Prequel of World Apocalypse
こんばんは。作者です。
あらすじにも書いておりますが、本来なら本編を出して知っていただいてから前日譚というのは出すべきなのですが、どうしても触りだけでもという意味もあり投稿します。
なお全てを説明する事はなく、詳しい事は本編にてお待ちください。
またこの前日譚を読まなくても本編には影響はないかと思われます。
「さぁ、何を話そうか?」
広大な密林の奥地にある集落。そこに来ていた旅人の話に集落の子供達は興味津々だった。これといった特産品や観光名所もなく、ただただ原始的な先住民族達の集落には行商が来る以外に来客はない。
しかしある時に集落を訪れたのは集落がある国の民族衣装に身を包んだ美女だった。傍にはまるで姫を守る騎士のように一匹の犬がおり、一人と一匹は子供達への教育を引き換えに数日間の滞在の許可を求めた。
集落の長は年々と異常を来す者が多いこの集落に少しでも気でも和らげればという思いと、彼女がもたらした知識は自分達にも使えるものだとわかると了承した。
「さっき[魔物]がいたから、[魔物]について教えて」
一人の子供が朝の出来事から女性に質問をする。
「勿論だよ。少し長くなるよ」
女性は地面に枝で描きながら説明をする。
この世界の始まりというのはまだわかっていない。何しろ途方もないぐらい前の事だからね。そこから生命が誕生し、変わっていく環境から様々な進化をした末に人類が誕生した。これまでは前にも教えたよね。でも人類が誕生した少し経った時に、ある事がわかったんだ。人類が誕生する前から自分達とは異なった生命体がいると。その生命体は[魔核]と呼ばれる臓器を持つ事からいつの日か総称して[魔物]と呼ばれるようになったんだ。
「ざっくりと簡単に言うとこんな感じになるんだ」
女性は先進国の教育の[魔物]に関する触りだけを集落の子供達に説明する。本当ならもっと専門的により詳細に説明はできるが、この集落の子供達は文字が読めない上、簡単に説明した内容でも単語の意味がわからなかったりする。だが女性は上手く図で説明する事で子供達は視覚により何となく理解はできていた。
「どれくらい前からいるの?」
「これも定かじゃないけど、人類の祖先が[魔物]を悪いものって思ってしまうから、人間が誕生する前からいたとしかわからないね」
「そーなんだ」
曖昧で確実ではない答えに質問した子は興味なさそうに返事をした。まだまだ子供、それも充分な教育が行き届いていない国の更に奥地の閉鎖的な集落では、今説明した内容をより理解するには無茶なのであった。
「んー、じゃあ次は[魔法]と[魔術]、この違いについ……」
女性が別の話題に切り替える時だった。女性と子供がいる住居の外から大人達の叫び声がした。それは単なる驚きとかではなく、かなり危険なものであるとその場にいた全員が理解した。そしてそれが確定したように、集落独自の緊急を伝える笛が響いた。
「どうされました?」
慌てて女性と子供達がいる住居に入ってきたのは、子供達の母親や老人達だった。女性は1番若い男に話しかける。
「今まで見てきた[魔物]とは違った丸い変な形の奴が出てきたんだ。男は全員出て、女と子供と老人はここで隠れてるようにと」
「丸い……わかったわ。貴方ともう一人ぐらい呼んでここの人達を安心させて。後、こちらから指示があるまで絶対に外に出ない事」
「貴方は?」
「平気よ」
女性は忠犬を引き連れて住居の外に出ていった。そしてすぐに集落の男達が集まる場所に駆けつけた。
「おお旅人」
「[魔物]はどこに?」
「入口にいる」
「わかった。私が最初に相手をする。貴方達は他から来る[魔物]がいないか警戒してほしい」
「いいのか?いくら旅人が強くても」
「そのために私がいるから」
