6.ガラク・ロード~森の中へ~2人の気持ち~
休憩施設を出て、ガラク・ロードへ入る。木々が生い茂り、所々光が差し込んでいる。奥は暗くて良く見えない。
「ガラク・ロードって森なんだ」
記憶が戻ったとはいえ、ここの事は知らなかった。
カイが教えてくれる。
「そうだよ。っといっても、この森は通り道。この森を抜けた先に星の……ガラクの道がある。この森の中は危険区域だ。魔物が出るが俺がしっかり守ってやるからな」
カイは『俺に任せておけば大丈夫』と得意気。
そんな姿に、ふふっと笑いながら、
「カイ、私も魔法は使えるから、出来るだけ頑張るよ」
と、思いだした魔法を使って、その辺りにあった石を浮かして向こうへ飛ばしてみる。それを見たカイはホッとした顔をし、
「アステリア魔法思い出したんだな? 良かった。
でも、無理はするなよ? 後、これも持っておいて」
と、私に短剣を渡す。
「ありがとう。けど……正直武器は苦手かな」
「いざという時には役に立つから。とりあえず持っておけば良いよ。それと、それは改造武器だ」
「改造武器???」
「試しにあの岩を切ってみてよ」
見ると、20m先位に大きな岩があった。
「岩を切る!? あんなにおっきいのに?? それに結構距離あるよ?」
(信じられない……でも、カイが言ってるから切れるかも)
「剣をあの岩に向けて真っ直ぐに高く振り上げ、手元にある緑のボタンを少し強く押しながら、振り下ろしてごらん」
カイがそう言うので、言われた通りに剣を振り下ろしてみる。すると……
カチッ、シュッ
バシュッ、バキバキバキ……
音と共にイカヅチが岩に落ち、真っ二つに割れる。その衝撃にビックリして、固まってしまった。
「び、ビックリした~。イカヅチが出るなら言ってよ!」
「ああ、悪い。しかし、驚いて固まってるアステリアも可愛いよ」
カイはニヤッとしながら言う。
「……もうっ、からかわないでよ~」
顔が真っ赤になる。
その後、魔物を倒しながら森の中を進んでいく。ガサッ。草むらの中で音がした。音のする方から何かが目の前に飛び出した。ゴブリンだった。
「ゴブリンっ」
剣を構える。するとカイが、
「ちょっと待て、アステリア。そいつはホブゴブリン。誤解されやすいけど良い奴らなんだ」
「ホブゴブリン??」
ホブゴブリン(「……イイヒト?コウゲキシナイ?」)
ゴブリンは、さっき剣を構えたせいか少し震えている。
「……カイ、ごめん、私のせいだよね」
私がしゅん……となっていると、
「大丈夫だよ。俺達が攻撃したりしないって分かったら、落ち着くよ」
そう言うと、カイはホブゴブリンの所へ行き、何か話をしている。
「……そうか。……うん、よし! アステリア、何か食べ物持ってたよな? 2つ出して」
カイは私に向かって、手を振りながら合図する。
「あ。うん、分かった」
私は言われた通りに、果物を2つ鞄から出し、カイに向かって投げる。
「サンキュ。」
カイは果物をキャッチし、ホブゴブリンに渡す。ホブゴブリンは嬉しそうだ。
ホブゴブリン(「イイヒト。ウレシイ。アッチオークイル。オーク、ヨメサガス。オンナノコアブナイ。コッチイクトイイ。」)
ホブゴブリンの話を聞いたカイが教えてくれる。
「ゴブリンの話を訳すると……あっちにはオークのリーダーがいて、今、嫁探し中。女の子は拐われる事もあるから行かない方が良いって言ってるよ」
私は、ほっと胸を撫で下ろす。
「あっちは危ないってことだよね……」
(ホブゴブリンが教えてくれなかったら、危なかったということだよね。良かった……)
カイが、ホブゴブリンに笑顔で手を振ってる。
「ありがとう! 助かったよ! じゃあなー!」
ホブゴブリンも嬉しそうにこっちを見て、果物を掲げている。
「本当、教えてもらって良かった~。オークの嫁探しなんて怖すぎる」
「アステリアは黙ってれば可愛いし、拐われるかもな? まぁ、なんにせよ良かった。姫が拐われたとなると大変だ」
うんうんと、カイが頷く。
「ちょっと、カイ~。黙ってればは余計~!」
「ああ。ごめんごめん」
カイは笑いながら答えてる。
「もぅ~」
ガサッ。話をしていると、林の中から音がした。音がした方にカイが剣を構える。オークだ。5体もいる。真ん中に居るのは……ボス? さっきホブゴブリンが言っていたオークのリーダーだろうか?
