王子の婚約者だけど冤罪をかけられました。彼らを嘘つきにしないように冤罪内容を全部ほんとにしてあげようと思います!
王子の婚約者だけど冤罪をかけられました。彼らを嘘つきにしないように冤罪内容を全部ほんとにしてあげようと思います! その後の小話
「王子の婚約者だけど冤罪をかけられました。彼らを嘘つきにしないように冤罪内容を全部ほんとにしてあげようと思います!」https://ncode.syosetu.com/n7992ia/ の、その後の小話です!
王太子妃になろうと画策したリリアと、そんなリリアを排除するためにリリアに惚れたフリをして手を貸し、学園を混乱に陥れたエドにそれぞれ罰が下された。
なので、現在の学園にその二人の姿はない。ついでにリリアの取り巻きをしていた貴族達も。
そして、その二人にかけられた冤罪を本当にして二人の処罰を上手く調整すべく、私は被っていた猫を脱ぎ捨ててイタズラに奔走した……わけだけど―――
「い、今さら他の生徒達とどんな顔して接すればいいんだろう……」
少し前までは貴族然としていた私だけど、一皮むければただのイタズラ好きな子だぬきだ。
レイや幼馴染達以外の生徒達に私の素がすんなりと受け入れてもらえるとは思えなかった。
一連の騒動の後処理などの関係で学園を休んでいたため、今日は久々の登校日となる。
一般生徒に受け入れてもらえるかが心配で、私は王太子であり婚約者のレイに泣きついた。私は王城に滞在しており、今日は王城から学園に行くため、朝にレイと会うのはそう難しいことではなかった。
「レイ、やっぱり猫を被り直した方がいいかな? このキャラのままじゃあみんなの憧れの王太子の婚約者が台無しじゃない? みんなが幻滅してしまいには婚約破棄なんてことになったら……」
「大丈夫大丈夫、俺の子だぬきは猫なんか被らなくても天才的に魅力的だから。それに、俺に人間の心を取り戻してくれたからって理由でステラを婚約者に定めた俺の両親が外野の意見で婚約破棄なんて許すわけがないでしょ?」
久々に腕を通した制服の上から背中を宥めるようによしよしと撫でられる。王太子であるレイの両親とは、もちろん国王陛下と王妃様だ。レイの心を取り戻したという理由で元平民の私を婚約者にしたことから、小さい頃のレイの感情がいかに死んでいたかが窺える。きっと両陛下も苦労したんだね。
背中を撫でながら「そんなに毛を逆立てなくても大丈夫だよ」、と言われるけど私はそこまで全身毛むくじゃらじゃないし逆立てるほどの毛も背中には生えていない。
たまに、レイには私が本物のたぬきに見えているんじゃないかと思ったりする。
「今までは貴族の令嬢らしく演技をしていたからボロがでないように一般生徒とそこまで深く関われていなかっただろ? いい機会だからあいつらの他にも友達を作っておいで。俺はもう卒業しちゃってるから一緒にはいけないけど、常にステラのことは見守ってるから」
「レイ……」
レイがそこまで言ってくれるんだし、ちょっと頑張ってみよう。
私は生まれつきの困り眉にむんっと力を入れた。
「レイ、私頑張るね! この学期が終わるまでに新しい友達を二人は作ってみせるから!」
「そこで百人とか言わない現実的なステラが俺は好きだよ」
よしよしと頭を撫でられ、私は学園に向かった。
学園に到着すると、幼馴染のカーラとシシーが私を出向かえてくれた。
「ああっ! 今日もキョトンとした顔が最高にキュートよステラ!!」
開口一番に抱き締めてくるカーラ。
周囲の人曰く、私は気を抜くとキョトンとした顔になっているらしい。生来のたぬき顔がそうさせるんだろう。だけど、この顔のせいで家庭教師の先生たちには理解できているかどうかをしつこいくらい聞かれたのはちょっぴり苦い思い出だ。
