8,囚われたアステリア
用意された部屋に入る。部屋の中を見回すと、大きなベッドがあり、触ってみるとふかふか。大きなお風呂まであった。奥を見ると、ドレスも用意されていた。
コンコンとドアを叩く音が聞こえ、オークの女の子? が入ってきた。
「失礼致します。侍女のミーでございます。ファウス様に言われ、参りました。アステリア様、お召し物をお洗濯致します。ドレスにお着替え下さい。ファウス様が待っておられます」
「ありがとう」
着ていた服を侍女に渡し、ドレスに着替えてファウスが待っている食堂へ行く。
「お待たせしました」
ファウスに軽くお辞儀をする。
「流石姫だな、ドレスが良く似合ってる。さぁ、座って。飲み物はどうする? お酒は?」
「ありがとう。ドレスまで用意してくれて。えっと、お酒は……まだ飲めないの」
「じゃあ、ジュースをどうぞ。この国のジュースは美味しいから、きっと気に入ると思う」
侍女がジュースを入れてくれる。
「ありがとう」
侍女に渡されたジュースを持ち、ファウスと乾杯をする。
(何だか見詰められてるような……)
ファウスに見詰められている気がして、急に恥ずかしくなり、一気にクイッとジュースを飲みほす。
(あれ? なんだか……急に眠気が……? まさか!? ファウス……)
急に眠気に襲われる。そんな私を見ながらファウスが呟いている。
「すまない、アステリア。こうでもしないと、君を手に入れられないと思って……」
(油断した……わたしったら……信じ……て……カイ……)
遠退いていく意識の中で、ファウスに抱えられているのが分かる……ファウスは部屋に入り鍵を閉めている。そこで意識が途切れた。
*
ーーその頃のカイロス。
(アステリア、俺のせいだ……このままだとオークに……)
オークが向かったであろう道を急いで追いかけていく。途中オークの手下を捕まえ、アステリアの居場所を吐かせた。
「ルー様はオーク城へ行ったよ……もう、許してくれよぉ……」
「許せるわけないだろう。大事な姫を拐ったんだ。城は何処にある、案内しろ!」
「はい……」
手下のオークに案内させていると、前からオークのリーダーが、トボトボと歩いて来た。アステリアの姿は見えない。
「……お前っ! リーダーのルーとかいう奴だよな? アステリアを何処へやった!! 返せっ!」
ルーの胸ぐらを掴んで迫るが、ルーは心、ここにあらずといった感じだ。
「何だ? お前、アステリアを嫁にするとかいって連れて行ったんじゃないのかよ!! アステリアは何処だ!」
「ああ……あの娘か、連れていったよ。城にな。連れていったさ……けどよ……皇子にとられちまった。ファウス皇子だ。もう、娘は帰れないだろうよ。皇子が妃として迎えたいといえば、誰にも止められない」
「どういうことだ! 詳しく説明しろよ!」
ルーの胸ぐらを掴み揺する。
ルーは、面倒くさそうにカイに今までの事を説明した。
「そんな事に……! 皇子はオークと人間のハーフか。それで、アステリアは何処にいる? 案内しろ!」
ルーは嫌そうな顔をして、
「何で俺様が案内しなきゃいけないんだ」
と言うので、今までの何十倍もの炎の塊を見せ威嚇する。
「殺られたくなかったら、案内しろ。俺は今、気が立っている。もう、手加減はしない。アステリアの為なら、お前なんか……森くらい焼きつくしてやる!」
それには流石のルーも慌てて、
「分かった! 俺が悪かった。案内するからその炎をしまってくれ!」
と土下座。
「最初からそうしてれば良いんだよ」
炎をしまい、ルーに案内をさせる。着いたのは、城の裏門だった。時間は夜更けに近付こうとしていた。
「あそこに見える、明かりの点いている部屋が皇子の部屋だ。嫁に迎えられたとすれば、今頃あそこの部屋だな」
「分かった。ここで良い。お前は見付からないように見張っていろ」
「わ……かりました……」
ルーはもう、従うしかないという顔をしていた。
*
ーーアステリア。
目を覚ますと、ベッドの上で手を縛られていた。
「ここは……」
ファウスが、そんな私を見ながらニヤッと笑っている。
「アステリア、目を覚ましたか。ここは、俺の部屋。今日からは二人の部屋だな」
「……っ。離してっ」
目に涙が溜っていく。ファウスを睨む。
「ふっ。良い顔だな。そうだな、俺の嫁になると言えばほどいてやる」
「だ……れ、が。ファウス、信じ……てたのに」
「信じてた……か。まぁ、その強がりもいつまで持つかな?薬もまだ完全には切れてないようだが?」
私の髪を撫でながらファウスは言う。ファウスの顔が近づく。
「い、嫌。やめて……」
(カイ、助けて~っ!)
心の中で叫んだ瞬間、バリーン! と、大きな音を立て、窓ガラスが割れた。
「アステリア! 大丈夫か!?」
「か、カイっ!?」
今にも皇子に襲われそうになっている私を見て、カイは窓から飛び降りながら、皇子に殴りかかる。
「アステリアを離せ~っ!」
カイは、皇子をベッドから付き飛ばし、縄を短剣で切ってくれた。それから私を抱き抱え、優しい顔で笑う。
「もう大丈夫だ」
その姿が本当の皇子様のように見えて、少し見惚れてしまっていた。
「アステリア? ……大丈夫?」
「カイ、助けに来てくれてありがとう! 絶対来てくれるって信じてた!」
「ああ。必ず何処にいても助けるって言ったろう?」
「うん! 流石、カイは頼りになるね!」
「いや、まぁ、拐われたのは俺のせいでもあるし……怖い思いをさせてごめんな」
私をゆっくり下ろしてくれる。
カイはだいぶ落ち込んでるみたい。
私がニッコリと笑い、
「ううん、こうして来てくれただけで十分よ」
と言うと、カイはホッとした顔をして私をだきしめる。
その後、まだベッドの脇で伸びているファウスを見て、カイはファウスを縛り上げる。
「さてと、こいつをどうするかな~」
普段はオークの中でも格段に強い筈だが油断したのだろう。カイがファウスを王の元へ連れていく。王は驚いたが、息子に危害を加えられたらどうしようもないので、焦りをみせている。王が
「何か詫びを……」
と言ったが、もう関わりたく前にもなかったので、アトラス国の国や国のものを絶対に襲わせないと約束させ、城を後にした。
「色々あったが、そろそろガラク・ロードを抜けるぞ! アステリア! アトラスまでもう少しだ!」
カイに手を引かれ、オークの国を後にする。
アトラスまで後少し。カイとの旅も終わりを迎えていた……