集落の入口というのは、集落がある密林奥地の入口を指し、そこにはその集落だけでなく、他の集落や動物達の貴重な水源である大河の上流であった。
「やっぱり」
その大河に陣取るように1匹の[魔物]が鎮座していた。大きさはどこかの広場のモニュメントにもなるほど大きく、形はまんま時計であった。だがその丸時計は時を刻みつつ浮遊していた。
「出てきなさい。いるんでしょ?」
女性の呼びかけに応じたのか浮遊する丸時計の裏から現れれたのは、女性よりも少し歳は取っているが十分若く美人な女性だった。密林には相応しくないドレスを纏っていた。
「ノス」
「ジプー、言われているでしょ」
相手の女性は旅人……ジプーに携帯端末を渡す。それは現在先進国では最新鋭の世代であり、一台で下手な職業の1ヶ月分に相当すると言われている。
「端末って事はつまり?」
「そろそろよ」
ジプーはノスに端末はいらないと突き返すが、ノスはそれを断った。ジプーはその意図に気づくとそっとポケットに端末を仕舞い込んだ。
「連絡とかは全てそれで行う。最悪を想定して、何人か選定する?」
「貴方達のその方針に私はついていけなかったからこうなっているのよ。話はそれでいい?集落の人達がノルンに怯えているから早く出ていってくれない?」
「久々なのに冷たいのね。まあいいわ」
「その前に見せなさい」
ジプーは帰ろうとするノスの胸元にかけられた懐中時計を取り出す。ドレスを着る女性にしては少し不釣り合いの年代物の懐中時計だが、今でも時を刻み続けていた。だがその時は現在時刻ではなく、制限時間を刻むものであった。
「以前よりも進んでる。本当なのね」
「そう。5年で1分だったのが、ここ1ヶ月で1分。そろそろ私達にも……」
ノスが説明している途中、二人の身体から着信音と共にバイブ音がした。ジプーは先程受け取った端末を、ノスも自分用の端末を取る。
Как поживаете
Você sabe o que eu sou?
당신들에게는 충분한 여유를 주었습니다.
然而,人类仍然愚蠢,我无法感受到你们所说的希望。
C'est pourquoi détruisons complètement l'humanité cette fois-ci.
Ti contatterò di nuovo al momento giusto. Quindi facciamo in modo che tu decida di quale area sei responsabile.
Dann genießen Sie es bitte bis dahin. Mein liebes Kind.
宛先不明のメールは複数の言語で構成されていた。2人はどこの誰なのか、そしてその内容は理解していた。ノスの言った通りになっているとジプーは改めて認識した。
「私は私で考える。貴方達は貴方達で動きなさい」
「わかってる。でも私達の考えで貴方を妨害するかもしれないけどその覚悟は?」
「覚悟?貴方達と離れてからとっくにしてるわよ」
「旅人?[魔物]は?」
戻ったジプーに[魔物]がどうなったか集落の戦士達が尋ねる。集落の人間達が見た事もない無機物系の[魔物]に恐怖していた。それなのに戦闘音らしき音が一切なくあっという間に帰ってきた。気になるのも無理はないだろう。
「平気です。無害そうでしたが念のため討伐致しました。これが証拠です」
ジプーはポケットから取り出したのは何かしらのコアだった。これが[魔物]にしか存在しない[魔核]という部位であった。濃い紫色をした[魔核]に戦士達はお見事とばかりに感嘆の声がする。
「あれは一体」
「恐らくゴーレムと呼ばれるものの亜種でしょうか。この近くに遺跡などはありますか?」
この密林はかつて古代文明が栄えた場所でもあった。かなり離れた密林の端には古代文明の遺跡が発見されて以降、この国の観光資源として毎年多くの観光客と学者で賑わっている。