学園で演技をし始めてからは顔にも力を入れていたからそんなことはなかったけど、今はそれも止めているのでカーラの言うとおりキョトン顔になっているんだろう。
「おはようカーラ、シシー」
「マイペースなステラもかわいいわ」
「カーラ、ちょっとお行儀が悪いわよ」
「いいんだよシシー……」
「じゃあ遠慮なく」
いいんだよシシー、カーラは私のキャラがこんなんだよって周りに伝えてくれてるんだから、と続けようとしたら、間髪を容れずシシーも私に抱き着いてきた。
そういえばシシーは言質を取ってから行動に移すタイプだったね。
私の幼馴染達はみんな子だぬきモードの私が好きだから、ぎゅっとしたくてうずうずしていたのかもしれない。私はみんなよりも頭一つ分弱小さいからとっても抱きしめやすいし。
そんなやり取りをしていると、周囲がざわめき出すのが分かる。
それもそうだろう、ここは正面玄関脇、人通りがとても多い場所だ。
「うう……みんながどんな反応をしてるのか怖い……」
「あら大丈夫よ、この前のイタズラでステラの素は一般生徒にもちょっとバレてたし、みんなステラがかわい~って顔して校舎に入っていくわよ?」
「うんうん」
カーラの言葉にシシーも頷いて同意する。
「でも、二人はちょっと私に対して親バカな部分があるし、そう見えてるだけかもしれないよ?」
同級生に対して親バカって言うのもどうなのかと思うけど、本当にそんな感じなのだ。
「あら、そんなことないわよ。ねぇシシー」
「ええ。あ、そうだ、丁度今日は調理実習があるし私達以外の生徒と交流するのにはうってつけの機会なんじゃない? そこで実際に反応を確かめてみたらどう?」
この学園に通っている生徒は大半が貴族だけど、見聞を広げるために調理実習などの俗っぽい授業もある。
そして、調理実習は先生がランダムで決めた生徒同士が班になって料理を作るので今まであまり話したことがない人と交流するにはうってつけだ。
「うん、ありがとうカーラ、シシー。私、調理実習で同じ班になった子と頑張って交流してみるね」
そう言うと、二人はよくできましたと言うように微笑んでくれた。
今日は一限から調理実習だったので、早速調理室に移動する。カーラやシシーと戯れていたからか、同じクラスの生徒のほとんどが既に調理室の中にいた。私と同じ班の子も、既に私以外揃っているらしい。
この前の件で化粧が解禁されたので、学園内は以前より華やかになった気がする。でも、みんなきちんと節度は守っているのでそれほどけばけばしくなっている子もいない。
あんまり学園内の風紀が乱れるようなら校則を元に戻すと学園長は言っていたけど、その必要はなさそうだ。
ちゃんとそれぞれが自制できるなら規則はいらないもんね。
私の班は、女の子四人にプラス私という構成だった。クラスの男女比は一対一だけど、ランダムで班の構成を決めているのだからこういうこともあるのかもしれない。
よし、あの子達と仲良くなるぞ!
私は意を決し、割り当てられた調理場を囲むように集まっている四人のもとへと向かう。みんな、同じクラスだからもちろん話したことはあるけれど、雑談ができるような間柄ではない。
「みんな、おはよう」
「あ、おはよございますフェティスリー様」
「おはようございます」
口々に挨拶を返してくれる班のみんな。
どこぞのリリアとは違い、マナーをしっかりと身に付けている子達だから私のことはファミリーネームに様付けだ。
「あ、あの」
「? どうしましたか?」
最初に挨拶を返してくれた子に声を掛ける。髪をポニーテールにしているこの子は、運動もできる快活な子だ。
身長も高いので、顔を見ようとすると自然、上目遣いになる。
「私のことは……その、ステラって呼んで……?」
「ぐはぁっ!!!」
「!?」
狙撃されたのかと思う声が目の前の令嬢から出て驚く。胸も押さえてるし。
え? 本当に狙撃されてないよね?
