【アーカイブ11】 嫌な気付き
遅刻してごめんなさい……
魔王都市内の3ヶ所にて動画の素材を撮影したマオとギーシュは、現在魔王城はギーシュの自室にて編集作業に勤しんでいた。
と言っても、主に血反吐を吐いてるのはギーシュだけだったが。
「次からは同じ場所でも、何パターンか撮った方がいいかもしれませんね。
いい感じに繋げようとすると時系列が狂ったり、矛盾が無いようにすると台詞に違和感があったり……」
「今からもう1度撮りに行くかい?」
「いえ、それには及びません!
魔王様が頑張ってくれたおかげで、素材自体はそれなりにありますので、ここは僕が頑張ります」
「流石は我のマネージャーだな」
「それに関してですけど、本当にそれで良いんですか?
その、魔王配下にマネージャーが居ても」
「別に構わんだろう? どんな職にも貴賎なしだ。
そもそも魔王配下自体、得体の知れない謎の組織みたいに認知されているし大丈夫だよ」
それならいいけど、と作業に戻る。
マオも何か手伝おうと時折ギーシュに確認を取るが、特にできることが無い。
手持ち無沙汰でそわそわするマオを見かねたギーシュは、1つ指示を出す。
「そうだ魔王様、今日何個か紹介したいお店を書いてもらったじゃないですか?
あれ、全部書き出してもらえますか?」
「ぜ、全部を!?」
「はい、魔王都市にある全てを」
にっこり笑顔で鬼のオーダー。
しかし、これも重要な事だと言い聞かせ、半ば強引に作業に取り組ませる。
「そう言えば今日、魔王様が男性だって教えたら店長さんぶったまげてましたね!」
「あぁ、我も長年通っているが、あんな顔は見た事が無かったよ……
君、そういうイタズラとか好きそうだよね?」
「何を隠そう大好きですね!」
「あの店長さんであんなに驚いたんだ。
視聴者のみんなも驚いているのだろうか?」
マオはふと書いている手を止め、驚く視聴者の顔を思い浮かべてみる。
思い描いた光景が愉快だったのか、笑みがこぼれる。
「魔王様、手が止まってますよ……」
「す、少し休憩しただけだろう?
すぐに書き上げてやろうではないか」
2人、軽口を叩きながら作業に取り組む。
ギーシュはスマボとにらめっこをしながら、時折ストレッチをし、またスマボに。
そしてマオは思い付く限りの名所を書き上げるが、やはり限界というものがあるのか──。
「ギーシュ君、思い付く限りを書出してるんだけどさ……
いざ書いてみると、実は紹介する場所少ないのかな?」
「いや、そこは自信もってくださいよ……」
「こうして視覚的に名所の数が見えるとさ、なんか少なく見えない?」
「まぁ、分からなくもないですけど……
っていうか、もう書けたんですか?」
マオから用紙を受け取ると、そこには箇条書きに沢山の場所が記されている。
中にはギーシュも知っている場所も散見されるが、基本的にはマイナーな場所が多いのだろう。
「おお、予想よりだいぶ多いですね!」
「そうかい? 我は予想より少なく見えてるよ……
この都市はこんなものじゃないと思いたい」
「僕がいたヤーフ領なんて、真の意味で何も無かったですからね?
強いて言えば、行商人がかなり多いから市場が栄えてるかな? くらいなもので……」
何度思い返そうと、具体的な名所が出てこない。
総合的に見れば良い所はあるが、領主の息子という立場的には難しいのかもしれない。
「君の領にはその……いないのかい?」
「いないって、ああ。ご当地配信者ですか?
いたかなぁ? いたとしても、何紹介してるんだろ」
「案外動画を見てみれば、新たな発見があるさ」
「この動画編集が終わったら探してみますよ」
そしてまた、2人は作業を再開する。
マオに関しては既に書き上げたので、他にも良い場所はないか絞り出そうとしている。
そんな中、扉をノックする音が響いた。
「ギーシュいるか? お、魔王様もここにいたんだな!
セバスニャンが、もうすぐ飯だから風呂に入って来いって言ってたぞ!」
入室してきたのは犬耳メイドのクララ。
身に着けている寝巻きからして、彼女は既に入浴済みのようだ。
「もうそんな時間か……
ギーシュ君、一緒に行くかい?」
「前にも言いましたけど、僕は女の子にまだそんなに慣れてないんです!
