7.オークの国
「しまった!! アステリア!」
(俺が考え事していたばっかりに……アステリア、無事で居てくれ! 必ず助けるっ!)
カイロスは、急いで後を追いかけた……
ーーその頃のアステリア。
「離してよっ! 離してってば!」
オークの腕の中で抜け出そうと暴れる。
「おいっ、暴れるな! お前は俺の物になるんだからな!」
「絶対、ならないわよ! 離して~っ!!」
本当は泣きたい気持ちでいっぱいだったが、そうもいかなかった。
(きっとカイは私が拐われたの、自分のせいだって責めてるよね。何としても逃げ出さなきゃ)
精一杯暴れる。しかし、アステリアの力では振りほどけなかった。
(流石、オークのリーダー……一筋縄じゃいかないよね。どうしよう……)
「おっ? 諦めたか。俺から逃げようなんざ100年早いわ」
オークのリーダーは得意気だ。
「早く、王国に連れて帰らなきゃな」
(オークにも王国なんてあるんだ。そこに連れていかれると、逃げられなさそう……それに、こんなオークの嫁なんて絶対に嫌だ~っ!!)
「ここが、我々オークの国だ」
そうこうしているうちに、オークの国に着いてしまったらしい。
「まずは、王と王妃、それから皇子に挨拶するぞ。失礼の無いようにな」
(誰が! あっ! 失礼な事をしたら、追い出されるかしら……)
なんて思っていると、考えている事が分かったのか、オークはニヤニヤしながら
「失礼な事をすると、追い出される事はなく、処刑だからな?」
また、得意気に言う。
(本当にもう、どうしたら良いの~)
城門の前に来た。門番がリーダーに問う。
「ルー様、お帰りなさいませ。その者は? 人間では?」
その言葉に、オークはニヤリと笑いながら
「そうだ。コイツを俺の嫁にするため連れてきた」
そう言うと、私を下ろし腰に手をまわす。
(もう、泣きそう……『ルー』が名前なのかな? どうでも良いけど……)
門番は私を上から下まで舐めるように見た後、ニヤッと笑い、また、ルーに問う。
「そうでございましたか。今から王に会われますか? 後、献上品は?」
「もちろんだ。この娘も手続きせねばならん。それと、献上品はこれだ」
ルーは、上等な毛皮を門番に見せる。
「分かりました。こちらでお待ち下さい」
勝手に話が進み、門を通され、城の入り口に案内される。ルーは、ずっとニヤニヤしっぱなし。
「これで王に謁見したら、お前も晴れてここの住人、俺の嫁だ」
(はぁ……どうやって逃げよう……絶対に嫁になんてならないんだから)
私が何も言わないのを良いことに、ルーは勝手に話を進めていく。
「ん? どうした? そうかそうか、嬉しすぎて声も出ないんだな。ようやく俺の魅力が分かったて事か」
ルーは、嬉しそう。
(んな訳ないでしょ! 絶対に逃げてやるんだから!!)
中から侍従が出てきて扉が開いた。
「ルー様、準備が整いました」
どうやら奥にオークの王が居るようだ。中に入って、奥に座っている人? を見て驚いた。真ん中に座っているのは『王様』だろう。がたいが良いオークだ。その横は王妃だろうか??
(王妃……? どうみても人間の様な気が……耳も尖ってないし。それにしても綺麗な人)
そうなのである。王冠を被って、王であろうオークの隣に座っているのは、どう見ても人間に見える。その横にいる『皇子』は
(角? の生えた人間?? あ。耳は尖ってる。格好良いなぁ……)
横にいるルーとは比べ物にならないような、格好の良い男の子だ。
「何ぼーっとしてるんだ。お前も頭を下げろ!」
「分かったわよ!」
ルーに言われて渋々頭を下げる。
「ロムス王、失礼致しました。こちらが献上品となります」
ルーは、さっきの毛皮を王に渡している。
「うむ。それで、話とは? そこにいる娘と関係あるのか?」
「は、はい。おっしゃる通りで。この娘を我が……」
と、ルーが言いかけたところで、皇子が立ち上がり、前に来た。
「そこの娘、顔を上げろ」
(何!? この偉そうな言い方……まぁ、従った方が良いわよね)
「は……い」
顔を上げると、皇子もまたニヤッと笑い、聞いてきた。
「ふむ。うん、やはり良いな。そなた、名はなんと言う?」
「アステリアと申します。えと、皇子様?」
答えると、今度は優しく微笑み、
「いかにも。私はこの国の皇子、ファウスだ。アステリア、一目惚れした。私の妻にならないか??」
(今、この皇子様なんて言った!? 一目惚れ!?)
