【アーカイブ15】 バズった後始末!
時は夕暮れ、辺りも少し薄暗く感じる。
ここは、マオの魔法研究室から場所が変わり、鬱蒼とした森の中。
魔法で機材ごと、この森の奥へ転移してきた。
ギーシュは慣れない長距離転移の反動で酔い、地面に突っ伏して項垂れていた。
「さて! スタッフさんがダウンしている内に、サッと撃ってサッと帰ろう! 急ぐよセバス!」
マオはセバスニャンを急かし、ギーシュが復活する前に魔法を披露しようとする。
「………………畏まりました。
せめて被害が最小限になりますよう、結界を広い範囲にに張り巡らせていただきましょう。
参ります、【第二式・超広域結界】起動」
広大な森の中、セバスニャンを中心に辛うじて視認できる、ドーム状の透明な結界が張られた。
「セバス、アタシの足元付近は特に強化してね!」
「既にやっております、長くは維持出来ません!」
マオは足を肩幅よりも広く開け、しっかりと大地を踏み締めて構えた。
両手の平を向かい合わせたその間で、とんでもない熱量の球体を圧縮し始める。
それがある程度の大きさになった所で、マオは言う。
「さぁさ、皆さんご覧あれ!
これがアタシの魔法の到達点の1つ!
刮目せよ! ──『原初の焔』!!」
その瞬間、夕暮れ時である事さえ忘れさせる程、眩い焔が天へと掛け登った。
天を焦がし、周囲の木々を自然発火させるほどの温度の火柱は、数秒後には煙となって消える。
────────コメント────────
【趣味全開】マオちゃんのわくわく魔法教室☆
同時視聴者数:249
:すげぇ……
:感動と恐怖って両立するんだ
:待って、ベランダから火柱見えた!
:やり過ぎでしょ、これ撃って大丈夫な奴なの?
:スタッフさん来てくれぇ!!
:マオちゃん、まじで何者なの?
:魔法詳しくないけど、ヤバい事だけは分かる。
:セバスさんの結界でも耐えられないんだ……
:楽しそうならいいか。いや、良いのか?
:歴史的瞬間を見た気がする
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コメント欄は賛否両論と言った所だ。
ただ、マオの正体が気になる者こそ居れど、核心に迫る者はいなかった。
それが見て取れて、露骨に安心するマオ。
しかし安心も束の間、彼女達に緊張が走る。
そう、ギーシュが転移酔いから醒めつつあった。
「う、おぇぇ……は? 何処ここ、森?」
状況を完全に理解される前にマオは動いた。
森から今度はマオの趣味部屋へと、またしても長距離の転移をぶちかます。
その結果はもちろん──
「ゥオロロロロロロロ……」
ギーシュがまたしてもダウンした上、お茶の間には到底お届けできないグロテスクな有様に。
これにはマオも慌てて認識阻害の魔法をかけ、視聴者にはギーシュの姿が濃いめのモザイクに、彼の口からアウトプットされた物は虹色に光るキラキラに見えるようにした。
────────コメント────────
【趣味全開】マオちゃんのわくわく魔法教室☆
同時視聴者数:295
:なんかモザイクから虹色が広がってる……
:これもしかしてスタッフさん?
:ご愁傷さま過ぎる……
:転移ってそんなに連発できる物だっけ?
:この虹色のってゲr……
:↑それ以上はいけない!
:明日の朝刊に載ってたりしてなw
:スタッフさん……
:あれ、そう言えばセバスさんは?
:スタッフさんは強い子だよ
:めげるなスタッフさん!
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ギーシュを憐れむ声が多数寄せられる。
ちなみにセバスニャンは燃え移った木々の消火の為に森へ残っている。
「うちのスタッフさんは強いから大丈夫だよ!
まぁ、アタシは後で大目玉喰らうだろうけど……
それはさておき! こんな感じで、この生配信が好評だったら、魔法教室……と言うよりは趣味の発表会を続けようと思います!
いつも応援してくれるキッシーのみんなも、今日初めて来てくれた人達も、まだ見ぬ魔法を見逃しちゃう前にチャンネル登録と高評価だけよろしく!!
