【アーカイブ12】 圧倒的ネタ切れ
更新が遅れに遅れてごめんなさい……
「心して聞いてください魔王様……」
執務室に入って来るなり、不穏な第一声をあげたのは竜人族の青年、ギーシュ。
ご当地配信者として密かに活動する魔王のマネージャーとしてこれまで動いてきたが、とうとうこの時が来てしまったのだ。
「────ネタ切れです!!!」
執務室の椅子にて政務を捌く魔王は手を止めた。
少し前まで会議があったので、現在はルディウスの姿。
貫禄ある魔王の雰囲気を漂わせながら笑う。
「ハッハッハ、冗談にしては笑えんぞ?」
「…………」
「あっ、これマジなやつなんだね……」
冗談では無いと知り、その顔からは先程の余裕がすぅっ、と無くなってしまった。
しかし、ギーシュはそれを報告しに来ただけという訳ではない。
「君の表情を見るに、あるんだよね? 打開案が」
「はい、勿論。魔王様にその気があればですけど」
「あるに決まっているではないか。よし……
──緊急対策会議だ!!」
魔王の一声で会議室、もといギーシュの部屋に集まったのはギーシュ、ルディウス、それに途中で偶然会い、魔王に半ば強引に連れてこられた死告妖精の諜報員、シズ。
「と、言う訳で……緊急対策会議を始める!」
「わ、わー……?」
突然連れて来られて困惑しながらも、健気に場を盛り上げようとするシズ。
静かな拍手がぱちぱちと虚しく響く。
「別に、無理に乗らなくても良いんですよ?」
「そ、そうなのかな?
じゃあ、適度に相槌とか入れる、ね?」
「ありがとうございます。
良い案があればシズさんも、遠慮無く出してくださいね!」
「わわ、分かりましてゃ! ぅぅ……」
噛んだ事に恥じて下を向いてしまったシズは置いておき、ギーシュは早速本題に入る。
「魔王様にはこれから、生配信をメインに切り替えてもらおうと考えています」
「いづれはと思っていたが、いよいよ……」
「まぁ、そんなに難しく考えないでください。
今までは編集する手間があったので3日に1回の投稿頻度でしたが、生配信であれば毎日配信ができます」
「そう聞くと良い事な気もするけどね」
結論から言えば、良し悪しである。
10分前後の動画であれば隙間時間で視聴できる上に、見やすくなるように編集してある為、忙しい人や子供でも気軽に楽しめる。
その反面、編集作業の大変さや、今回陥ったネタ切れになる可能性が出てくる。
そして生配信は自由度が遥かに高い。
機材さえ揃っていれば、ほぼいつでも何処でも動画を開始する事ができる。
しかし、肝心の面白さは配信者のトーク力や柔軟性など、当の本人の頭の回転に全てを委ねる形だ。
生配信中に無言の1分でもあろう物なら、それは放送事故になりかねない。
生配信はそんなリスクを孕んでいる。
「リスク云々は理解した。
その上で、我は挑戦したい。
次のステージに、高みに登りたいと思うんだ」
その言葉にギーシュは満足そうに頷く。
「聞きたい事は聞けました。
それでは早速、機材を揃えましょう!
と言っても、水晶球や証明、部屋も前に作りましたし、ちゃんとしたマイクとか、後はオーディオインターフェースにミキサーとか、スイッチャーとかですかね?」
「ま、待ってくれ!
マイクは分かったが、オーディ何とかとミキサー、スイッチャー? とかは何者なんだ!?」
突然出てきた謎の機材達にプチパニックの魔王。
さぞ当たり前と言わんばかりに話を進めようとするギーシュを止め、解説を求めた。
「まず、オーディオインターフェースですが、これから生配信を行う上で、マイクなんかの外部機器を使用する事が増えると思うので、そのマイクとスマボを接続する為の道具と思っていただければ大丈夫です。
ミキサーは環境音の中から魔王様の声だけを強調したり、音質を良くしたり、トーク中に効果音を出したり、他にも色々できるんですよ」
「なるほど……最後の1つは?」
「はい、スイッチャーですね。
これは水晶球を複数個使った配信をする時に、撮る水晶球を瞬時に切り替えられるようにする道具ですね。
例えば、全体像から手元だけを映す画角にしたいなって時に、いちいち水晶球を設置し直すのは面倒ですよね?