「ああ、我らが神聖な場所として崇めている場所がある。神聖なために我らは決して近づかない。長とかは定期的に訪れているらしいが、細部までは潜っていないそうだ」
「となると古代文明の残骸が[魔物化]したのでしょうかね。とりあえず見た目に惑わされずそこら辺の[魔物]と同様に[魔核]を狙って下さい」
ジプーはそう伝えると荷物を纏めだした。その様子を見ていた子供達が
「先生?どこかに行くの?」
「ごめんなさい。もう少し滞在したかったけど、急ぐ理由があってね」
「また来るの?」
「うーん。わからないよ。でも、もし会いたければ強くしなさい」
ジプーは尋ねた男の子に優しく頭を撫でる。男の子は頬を赤くして可愛らしく撫でられていた。
「じゃあ長に話してくるね」
「いきなり来て数日の滞在を許可するどころか、奇妙な[魔物]が来た途端に去る。一体君は何の目的でこの未開の集落へ?」
長への別れを挨拶をしようとするジプーに対して、長はこの集落へ来訪しにきた目的を尋ねる。
「其方が夜に遺跡の周りを探っていたのはわかっている。先ほどの[魔物]はその時に中にいたのを刺激したのか?」
「長はあの遺跡に度々訪れているらしいですけど、あのような[魔物]を見た事はないのでは?」
「そうだ。確かに私とて遺跡の最深部には近寄らん。代々の長から近づくなと厳命されておる。だからこそ其方が遺跡の最深部に入ったから出てきたと考えている」
「もしそうだとしたら?」
「自分の不始末は自分でしてくれたようじゃが、今後はこの集落へは来ないでいただきたい。其方が教えてくれた知識は非常に生きる術にもなって感謝している。だからこそ私達は其方とは敵対したくはない」
本来なら集落総出で殺そうとする。それを今までの感謝から永久追放という形で納める。そう言いたいのだろう。
「そうですか。では私は今からここから出て行きます。戦士達にはあのような[魔物]の対処法を教えましたのでご安心下さい」
「そうか。他の者には追放は伏せておく。入口の門番にちょっとした例を用意した。もしまた旅をするのではあればその旅が無事になる事を祈ろう」
処罰としては永久追放という重い形だが、心情ではとても感謝しているので最大限の礼を尽くす。そのような形で長はジプーを見送った。
「こちらを」
「ええ、ありがとう」
「それにしても子供達が寂しがりますよ。もう少し滞在しても……」
「ごめんなさい」
「いえいえ。ではお気を付けて」
集落の長からの餞別は欲しがっていたこの密林にしか現存しない古代樹で出来た柄に集落唯一の鍛冶師が打った特注の槍だった。集落にて一人前の戦士にのみ与えられるものであり、永久追放とはいえ旅人という外部の人間にこれをあげるというのは余程ジプーの知識に感謝しているのだろう。
「やはり少し惜しい気がしますが、二度と来ないのが心苦しいですね」
愚かな旅人の私。あえてついた嘘で信用を得ても二度と訪れぬ場所を作ってしまう。知識を授けても、そのわがままな性格は来るところの特産品を収集してしまう。それはひとえにもう殆どそこには来ないからこそ記念に取っておく証でもあった。
もはや最初に訪れた場所がどういったものなのかすらすぐには思い出せない。それほど各地を旅をした。だがしっかりと訪れた先の土産は取ってある。それは今し方受け取った特注の槍も同様だ。
「オセ、犬扱いして悪かったね」
私の左脚で追随する相棒は集落で堪能できなかった甘えを解消するべく可愛らしく左脚に抱きつく。私はしっかりと撫でつつ、空いた右手には先ほどノスから受け取った端末を操作する。登録アドレスなどを全てチェックする。そこにはいつの日か仲間だった面々らしきアドレスであった。
「私から電話する事もないか」