見に来てくれた人に1人ずつお礼を言いたいんだけど、こんなに沢山いると時間がかかっちゃうから、まとめてお礼を言うね!
みんな、今日は見に来てくれてありがとー!
また時間後あったら見に来てね!
それじゃ、まったね〜!!」
こうして急ぎ足で配信を締めた。
マオは機材の停止を確認し、ギーシュの元へと駆け寄り、背中をさすって介抱する。
「わ、我が言うのもなんだが、大丈夫かい?」
「次からは……事前に言ってください……
てっきり、歩いて行くものだと……」
「ご、ごめんよ?
ほら、君を部屋まで送るよ。
歩けそうにないなら肩を貸すよ?」
「だ、大丈夫です……
今日の夕食はパスして、部屋で休みます……」
「そうかい?
クララやセバスニャンには我が伝えておくから、君はゆっくりお休み」
ギーシュはふらつく足取りで壁伝いに手を付き、部屋へ戻っていく。
◇
翌日の昼頃──。
「お説教だ、お説教!!
そこに座ってください魔王様! セバスニャン様も!」
「うっ、はい……」
「やはり私もですか……覚悟はしております」
説教を始める前に、ギーシュは彼らの前にいくつかの新聞紙の一面を表にして並べた。
『衝撃! 伝説の火龍復活の兆し』
『深淵の森にて巨大火柱を確認。天の裁きか!?』
『天変地異発生。気になる今後』
『驚愕の噂。深淵の森の火柱は人災か!?』
その記事を並べられ、マオとセバスニャンの額から冷たい汗が流れる。
その様子を数秒間眺めた後、ギーシュは口を開いた。
「極めて良く言えばバズりました。
チャンネル登録者は4倍近く跳ね上がりましたし、生配信のアーカイブの視聴数も未だに伸びています」
「それは良いじゃないか「しかし!」」
マオの言葉に食い気味でギーシュが答えた。
「今回はどちらかと言えば炎上寄りなんですよ!
見てくださいこの記事を! これも、これも!」
並べた新聞記事を尻尾の先端でビタンビタンと示す。
『火龍復活』なんて大それた見出しをみて、マオは場の緊張の糸を緩めようと軽口を叩いてみる。
「火龍復活だって……あはは、ウケる。
いや、分かってるよ。ごめんて……
そんなに睨まないで……」
「私からもこの通り。ギーシュ殿、今回ばかりは私に免じて、許してはいただけないでしょうか?」
「今回は僕の詰めが甘かったのも事実です。
ですので、微塵も怒ってはいません。
ただですね、この企画を続けたいと思うなら、最低限の加減を覚えてください。
あんなの最悪の場合、一発て正体バレますからね?」
ギーシュは、はぁ……とため息を1つ。
呆れやそう言う類のため息ではなく、これからの対処に対する絶望感故だ。
ギーシュはお説教モードから切り替え、マオに直近の今後の事を話す。
「取り敢えず、SNSで謝罪&説明。
その後、動画でも世間をお騒がせした事を謝ってもらいます。
そうすれば、炎上は収まると思いますので」
「わ、分かった……謝罪文と動画を考えておくよ」
「では、お願いします。
ただ、被害はほとんどありませんし、そんなに重い感じにしなくても大丈夫です。
それにあたって、セバスニャン様は魔王様を補佐してあげてください
取り敢えず、僕はあの森を調査しようとしている団体各所に連絡を入れて回ります」
「承りました。名誉挽回してみせましょうとも」
こうして各々が作業に取り掛かる。
マオはセバスニャンと共に謝罪文の作成及び、謝罪動画の撮影。
そしてギーシュは各地へと件の火柱の説明へ。
「…………ふぅ。ギーシュ君、行っちゃったね」
「えぇ……しかしあの方は、本当にかの対戦を知らない世代なのでしょうか?