「アステリア、下がって。」
カイが目の前に立つ。私はカイの後ろに隠れた。
「おんな、こっちに渡せ。」
オークが寄ってくる。
「姫は渡さない!」
カイが剣を構えて、守ってくれる。カイの後ろで様子を見る。
(あれ? 何かおかしい……)
「ん? ちょっと待って」
「どうした?アステリア」
「さっきのゴブリン、オークがあっちにいるって言ってなかった??」
「確かに……」
よく見ると、オークの後ろにさっきのゴブリンが。
「あーっ!ゴブリン~!!」
私が指差すと、オークがニヤニヤ笑いながら、
「あー、コイツらは俺の手下だ。残念だったな。お前、俺の嫁になれ」
近づいてくる。さっきのホブゴブリンはオークの後ろで、少し震えながら隠れている。
「おい、俺が居ることを忘れるなよ。ファイヤー、ボール!!」
カイが唱えると同時に大きな炎がオークを包む。
「アステリア、こっちだ!」
カイに手を引かれ走る。
暫く走ったところで、木の上に飛び乗り、様子を見る。手下であるだろう4体のオークが真下であっちかこっちか話している。さっきのボスのオークも加わり、森の奥に入って行った。
「ふ~。危なかったな。大丈夫か? アステリア」
カイは心配そうだ。
「うん、ありがとうカイ。大丈夫よ。それにしても、さっきのゴブリンにはやられたね……」
「ホブゴブリン、基本は良い奴なんだけどな…震えてたし、何か訳があるんだろう。まぁ、逃げ切れたから良かったな。」
「うん……逃げられてホントに良かった……連れ去られたらどうなるんだろうって、やっぱり怖かったの」
「そうだな。まぁもし拐われても、俺が絶対、全力で探しだして救い出してやる。その前に、絶対に拐われないように守るけどな。大切な『姫』だしな?」
カイは得意気に言ったが、私は少し不満と寂しい気持ちになり、カイに問いかける。
「カイは……もし、私が姫じゃなかったらこんなに守ったりしてくれないよね? カイは『使命』で『アトラスの姫』を守ってるだけだもんね。」
「アステリア……そんな風に思ってたのか?? 俺は、アステリアが大事だ。例えアステリアが姫じゃなくても、守るよ」
カイは少し困ったように答える。
「ホントに?? でも、やっぱり『姫』だから……じゃ、ないの?」
じっと、カイを見詰め寂しそうに言ってしまった。
「あ~っ! もうっ! そんな風に言うなよ。そんな顔するな。気持ちが抑えられなくなるっ」
カイはアステリアをぐいっと引き寄せ、抱き締める。そして、顎を持ち上げ口づけた。
「?? カイっ??」
私は、突然の事に顔が真っ赤になり動けなくなった。
「……俺は、お前が……アステリアが好きだっ!!言わせるなよ我慢してたのに…ずっと、ずっと……好きだった。身分違いなのは、分かってる。だから、言うつもりも無かったんだ……アステリアを困らせるの分かってたし……」
カイは頭を抱えて座り込んでしまった。
「カイ……私もカイの事……」
(もう、言ってしまおう。身分なんて関係ないっ。私もカイの事大好きだもんっっ。)
「……えっ!?」
「カイの事、大好…」
っと、言いかけたとこで、カイに口を押さえられた。
「アステリア、それ以上言うな。言っちゃダメだ。ごめんな。俺……姫にそんなことを言わせるなんて、護衛として失格だな。今のは忘れてくれ。本当にごめん」
「カイ……私は……」
「この話しはもう終わりだ!先急ぐぞ!」
カイはわざと大きな声で、アステリアが言おうとしてることを遮り、先に進み出す。
「カイ、待って~!」
慌てて追い掛ける。カイは少し先で待っていた。カイの目は少し潤んでいた。
「アステリア! もう直ぐ森を抜けるから頑張れよ!!」
カイは気持ちを悟られないように、ニカッと笑う。けれど、どんなに隠そうとしても私には分かっていた。幼い頃からずっと、長く一緒に居るから……
(カイ、私もホントにカイの事好きだよ……ずっと、ずっと……)
そんな風に考えていた、その時!!
「グヘヘ。女、こんな所に居たのか。」
オークがアステリアの真後ろに立っていた。
「きゃ~っ!!」
私は、オークに捕まってしまった……