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時計女技師の物語  作者: グシャガジ
夜中の配達
5/6

ガリウス

ガリウスはいつも通り妻と朝食を取っていた。

「アン、今日は予定はあるかね?」

「今日はエマと買い物してくるわ。」

「そうか今日か…では本日の集会は私一人で行くとしようか。」

「集会行かなくて良いの?別にエマと会うのは集会が終わってからでも良いかなと思っているのだけれど」

ガリウスが所属するシオン教は日曜日を安息日とし信者を集い集会を毎週行っている。シオン教はこの都市では40%、この都市にて出生した者限定であれば90%が信望するというこの都市主要な宗教である。

ガリウス自身熱心な信者では無いが、市勢から表立って取り沙汰されぬ様な情報を収集する為、この都市の重鎮の責務として毎週欠かさず参加している。

アンも結婚を期に入信し、良き妻としてガリウスと毎週参加していた。

「今日は良いよ、エマに街の事を教えてやってくれ。」

「そう?じゃあ食事済ましたらエマの所へ行ってくるわ。エマの事だから折角の日曜日を無駄にしてしまいそうだったし。」

想定より早く妹に会える事に喜びを得ながらアンは答えた。心無しか口へ運ぶスプーンが早くなった様に感じた。

「そうすると良い。後何べんも言うようだが…」

「エマに服を買うのよね。"地のものを受け入れよ"でしょ?」

「あぁ、そうだ。多少の出費は気にしないでくれ。早く君の妹が我が国に受け入れられる為の必要経費だと思ってくれ。」

この都市出身の人々は良くこの街を挿して国と言う。自分達が作っていった歴史からの自負からだろう。アンはかなり慣れたがやはりちょっと可笑しく聞こえる。

「そうね、我が国に受け入れられるようにするわ。服もそうだけどシシィにも紹介しようと思うの。」

「シシィかぁ…彼女に気に入られるのは大変喜ばしい事だ。是非紹介してやってくれ。」

ガリウスはシシィが苦手だ。ガリウスだけでは無くこの都市出身の男性は凡そが共感出来るのだが、苦手というよりはあまり会いたくない相手といった方が良いだろう。

理由を知るアンはつまったガリウスを見てクスッと笑ってしまった。

「所で晩御飯はどうします?良い機会なのでエマを招待しようと思っているけど、貴方は構わないかしら?」

「そうだね。私の方からも伝えておいた方が良い事も有るだろうから連れてきてくれないか?」

「ありがとうガリウス。」

普段は代名詞で呼び合うから一層、最愛の者から名前を呼ばれるのはこそばゆい。ガリウスは照れを隠す様に

「まぁ、品目はスープとかで良いかもしれんな。料理の為に君が早く帰らなければならなくなるのは避けた方が良いだろ?」

「そうね、一応もう準備はしているの暖めたらすぐ食べられる物を用意しているわ。」

良い歳して純な旦那が微笑ましく温かい気持ちに溢れながら食事を終えたアンは、食器を片付ける為に席を立ちながら答えた。

「であれば良いな。私も準備しよう。」

いつも通り食事を終えコーヒーの最後の一滴を口に含みながらガリウスは寝室へ消えていった。


集会は街はずれに位置する教会にて開催される。教会は孤児院を併設しており敷地内には孤児院と祭儀場と信徒会館が併設されている。

孤児院からは街中に劣らず沢山の子供たちの騒ぐ声が賑やかに響き、祭儀場からはオルガンの音色が天と繋ぐ1本の絹糸の様に練られ厳かに流れている。

ガリウスは入口にて馬車を降り他の信者と共に祭儀場に入って行った。

時折、信者から奇異の目で見られている事で今日は予想以上に大変になると感じた。


集会は厳かに終わり、参加者達は親睦会の為信徒会館へ向かう。信徒会館へ近づくにつれ厳かな雰囲気は消え、いつもの様に各々雑談をしながら会場へ到着した。

ガリウスはいつも以上に話しかけられ少し疲れを覚えた。いたる信者からアンの体調や夫婦仲を遠回しに、或いは直接的に気遣われ、酷い者では何故かガリウスが浮気してアンが出て行ったと勘違いし殴りかかってくる者も居たからだ。

ガリウスは嫁が可愛がってた子が村から出てきた事、今日その子に嫁が街を案内する事を質問してくる相手や殴りかかる相手に説明しなければならなかった。

説明が一段落し殴られた頬をさすりながら親睦会用に準備されたクッキーと紅茶を啜っていた。

ガリウスが束の間の休息を取っていると、エマが修行している工房の親方ルツの姿が見えた。彼も談笑が一段落し紅茶を取りに来たのだろう。ポットからカップに紅茶を注ぎ砂糖を三杯ゆっくり混ぜ、ドーナッツを一個取っている所だった。

彼が紅茶を啜り、落ち着いた隙を突いてガリウスは夫としての責務だと言わんばかりに彼に話しかけた。

「こんにちは、ルツ親方。」

「やぁ、ガリウス君。今日は奥さんは一緒じゃないのかね?」

「ええ、今日はエマに街を案内させているので。」

「そうか、今日は彼女の初めての安息日だったね。街を楽しんでくれると良いが、」

「嫁が案内しておりますので楽しんではくれると思いますが、私としてはそれよりも街について理解してもらったらと思っています。」

「君は心配性だからね。まぁ確かに我が国に早く受け入れられる様、街を理解する事も確かに大事だ。」

そういいながらルツはドーナッツを齧り、至福を堪能する様に目を細めた。

「最近忙しくてね、彼女には入って早々で悪いが夜遅くまで働いてもらっている。本当素直な良い娘だと思うよ。まぁたまに天然な所は在るが其処はそれで愛嬌とも言える。」

「世間知らずな村娘ですのでそこはこれからに期待していただけると助かります。」

「違う違う。別に苦言を呈した訳じゃあ無いんだ。むしろ長所だと思っているよ。職人としての技術を培うには他とは違う視点ってのは大事だからね。」

「そう思っていただけているのであれば紹介した私も有難いです。」

「君は相変わらずマイナス思考だなぁ。」ルツは冗談めかしてブーブー言った。

ガリウスは頬の痛みが心地良いものだと感じた。ルツは良くも悪くも正直な人間だ。鑑識眼も有る。その様な人物からひとまずは褒められたのだ。エマは上手くやっていけるだろう。

それからのガリウスは、今日一番の責務を全うした様な面持ちで雑談を楽しむ事が出来た。

雑談としてはもっぱら最近話題となっている機工と魔術を融合させた商品についてが大半だった。帝国ではその商品の普及を促す為職人と魔法使いを番にする法令を発布する協議をしているとか、紛い物が既に流通しだして行方不明者が出ているとか浮いては沈むを繰り返し気が付いたら15時を廻っていた。

ガリウスはそろそろお暇しようと思い、未だ残るルツ達に挨拶し信徒会館を軽い足取りで出て行った。

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