ノスの接触はまだ許せるが、それ以外はしたくない。なのであえて一人一人に連絡を入れようとするが、わざわざ言わなくてもノスが知らせているだろうと私は端末をポケットにしまいつつ、ふとかつての仲間との思い出が蘇る。
「ジプー、お前また俺に無断で」
「いいでしょ。どうせ予備も用意しているくせに」
あれはいつだっただろうか。まだ[魔術]が広まっておらず道具を使った踊りで稼いでいた仲間から商売道具を無断で借りていたのがばれたこっぴどく怒られていた。
「そもそも何かする気だったのか?俺のナイフを使って」
「私の勝手よ」
私の身勝手さにほとほと呆れていた彼だが、最期には私が持ってきた素材で渋々許してくれる。だが[魔術]を広めたのを機に彼は少し変わってしまった。いや、彼の本質は変わっていない。ただ才能がない人間にも[魔術]という簡単に日常を壊してしまう手段を手に入れてしまう事に拒絶していた。彼はそれで過去に大事な人をなくしている。同じ過ちを他の人にもしてほしくないのだろう。だが彼の願いは虚しく散った。あれからだろうか、私は他の仲間とも少し壁を感じ始めていた。
「ジプー。私、少し疲れてきた」
怠惰だが優秀なゆえに、疲れる前には仕事を終わらせている効率的な彼女が疲れを訴えた。しかし私は知っている。いくら努力したり工夫したりしても認めてくれない。ただ性別という理由だけでもう一人の仲間に全て奪われてしまう。勿論彼も彼女も同等にしてほしいと訴えたが、聞く耳を持たない者によって彼女は認められなかった。
だからだろうか。彼女は勝手に同じモノを自分で創った。自分を崇めるモノを創った。しかしそれはそれで良いだろうと許された。
「貴方、また勝手にあの書を!?」
「いいでしょう?自分から見てみたいと言っていたのだから。私はしっかりと忠告をした。でもそれをわかった上で見ようとする者が後を絶たないだけよ」
無気力で無神経だが聡明な彼女が、無神経に自分を崇めてくれる者達を壊す趣味に目覚めてしまった。
「ジプー」
普段は母性溢れる魅力的な彼女が嫉妬心に駆られ、また虚栄心からか浪費が激しくなった。だが欲しいモノは手に入らなかった。それからか彼女は自室に籠もり、自分の責務すら果たさずに自堕落な生活になってしまった。周囲の者達も何とか立ち直るように説得していたが、ついには自分からその責務を放棄してしまった。
「いい加減立ち直りなさいよ!!」
「私の勝手よ。貴方もそうだから私も勝手にさせてもらうわ!!」
欲しいモノを逃した時に、彼女は今まで自分で築き上げたものが一気に崩れてしまったのだろうか。あれ以来彼女は同じ怠惰仲間の彼女と共に自堕落な生活を満喫してしまっている。それでも最低限の事はしているのだから私は怒れずにいた。
「よう、ジプー。お前から来るとは珍しいが、だからといって前もって来る事は伝えるべきだな。自分が嫌な気持ちになりたくなければしっかりと礼儀はするものだ」
これまた自分勝手に自分の城から滅多に出ない彼に聞きたい事があって尋ねると、彼はお気に入り達と最中であった。私は少し呆れて目線を逸らすが、そもそも私が事前の連絡もなしにいきなり尋ねたからだと正論を突きつけられた。まあ私自身に非があるのだから反論はできない。
「で?お前が俺の城に来るのはどういう事だ?」
「貴方の治める領地の中に、不思議な噂や伝承が伝わる村とかない?」
「は?そんなのいくらでもあるだろうが。なんでそんなまた」
「可能性を信じてるから」
私の考えに彼は大きく笑った。
「何がおかしい?」
「そりゃ、他の連中を見てみろよ。お前の言う可能性によって少なからず傷ついているぞ」
「それは貴方も?」
「いや、俺は……、彼女達にはそういうのは求めていない。ただ俺は彼女達と幸せに暮らしたいだけだ。もういいか?」
「勝手にして」
彼は自分の城、自分の世界さえよければそれだけだった。
「いい加減に解放したらどうなの?」