カミソリの如く、キレのある殺気でした」
「その筈なんだけどね……
それだけ本気なんだよ、有難い事に」
全力で自分のサポートをしてくれて、魔王である自分に怒ってくれるギーシュの有り難さを噛み締め、いよいよ本格的に謝罪文を考える。
普段の執務で報告書的な謝罪文は描き慣れているマオだが、ファン向けの、もっと言えば民向けの軽めの謝罪文が思い浮かばない。
どうやっても重くなるだろうと。
ただ、思うままに書いてはみる。
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【件名】
今世間を騒がせている火柱について
【本文】
MgTune配信者 マオ
日頃より応援してくださり、誠にありがとうございます。
MgTune配信者のマオと申します。
先日、夕方頃に深淵の森にて、
当方が放った魔法が各所で観測され、混乱を招いてしまいました。
このたび皆様には多大なるご迷惑、ご心配をおかけしました事をを深くお詫び申し上げます。
以後、この様な事が無いように、当方含めたスタッフ一同で事前の協議を重ね、より良い動画を提供できるように努めて参りますので
この度の件はとうかご容赦くださいますようお願い申し上げます。
取り急ぎ、お詫びとご報告を申し上げます。
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「謝罪文はこれでいいよな。
次は動画をどうしたものか……」
「そんな時こそ先人の知恵をお借りしては?
中にはそのような謝罪する動画もございましょう」
「それもそうか……少し探してみよう」
スマボを操作し、先人達の謝罪動画を漁る。
すると、過去にやらかした人達の動画がわんさかと溢れ出てくる。
サムネイルはどれも黒背景に謝罪の文字だったり、居住まいを正した配信者だったりだ。
タイトルも──
『【謝罪】例の歌い手との関係について』
『【ご報告】不倫報道を受けて』
『謝罪と今後の活動方針』
など様々だった。
そして数ある動画を視聴して思う。
「これと比べたら、我のやらかし可愛くない?」
「事の大きさは関係無いですよ。
ギーシュ殿が帰るまでに、私達だけで動画を撮ってみましょう。
操作方法は見ておりましたので、私でも出来るかと」
◇
所変わり、あちこち奔走するギーシュはと言うと──。
「あの! こちら謎の火柱対策本部でしょうか!?
昨日の火柱の正体を知っておりますので、探索は待ってくださいませんか?」
始めに訪れたのは魔王都市を魔獣の脅威や治安を護る、魔導騎士隊の本部だった。
理由としては、何処よりも早く動く部隊だからだ。
ひと通り事情と経緯を説明し、その上で件の動画を見せると騎士達は理解を示した。
「まったく、人騒がせな……
緊張して損したよ。しかし、教えていただき感謝するぞ少年よ!
ほらお前達、解散だ! 通常業務に戻るぞ!
君はもしかして……この後も?」
「ええ、今からは近場の領主、新聞社、魔導省、その他も幾つか……」
「そ、そうか……
マネージャーというのも、存外大変なんだな……」
ははは……と乾いた笑いを零し、足早に次の場所へ。
近場を治めるの領主に頭を下げ事情説明、新聞社へ行きそこでも事情説明。
「こ、ここで最後か……」
最後にギーシュ訪れたのは魔導省。
行政機関の1つで、主に魔法の管理、研究、解読を行う機関である。
ここに訪れた理由は、動画内で撃った魔法が禁呪登録されている様な魔法ではないかを確かめる為だ。
「あ、おのぉ……こちら魔導省の事務所でお間違いありませんでしょうか?」
「おっ、君が例のギーシュさんだね?
そろそろ来る頃だと思っていたんだ!
さぁ、聞かせてもらおう! あの魔法が何なのか、どういう原理なのか、構造や構築を事細かに!! さぁ!」
「あぁ、えっと……こういう感じかぁ……」
怒られるでもなく、煙たがられる訳でもなく、純粋な好奇心に迫られた。
この目をギーシュは知っている。
魔法の話している時の、魔王の目のそれだ。
言うなれば、厄介極まりない。
「で、で? あれは何なんだい!?
確か、『原初の焔』と言ったかな?
ほぅら! 勿体ぶらずに!」
「ぼ、僕からは何とも言えないです!
これを開発したの僕じゃないですから!!」
「ほう? では、会わせて貰おう……
君の言う、その開発者とやらに!!」
「は? ええええぇぇぇ!!!?」
画して、魔導省の者と魔法オタクを会わせなければ行けない状況になってしまったのであった。