そんな時に使う道具です」
「そんな物もあるのか。便利なものだな……」
文明の利器の進化を痛感する魔王。
サクッと説明を終えた後は、機材を探しに魔導具店へ。
◇
ギーシュ、シズ、魔法でマオの姿になった魔王は、魔王都市の中で最大手の大型魔導具店『マギオン』にて目当ての物を探しに来ていた。
「お2人を連れて来ちゃいましたけど、正直機材の善し悪しは分からないんですよね……
という訳で、店員さんを捕まえて聞いてきます!」
「あの! 待ってくださいギーシュ君……
こ、ここはシズに任せてください!」
珍しく、自信あり気な様子で申し出るシズ。
彼女はズンズンと売り場を歩いていき、ギーシュとマオを先導する。
「オーディオインターフェースですが、ま、魔王様は使った事がないので、最初2〜3万ルンくらいのシンプルな作りの物をオススメします!」
「初心者用……という感じですか?」
「プロの人でも使ってるよ?
ただ、それ以上の機材になると、操作するボタンが多かったり、細かい事が出来すぎて困っちゃうと思う……」
「あぁ、そういう!」
「そ、それに現代ではミキサーと一緒になってるのも多いから、そっちのが、良い。
シズのオススメは、これです!」
オススメの商品を紹介するシズの瞳は、心做しか輝いているようにも見えた。
ギーシュは身内に詳しい人物がいて助かったと思う一方で、こんな疑問も生まれる。
「シズさんって、配信者とかやっ「やってない」」
「いや、それにしては詳し「やってない、よ?」」
「…………はい」
あまりの圧にギーシュ、折れる。
流石にこんなにも食い気味で否定されれば、引くしかないだろう。
「それじゃ、ミキサーとオーディオインターフェースが合体したコイツを買うとして、後はスイッチャーとマイクですね。
勿論、オススメがあるんですよね?」
ギーシュの問にシズはこくこくと頷き、またずんずんと迷う事なく店内を進んで行く。
「スイッチャーなんですけど、これは正直シズも善し悪し分かんない……かも。
だから、中の上くらいを買うのを勧める。
し、強いて言えば大き過ぎないのがグッド、かな?」
「最終的に操作するのは魔王様ですからね……
あまり複雑過ぎると配信に支障が出るかもですし」
「我も出来るだけ簡略化された物が望ましいな」
という訳で、スイッチャーは中の上くらい、尚且つ感覚で操作出来そうなものを買い物籠へ。
最後に、ちゃんとした配信用のマイク。
「マイクはやっぱりこだわった方が良いですよね?」
「もち! それに、用途によっても異なる、よ。
音質の高さとか、指向性をどうするかとか」
「音質はともかく、指向性?」
「うん。シズが知る限り、マイクの指向性には『単一指向性』『双指向性』『全指向性』の3つがあって──」
曰く、『単一指向性』は、主にソロの配信者用。
1人の声を録るのに優れている。
一方『双指向性』は対面でのインタビューなど、2人での会話などを録るのに優れている。
最後に『全指向性』は大人数での配信用。
360度全てが集音範囲の為、複数人での会話や会議を録るのに優れていると言う。
「ほぅ……なら我は単一? の物を探せばいい訳だね?」
「です! で、もし魔王様が歌配信をする機会があるのなら、少し値は張りますけど、『コンデンサーマイク』をオススメします!」
「コンデンサーマイクって言うと、マイクの前に黒い網みたいなのが付いてたりするアレですよね?
配信の幅が広がりそうですし、良いですね……」
「『ダイナミックマイク』って言うのもあるけど、これが1番基本的なマイク、かな?
