕、全っ然分かりませんので!」


「それは仕方ないさ、逆にアレを初見です理解出来たら大した物だよ!

 で、職員さんは? あ、いたいた」



 ギーシュの影に隠れて見えなかった魔導省職員を見つけると、手を振って軽く挨拶した。



「君があの動画の子だね!?

 あの魔法、一般公開とまでは行かずとも、登録くらいはするだろう!?」


「うわぁ、グイグイ来るなぁ……

 それに関しては、この書状を読んでください」



 職員はマオから手渡された書状に軽く目を通す。

 そして、驚きと共に落胆する。



「魔王様の承認印が押されてるじゃないか……

 って事は現代に普及、相伝すらしちゃダメなやつだ。

 これは潔く諦めないとね」


「ど、どういう事ですか?」



 職員の反応をよく理解できていないギーシュ。

 それもそのはずで、そんな書状は滅多にお目に掛かれないからである。



「職員でも見た事ある人は限られるから。

 この書状の内容はね、簡単に言えば()()()()みたいな物なんだ。

 私達が発行する場合もありますが、主に魔法を利用した犯罪が起きてしまった場合の一時的な処置です。


 ただ魔王様の承認印が押されているこれは、その人だけの固有魔法(オリジナル)として認められたんですよ」


「ほほぅ……」


「模倣された事例ならまだ大丈夫なのですが、自ら広めてしまうとOUT(アウト)、最悪重罪に問われます。

 こちらとしてはそんな事より、魔導省(こちら)の管轄外になっちゃったのが痛いね!」


「へぇぇ……魔王様に許可されてるから、そちら側からは干渉出来ない。

 それ故、うちのマオちゃんには魔法をしっかり管理して貰わないといけないって話で良いですね?」



 ギーシュは今ある情報をまとめて確認を取ると、概ねその通りだと、職員は頷いて応えた。

 これで窮地は凌いだかに思われたが、まだ問題は残っていた。

 それは誰しもが思ったであろう事──



「気になったんだが君は……何者なんだい?

 あの魔法もそうだが、何より魔王様の承認印だ。

 もしかして、本物の魔王配下だったりするのかい?」



 配下どころか、職員の目の前にいる者こそが魔王だ。

 ギーシュの背中にツゥ、と冷たい汗が流れる。

 しかし、当の本人はどこ吹く風な様子で、職員に言う。



「乙女の秘密を暴こうなんて、野暮じゃないかなぁ?」


「……ふははっ! これは失礼した。

 不躾を許していただきたい」



 職員チョロいなぁなどと思っていると、マオも「やってやったぜ」と言いたげな顔でサムズアップをギーシュに向ける。



「長らくお引き留めてしまい、申し訳なかった。

 ただ、次からあの規模の魔法を使用する際は、事前にこちらに一声掛けてからにしてください。

 そうすれば余計な混乱を招かない様に、我々も動けますので」


「こちらこそ、お騒がせしてすみませんでした。

 次回からは僕から連絡を入れます」


「そうしてくれると助かるよ。

 今日はありがとう。2人共、帰り道は気を付けてね!

 それと、もし興味があれば魔導省はいつでも君を職員として歓迎するから、考えてみて欲しい!」


「それは……時間があったらで!」



 勿論魔王にそんな時間など無い。

 マオから言外に「興味が無い」と告げられた職員は諦めて肩を落とす。


 正体がバレる事もなく、更なる面倒事になる事もなく、無事に解放された。

 ここまで走り回って来たギーシュは、今更ながらドッと疲れが溢れ出す。



 ◇



 魔王城に帰ってくると、2人はソファーに深く腰掛けて大きくため息を吐いた。

 疲れからか安堵からか、色々な物がため息となって体外へ排出される



「ギーシュ君、今日はありがとうね?」


「なんですか今更?

 僕はマネージャー(これ)が仕事なんですから、これくらい当たり前ですよ」


「それでもだよ。

 君の業務は、ほとんど我の我儘みたいな物だからね?

 自覚は無いかもだけど、セバスニャンと同等くらいに特殊なんだから」



 マオは精一杯、労いの言葉をギーシュにかけた。

 魔王から見ても、彼はとても働き者だ。



「ところでギーシュ君、我の謝罪文と動画も一応撮ったのだが、見てくれるかい?」


「もう撮ったんですね!

 撮影はセバスニャン様が?」


「そうだよ。彼もすこぶる優秀だからね」


「1回や2回見ただけで覚えちゃったんですね……

 まぁそれは兎も角、SNSに投稿予定の謝罪文と、動画の方も見てみても良いですか?」


「勿論だ、確認を頼む」



 無言の一時。

 魔導省にいた時はあんなに飄々としていたマオが、ソワソワと落ち着かない様子を見せる。

 スマボの画面を指でスクロールし、誤字脱字や表現の善し悪しを確認していく。

 何処かからコピーアンドペーストしていない事、マオ自身の言葉で書かれている事を確認すると、次は動画へ。

 動画のサムネイルは、シンプルに黒い背景に白い文字で『今世間を騒がせている火柱について』とある。



「おっ、サムネはこれでいいか……

 内容も反省感は出てるし、うん……うん……」


「ど、どうだろうか?