目を見開き、皇子を見る。
「そ、そんな、ファウス様、この娘は私の……」
ルーは慌てている。皇子は、じっとルーを睨み、
「何だ? ルー? 私に意見する気か?」
ルーは何も言い返せない。
「い、いえ、何でもありません。ファウス様……」
オークのリーダーも、皇子様の前では何も言えないらしい。
「ルー、献上品は有り難く戴こう。ご苦労だったな。下がって良いぞ」
「否、え……あ……は、い。分かりました。失礼致します……」
ルーは、アステリアの方を名残惜しそうに見て、肩を落としながら出て行った。
「アステリア、こちらへこい」
皇子様に言われ、側に行く。
「は……い」
(私、どうなっちゃうんだろう……ここの国で? そんなのは嫌……)
「お父様」
皇子がロムス王を見る。
「うむ。そうだな」
王は頷き、ファウスに任せると言った。
(ちゃんと、断らなくっちゃ!!皇子と結婚できないって!)
「皇子様、あの、私っ!……」
と、言ったところで皇子が
「アステリア、と言ったな。お前、大丈夫か?」
「えっ!? あ、はい。大丈夫です」
直ぐに求婚の話だと思っていたから、驚いた。
ファウスは気になった様子で聞いてきた。
「さっきのルーに拐われたんだろう? お前は何処から来たんだ? 見たところ一般人では無いようだが」
「テルスという星から、アトラスへ帰る途中でした。私はアトラスの姫のアステリアです」
「そうだったか。アトラス国は聞いたことがあるよ。姫に頭を下げさせて申し訳ないことをしたな。それと『お前』って言って悪かった」
「いえ、大丈夫です。それより私は……」
「うん、分かってる。私の妻になる気はないのだろう?」
「はい、ごめんなさい」
ファウスは、少し残念そうな、寂しそうな顔をしている。
「謝らなくて良いよ。私の国の者が失礼をしたな。怖かっただろう? 見て分かる通り、私の母は人間だ。私はオークと人間のハーフだ。君の気持ちも分かるよ。一目惚れした……のは、本当だけどな。諦めるよ」
(オークの皇子様って優しいのね。)
ホッと胸を撫で下ろす。
「皇子様、ありがとうございます。それと……私、そろそろ帰らないと。心配している人が……」
「あ、ああ。そうだな。その心配しているという人は恋人か?」
「恋人……だと、良いのですけどね。」
寂しそうに答えた。
「身分違いの恋、というところか?」
「皇子様には、お見通しなんですね。」
ファウスは、優しい口調で話してくれる。
「身分が違っても好きなんだろう? 種族や身分違っても結婚出来るんだから。俺の両親みたいにさ。母は異国の姫だったんだ。だからさ、頑張れよ? あ、後、皇子様じゃなくて、ファウスって呼んでくれ。姫と皇子は対等だと思う」
「ありがとう……ファウスって良い人ね。頑張る」
ニッコリとファウスに微笑みかける。
暫く話をした後、ファウスに提案された。
「それと、今日はもう遅い。泊まっていけ、夜の森は深くて危険だ。明日の朝帰れば良い」
「あ。うん、けど……」
(カイ、心配してるよね。早く帰らないと……)
私がそれでも出ていこうとすると、ファウスに引きとめられた。
「……夜の森に出ていくと、本当に危険だぞ? 後、君をもてなしたいんだ。」
心配そうに言う、ファウスに申し訳なく思い、
「うん……分かった。そうするね。ありがとう……」
一晩泊まることにした……