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9.星の川、兄との思い出

 ガラク・ロード(森の部分)の出口が見えてきた。森を抜けると目の前には星の川が広がっていた。例えるなら天の川の様な道だ。この星の川こそ、ガラク(銀河)の名に相応しい道といえる。


 私は、その美しさに見惚れてしまっていた。


「綺麗……」


 そう呟いて星の川を見詰めていると、カイが、


「そうか……アステリアは初めてだもんな? ここに来るの。俺は案内人だから、何度かここには来たことあるよ。アステリアは、この修行の前は国から出た事さえなかったな」


「ううん、そんなに出たことはなかったんだけど、一度、お兄様とここには来たことあるわ。ここは、思い出の場所なの」


 私は遠い目をして、星の川を見詰める。


「お兄様……って、アクトル王子?」

 カイが尋ねる。


「うん、そうよ。アクトルお兄様……」

 私が寂しそうに答えると、カイは心配そうに私を見つめる。


「そうか、一緒に来てたんだな。アステリアの思い出の場所か。お兄様に、会いたい……?」


「うん……でも、もうお兄様には会えない。お兄様は私を庇って……」

 私は言葉が出なくなり、その場にしゃがみこんでしまった。


「ごめん、アステリア。辛いこと思い出させて」

 そう言うと、カイは私を抱き締める。


「ううん、大丈夫。ありがとう。ダメね、もう吹っ切れてると思ったのに」


「そんなことないよ。家族を亡くすことはとても辛い。それにアステリアは頑張ってたよ。テルスに行って、男の子の生活をしてたのだって、アクトル王子の為だろう?」


「うん、お兄様が二十歳になる時に、もう一度行きたいって言ってたから。行く前に、私にテルスの事を教えてくれたの。みんな優しくて、凄く良い人達ばかりだったって。それに、テルスはとても綺麗で……って」


 涙が溢れてきた。お兄様はもう、この世にはいない……カイの抱き締める手が強くなる。顔を上げると、心配そうに見ていた。


「アステリア、大丈夫……か? 俺もアクトル王子にはお世話になったよ。俺が本当の弟みたいに接してくれた。アステリアと同じで、身分を感じさせないようにしてくれてたしな」


「うん、お兄様は優しいもの。だから……だからっ……せめてお兄様の意思を継いで、テルスで男の子として過ごしたかったの。でも居心地良すぎて、アステリアとしての自分を忘れちゃってたね」


 私が涙を流しながらも、カイに心配をかけてはいけないと思い、少し笑ってみたり、照れながら話してみた。すると、カイも思い出した様に優しく微笑み、


「そうだな。本当に記憶が戻らなかったらどうしようって、正直かなり焦ったよ。しかし、俺、『ミドリ』って名前間違っちゃってたし、本当ごめん」


 カイが申し訳なさそうに言ってる。それに対して、私は思い出していた事を話した。


「その事ならもう良いよ。それにお兄様はあの字の事、『碧』ミドリって読んでたし。お兄様がきっと、カイにテルスの字を教えた時もそうだったのかなって思って。私はあえてその字を『アオイ』って読むことにしたの」


 お兄様、テルスでの言葉、凄く気に入ってたもんね……カイにもいっぱい教えたんだ……


「そうだったんだ。うん、確かに、王子には『ミドリ』って聞いた気がするな」


「ごめんね、紛らわしくて。お兄様が好きだった字、お兄様が使ってた字をそのまま使うよりは、他の読み方で使いたかったの……」


 私が寂しそうに言ったからなのか、まだ、涙で濡れている頬を拭ってくれ、頭を撫で、額に軽く口づけた。


「……っ。か、カイ?」


 驚いて、顔を上げると、カイは顔を真っ赤にして、照れながら呟く。


「アステリアの全てを今、癒す事は出来ないかもしれない。でも、俺が居るから……」


 そんなカイが凄く愛おしい……


「カイ、ありがとう。そう言ってくれて嬉しい……これからも側にいてね?」


 カイは少しまた困った顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。


「当たり前だろ! 俺がアステリアを守るから。ずっと側にいる」


 カイは私の手を引いて走る。星の川の端に辿り着いた。


「カイ、ここ渡るの?」


「そうだよ。ここは飛んで、川に沿って渡るんだ。浮遊魔法、大丈夫か?」


「浮遊魔法……うん、大丈夫だと思う」


 私が少し不安そうに言うと、カイはしっかり手を繋いでくれた。


「自信ないか……? 大丈夫だ。俺がしっかり手を繋いでおくからな。誘導もちゃんとする。アステリアは飛ぶことに集中してくれたら良いよ」


 カイが凄く逞しく見える。


「ありがとう。やっぱり、私にはカイが居ないと、だね」


 自然に笑顔になる。

 星の川を飛んでいく。その先に扉が見えた。


「あの扉に入ると、そこはもう、アトラスだぞ。もう少しだ。頑張れ」


「そか。もう、終わっちゃうんだね……」


 寂しさが込み上げてきた。仕方がないけれど、もう少しで終わり。あの扉を抜けてしまうと……長いようで、早かったな……寂しくなってきた。


 そうこう考えてえているうちに扉の前に来てしまったーー。





 

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