「何を言っているのですか?彼女は私だけがいればいいのですよ。もし外に放てばきっと悪い虫によって彼女は傷ついてしまう。それだけは」
「私が見るに貴方が一番彼女を傷つけていると思うけど」
彼も彼で問題があった。表は聖人君子のように人望も厚く信頼も厚い。それに彼の美貌も合わされば寄ってくる女性は数知れないだろう。だが彼女は自分の城に籠もる彼とは違いある特徴を持った子にだけ執着する。それはもう彼女を雁字搦めにして二度と外に出さない。箱入り娘などいう言葉が生ぬるい程だ。何人かは既に心が壊れている。最初はあんなに慕っていたのに、彼の狂気には耐えられなかった。逆に最初から彼に好意を持っていた子には彼は興味がなかった。
「何か文句でも?貴方と違って私はちゃんとしてますよ」
「そうやって最低限はしたからって」
「ジプー。相容れないなら立ち去りなさい」
「そう。ならそうするわ」
彼もまた自分の世界にお気に入りを閉じ込める事だけに執念していた。
「ジプー。貴方の考えを否定する気はないし、間違ってはいないと思う。だけど彼らの考えを否定する気もないし、間違ってはいないよ。私達はそういう存在でしょ?」
まともで正常な彼女に意見を求めたら、思ってもみない解答が返ってきた。いや、私の考えが異質なだけなのだろう。
「もう割り切れば?彼らは彼らでジプーはジプー。私も私よ。気にしすぎるといつか壊すわよ。いくら頑丈な私達でもそれはガワだけ」
彼女のこの忠告。今思えばその通りであり、あの時に彼女の言った事を念頭に置けばこうはならなかっただろう。
「わざわざこのような時でなくても会えるだろうに」
「いつになるの?ずっと戦場にいて」
戦馬鹿な彼は常にどこかの戦場にいる。かつては一国の軍を率いていたが、今では色んな者達と共に好きなように傍若無人に暴れ回っている。
「そもそも俺が始めた訳じゃないぞ。戦争は常に自分勝手に、それこそ戦う兵達とは無縁で不条理に発生している。お前も他の奴も同じだからこそ俺も自分勝手に戦場に舞い降りるだけだ」
「ねぇ、貴方は何を目指してる?」
「ん?そうだな。争いのないとは言い過ぎだが、争いがあっても最小限に抑える。そういった世界にしたいだな。そのためには時には残酷な、それこそジプー、君にはできないような判断はしていくつもりだ」
「相容れないわね」
「それはご自由に。何をしにきたかは検討はつくが、それに対して私はジプー、君とは反対だ」
「私は平等。だけどその前にジプーも私も、彼らも平等。当然の権利を行使してる。まあ中には逸脱しているのもありそうだけど、私が見るからに皆、均衡よ」
「私は?」
「何も。今の所貴方も均衡。だけど自ら傾けようとするのであれば、私は貴方を止めますよ」
「私が出て行くとしたら?」
「止めますが、いつかは戻ってくるのでしょう?いや、戻ってくる。私も貴方も彼らも、各々違うけど本質は同じ。主義が異なって対立しても私達は同じ。そうでしょう?」
「なんじゃ?」
「貴方は奴等を、どう思ってますか?」
人里離れた小屋に身を隠す老人に同様にそう尋ねた。
「確かにジプーは他の連中と違ってるな」
「ええ。だからこそ貴方はどちらなのかはっきりさせたくて」
「確かに奴等は愚かだ。中には禁忌を犯してその代償に後悔する者もいる。だが奴等の探究心は私の作った体系を木の根っこのように無数に広げた。愚かであるが馬鹿ではない。私はそう思う。しかし期待はしない。ジプーの言う希望と他の連中の希望。無理にして一つにする必要はないのでは?」
「ノス」
「ジプー?ハミトのところに?」
「どうして?」
「その薬品くささはハミト特有の匂いだよ」
ハミトからも色濃い返事が貰えなかった帰り、偶然ノスに遭ったのは偶然か必然か、はたまた運命なのか。それはノスが一番知っているだろう。そんな事よりも、