 セバスニャンには、これならば大丈夫だろうと言われたのだが……」



 マオはおずおずとギーシュに問うてみる。



「この出来なら、このまま投稿しても大丈夫ですよ!」


「そうか!!

 であれば我の方でSNSの更新と、MgTune(マギチューン)に動画を出しておくよ。

 君はゆっくり休んでくれ、頼めばカルルが喜んで背中をマッサージしてくれると思うよ。

 ギーシュ君と遊びたがってたから」


「それは良いですね、探してお願いしてみます」



 言い終わると、久々に走った上に若い故か、既に若干筋肉痛ぎみの足をひょこひょこと動かしてギーシュはカルルとクララの共同部屋へと向かった。


 そしてマオは謝罪文と動画を投稿した。

 勿論、炎上の鎮火を願いながら。



 ◇



 翌日の朝……と言うには少し遅い時間帯に、カルルを肩車したギーシュが魔王、及び配下達がくつろぐリビングへ入室した。



「おあよぅごあいまふ……」


「わふぅ! おはよーございます!」



 未だ寝足りず舌が回らないギーシュと、朝から元気いっぱいのカルル。

 彼はマッサージをしてくれたお礼として、一晩中カルルの遊び相手をしていた。



「おぅカルル! 昨日はギーシュにいっぱい遊んで貰えたらしいなぁ!

 ギーシュもあんがとな!

 ほら、カルルもお礼言うんだぞ?」


「ドラゴンのお兄ちゃんありがとう!」


「あはは、竜人族(ドラゴニュート)なんだけどな……

 カルルちゃんもマッサージありがとうございました」


「わっふん! どういたしまして!」



 胸を張って得意気なカルルを、姉のクララは「良い子にはこうだ!」揉みくちゃに撫で回す。

 その様子を横目に、ギーシュもソファーの空きを探して腰を降ろした。



「そう言えば魔王様、SNSや動画配信用のスマボを見せて貰えますか?

 炎上が治まってると良いんですが……」


「はい、どうぞ。どうかな……鎮火してるかい?」


「どれどれ、えっと……ふむ──」



 ギーシュは投稿された謝罪文や動画対する反応を読み、世間の風当たりを確認する。


『あれ人災なのか……』


『魔法の練習だったのか?』


『謝罪早かったし、好印象ではある』


『謝罪の文面に()()を感じる……』


『次からは気を付けてね』


 ギーシュが見る限りは、概ね好印象。

 心無い否定の言葉や、罵詈雑言は見受けられない。



「これなら鎮火したと言っていいでしょう!

 かなり話題にはなりましたが、人的被害が皆無だからですかね?」


「そうか、それは良かった……」


「しかし、僕的に良い事と悪い事に気付きました。

 どっちから聞きたいですか?」


「うわ、嫌な聞き方だなぁ……

 ん〜……悪い方から聞こうか」



 後に良い方を聞いた方がメンタルが保てると考えた。

 そして要望通り、ギーシュの口から悪い方の情報が解き放たれる。



「いや、そんな身構えないでくださいよ。

 悪い方ですが、元々予定していたチャンネル登録者1000耐久配信が出来なくなりました!

 理由としては、今回の炎上で一気に登録者が増えたからですね。さっき確認したら2800人近くいました」


「それは……良い事では?」


「だから言ったじゃないですか、()()()()って。

 で、お楽しみの良い方ですけど……」



 マオの反応を楽しむ為、イタズラに勿体ぶる。

 ギーシュの思惑通り、マオは生唾を飲み込んで、良い情報を待ち望む。



「それで、お楽しみの良い事ですが……

 なんと! チャンネル登録者数1000人を突破した事で、収益化の申請をする事が出来ます!」


「っ!!? 収益化! って事はとうとう我の配信で金銭が貰えるようになるんだね!?」


「はい。収益化申請が通ればそうなります!

 という訳で、今から僕はササッと収益化の申請をしますので、次の生配信では3000人耐久と共に、祝収益化配信の方向で行きます!」


「おお! それは楽しみだ!

 ファンの皆も喜んでくれるだろう!

 そうと決まれば申請? を頼むぞギーシュ君!」


「言われなくとも!

 魔王様は耐久配信でやりたい事を、リストアップしておいてください!」



 こうしてとうとう、念願の収益化の条件が揃った。

 果たして収益化の申請は通るのか……




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― 新着の感想 ―
[良い点] 炎上と登録者数アップは紙一重というか表裏一体! 次回以降の展開にも期待です。 
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