持つ所と音を拾うアミアミの部分みたいな形のやつ。
とにかく頑丈で、扱いやすいのが特徴です!」
「なら魔王様は、『単一指向性』の『コンデンサーマイク』を選んで買いましょうか!」
「うむ! 8割程は理解した……それで行こう!」
マオは即決した。
要望に沿った商品をシズが見つけ出し、それを買い物籠へ。
これで全ての機材が揃った。
オーディオインターフェース兼ミキサー 約3万ルン
単一指向性コンデンサーマイク 約8000ルン
その他備品 約3000ルン
で、計4万1000ルンと少し。
割と良い機材を揃えてこの値段だ。
高く見えるが、マオもギーシュも納得のお値段。
「カードで頼む」
「お買い上げありがとうございました〜!」
大型魔導具店『マギオン』を後にした一行は、一切の寄り道をせずに再び魔王城へと戻った。
◇
魔王城の一室に作った配信用の部屋に集まった3人は、早速購入した機材を接続し、配信ができるだけの環境を作り上げた。
「シズさん、本当に手際良いですよね……」
「ふふん、シズの数少ない特技の1つなので」
「他の特技も機会があれば見てみたいですね」
「ほ、他のは、まだちょっと……」
フードを深く被り、何故か赤面するシズ。
迂闊だったかと後悔するギーシュ。
普段あまり顔を合わせて話せない分、少しでも仲良くなっておきたいと思う気持ちが先走っていた。
「おかげさまで準備も早く終わりましたし、初生配信の打ち合わせをしましょう!
何かやりたい事とか、いい案があればお願いします」
「生配信って、普通は何をするものなんだい?」
「こればっかりは正解が無いですね……
基本的になんでもアリの世界ですので」
「そうか……なんでも良いんだな?
だったら、我の趣味でもある魔法研究はどうかな?」
魔法の研究をする配信。勿論悪くはない。
悪くは無いが──
「最初にする配信じゃないですかね……
かと言って挨拶も違うしなぁ」
「あ、あの!」
ここで意見を出そうとしたのはシズ。
ギーシュも期待を寄せる。
「ちょっと気が早いかもですけど、ファンネームを決める配信なんてどうでしょうか!?」
「ファンネーム?」
「あぁ、僕が説明しますね!
ファンネームって言うのは、読んで字のごとくファンの総称って感じです。
例えば、前に話した僕の推しのミナちゃんのファンには『ミナP』ってファンネームがあります。
すなわち、僕もミナPの一員な訳です」
あっても無くてもいいが、あった方がファンの団結力は固いものとなり、ファンとの距離は縮まる。
それがギーシュの考え方だった。
「ファンネームかぁ、いいな!
それで行こうじゃないか!」
「では、初回の生配信はファンネーム決め配信で!
目標は1時間と少しくらいの配信です」
「うむ、サポートは頼むぞ?
気をつける事とかあれば教えて欲しい。
それと、カンペを用意して貰えると助かる。
いざと言う時にアドバイスしてくれ」
「それは任せてください。
僕が全力で後押しします。
本音を言うとシズさんにも居て欲しいですけど……」
ギーシュは目線をシズに送ってみるが、彼女は残念そうに首を横に振る。
そもそも普段は諜報活動の為、魔王城に居る事の方が少ない故、仕方ないのだ。
「何とか僕だけでサポートしてみせます。
もし時間があれば、シズさんも生配信を見て後からアドバイスをください!」
「それなら、大丈夫。任せて」
「よし! それじゃ、細かい時間割りなんかを考えていきましょうか。
ダラダラやっても視聴者は楽しめません。
よくある雑談配信も、よくよく聞いてみると、十数分おきに話題をガラッと変えて、視聴者が飽きないように配慮しています」
「そうか……では挨拶は手短に10分前後に納め、その後の時間をファンネーム決めと、視聴者との馴れ合いで時間を半々で使うというのはどうだい?」
実の所、マオの提案はとても良い。
なかなか予定通り行かないのが生配信という物で、下手に色んな予定を積み込むより、ざっくりした予定の方が融通が効く。
「良いじゃないですか!
その予定で行きましょう!
生配信の枠の予約なんかは僕が手配しておきます。
配信予定は本来の動画更新日の明後日で」
「頼んだ!」
「し、シズも、応援してましゅから!」
そして翌々日、生配信予定日。
SNS『Zawameki』にて、生配信の宣伝も充分にした。
サムネイルも初の生配信である事を強調した。
応援のメッセージも幾つも来ている。
準備は万端。
「それじゃ、魔王様。覚悟は良いですね?」
「あぁ、いつでも大丈夫だ。
シミュレーションも沢山したし、何とかなる!」
「それは結構! 機材の調子もヨシ!
カウントダウン始めます!
──3! ──2! ──1! ……」
かくして、魔王の初めての生配信が始まった。