「ジプー。私も正直ジプーが真剣になるほど彼らを良く思っていない。だからあえて私に訊いても変わらないよ」
私が訊く前にノスは自分の意見を述べた。確かに私の彼らへの対応は過保護と言われれば過保護であり、異端的な考えかもしれない。しかし私にはどうしても皆の考えには賛同できなかった。
「忠告するけど、他の人の所にいってもジプーの求める答えはないよ。皆、それぞれの考えがあるのだから、それを押しつけたり強要したりするのは違うよ」
「強要なんか」
「じゃあ今まで何人に訊いてきたか知らないけど、皆貴方に自分の考えを押しつけたかしら?」
確かに訊いてきた者達は自分とは違った考えを主張はしたが、そうしろとは言っていなかった。
「フォス」
「ん?」
私同様に放浪癖がある彼女にも一応訊いてみた。といっても彼女は彼らを特別に思ってもいない筈だ。稀に後々に[英雄]などと言われる者達を気まぐれに育ててはいるものの、特に愛情などを持ってはいなかった気がする。
「ジプー、私も私が思った通りに動く。もし何か悩んでいたら自分1人で動くのも良い筈よ」
フォスはそう言いながら素手で目の前の巨木を殴る。当たった部分は大きくクレーターのように抉れ、巨木はそのままフォスに向かって倒れるが、フォスは何ともないとばかりに巨木を片手で受け止める。
「それで今は何をしているのかしら?」
「以前育てた子が不運に倒れた木々の下敷きになって脚を失っててな。どういう風に育てればちょっとした怪我で済むのか調べているんだ」
相変わらず無茶な事を気まぐれに教える人であった。だがそこに特別な意味があるとすれば、可愛らしい拾った子を救いたいとかではなく、気まぐれに拾ったオモチャが壊れないようにするといった方が正しいだろうか。
そんなフォスが巨木でアレコレしている中、私はそんな巨木とは比べものにならない程、まるで天にまで届くほどの大樹の枝にぶら下がり逆さになっている男にも意見を求めた。だが男は私が来ているのを知りながらそのまま寝入ってしまった。
「ジプー?」
そんな男に憤慨していたらまさかの最期の仲間がいたのだった。
「ニュクスか。何でもないわ。ただディンが無視しただけよ」
「ふふ。それは貴方が意味の無い質問を投げたのでしょう?」
ニュクスは私が仲間達に訊きまくっているのは知っているようだ。まあ私達を纏めてくれたのは彼女だし、私達全体の方針は彼女が実質決めてくれているのだから、知っていても全く驚かない。
「それで?他の子達に言われていない?」
「ええ。ニュクス、私はしばらく彼らの可能性を信じて旅に出るわ」
「いいわよ。纏めたとはいえ、皆好き勝手やっているのだから。でも帰るべき時には帰りなさい。その時はノス辺りからコンタクトしてもらうから」
「仕方ないわ」
こうして一応ニュクスの許しを得て私はオセと共に現在に至っている。でもニュクスは優しいのかあの時は言わなかったし、仲間達も何人かは言ってくれていたけど中々に私が納得いく成果を得られていなかった。先ほどの所も有望そうな子供はいたが、私の願いが叶う者は誰一人としていなかった。
「この旅がもし無駄だったら、私はとんだ愚か者なのかしらね?」
「くぅーん?」
オセは少し落ち込んでいる私を気遣ったのか甘えた声で顔をスリスリと私の左脚をくすぐる。
「大丈夫よ。ん?」
そんな時に仲間の一人からメールが届いた。そこには驚きの内容が書かれていた。そしてその内容を知った私は自分の愚かさを改めて認識したのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
あらすじにも書いてある通り、2022年の1月1日にこちらの本編の連載を開始します。
作品名は「World Apocalypse」です。
一応作者のTwitterアカウント→@miyafinder
では本編であいましょう。