魔王様は今、女の子なんですからね?」
「ではこうしよう。『仮想姿』」
マオは魔法を使い、あれよと言う間にルディウスの姿に変貌した。
それならまぁいいかと、ギーシュは作業を中断し、2人で浴場へ。
◇
男同士、もちろん何事もある筈が無く無事に浴場からあがり、現在は食卓に着いていた。
「順調に事は運んでおりますか、魔王様?」
食事を摂りながら、問いを投げかけたのは猫精霊のセバスニャン。
「もちろんだとも。と言いたい所ではあるが、撮影は兎も角、動画作りはほとんどギーシュ君におんぶに抱っこ状態だからね……」
「動画の事でしたら、編集は順調ですよ。
魔王様もマオちゃんのあの感じにかなり慣れてきたような気もします」
セバスニャンは満足そうに頷き、それに気を良くしたのか、魔王が調子に乗る。
「頑張っちゃうぞ☆」
「…………失礼ながら魔王様、少し無理がございます」
「魔王様、今男性体ですよ? 正直キっっツいです」
「我、別に鋼のメンタルとかじゃないのだが?」
言外に「傷付いた!」と宣言する魔王を置いておき、皆は食事を続けた。
マイヤだけは指さしてケタケタと笑っていたが。
夕食を終えると各々は好きに過ごす。
ギーシュと、ルディウスは再びギーシュの部屋へ集まった。
ただ、今回は何故かマイヤもついて来た。
「別に見てても構いませんけど、面白い物でもないですよ?」
「お構いなく! 1人で勝手に楽しむっす!」
言うや否や、ギーシュのベッドに豪快にダイブを決めて、ゴロゴロとくつろぐ。
しばらくは2人を観察していたが、ふと思う。
「魔王様って動画編集はホントに何もしないんすね……」
「いや、我もホントは手伝いたいんだよ?
ただ、ノウハウや技術も圧倒的に劣るからね」
「まぁ、それもあります。
ですが1番の理由は、この作業を分業にしちゃうとおかしな事になりかねないので、僕が全部やっちゃってる感じですね」
「ふぅん……あ! これ、もしかして紹介する場所のリストっすか!? へぇ〜……ん?」
リストに目を通したマイヤはある事に気付く。
「魔王様はご当地配信者なんすよね?」
「そうだね、それがどうかしたかい?」
「いやぁ、ね? このリストにある場所全部紹介しちゃったら、配信者終わりなのかなぁ……って」
至極当然の懸念だ。
ご当地配信をする者が配信する場所が無くなれば、何になるのかと。
「それに関してですが、現段階ではどうとも言えないってのが本音ですね。
正直、今後の死活問題でもあります。
このリストで全てとなると、合計50個前後の動画で終わる事になるでしょう」
「そ、そうなのか!?
何とかならないのかい?」
「近い内に考えなくてはなりません。
ですが! 今はただひたすら技を磨いてください!
カメラ映りや、言葉選び、他にも色々ですね。
今後を考えるのは、極まった後です」
「そうか、君が言うならそうなのだろう。
我はその時が来るまで頑張ろうじゃないか」
ギーシュへの厚い信頼。
初めましてから数週間しか経ってないのに、ここまで信頼出来るのは、魔王の器の広さとも取れる。
駄弁っている間にも作業は進み、とうとう──。
「くぁぁあ……1本終わった〜!!」
「おお! お疲れっす!
1本仕上げるのに半日近くも掛かるんすね……」
「僕も初心者で、まだ慣れてないのもありますからね。
早い人だと日に数本作れるんじゃないですかね?」
ギーシュはこう言っているが、半日で動画を編集できるのは、初心者にしては割と破格の速さである。
「それはそうと、ギーシュ君!
完成した動画、見せて欲しいっす!」
「良いですよ。何か気になる点があれば教えてください」
「どれどれ……」
サムネイルは店舗の前で看板を指差すマオと、『美食の隠れ家!』『魅惑のメニュー』などの言葉で飾り付けられている。
『まおっす〜! みんな元気?
今日紹介するのはここ!
アタシの行きつけ、『昼時飯店』さんです!
落ち着きがあって、良い雰囲気でしょ!?
じゃ、早速中に入って注文してくるね!』
しばらく動画を見続けると、料理が運ばれてくる。
『それじゃ早速、いただきまーす!!!
クゥ〜……これこれ!
一見合わないようで、口の中に入った瞬間に全てが調和するこの感じ!
これを食べれば、人生の楽しみが1つ増えちゃうね!』
その後も恙無く動画は進んでいき、エンディングを迎えた。
「想像以上によく出来てるっすね……
このお店……ぼく行ったことないんすけど?
魔王様、今度連れてってくださいね?」
滴るよだれを隠そうともしないマイヤが言う。
もちろん魔王の奢りでと念を押し、約束を取り付けた。
この動画を見て、よだれを垂らすほど美味しそうに撮れているなら大成功だろう。
「早速更新したいので、魔王様はSNSでの宣伝をお願いしてもいいですか?
僕は更新する準備をしますので」
「うむ、任せろ。
SNSに投稿する前に確認だけ頼むよ。
サムネはどうする?」
「今回は僕が作りましたが、次回からはお願いします」
互いに確認し合い、動画を投稿する。
数秒もすれば1人、また1人と再生回数が増えていく。
10分もすれば数百人にもの人に再生され、動画を評価するいいねの数も順調に伸びた。
「これからが大事ですよ!
更新ペースを落とさないようにですね!」
「あぁ、やってやろうじゃないか!」
その日から、時間があれば撮影に赴き、編集を重ね、投稿するを繰り返した。
来る日も、来る日も……
撮影、編集、投稿、撮影、編集、投稿、、撮影、編集、投稿、撮影、編集、投稿、撮影、編集、投稿、撮影、編集、投稿、撮影、編集、投稿……
そんな日々を送り続け、気が付けば1年もの歳月が流れていた。
そして、彼等は恐れていた問題に直面してしまう。
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