きょろきょろと周りを見回すけど、誰も慌てていないことから本当に狙撃されたわけではなさそうだ。だけど、幼馴染のロイは教室の端っこでプルプルと震えながら蹲っていた。まあロイのあれはいつものことだから置いておく。
「ねぇ、大丈夫……?」
「だ、大丈夫ですフェティ……ステラ様」
「!!」
私は垂れ目がちな瞳をカッと開いた。
う、嬉しい。
幼馴染以外の人に名前で呼ばれちゃった……。
しかも、私の急な申し出に引いた様子もない。
もしや、さっそくお友達ができちゃうかも。
調子に乗った私は、同じ班の他の子にも名前で呼んで欲しいと言ってみる。すると、みんな快く私の申し出を受け入れてくれた。
みんな優しいね。そう言うと、なぜかみんなはとんでもないと首を振り始める。
「私達、以前からステラ様ともっと話してみたいと思っていたんです!」
「うんうん、学生でありながら国のために尽力されていらっしゃるのは尊敬でしかありませんし、あの忌々しい校則をなくして下さったのには感謝しかありませんわ!!」
その言葉に他の令嬢たちもうんうんと頷く。
忌々しい校則とは、華美な化粧は禁止という名目でほぼすっぴん並の化粧しか許されなかったあの校則だろう。やっぱり女子はあの校則に思うところがあったようだ。
「それに、ステラ様のお可愛らしい一面を発見して親近感がわきました。リリア・ボーデンを追い詰める様も正直見ていて痛快でしたし」
この言葉には会話に聞き耳を立てていたほとんどの生徒が頷いていた。やっぱりリリアは善良な生徒にはよく思われていなかったらしい。
ちょっとやり過ぎたかな? とも思っていたけどイタズラも概ね好評だったようだ。
そこで、先生が教室に入ってきた。
「そろそろ時間だし、全員揃ってるようだから説明を開始する」
そして、先生は説明を終えると私の方を見て言った。
「―――ん? フェティスリー、キョトンとした顔をしてるがちゃんと理解できたか?」
おお、なんということだろう。素に戻ったら、キョトン顔の弊害がここでも出てしまったらしい。
小さい頃の家庭教師達を思い出すなぁ。
懐かしさに少しだけしみじみしていると、私の隣にいた女生徒が一歩前に出た。
「先生! なんてことを言うんですか! せっかくステラ様が素を出してくださったのに止めてしまったらどうするおつもりです!? そうしたらこんなにお可愛らしい表情も見られなくなってしまうんですよ!?」
「そうですそうです」
「しかもステラ様が先生の話をご理解されていないわけがありません!!」
次々と私を擁護してくれる班の子達の言葉に先生も気圧されたようだ。
「た、たしかにそうだな。そう言えば、フェティスリーは小さい頃はずっとそんな顔してたな」
そういえば、この先生も初等部の頃の私を知っている人だった。あの頃の私は確かにみんなが言うようにザ・子だぬき顔だったなぁ。
自分でも思うんだから周りから見たらもっとだろう。
「何その話詳しく!!」と迫る私の同級生達を軽くいなし、先生は授業を開始した。
そして、結局その日の成果はというと、満面の笑みでレイに報告できるくらいには、班の子のみならずクラスの子達とも打ち解けることができた。
レイの言っていた通り、みんな子だぬきな私を受け入れてくれる優しい子達でした!
***レイside***
「―――どうやら、ステラは上手く同級生と仲良くなれたようだな」
朝、ステラと別れてから、俺は仕事をしながらステラを見守っていた。
常にステラを見守っているというのは比喩でもなんでもないのだ。俺はステラには嘘は吐かないからな。
執務室の机に置かれている水晶玉に映るステラの様子を見るに、どうやら上手く同級生とは打ち解けられたようだ。新しい友達ができるのも時間の問題だろう。ステラは元々皆に慕われていたし。今までは皆、ステラを尊敬するあまり話しかけたりできなかっただけだ。
まあ当然だろう、あんなに可愛い俺の子だぬきに絆されない奴がいたらそいつは人間ではない。
ステラの様子を映す水晶から一切目を逸らさずに書類仕事をこなす俺を見て幼馴染兼側近の男が呆れた溜息を吐いた。
「はぁ、殿下、ステラのおかげで人の心は取り戻しましたけど、やることはどんどん人間離れしていきますね。いっそ本物のたぬきでも飼ってその重たい愛情を分散させたらどうですか?」
「ハッ、俺がステラ以外のたぬきを愛でる筈ないだろう」
「前提としてステラはたぬきじゃないですけどね」
自分から言い出したくせにそんなことをぬかす側近。
そんなこと、俺が一番分かっている。
ステラが本物のたぬきだったら結婚できないからな。
さて、今日のステラの迎えは少しゆっくり目にするように連絡を入れよう。きっと仲良くなったばかりの者達とたくさん話したいだろうからな。
そう思って俺はステラの御者への手紙を書き、無駄口を叩いてばかりで暇そうな側近に持って行かせた。
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